孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

外国人労働者や貧困層に厳しい新型コロナ禍の試練

2020-05-05 23:18:45 | 疾病・保健衛生

(タイなどからミャンマーに戻った出稼ぎ労働者は、各地の隔離施設で最低2週間生活することになっている=4月、ミャンマー・カレン州【5月4日 朝日】)

【雇用の調整弁としてダメージの矢面に立つ外国人労働者】
これまでも時折書いているように、新型コロナは決して「病は平等」ではなく、社会の弱者に大きな犠牲を強いる「不平等のリトマス紙」です。

4月29日ブログ“アメリカ  新型コロナで富裕層は別荘・豪華ヨット、本格「シェルター」も 困窮者は「家賃不払いスト」

そのアメリカでは人種間の不平等も改めて顕在化しています。
4月10日ブログ“アメリカ社会のアキレス腱「人種問題」を改めて浮き彫りにする新型コロナ

外国人労働者、移民などもそうした弱者
健康被害の面でも一番大きなリスクにさらされ、「自粛」といった“贅沢”は許されません。

結果、コロナ対策の優等生だったシンガポールでは外国人労働者がクラスターとなって感染拡大が。
4月19日ブログ“シンガポールの外国人労働者、日本の「ネットカフェ難民」 弱者を通して社会全体を脅かすウイルス

アメリカ・トランプ政権には、“この機”に、念願の不法移民対策を進めようという動きもあるようです。

****米、不法移民1万人送り返す 新型コロナ対策を利用****
米紙ワシントン・ポストは14日までに、トランプ政権が新型コロナウイルス対策として3月21日に陸路の国境を原則的に閉鎖した措置を利用し、メキシコとの国境にたどり着いた中米からの不法移民1万人近くを送り返していたと伝えた。
 
この措置は「税関・国境警備局(CBP)は健康リスクのある人の入国を禁じる」と規定し、移民手続きを巡る従来の法令で定められた手続きを省略できる。

国境警備当局は不法移民が入国管理施設に入る前の野外で対応。健康診断もしないまま平均96分間でメキシコ側に戻しているという。【4月14日 共同】
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そうでなくとも、外国人労働者は“雇用の調整弁”として利用され、経済悪化の影響を真っ先に被ることにもなります。

****コロナ危機と世界)途上国の危機:下 職失う出稼ぎ、母国に逆流 米の移民、雇用の調整弁****
新型コロナウイルスの大流行は、世界各地の移民や出稼ぎの労働者を直撃した。収入減や解雇が相次ぎ、母国へ帰る「逆流」も始まった。仕送りに頼ってきた途上国の家族は貧困の縁に立たされている。

 ■@グアテマラ
「仕事がなければニューヨークに居る理由はない。でも、これからどう暮らせばいいのか」。中米グアテマラの実家に戻ったナンシー・サンタレンさん(33)は電話越しに語った。

3人の子を母親に預け、仕事を求めて1年半前に渡米。近代美術館近くのカフェで店員の仕事を得た。給料は不法滞在を理由に安くされて月1200ドル(約13万円)ほど。米国での家賃や生活費を引いて、毎月2割程度を子どもたちに送金した。
 
感染が広がると、美術館が閉まり、客が激減。店主は「法律で決まった」と言って営業をやめ、サンタレンさんを解雇した。
 
グアテマラなど中米の最貧国からは、多くの人たちが米国に移民してきた。トランプ米大統領は「移民が米国人の仕事を奪っている」と叫び、メキシコ国境に壁を造ると主張。規制も厳しくした。
 
実際には、移民は米国人がやりたがらない仕事を引き受けている。不法滞在で働く人も少なくなく、米国経済を底辺で支える「調整弁」として、不景気になると真っ先に解雇されてきた。今回も失業する中米出身者が相次ぎ「移民の逆流が起きる」と指摘する研究者もいる。
 
移民からの送金は、グアテマラの国内総生産の12%に相当する。うち98%は米国からだ。
 
西部サルカハのミゲル・オベラ市長は「送金が止まれば、国民の暮らしが行き詰まるのは言うまでもない」と話す。「だが、米国に残るグアテマラ人も心配だ」という。
 
オベラ氏によると、4月20日、米国で働くグアテマラ人の69歳と70歳の姉妹が感染して死亡した。「彼女たちのように、多くのグアテマラ人が米国で感染し、すでに何人も死亡している。でも遺体を送る金がなく、家族から遠く離れた米国で埋葬される。家族のために、ずっと送金してきたのに」(サンパウロ=岡田玄)

 ■「帰りたいけど」借金抱え @UAE
アラブ首長国連邦(UAE)の商都ドバイ。インド人の運転手ラメシュさん(32)は3月下旬から続く外出制限で収入の大半を失った。「母国の家族の元に帰りたいが、一度帰れば仕事を失うかもしれない」
 
農業を営む父(74)も、かつてドバイで約30年間、建設労働者として働いた。(中略)父は「息子の健康は心配だが、私には息子が1人しかいない。息子が稼げなくなれば、日々食べるものさえなくなる」と電話取材に嘆いた。
 
国際労働機関(ILO)によると、中東諸国には2千万人以上の外国人労働者がおり、多くがUAEやサウジアラビアなど湾岸6カ国にいる。建設業から飲食店、公共交通機関、家事労働者まで、あらゆる経済活動を担う一方、過酷な労働環境が問題視されてきた。
 
住環境もひどく、10人ほどが同じ部屋で寝起きする例もある。1人が感染すれば、たちまち広がる。2022年のサッカーW杯に向けた工事が進むカタールでは3月、労働者が多く住む地区が感染拡大で一時封鎖された。クウェートでは著名女優が「うんざりだ。(労働者を)送り返せ」と発言して物議を醸した。
 
帰国する手段が見つからない人も多い。ドバイでは、パキスタン総領事館に2万人以上ともいわれる帰国希望者のうち数百人が詰めかけたと報じられた。

インドは、国内で約4万人が感染し、万単位の労働者の帰還をすぐに受け入れる余裕はない。国際線の着陸自体を禁止している。(高野裕介=ドバイ、奈良部健)

 ■仲間と食事融通、しのぐ日々 @タイ
東南アジアも状況は厳しい。電話取材に応じたミャンマー出身のバニャーウーさん(24)はタイ中部パタヤの料理店で働いていた。3月中旬ごろから客足が激減し、店主から3月末に4月分の給料の半分を手渡され「もう店もダメかもしれない」と言い渡され、ミャンマーに戻った。
 
タイでの月収は約9千バーツ(約3万円)。実家周辺だと仕事は農作業の期間労働くらいしかなく、月収は多くて6万チャット(約4600円)ほどだ。雇われ農夫の両親は日雇いの仕事で生活をつないでいる状態で、自分が戻ることでさらに生活は厳しくなる。
 
タイでは大勢のカンボジア人も工場などで働いていた。タイ政府が3月下旬からの国境封鎖を予告すると、国境を越えたカンボジア側の街ポイペトに3日間で約1万5千人が押し寄せた。帰国した9万人以上が失業状態にあると報じられている。
 
一方で、タイにとどまった人たちもいる。バンコクのクロントイ・スラムに来て約10年というカンボジア人女性(53)は、家事労働の仕事を失い、港湾労働者の夫も仕事がない。ボランティアが無料で配る食料や、同胞の仲間で融通し合う食事やお金で、何とかしのいでいるという。(バンコク=染田屋竜太、貝瀬秋彦、ハノイ=宋光祐)

 ■送金2割減「生命線失う」 世銀試算
新型コロナの影響により、世界の移民や出稼ぎ労働者から、彼らの出身地とみられる中低所得国への送金額は、過去最高だった19年の5540億ドル(約59兆円)から2割減少すると、世界銀行は試算している。
 
近年では最大の落ち込み幅で、世銀は「経済的に脆弱(ぜいじゃく)な家庭の多くが、重大な生命線を失うことを意味する」と警告する。出稼ぎは職や給与を失いやすいうえ、滞在国の政府による新型ウイルスへの対策では自国民が優先され、出稼ぎやその家族が除外されていると指摘している。
 
ILOは、職を失った場合でも、滞在国で別の仕事を探すために、一定期間の滞在延長が認められるべきだとしている。【5月4日 朝日】
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記事最後にある世銀による送金額に関する試算については、“最も打撃を受けそうなのは、送金が国内総生産(GDP)の約3割を占めるタジキスタンやネパールなど。フィリピン、南スーダン、トンガ、ハイチといった国も送金への依存度が高い。”【4月23日 ロイター】とのこと。

【ブラジル “『こんな苦しみが続くくらいなら、命を奪われた方がましです』と祈りたくなる”家事労働者】
貧困層・経済弱者が健康面でも、経済面でも、新型コロナ禍で深刻な打撃を受けているのは世界共通のことので、南米ブラジルでも。

****新型コロナが困窮に追い打ち、南米の家事労働者****
マリア・ライムンダ・リベイロ・デ・アルメイダ氏は1カ月ほど前から、毎週月曜日の朝、自宅があるサンパウロ市内のファベーラ(スラム街)、パライゾポリス近くのマクドナルドの前で、迎えの車を待つようになった。
 
外出禁止令が出される3月24日以前は、家政婦として働いている高級マンションまで毎日バスで通っていた。しかし今では、彼女が新型コロナウイルスに接触する機会を減らしたいと雇い主がウーバータクシーを手配しているため、それを使っている。

ブラジル全土で確認されている新型コロナウイルスの感染者は約6万6000人、死者は4500人を超えている。仕事場に着くと、アルメイダ氏は自分の服をすべて着替える。ウイルスが付着している可能性があるためだ。
 
アルメイダ氏が次にパライゾポリスの自宅に戻れるのは金曜日になる。仕事を続けたいなら平日の間はずっとマンションにいるようにと、雇い主に言われているからだ。

自分が稼ぐ2000レアル(約4万1500円)が家族の唯一の収入であるアルメイダ氏にとって、選択肢はないに等しかった。

「わたしの給料があるので、今は大丈夫です」と、43歳のアルメイダさんは言う。「でもこれがなくなったら、どうやって生きていけばいいのかわかりません」
 
ラテンアメリカの国々では、今回のパンデミックにより、大勢の家事労働者たちの生活が根底から覆された。

そもそも彼女らは、世界でもとりわけ不平等な社会でギリギリの暮らしをしている。

国際労働機関によると、2016年のラテンアメリカおよびカリブ海地域では、1800万人が家事労働者として働いていた。そのうちの93パーセントは女性であり、また80パーセント近くが、政府の規制や保護のおよばない非公式な条件で就労していた。
 
外出禁止令が出されたことで、以前から不安定な立場にあった家事労働者たちは、さらに危険な状況に追いやられている。多くの人たちが感染リスクを押して働き続けることを強要され、一方では給与の支払いもないまま解雇された者たちもいる。

生き残るため働く
外出禁止令が出される前、アルメイダ氏は、高級住宅街のマンションにあるベッドルーム3室、バスルーム4つからなる雇い主の家を、1日に9時間かけて清掃していた。

マンションに住み込むようになった今では、1日の仕事は際限なく増えている。家族全員がいる部屋で、アルメイダ氏はゴミを片付け、日に何度も食事を作り、ベビーシッターに手を貸して子供の世話をし、ほかにもありとあらゆる雑用を時間に関係なくこなしている。
 
家政婦、料理人、ベビーシッターたちは、ブラジル各地の家庭で働き続けている。ブラジルは現在、新型コロナウイルスによる死者数がラテンアメリカで最も多い。

家庭の安全を守るために、サンパウロ州の家事労働者雇用主組合はウェブサイト上で6つの推奨事項を公開している。例えば、家事労働者が家に到着したら服を着替えさせる、家事労働者に感染の兆候が見られた場合には帰宅させるなどだ。しかし、家事労働者が自宅に留まることを勧める文章はどこにもない。
 
有給休暇も政府の保護もないまま、家事労働を担う女性たちの処遇は、雇用主の裁量にゆだねられている。リオデジャネイロで1人目、ブラジル全体では5人目にあたる新型コロナウイルスの犠牲者は、国内最高級の住宅街であるレブロン地区で数十年間にわたって家事労働に従事してきた63歳の女性だった。(中略)

パライゾポリスの地区リーダー、レジャネ・サントス氏もまた、失業した家事労働者のためのキャンペーンを立ち上げた。

「Adopt a Day-Maid(家政婦を受け入れよう)」と名付けられたこのキャンペーンは、寄付金を募って、パンデミックの影響で職を失った女性たちに食料、衛生用品、ひと月300レアル(約6200円)を3カ月間提供するという取り組みだ。立ち上げから3週間で1000人ほどの申し込みがあった。

「こうした女性の大半は、家計を担うシングルマザーです」と、サントス氏は言う。「彼らには、生き延びるために給料が必要なのです」
 
こうしたキャンペーンのおかげで、飢えずにすんでいる人たちは大勢いる。7人の子供を持つシングルマザーのアイルデ・デ・オリベイラ・ドウラード氏は、パンデミック前は週に3日、高級マンションで清掃の仕事をしていた。しかし雇用主から解雇され、月に1000レアルの給与を失い、2部屋のアパートの家賃500レアル(約1万円)を支払えなくなってしまった。
 
今のところは、地域団体の寄付を通じて子供たちを食べさせることはできているものの、肉や牛乳はほとんど手に入らない。

心配なのは、5歳の末息子アーサーのことだ。部屋にひとつだけあった窓が改装工事で塞がれた後、アーサーはカビが原因で呼吸器を悪くしてしまった。生きるだけで精一杯だった人たちが、パンデミックによってさらなる窮地に追いやられている。

「あまりにつらくて、『神様、どうかわたしの命をお取りください。こんな苦しみが続くくらいなら、命を奪われた方がましです』と祈りたくなることもあります」と、ドウラード氏は言う。「それでも、いつかはこんな日々も終わるでしょう。状況はきっとよくなると、わたしは信じています」【5月5日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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ブラジルでは、州政府が進める外出規制に対し、ボルソナロ大統領は強く反対して対立が露わになっています。

****新型コロナ死者5000人超に「だから何だ?」 ブラジル大統領に非難殺到****
(中略)ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は先月28日、新型コロナウイルスにより同国で5000人以上が死亡した事実に関して記者から質問を受けた際、「だから何だ?」と返した。

「だから何だ? すまん、私にどうしろと言うのだ?」ボルソナロ氏はそう答え、自身のミドルネームはメシア(イエス・キリスト)を意味するメシアスだが、「私に奇跡は起こせない」と冗談を飛ばした。
 
極右のボルソナロ氏からとっさに出たこの発言を受け、知事や政治家、医療専門家や報道関係者らが一丸となってボルソナロ氏はあまりに配慮が欠けていると怒りをあらわにした。
 
他国の多くの指導者と異なり、ボルソナロ氏はこれまで一度も、病院を訪問したり、新型コロナウイルスの犠牲者や遺族、人工呼吸器や病床不足を訴える医療従事者らに対する連帯を示したりしていない。
 
ボルソナロ氏は、経済恐慌を防ぐため人々に仕事へ行くよう勧めてきた。同氏の最も熱心な支持者らは、路上で外出禁止令に対する抗議デモを繰り広げている。
 
ブラジルではこれまで、公式統計で9万1000人以上が感染したとされるが、科学者らは実際の数はこれより15〜20倍多い可能性があると警告。死者数はすでに6300人に達し、イタリアや米国のような最悪なシナリオに直面している。
 
政治アナリストのアンドレ・ペレイラ・セザル氏は、「大統領がウイルスに対し戦時の指導者としての態度を取らなければ、彼は歴史や有権者らによって厳しく裁かれるだろう」と述べた。 【5月2日 AFP】
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極右政治家としてのボルソナロ大統領のこれまでの言動は、アメリカ・トランプ大統領以上に“とんでもない”ことが多々あります。

ただ、“『こんな苦しみが続くくらいなら、命を奪われた方がましです』と祈りたくなる”という家政婦の言葉を考えると、新型コロナ禍に関する「一部の州知事らによる雇用の破壊は無責任で受け入れられない」「高齢者や健康に問題のある人はケアするべきだ。ただ、われわれは働かなければならない」「このままでは経済は2、3カ月で崩壊する。効果と犠牲をはかりに掛けると、こんな措置は見合わない。」というボルソナロ大統領の主張には一定の真実もあります。

もっとも、ボルソナロ大統領がどういう人々を念頭にそうした主張を行っているかは知りませんが。

ブラジルでも特に感染拡大が懸念されているのがサンパウロやリオデジャネイロにあるスラム街(ファベーラ)です。

“「ファベーラは住宅が密集している貧困街で、小さな家に10人ほどが暮らしているため、感染爆発が危惧されています。リオデジャネイロ州は、ファベーラに住む高齢者を街中のホテルに移動させることを決めました。ところが高齢者は家族と離れたくないという理由で、ホテルに移った人はごくわずかでした。ファベーラは犯罪組織の縄張りで、当局の権限が及ばない無法地帯です。このままではファベーラの住民にコロナが蔓延するのは目に見えているため、ギャングが車で住民に外出禁止を促すメッセージを流していますよ」”【4月26日 デイリー新潮】

大統領が外出禁止に反対し、ギャングが外出禁止を促す・・・ブラジルの現実です。

 

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