孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  習近平政権による国家安全法により崩壊する「一国二制度」 「移住」の選択も現実味

2020-05-30 22:49:44 | 東アジア

(香港の警察に拘束された抗議デモ参加者(24日)【5月26日 WSJ】 香港の未来は?)

【「一握りの違反者を対象にしているにすぎない」とは言うものの、強権的「一国一制度」の強要】
中国の全国人民代表大会(全人代)で国家安全法を香港に導入することを決定したことは報道のとおり。

今後具体化される法律によって、香港における反中国的抗議行動、香港の独自性を求める言動が厳しく封殺されることになること、また、今回の法制定が香港の頭越しに決定されたということにおいて、「香港人が香港を統治する」との原則の下で維持されてきた「一国二制度」は崩壊し、中国の「一国一制度」に組み込まれることが予想されています。

このまま香港政府に任せていては、民主派勢力の反中国的行動を封じるこの種の法制定は市民の強い反対で出来ないという判断で、業を煮やした習近平政権が香港の実質的直接統治に乗り出したともとれます。

****全人代 香港抑圧に「一国一制度だ」と反発 デモの再燃必至****
(中略)香港に導入される国家安全法では、国家分裂や政権転覆行為、組織的なテロ活動、外国勢力による介入が禁止される見通しだ。制定されれば、1989年の天安門事件の犠牲者を追悼する集会なども恒久的に禁止される可能性がある。(中略)
 
中国は9月に実施予定の立法会(議会)議員選をにらみ、民主派への圧力を強めている。(中略)
 
香港のミニ憲法である基本法は23条で「香港は自ら国家分裂、政府転覆などの行為を禁じる法律を制定しなければならない」と定めている。香港政府は97年の返還後、国家安全条例の制定に向けた動きを進めたが、2003年に50万人規模の反対デモが起き、制定を見送った経緯がある。
 
「返還後、最も争いのある条例を今回のようなやり方(香港の立法会の審議を経ない方式)で立法化するのは香港人を全く尊重していないに等しい」(民主派議員)といった怒りや不満が香港で広がっている。【5月22日 産経】
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****香港の反体制活動規制へ 中国、国家安全法制を採択 米中の対立、先鋭化****
(中略)(全人代)閉幕後、会見した李克強首相は「一国二制度を安定させ、香港の長期的繁栄を維持するものだ」と意義を強調した。
 
香港の憲法にあたる香港基本法23条は、国家の分裂や政権転覆の動きを禁じる法律を「香港政府が自ら制定しなければならない」と定める。だが、2003年に50万人規模の反対デモが起きるなど、香港市民の度重なる反発により現在まで制定に至っていない。
 

決定は、中国も香港の治安維持に責任を有し、立法権限を持つ点を明確にした。23条を骨抜きにし直接統治に乗り出す手法とも取れるが、全人代常務委の王晨副委員長は「昨年の風波(騒動)で国家安全の危機に直面した。憲法に合致する手続きで、一国二制度は揺るがない」と主張した。
 

今後、全人代常務委が立法作業を進めるが、6月に審議が始まれば8月にも可決、成立する可能性がある。香港立法会(議会)による審議の機会はない。

 

香港に適用する法律は、15年に中国本土で制定された「国家安全法」が土台になりそうだ。同法には共産党政権の転覆を図ったり反乱を扇動したりする行為を阻止する規定がある。反政府デモを呼びかけたり外国組織と連携したりすることが処罰対象になる恐れがある。決定は、取り締まりのため中国の政府部門が香港に出先機関を設置できると規定。スパイ行為を監視・摘発する国家安全省などが想定されているとみられる。
 

米国は反発を強め、ポンペオ国務長官は27日の声明で、香港の高度な自治が維持されているとは言えない、との見解を公表。

 

米国が香港に与えてきた貿易やビザ発給に関する優遇措置を見直すかどうかが、米中対立の新たな焦点になりそうだ。通商紛争に端を発した衝突が、台湾問題や新型コロナウイルス対応に加えて香港問題でも先鋭化した格好で、両国の対立は新たな段階を迎えている。【5月29日 朝日】

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香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は圧政を敷く権力者の常として、「一握りの違反者のみを対象としている」という説明をしています。

****国家安全法は「一握りの違反者のみ対象」 香港行政長官が擁護****
香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は26日、中国政府が制定を目指す「国家安全法」について、「一握りの違反者のみを対象としている」と述べ、同法案により広がった外国企業や投資家の懸念の払拭(ふっしょく)に努めた。
 
中国・全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で「国家安全法」の審議が始まった22日、香港株式市場は2015年以来となる大幅下落となったが、林鄭氏は報道陣に対し、香港の自由が危険にさらされるという懸念は「まったく根拠がない」と指摘。
 
また「自由は保障され、香港の活気のほか、法の支配や司法の独立、人々が享受しているさまざまな権利や自由といった革新的価値はこれからも存在し続ける」と述べた。
 
さらに、同法案は「一握りの違反者を対象にしているにすぎない」とし、「法を順守し、平和を愛する大多数の住民を保護するものだ」と強調した。
 
一方で、中国本土の警察は香港の抗議デモ参加者を逮捕できるようになるのかと記者から質問された際には「それはあなたの思い過ごしだ」と一蹴。「合法的に行われれば」反政府デモは今後も許可されるとしたが、国家安全法の下ではどのような主張が違法と見なされるのかについては明確にしなかった。 【5月26日 AFP】
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しかし、“中国外務省の出先機関「駐香港特派員公署」は25日、昨年の香港民主化デモにおける一部の行動について、「本質的にテロリスト」および外国勢力と結託した「トラブルメーカー」であり、国家安全保障に対する「差し迫った危険」だとの認識を示した。”【5月25日 ロイター】という考え方と重ね合わせれば、中国の意向におとなしく従うものは罰せられることはないが、中国の意向に沿わない者は「テロリスト」として弾圧されるという姿が浮かび上がってきます。

こういう批判を許さない体制は、基本的に民主主義とは異なる独裁・強権政治にほかなりません。
今後の厳しい取りまりをうかがわせる動きがすでに見えています。

****中国、国家安全法の下で香港に情報機関設置も=前行政長官****
香港の梁振英・前行政長官は23日、中国が香港版「国家安全法」の下で、植民地時代のような情報機関を設置する可能性があるとの認識を示した。(中略)

同氏は「西側諸国を含め、すべての国には国家の安全を守る法律がある」とし「国家安全保障の法的なギャップを埋めるため、そうした組織が必要となっても不思議ではない」と述べた。

梁氏は、同法について、主に独立に向けた動きやテロを念頭に置いたものだと発言した。【5月25日 ロイター】
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****中国公安当局、香港警察を「全力で指導」…統制強化が鮮明に****
中国公安当局は28日、趙克志国務委員兼公安相の主宰で幹部会議を開き、全国人民代表大会(全人代=国会)が採択した香港に国家安全法制度を導入する方針を「貫徹しなければならない」と強調した。
 
香港の反体制活動の取り締まりを狙った法制度の実施に、中国公安当局が主体的に関与する姿勢を示したものだ。制度導入により設置ができるようになる香港の出先機関の要員として、中国の公安当局者が派遣される可能性が出てきた。
 
会議では、中国政府に対する抗議デモなどに対処して秩序回復にあたる香港警察を「全力で指導し、支持しなければならない」との認識も示され、外交と防衛を除き広範囲に「高度な自治」が認められている香港への統制を強める思惑がさらに鮮明になった。【5月29日 読売】
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【「香港人には2つの選択肢がある。他の国に行くか、残って最後まで戦うかだ」】
こうした動きに香港では激しい反対運動が起きてはいます。
“(民主派を支持する人気の香港紙、蘋果日報「アップルデイリー」)発行人の黎智英(ジミー・ライ)氏は、国家安全法が発表された後にツイッターで、「香港人には2つの選択肢がある。他の国に行くか、残って最後まで戦うかだ。私は最後まで戦う。香港は私の住む場所だ」と述べた。”

しかし、現実問題として、中国本土で進行する今回の動きを香港で阻止することは難しいでしょう。

唯一ありうるとすれば、アメリカの制裁的措置で香港の国際的金融センターとしての地位が失われることを防ぐため、実際の法制定にあたって何らかの譲歩がなされる・・・という可能性ですが、習近平国家主席としては、たとえ香港の国際的地位を失おうが、アメリカの激しい反対に直面しようが・・・と、腹をくくったうえでの今回対応ではないでしょうか。(香港の国際的地位、それを危うくするようなアメリカの措置などについては、話が長くなるので、また別機会に)

すでに米中関係は極度に悪化し、コロナ禍に関して賠償請求すら出ている状況では、今更アメリカの出方に配慮する必要性もなくなった、何を言われようがやりたいようにやる・・・・といった感じなのかも。

戦いの展望が開けない状況では、もう一つの選択肢「他の国に行く」も現実味を増してきます。

****手詰まりの香港 移民熱再び SNS削除の動きも****
中国の全人代で28日、香港市民の基本的人権に制限を加える「国家安全法」を香港に導入する方針が決まったことを受け、香港社会では中国への怒りや生活への不安とともに、手詰まり感が広がっている。台湾などへの移民希望者も急増中だ。
 
2014年の香港民主化運動「雨傘運動」の元リーダーで、政治団体「香港衆志」幹部の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏は同日、記者会見し、「米国の対中制裁として、香港への優遇関税措置が凍結される可能性が高い」と述べ、国際社会による中国への圧力強化に期待を示した。
 
香港からの輸入品に適用されている優遇措置がなくなれば、香港は経済的ダメージを受けることになる。とはいえ、中国側が香港の立法会(議会)を無視して国家安全法を導入しようとする中、香港側にそれを阻止する手立ては他にない。(中略)

最近、若者を中心に市民の間では、VPN(仮想私設網)を利用する動きが広がっている。
 
香港は中国本土と異なり、VPNを使わなくても自由にネットにアクセスできる。しかし中国が国家安全法を香港に導入する方針を明らかにした21日以降、VPNのソフトをダウンロードする件数が一気に増えている。香港メディアによると、21日の件数だけで前日の6倍に増加したという。
 
「香港でも中国本土並みにアクセスが制限されるかもしれないうえ、VPNを使えばプライバシーの保護に有利だからだ」と香港市民の利用者は解説する。
 
フェイスブックなど会員制交流サイト(SNS)上の政治的発言を削除する動きも広がっているという。
 
移民の問い合わせも急増中だ。移民斡旋(あっせん)業者の「環球海外物業・投資移民」では22日以降、電話だけで毎日30件以上の問い合わせがある。普段の7、8割増で「半分以上が台湾を希望している。カナダやオーストラリアも多い」という。【5月28日 産経】
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“香港メディアによると、関連議案が全国人民代表大会(全人代)に提出された22日、香港の移民手続きの代行サービス会社には通常の5~6倍の問い合わせが殺到。六つの電話回線が全てふさがった。台湾や米国、カナダなどへの移住相談が多かったという。” 【5月24日 朝日】

【台湾、イギリス 受入れ対応に着手】
「他の国に行く」ということであれば、民族的・文化的にも、また、中国との対決姿勢という点でも、台湾がファーストチョイスでしょう。

台湾側でも受入れ対応に着手しています。

****台湾、香港の活動家に人道援助提供する計画策定へ=蔡総統****
台湾の蔡英文総統は27日、香港で民主化を求めるデモに関与している人々に人道援助を提供するための計画を策定すると表明した。(中略)

蔡総統は記者団に対し、「香港からの友人に人道援助を提供する行動計画を提案する」と述べ、「われわれは、民主主義と自由を求める香港の人々の決意を支持し続ける」と語った。

蔡総統は計画の詳細やタイミングは明らかにしなかったが、対中政策を担当する大陸委員会が計画を主導し、当局の作業部会が宿泊場所や雇用も含め、必要な予算や資源について調整を行うと説明した。

台湾には亡命を求める香港の活動家に適用できる難民法はないが、政治的理由で自由と安全が脅かされている香港市民を支援することは法律で約束している。

蔡総統は、香港からの移民は過去1年間に急増しており、この傾向は続くと当局がみていると明らかにした。【5月27日 ロイター】
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****台湾が香港人受け入れへ対策チーム 蔡総統表明「自由と民主主義のために」****
香港で反中活動を禁じる「国家安全法制」の施行が決まったことを受け、台湾の蔡英文総統は29日、政治的理由で移住してくる香港人を受け入れる目的で、政府の対策チームを設置したと表明した。(中略)

香港で国家安全法制が施行されれば、自由や人権が中国本土並みに制限されるとの懸念が出ており、多くの住民が海外移住を検討している。

香港から台湾への移住には専門技術の保有や投資など一定の条件が課されているが、政治的理由による渡航者は台湾の法律に基づき、必要な援助や保護を受けられる。現時点では受け入れ制度が十分に整備されていないことから、対策チームは長期滞在や保護に関する包括的な制度を早急に策定する。
 
近年、香港から台湾への移住者が増えており、台湾政府統計によると、2016年には1086人だったが、19年に1474人となった。(後略)【5月29日 産経】
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香港の旧宗主国イギリスも対応を検討しています。

****英外相、海外市民旅券の香港人に「市民権も」 国家安全法めぐり****
ニク・ラーブ外相は28日、中国が反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の導入を停止しない場合、英国海外市民旅券を保有する香港人に対し、英市民権を獲得する道を開く可能性があると述べた。

英国海外市民旅券(BNO)とは、香港がイギリスの植民地だった時代に香港人に対して発行されたもので、イギリス人が保有する旅券とは異なる。

現在、約30万人の香港人がBNOを保有している。BNO保有者は、イギリスにビザなしで最長6カ月間滞在できる。(中略)

ビザなし滞在を延長、将来的な市民権獲得も
ラーブ英外相は、英国海外市民旅券(BNO)をめぐる方針を変更する可能性を明らかにした。
「中国が国家安全法導入という道を進み続け、実際に施行するのであれば、我々はBNO保有者に認めているビザなしでの英国滞在期間を6カ月から12カ月に延長し、就労や就学を申請するために英国へ渡航できるようにするだろう。また、滞在期間はさらなる延長が可能で、それ自体が将来的な英国市民権を獲得する手段を与えることになるだろう」(中略)

市民権の自動的付与を求める声も
一部の下院議員からは、自動的に市民権を付与する方法を求める声が上がっている。下院外交委員会のトム・トゥゲンハート委員長(保守党)は、BNO保有者には自動的にイギリスに居住し就労する権利が与えられるべきだと述べた。

英政府はこれまで、香港のBNO保有者に対し完全な市民権を与えるよう求める声を一蹴してきた。

昨年、香港で10万人以上が完全な市民権を求める請願書に署名した。英政府はこれに対し、英国市民と英連邦市民だけが英国内に居住する権限を持っているとし、BNO保有者への完全な市民権の付与は、香港返還時の中国との合意違反になると説明した。(後略)【5月29日 BBC】
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台湾やイギリスへの移住が現実のものとならないように願ってはいますが・・・
また、移住という選択肢があるのは、一定に経済的資力のある人々でしょう。

 

 

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