(襲撃された病院から赤ちゃんを救出するアフガニスタンの兵士【5月14日 BBC】)
【アフガン政府の二重権力ようやく解消 タリバンとの和平交渉はアブドラ氏主導で】
タリバンとの交渉という大仕事を前にしながら、昨年9月の大統領選挙の混乱から内部分裂状態にあったアフガニスタン政府ですが、ようやくガニ大統領と政敵アブドラ氏の間で話がついたようです。
****アフガン、権力を「分割」 アブドラ氏が和平けん引役****
アフガニスタンのガニ大統領と、政敵で行政長官だったアブドラ氏は17日、政治権力を分け合う合意文書に署名した。大統領府が発表した。アブドラ氏が反政府武装勢力タリバンとの和平交渉のけん引役を担う内容。
アフガンでは昨年9月の大統領選で次点だったアブドラ氏が選挙に不正があったとして、ガニ氏の再選を受け入れないと主張。今年3月に両氏が、それぞれ大統領に就任したと宣誓し、対立していた。
地元メディアによると、和平プロセスの指導部の役割を果たす「国家和解高等評議会」を新設し、アブドラ氏が議長に就任する。【5月17日 共同】
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タリバンとの和平交渉というアフガニスタン政府にとって最も重要なポジションがアブドラ氏に振られた背景は知りません。
【病院テロでガニ大統領はタリバン攻撃指示 タリバンは関与を否定し異例の調査要求】
最近のアフガニスタン政府とタリバンの関係は、ガニ大統領の「タリバン攻撃指示」などもあって悪化しています。
発端は12日に発生した、少数派であるイスラム教シーア派地区にある国際医療援助団体「国境なき医師団(MSF)」が支援する病院が標的になったテロ。
****ガニ大統領、タリバン攻撃指示 テロ続発で 和平プロセスに暗雲****
アフガニスタンのガニ大統領は15日までに政府軍に対してイスラム原理主義勢力タリバンへの攻撃を指示した。
新型コロナウイルス禍の中、国内で続発したテロを「タリバンの犯行」と断じて攻勢を命じた形だが、タリバンは反発。戦闘が激化する懸念があり、2月の米国とタリバンの合意に基づく和平プロセスの行方は不透明さを増している。
攻撃指示の契機となったのが、12日に相次いだテロ事件だ。首都カブールで武装した3人が病院を襲撃し、乳幼児を含む24人が死亡。東部ナンガルハル州でも警察官の葬儀で自爆テロがあり、32人が死亡した。
タリバンは両事件への関与を否定したが、ガニ氏はタリバンとイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の犯行と断定。政府軍に対して「積極的な防衛」から「攻撃」に切り替え、タリバンへの攻撃を再開するよう指示した。
ガニ氏には一貫してタリバン側への不信感があり、対応を強化する姿勢を見せて政府の存在感を示したい思惑もあるようだ。
ガニ氏の決定に対して、タリバンは報復措置として14日に東部パクティア州で自爆テロを起こし、市民5人を殺害した。
米国は12日の事件はISの犯行との見方を示し、対立の収束を促す。ハリルザド・アフガン和平担当特別代表は「ISは政府とタリバンの和平に反対している。和平を遅らせるべきではない」とし、双方が協調する必要性を訴えた。
新型コロナをめぐり、アフガンでは約5600人の感染が確認されたが、脆弱(ぜいじゃく)な医療態勢から感染の実態がつかめない状況が続く。
ハリルザド氏は「すべての関係者が新型コロナとの戦いに全力を注ぐべきだ」と主張しているが、国内対立の解消は容易ではない。【5月15日 産経】
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タリバン関与を主張するガニ大統領と「IS犯行」を主張するアメリカの見解が分かれた形にもなっています。
“米国とタリバンは2月、アフガンからの米軍の14カ月以内の撤収などを定めた合意に調印。アフガン政府とタリバンが停戦や将来の政治体制について協議を始めることも盛り込んだ。
だが、ガニ氏が協議の前提となるタリバンの捕虜釈放を渋り、協議開始のめどは立っていない。タリバンもガニ氏の姿勢に反発し戦闘を継続している。ガニ氏がタリバンへの強硬姿勢を続ければ、合意が暗礁に乗り上げかねず、米国は懸念を強めている。”【5月15日 毎日】
ガニ大統領とタリバンの険悪な関係、それが和平合意進展を阻害することへのアメリカの懸念・・・そのたりがあっての、今回のアブドラ氏主導のタリバンとの和平交渉でしょうか?
アメリカは、遅れているタリバンとの交渉について、新たな日程を検討しています。
****新たな協議開始日を検討=アフガン和平停滞で―米特別代表****
米国のハリルザド・アフガニスタン和平担当特別代表は15日、3月に始まる予定だったアフガン政府と反政府勢力タリバンの和平協議がいまだ行われていないことについて、「新たな協議開始日を検討している」と明らかにした。
ハリルザド氏は電話による記者会見で、暴力削減と捕虜解放が進んでいないことが協議開始の妨げになっていると指摘。「アフガン政府とタリバンの協議は永続的な平和につながる唯一の道だ」と述べ、早期開催に期待を寄せた。
2月末にカタールの首都ドーハで締結された米政府とタリバンの和平合意によれば、3月10日に最初の協議が行われる予定だった。【5月16日 時事】
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なお、ガニ大統領がタリバン関与を主張している12日の病院テロに関し、タリバンは関与を否定し、異例の専門家による「公平で透明な調査」を要求しています。
****タリバン、異例の調査要求=テロ容疑に反論―アフガン****
アフガニスタンの反政府勢力タリバンは15日、声明を出し、12日に首都カブールの病院などで起きた2件のテロに関し、専門家による「公平で透明な調査」を要求した。タリバンのこうした要求は異例。
政府は両事件に関し、タリバンと過激派組織「イスラム国」(IS)が実行したと断定した。ただ、タリバンは関与を否定し、米国もISの犯行と指摘している。
タリバンは声明で、「病院や葬儀への攻撃は、われわれの方針に反する」と反論。「攻撃(の責任)をタリバンになすりつけるため、大がかりで組織的なプロパガンダ」を展開したと政府を非難した。【5月15日 時事】
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12日の病院テロは(すべてのテロが非人道的であるにしても)極めて悪質な攻撃で、国内外からの批判を浴びており、タリバンとしては今後のアフガン統治(あるいは、統治への参加)に向けて、そういう評判の悪いものへの関与を否定したいようです。
****アフガン産科襲撃は「産婦ら殺すため」 国境なき医師団が非難****
アフガニスタンの首都カブールで、12日に発生した病院の産科病棟襲撃事件について、同病棟を運営する国境なき医師団は14日、武装集団は「産婦らを殺すために来た」との見方を示した。
事件は12日、同市西部のバルチ国立病院で発生。武装した男3人が産科病棟を襲撃し、新生児や母親、看護師を含む少なくとも24人が殺害された。この襲撃には、国際社会から非難が集まった。
現場を事件翌日に訪れた、MSFアフガン支部のフレデリック・ボノ代表は14日、「私が同産科病棟で目にしたことからは、産婦らに対する意図的な銃撃だったことが如実に表れている」と述べた。
MSFによると、事件発生当時バルチ国立病院には26人の産婦がいた。このうち、分娩(ぶんべん)室内に新生児と共にいた5人を含む11人が殺害され、5人が負傷した。残る10人は安全な部屋に避難し、無事だった。【5月15日 AFP】
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事の真相はわかりませんが、タリバンが国内外の声を意識すること自体は「よいこと」でしょう。批判を無視してテロを繰り返すよりは。
【なんらかの正続性を認めてほしいなら、反政府勢力もパンデミックによる死者を減らす上で一定の役割を果たすべき】
タリバンの調査要求も異例ですが、タリバンによる住民の体温測定などの新型コロナ対策に関する動画がネット公開されているそうで、これも異例です。
タリバンとしては、統治能力の面でガニ政権を上回っていることをアピールする狙いでしょう。
タリバンによりコロナ対策の実効性は大いに疑問ではありますが・・・
****コロナ危機を売名に利用するテロ組織の欺瞞****
反政府組織はコロナ危機を利用して、自らを正当化し政府を批判するが、被害を受けるのは、支配地域の住民だ
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンがネット上で珍しい動画を公開した。よくある戦闘員の「勇姿」ではなく、マスクを着けた彼らが住民の家を訪れ、体温の測定や消毒液の配布をしている姿だ。
英語のナレーションによれば、タリバンは既に新型コロナウイルスの爆発的な感染を抑え込んでおり、感染予防の情報班を結成し、診療所や隔離施設も用意している。
それだけではない。タリバンは中東地域で最も感染者の多いイランからの帰国者に対し、2週間の自宅待機を命じていた。まだアフガニスタン政府が、毎日1万5000人も通過する対イラン国境でほとんど何の規制も行っていなかった時期の話である。
反政府勢力が体制側の弱みや危機に付け込むのは毎度のこと。テロ対策の専門家デービッド・キルカランに言わせれば、危機対応で政府より少しでもマシなように見せることができれば、彼らは自らの正統性をアピールできる。
実態はどうでもいい。大事なのは「見せ掛け」だ。
ちなみにニューヨーク・タイムズ紙によれば、タリバンはアフガニスタン東部のナンガルハル州で報道陣を集め、防護服姿のスタッフが非接触式体温計を使って検温する様子を公開したが、よく見るとその体温計はプラスチックと木材を組み合わせただけの偽物だったという。
各地の武装勢力が新型コロナウイルスの対策に乗り出したとか、このパンデミック(世界的な大流行)を利用して、宣伝攻勢を強めているといった報道は山ほどある。
コロンビアの民族解放軍(ELN)は支配地域のロックダウン(都市封鎖)を発表。住民が「感染症対策の命令を尊重しない」場合は「命を守るために彼らを殺さざるを得ない」こともあると警告し、民間人に対する虐待を正当化している。
実際の対応能力はない
(中略)たいていの場合、こうした評価は眉唾ものだ。テロリストや犯罪組織にはパンデミックを宣伝に利用する力はあっても、公衆衛生上の危機に対応する能力は欠いている。(中略)
(ほとんど唯一の例外はレバノンのヒズボラで、彼らは何千人もの医療スタッフを感染対策に動員している)
豊かな先進諸国でさえ、今回のパンデミックには手を焼いている。世界で最も先進的な医療システムを持つ国でも新型コロナウイルスの感染拡大には追い付けない。
暴力の支配する苛酷な環境に置かれた人々には打つ手がない。結局のところ、武装組織の支配ドにいる民間人は最大の被害者だ。
暴力は医療へのアクセスを制限し、サプライチェーンに負担をかける。善意の医療スタッフも、安全な場所に避難せざるを得ない。そうなれば地域全体が医療サービスから切り離され、物資の供給路も断たれて医療システムが完全に崩壊する。
アフガニスタンの首都カブールでは、既に人口の3分の1が新型ウイルスに感染しているとの報道もある。政府の推定でも、国内の死者は最終的に11万人に達するという。
実際はその6倍になるという説もあるが、いずれにせよ確かなことは分からない。
停戦を拒否し攻撃を激化
国連は3月23日に全世界に向けて、感染予防のための一時休戦を呼び掛けた。これに対してコロンビアやフィリピ
ン、リビアや南スーダンなどの武装組織が休戦に応じる姿勢を表明した。
しかし、実際に戦闘行為が止まった地域はわずかだ。たいていは一方的な休戦の意思表示にすぎず、相手方がそれに応じることはなかった。(中略)
こうしたなか、タリバンは戦闘停止を拒み続け、むしろ攻撃を激化させている。政府側は、暴力がエスカレートすれば医療従事者が仕事できなくなると警告している。
タリバンのザビフラームジヤヒド報道官は「われわれの支配地域で感染拡大が起きれば、その地域での戦闘は停止する」と表明したが、もう感染は現実に起きている。タリバンが支配する西部ヘラート州の一部はアフガニスタンにおける感染拡大の中心地だ。
思わぬ自然災害や非常事態が和平の糸口になる可能性はある。災害が紛争終結の道を開いた例は現にある。2004年のインド洋犬津波の後には、インドネシア政府と同国アチエ州の独立派との問で和平交渉がまとまった。
武装組織に呼び掛けよ
しかし、それは例外だ。むしろ、パンデミックは社会の二極化や紛争悪化のリスクを高める可能性がある。全世界で人道目的の一時戦闘停止を強く求め続けることは極めて重要だが、それが武装組織の支配下で暮らす人々の助けになる可能性が低いのもまた悲しい現実だ。
国連のアントニオ・グテレス事務総長は、パンデミックと闘うために世界が団結して全力を尽くすよう促している。そのためには、武装組織に対してウイルス対策における彼らの責務を説くという、今よりもっと断固たる取り組みが必要だ。
相手がテロリストであれ犯罪者であれ、それで彼らの存在が一時的に正当化されるとしても、世界はその努力をするべきだろう。
そうした対話は人道的な一時停戦につながる可能性があるだけでなく、医療従事者の安全確保や政府の医療関連機関との連携についての交渉にもなるかもしれない。適切な医療上のメッセージを武装組織に伝えるだけでもいい。
いずれにせよ、一定の領土を支配し、なんらかの正続性を認めてほしいなら、反政府勢力もパンデミックによる死者を減らす上で一定の役割を果たすべきだ。
アフガニスタンでは、停戦に重点を置いた政治的な圧力よりも、人道的な取り組みを優先させたほうが現実的な結果につながるかもしれない。
援助国や援助機関は、武装組織にも果たすべき重要な役割があることを認め、ウイルスの拡散を阻止して医療従事者が円滑に働けるようにするために、具体的な行動を呼び掛けるべきだろう。
それでも協力を拒めば、タリバンは犠牲者を出した「共犯」として公に批判されるべきだ。
国際社会がこうした行動を取らなければ、タリバンは今後も、自分たちの政治目的のためにパンデミックを利用し続けるだろう。自分たちの仲間が次々と死んでいけば、彼らも問題を深刻に受け止めるようになるかもしれない。しかし、そうなってからではもう手遅れなのだ。【5月15日 Newsweek】
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“よく見るとその体温計はプラスチックと木材を組み合わせただけの偽物だった”・・・本当でしょうか? 報道陣を集めたうえで、そんな見え透いた芝居を・・・・。
“援助国や援助機関は、武装組織にも果たすべき重要な役割があることを認め、ウイルスの拡散を阻止して医療従事者が円滑に働けるようにするために、具体的な行動を呼び掛けるべきだろう。”・・・・アフリカ・コンゴのエボラ出血熱では、武装勢力の存在が医療行為の大きな阻害要因となりました。
タリバンがそうした“ならずもの”勢力とは異なるというのであれば、一定の役割を分担して協力すべき・・・という話ですが、和平合意後の統治参加をタリバンが考えているなら、タリバンにとって悪い話ではないように思えます。
それによって、和平合意枠組みも強化されることになるでしょう。
ついでに言えば、新型コロナ対策動画でアピールするなら、国内外から懸念されている女性の地位・女子教育に関しても、タリバンの“柔軟な”姿勢を内外にアピールするような動画を是非見せてもらいたいものです。
実効性はともかく、多少の安心材料にはなります。