電脳筆写『 心超臨界 』

成功はそれを得るために捨てなければならなかったもので評価せよ
( ダライ・ラマ )

人生を創る言葉 《 死もまた天壌に容るるところなし――山県有朋 》

2024-09-10 | 03-自己・信念・努力
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◆死もまた天壌に容るるところなし


『人生を創る言葉』
( 渡部昇一、致知出版社 (2005/2/3)、p109 )
第3章 勇気と覚悟――運命を開くもの

[ 山県有朋 ]
日本陸軍の兵制を組織した実力者。山口・萩の生まれ。松下村塾に
学び、奇兵隊を率いて幕軍と戦った。元帥、公爵となり、元老とし
て権力を揮った。(1838~1922)

琉球の漁民が60人ほど台湾に流れ着いて、原住民に虐殺される事件が起こった。政府が厳しく清国に交渉すると、清国はこう返答してきた。

「あれは清国の領土ではない。勝手にどうとでもすればいい」

そこで日本は、西郷従道を征夷総督として台湾征伐を行った。日本に何ができるものかと高をくくっていた清国当局者はびっくりして、にわかに撤兵を申し入れてきた。

ここで政府は腹を決めなければならなかった。兵隊を引揚げればまたなめられる。かといって、拒絶すれば戦争になるかもしれない。そうなったときに果たして勝算があるかどうか。押すか引くかを決めるのは、山県有朋の答え一つということになった。

山県はその翌日、有名な外征三策を明治天皇に建白して「断固やる」と決意するが、そのときにこういっている。

「清国は少しも恐れることはない。もし私が3万人の兵隊を率いて攻め入れば、一挙に叩き伏せる自信があります。しかし、今、日本は容易ならない時節です。この方針をしたためながらも、涙がこみ上げてくるくらい。神武天皇がお開きになったこの御国が自分のやりよう一つでどうなるかわからないと思うと、寝ても寝つけない。もし失敗したら、死んでも天壌(てんじょう)に容るるところなしと考えております」

事件が起きたのは明治7年ごろのことで、日本はまだ近代国家としての基礎が定まっていなかった。征韓論で敗れた西郷隆盛は、下野して薩摩に帰っていた。そういう時期であったから、下手をすると清国と戦争になるかもしれないという重要な決断をするのは、山県でなくとも難しかったに違いない。「ここでやりそこなったら、死んでお詫びをするとしても、死んでも天にも地にも自分は行くところがないだろう」というほどの悲壮な責任感を伴う決断であったのだ。

山県有朋は、戦後非常に評判が悪い。だが、彼もまた維新の生き残りであり、それだけに非常に慎重な人であった。「死もまた天壌に容るるところなし」には、山県の強い覚悟がある。「死んで詫びればいい」というような簡単な話ではないというのである。

山県は軍国主義者と評される。確かに陸軍の総帥であり、民主主義があまり好きではなかったし、議会が強くなりすぎることを嫌っていたようだ。明治憲法のもとで総理大臣になっているから、憲法を無視することはなかったが、どちらかといえば、政党は好きではなかった。

しかし、戦後になっていろいろ読んだものの中で、山県に対して「これは」という評価があった。誰が書いたものかは覚えていないが、「山県有朋が生きていたならば2・26事件以降の軍部の独走は起こらなかったであろう」という趣旨の評価であった。山県を評価する人は少ないが、この意見については確かにそうかもしれないと私も思うのである。
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