電脳筆写『 心超臨界 』

成功はそれを得るために捨てなければならなかったもので評価せよ
( ダライ・ラマ )

真理のひびき 《 人生に対して積極的精神を有つものは――中村天風 》

2024-11-05 | 03-自己・信念・努力
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  [箴言十三]

  人生に対して 積極的精神を 有(も)つものは
  常に 健康や 運命の勝利者となり
  否(あ)らざるものは 敗北者となる
  Anyone who holds a positive attitude of mind toward his life will
  always be the victor in his health and fortune, and without this
  attitude he will be defeated.


『真理のひびき』
( 中村天風、講談社 (1996/7/18)、p116 )

この箴言の註釈は、今さら事新しく説明する必要のないほど、われら天風会員のすべてが十分知っていることである。

というのは、毎回の講習会で講述する心身統一の先決問題として教示する観念要素の更改、積極観念の養成、神経反射の調節の各法が、要約すれば、この箴言に掲載してある目的を完遂(かんすい)させるために組織されたものであるからである。

がしかし、心身統一の実際方法を知らない人々は、事実においてほとんど大部分といってよいほど、このゆるがせにはできない重要なことを案外自覚することなく、この貴重な人生に活きている人が残念ながら数において極めて多いのである。

そのために、当然健康で幸運で活きられる万物の霊長たる人間に生まれながら、もったいないことにその一生を、むしろ健康も運命も常に思わしくない価値なき状態にして、少しも人生を有意義に活きていないのである。

これというのもつまりは、人生建設の根本はただひとえに精神に在りという峻厳なる宇宙真理を、正しく理解していないからである。

そしてその種の人は、ややもするとただ肉体に施す方法のみで、有意義な人生が建設できるかのように判断している。

これが極めて軽率な判断であることは会員諸子はつとに明瞭に理解されるところであるが、いかに文化が物質方面にのみ進歩して、一方決しておろそかにしてはならない精神文化がまるで置き去りにされたような状態であるとはいえ、あまりにも精神態度を軽視する人の多いのには、実際、呆(あき)れざるを得ない現状である。

よい例として昨年夏入会したある中年の紳士の一人が、入会と同時に杉山博士(現会長)に「天風会の食生活は?」と質問した。そこで博士ができる限り植物性のものを本位とすると答えると、

「実は私は昨春以来、高血圧症になり健康法の某大家からやはり植物食を奨(すす)められ、およそこの一年間動物性のものは干ものも口に入れないようにしていたのですが、一向血圧が思うように下がらないのです。そのためいささか植物食に対する気持ちが動揺しているのですが、ほんとうに植物食がいいのですか」

というので、

「もちろん! 人間の健康建設には植物食を絶対に必要とする。君の血圧が正常な状態に戻らないのは植物食のためではない。察するに君の血圧の下がらない理由は、もう一つ君の気付かぬ点にあるのだと思う」

と博士がいうと怪訝(けげん)な面持ちで、

「私の気付かぬ点とは?」

というので、博士が、

「君は今もいう通り、せっかく血圧の降下のみならず健康確保のためもっとも効果のある植物食を実行していながら、その一方でやってはいけないことをやっていると思う。それはほかでもない。絶えず血圧のことを気にすることだが、どうだね? 血圧を気にしていないかね?」

というと、

「それはもちろん、それが私の食生活を植物性のものにした理由ですもの、気にせずにはいられません。ですから三日にあげず血圧を計っています」

とさもさも当然のようにいうので博士が、

「そうか。では毎日もう下がった? 今日はどうだろう? という気持ちで、それのみを気にしているんだろう」

というと、

「その通りです」

とハッキリ答えたので、

「それだよ、君の血圧の下がらない理由は。もっと詳しくいえば、たとえ植物食で血圧も下がり健康も良好になるような理想的なアルカリ性の血液ができても、すぐそのそばから血圧を気にするという神経過敏な消極精神を心に抱いてしまっては、そのよくない精神影響を受けると即座に血圧がたちまち上がってしまうので、いいかえると積むそばから崩すのと同様のことをしているからだ。要するに、君の血圧の下がらないのは君の精神状態が消極のためなのだ。だから植物食を励行すると同時に、講習会で教えられた積極精神を作るのに必要とする各種の方法を実行して、血圧を気にするような神経過敏な消極的な気持ちを現実に矯正したまえ」

と懇(ねんご)ろに訓戒された。

そこでこの人はその後いっさい血圧を気にしないで、もちろん血圧も計らないでいると、主治医が不審に思い、

「このごろ血圧を計りに来ないがどうした」

というので、

「もう血圧のことは念頭にしないことにしました」

と答えると、

「冗談じゃないよ君、そんな無茶なこといってはいけない、とにかく計ろう」

無理やりに検査すると、何と理想的な健康血圧なので、

「おかしいぞ、こんなはずはない」

ともう一度念のため計ってみるとやはり異状がないので、

「君の血圧は植物食を励行しても容易にさがらないやっかいなものであったが、今日計ると断然よくなっている。何か他の方法をやったのか」

と聞いたので、

「実は天風会員になって積極精神を作る実際方法を習得して励行しています」

と答えた。するとそれを聞いた主治医は、非常に感激されて、

「僕も入会しよう」

といって即座に会員になって、今さらながら自然良能作用と精神状態がすこぶる密接な関係をもっていることを痛感し、これからほんとうの医者になりますと、家族および看護婦までも入会させて目下熱心に聴講されている。

以上のような実例は、正直にいうと枚挙にいとまがないほどで、それを要約すれば、人間の精神状態が、その生命活動の運営の要(かなめ)にあたる神経系統の作用に、ものの声に応ずるように、すなわち打てば響くように影響反映するためである。

事実において、神経系統の作用に万一不調和が生ずれば、生命エネルギーの収受もまた配分も、一切がその調節を欠如してくる。したがって先述した通り、いかに他の合理的な養生法や健康法を実行しても、肝心の神経系統の作用が不調和になると、コイルの配列に不完全をきたしたモーターにいくら良性の潤滑油を注入しても、またその他の手入れを行い、さらに強力な電流を通じても、規定通りの良好な回転は具現しないのと同様なのである。

ただし、モーターのコイルの調整作用はモーター自身には存在しない。

しかし人間の生命の中でコイルに該当する神経系統は、精神態度がその作用を妨害しない限りは、神経系統それ自身に自然的調和作用がある。そしてその最も理想的な精神態度とは、精神の絶対安定した状態をいうのである。

要するに、天風教義の真髄たる心身統一の先決問題に、精神態度の積極化を力説するゆえんもまたここにあるといわねばならない。

これあるがゆえに、ますます銘心堅固(めいしんけんご)に天風教義を実践されて、宇宙真理に順応し、正々堂々健康と運命の勝利者としての現実を発揮されることをあえて心より推奨する。
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