孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米ロ、中国 新たな軍拡時代 新START条約失効で核開発競争再燃も

2020-05-26 22:41:59 | 国際情勢

(極超音速の滑空弾頭を迎え撃つ米開発のグライド・ブレイカー(右、想像図)【2月6日 Newsweek】)

【新軍拡時代】
昨年8月の中距離核戦力(INF)全廃条約失効以来、米ロ、中国は新たな軍拡時代に入ったとも言われています。

****米ロ、INF条約失効=対中視野、新軍拡時代入りも-破棄通告から半年****
1987年に米国と旧ソ連が締結した中距離核戦力(INF)全廃条約が2日、失効した。

米国とロシアの間では、新戦略兵器削減条約(新START)延長の議論も深まらず、トランプ米大統領が目指す、ロシアに中国も加えた「21世紀の軍縮」実現のめども立っていない。冷戦末期に構築された核軍縮体制は曲がり角を迎え、新たな軍拡の時代に逆戻りする恐れもある。

INF条約は射程500~5500キロの地上発射型ミサイルの発射実験と製造、保有を禁止した。トランプ政権はロシアが条約に抵触する地上発射型巡航ミサイル「ノバトール9M729」(北大西洋条約機構=NATO=名「SSC8」)を開発し配備したと批判、INF条約の破棄を2月2日に通告した。条約の規定に従い通告から6カ月後に失効することになった。
 
米国家安全保障会議(NSC)のエドモンズ元ロシア部長は「ロシアは長年(米国を)欺いてきた」と非難している。
 
これに対し、ロシアは違反を否定し、逆に米国のミサイル防衛システムが条約に違反していると反論。プーチン大統領は7月3日、条約を停止する法案に署名した。 【2019年8月2日 時事】
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最近、アメリカの「新兵器」に関する発表が2件。
再選に向けて「アメリカ、すごいぞ!」の空気を醸していこうというトランプ大統領の思惑にも沿うものでしょう。

****米大統領、謎の新ミサイルに言及=「17倍速い」と自慢****
トランプ米大統領は15日のホワイトハウスでの会議で、既存兵器の「17倍速い」と主張する新型ミサイルを開発中だと語った。国防総省はトランプ氏の発言について詳細な説明を控えており、波紋を呼んでいる。CNNテレビなどが16日までに伝えた。
 
トランプ氏は「私たちは誰も見たことのない信じられないレベルの兵器を開発している。今ある兵器の17倍速いと聞いた」と誇らしげに語った。

また、中国やロシアの極超音速ミサイル開発に触れて「選択の余地はない。造らなければならない」と強調した。会議にはエスパー国防長官も同席していた。【5月17日 時事】 
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既存兵器の「17倍速い」・・・広告でよく目にする「当社従来品に比べ・・・」のような表現ですが、既存兵器がどのレベルのものなのかは知りません。

極超音速ミサイル開発ではロシアが先行、更に中国も開発しており、アメリカとしてはこれに対応する必要に迫られています。

****ロシアに先を越された極超音速兵器の開発急ぐアメリカ****
<ロシアと中国に音速の5倍で飛ぶ極超音速ミサイル配備で先を越されたアメリカは、極超音速の迎撃を目指すが>

米国防総省は極超音速ミサイルを迎撃できる防衛システムの開発を加速させるため、大手軍事企業と新たな契約を結んだ。軍事力の増強を進めるロシアは既に「あらゆるミサイル防衛網を突破できる」と称する極超音速の新型ミサイルを実戦配備している。

米国防総省の下部機関、防衛先端技術計画局(DARPA)は1月28日、航空宇宙・防衛大手ノースロップ・グラマンが進める「グライド・ブレイカー」開発計画に130億ドルを提供する契約を結んだ。

DARPAによればこの計画は、「極超音速システムに対する防衛技術を開発・実証するため」2018年に始まった。新契約は迎撃能力を獲得するための投資だと、国防総省は述べている。(中略)

極超音速とはマッハ5、つまり音速の5倍以上の速度のこと。中国とロシアは既に極超音速ミサイルの配備を発表しているが、アメリカは攻撃と防衛いずれも極超音速兵器を保有しておらず、開発を急いでいる。

さらに先へ進むロシア
その間にもロシアは攻撃用に加え、防衛のための極超音速兵器も備えていると報道されている。ロシア国営コングロマリット・ロステック傘下のKBPインストルメント・デザイン・ビューローの航空防衛システム部門主任デザイナー、バレリー・スルーギンは1月29日、ロシア国営タス通信に、地対空ミサイルと機関砲を併せ持つ近距離対空防御システム、パーンツィリSに、新たに極超音速性能が加わったと語った。(中略)

スルーギンによれば、パーンツィリは巡航・弾道ミサイルはもちろん、極超音速兵器をも迎撃できる。いずれは対艦用に使うことも可能で、将来的にはより小型のミサイルに搭載してミニドローンを攻撃させることもできるとスルーギンは言う。

ロシアは既に2つの極超音速兵器を実戦配備している。1つは空中発射弾道ミサイルKh-47M2キンジャール、もう1つは最高速度が音速の27倍に達すると言われる極超音速滑空ミサイル、アバンガルドだ。

さらに少なくとももう1つ、潜水艦や艦船から発射できる巡航ミサイル、3M22ジルコンも開発中だ。これら3つはいずれも核搭載可能なシステムだ。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2017年以降毎年、年初に行う年次教書演説で、極超音速兵器に触れ、アメリカが軍縮協定を破棄し、地球規模のミサイル防衛網の構築を進めているため、ロシアはそれに対抗せざるを得ない、と述べてきた。

1月15日に行った今年の年次教書演説では、ロシアの軍備増強は歴史的な局面を迎えたと宣言した。「ソビエト時代も含めて、核ミサイルの開発史上初めて、ロシアは他国を追うのではなく、追われる立場となった。ロシアが既に保有している兵器を、他の主要国はいまだに開発できていない」

ドナルド・トランプ米大統領は今年初めに行った演説で、アメリカは「多くの極超音速兵器」を建造中で、アメリカのミサイルは「大きくて強力で正確で致命的で速い」と豪語した。

だが国防総省の報道官は昨年11月、本誌の取材に、ロシアと中国が極超音速技術の兵器化に踏み切ったため、「戦闘能力の非対称性が生じ、わが国はこれに対処しなければならない立場だ」と明かした。

その言葉どおり、国防総省は12月に極超音速の空対地ミサイル、AGM-183A 空中発射型迅速対応兵器の開発でロッキード・マーティンに10億ドル近い資金を提供する契約を結んでいる。【2月6日 Newsweek】
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音速の27倍といった「極超音速」兵器が配備されると、防衛システムが何かの異常を検知した場合、これに応戦するか否かの判断猶予時間が非常に限られてきます。人間の判断能力がついていけるのかどうか・・・そこらも心配です。

もう1件のアメリカ新兵器はアニメなどではお馴染みの「レーザー兵器」
音速の27倍以上、光の速さの兵器です。

****米海軍、太平洋で新型レーザー兵器の実験成功 無人機を破壊****
米海軍太平洋艦隊は22日、飛行中の航空機も破壊出来る高エネルギー性能の新たなレーザー兵器の実験を艦船が実施し、成功したとの声明を発表した。(中略)

この兵器の性能は明かしていない。ただ、英シンクタンク「国際戦略研究所」は2018年の報告書で、出力は150キロワットとしていた。(中略)

米海軍は、レーザー兵器は無人機や小型武装艦艇に対する防御で効果的で有り得るとも指摘した。

CNNは2017年、中東のペルシャ湾上で米海軍水陸両用輸送船「ポンス」に乗船し、30キロワットの出力を持つレーザー兵器の実射訓練を取材したことがある。

レーザー兵器担当将校は当時、レーザー兵器の仕組みについて「大量の光量子を接近してくる物体に浴びせる」と説明。「風の影響や相手との間の距離を含め懸念する材料はない。光の速さで標的に対応出来る」と続けていた。【5月23日 CNN】
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【米、オープンスカイ(領空開放)条約の脱退をロシアに通告】
軍拡を競う米ロ、更には中国・・・そうした状況を受けて、アメリカ・トランプ大統領はロシアを強くけん制しています。

****米、領空開放条約の脱退を通告 ロシアが違反と主張*****
トランプ米政権は22日、偵察機による領空での相互監視活動を認めたオープンスカイ(領空開放)条約の脱退をロシアに通告した。インタファクス通信によると、ロシアのリャプコフ外務次官が在モスクワの米国大使館から脱退手続きを開始したとの正式な通告を受けたと述べた。6カ月後に有効となる。
 
米政権は21日の脱退方針表明の際に、ロシアの違反が理由だと主張して具体例を列挙し、条約にとどまる利益がないとして判断を正当化している。
 
軍事面での透明性や相互信頼の低下が懸念される。トランプ大統領は復帰の可能性も示唆しており、米ロ交渉も焦点となる。【5月22日 共同】
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オープンスカイ(領空開放)条約は、非武装の偵察機が相互の領域内の軍事活動や施設に対する監視・偵察飛行の実施を認め、互いの軍事活動の透明性を高めることを目的に、1992年に調印されたもので、30カ国以上が加盟しています。

ロシアは「ロシア側はいかなる違反もしていない」(21日、グルシコ外務次官)と反論しています。

ロシア・グルシコ外務次官は、アメリカが同条約から脱退すれば、中距離核戦力(INF)全廃条約の失効に続いて「欧州の軍事安全保障システムへのさらなる打撃となる」と指摘、「米国の同盟国の利益も損なう」と訴えています。【5月22日 時事より】 

その「米国の同盟国」である欧州各国は、今回のアメリカの脱退方針を「遺憾」として再考を求めています。

****欧州、米脱退表明「残念」=EU外相は再考求める―領空開放条約****
独仏伊など欧州11カ国は22日、トランプ米政権による領空開放(オープンスカイズ)条約脱退表明に対し「残念だ」と遺憾を示す共同声明を発表した。欧州・大西洋の安全保障における条約の重要性を訴え、「われわれは条約を履行し続ける」と強調した。
 
11カ国はいずれも条約締約国。声明ではロシアの条約違反への米国の懸念は「共有する」と指摘。「ロシアに(飛行)制限解除を求め続ける」とも述べた。
 
また欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)も22日、米国の脱退表明は「残念だ」とする声明を発表。「脱退は別の締約国の履行問題に対する解決策にはならない」と語り、米国に再考を求めた。
 
一方、北大西洋条約機構(NATO)は同日、大使級の会議で対応を協議した。事務総長は声明で「選択的な履行は条約を傷つけた」とロシアを非難。米国を条約に残留させるため、ロシアに早期順守を働き掛ける方針を示した。【5月23日 時事】
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【新START条約失効で核開発競争再燃の道も】
中距離核戦力(INF)全廃条約の失効、新兵器開発競争、オープンスカイ(領空開放)条約の脱退というアメリカ・トランプ政権の強気・対決姿勢の先には・・・

****トランプ政権、核実験の再開を議論…米紙報道****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は22日、米政府高官らの話として、トランプ政権が1992年以来となる核爆発を伴う核実験の実施について協議したと報じた。政権内には、核実験の実施が、ロシアや中国との核軍縮交渉に有利になるとの考え方があるという。
 
記事によると、安全保障を担当する高官の会議が今月15日に開かれ、核実験実施の是非が話し合われた。参加者間で意見の相違が大きく、会議では結論に至らなかったという。関係者の一人は「他の手段で中露の脅威に対抗し、核実験の再開は回避することが最終的に決まった」と話したとしている。
 
米国は、96年の国連総会で採択された核実験全面禁止条約(CTBT)を批准していない。ただ、条約の精神を尊重し、他の主要核保有国と共に爆発を伴う核実験は凍結してきた。
 
一方、米政府は、批准国のロシアが近年、爆発力を抑えた低出力の核実験を秘密裏に実施しているとして非難している。中国についても、核実験場で「高水準の活動」がみられるなどと指摘している。
 
トランプ政権は中露に対する抑止力を高めるため、核戦力の増強を進めているが、核軍拡競争につながるとの懸念も出ている。【5月23日 時事】
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“核実験の実施が、ロシアや中国との核軍縮交渉に有利になる”かどうかは、判然としません。際限のない核開発競争に逆戻りする危険性もあります。

ただ、トランプ大統領の交渉戦術の“好み”としては、核実験の実施で強気の圧力を相手にかける・・・という方法でしょう。

視野に入れている核軍縮交渉は、来年2月に失効する新戦略核兵器削減条約(新START条約)に関する交渉。
トランプ大統領としては、現在条約外でフリーハンドの立場にある中国を巻き込んで新たな枠組みをつくりたいところですが、現在のところは進展していません。中国にはメリットのない話ですから。

****求められる米ロの新START条約延長と中国の核軍備管理体制への組み込み****
2010年に米ロが署名した新戦略核兵器削減条約(新START条約)は、期限延長の措置が執られない限り、来年2月に失効することになる。

新START条約は、米ロ両国が保有し得る核弾頭数の上限を1550個、運搬手段の上限を700個と定め、それ以前に比べると、核弾頭数は3分の1削減され、運搬手段は半分以下に削減されたことになる。
 
もし新START条約が無くなるようなことがあれば、核競争が復活しかねないとして、憂慮する声が高まっている。

例えば、ロシアのアントノフ駐米大使(元国防副大臣)とゴッテモラー米元軍備管理・国際安全保障担当国務副長官は連名で、Foreign Affairs誌(電子版)に‘Keeping Peace in the Nuclear Age’と題する論説を4月29日付けで寄稿、新START条約は延長されるべきであると言っている。

論説は「もし条約が延長されない場合には、2021年は予測不能の時代の始まりとなるだろう。米ロ両国の相手の戦略核兵器能力の理解は減り、信頼は急速に失われるだろう。米ロは相手の理解が減るにつれ、最悪のシナリオに備えた計画を立てざるを得なくなるだろう。通信手段と透明性が減るにつれ、偶発的な核の使用のリスクが高まり、危機が核戦争にエスカレートする機会が増えるだろう」と述べ、強い危機感を示している。
 
新START条約は、米ロ両国の核弾頭と運搬手段(ICBMとSLBM搭載のミサイルと戦略爆撃機)の数を大幅に削減するとともに、細かい検証の体制を作った。

両国の検証チームは相手国の核弾頭と運搬手段につき頻繁に現地査察を行うとともに、特定日にミサイルと核弾頭がどのように展開されているかにつきデータを交換してきた。

このように、米ロ両国が相手に対し、自国の戦略核兵器の手の内をすべて知らせることにより、米ロの戦略核兵器についての透明性と予見可能性が確保され、相互の信頼性が高まり、戦略核兵器についての米ロの関係は極めて安定的なものとなった。

これは言ってみれば模範的な軍備管理体制であり、この体制を続けることは、米ロ両国の安全保障にとってのみならず、世界の平和と安定にとっても重要である。
 
ロシアはいち早く新START条約の期限延長に賛成している。(中略)

しかし、トランプ政権は新START条約に中国を含めるべきであると考えているようである。2月に国務省が議会に送った報告によれば、トランプ政権は米国の核の安全が重要課題で、条約の期限が単純延長されれば、その間中国の核能力が増大することが懸念されるとしている。

ポンペオ国長官は昨年12月10日、記者会見で新START条約につき「世界の戦略的安定に影響を及ぼす全ての当事者を対象にすべきだ」と述べたと報じられた。これは明らかに中国を念頭に置いての発言である。
 
核軍縮に中国を含めるべきであるというのは、一般論としてはその通りである。しかし、新START条約に中国を参加させるべきであるという議論は別の話である。
 
まず、中国の戦略核能力はまだ米ロに比べ限定的である。中国は現在300の核弾頭を持っていると見られているが、新START条約で米ロが保有し得る核弾頭は1550である。中国が持っている戦略ミサイルは128基と言われるが、米国は新START条約の下で640基を保有している。1つの条約で規制するには釣り合いが取れない。
 
何よりも、中国には条約に加盟するメリットがなく、中国には条約に加盟するインセンティブがない。

米ロは相手が戦略核を制限することに大きなメリットを見出したのであり、それだからこそ新START条約に賛成した。

トランプ政権は条約への中国の参加を求めているが、中国の参加の代償を払う気配はない。中国から見れば条約への参加は義務のみを負うものである。中国外務省の報道官は2月、中国は米ロとの軍縮討議に参加する意図はないと述べたと報じられている。

トランプ政権が新START条約への中国の参加に固執すれば、条約の期限までに合意が得られず、条約が失効する恐れがあるが、失効だけは何としてでも避けるべきである。
 
他方、中国を核軍備管理体制に組み込む必要があることも論をまたない。そのためには新START条約とは別のフォーラムを検討すべきだろう。【5月25日 WEDGE】
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昨今の米中対立の激化からすれば、中国を含んだ枠組みというのは当分は見込めそうになく、そこにこだわれば「失効」、そして核開発競争という道も現実のものとなってきます。

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