(大阪で行われた20か国・地域(G20)首脳会議に出席した米国のドナルド・トランプ大統領(左)と中国の習近平国家主席(2019年6月29日撮影)【5月15日 AFP】)
【トランプ大統領の中国批判エスカレート「すべての関係を断ち切ることもできる」】
新型コロナ拡散の責任追及でアメリカと中国の対立が日増しに激化しているのは周知のところですが、今朝目にした報道では「断交」というショッキングな言葉まで飛び交う事態となっているようです。
*****トランプ氏、中国との断交示唆 習氏と対話望まず****
ドナルド・トランプ米大統領は14日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)への中国の対応を批判する姿勢を一段と強め、中国の習近平国家主席との対話はもはや望んでいないとし、中国との国交断絶の可能性にも言及した。
米中は、新型ウイルスの起源をめぐり非難の応酬を繰り広げており、両国間の緊張が高まっている。中国・武漢で昨年12月に発生した新型ウイルス感染症について、トランプ氏は「中国から来た疫病」と称している。
トランプ氏は、ビジネスニュース専門局FOXビジネスに対し「私は(習氏と)非常に良い関係にあるが、今は話したいとは思わない」と言明。「中国には非常に失望している。今はそう断言できる」と語った。
米国がどのような報復措置を取る可能性があるのかと問われると、トランプ氏は具体的な方法には言及しなかったものの、語調を強め「できることは多い。いろいろなことができる。すべての関係を断ち切ることもできる」と表明。
「そうしたらどうなるか?」と問い掛け、「すべての関係を断ち切ると、5000億ドル(約54兆円)を節約することになる」と述べた。【5月15日 AFP】
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中国と断交することで5000億ドル(約54兆円)の節約になる・・・どういう計算に基づくものかは知りませんが、およそ検討する価値もない、いつものトランプ大統領のフェイクでしょう。(断交で5000億ドルの被害を受けるというなら、検討する価値があるかも)
【責任逃れの中国叩きではあるものの、米国内世論は同意】
新型コロナに関するアメリカ・トランプ政権の中国批判の1点目は、ウイルスの起源が武漢ウイルス研究所から漏れ出したものだという主張です。
トランプ大統領は5月3日、新型コロナウイルスが中国・武漢市の研究所から流出したとの主張を裏付ける「決定的な」証拠を含む報告書を公表する考えを示しましたが、いまだその「決定的証拠」は示されていません。
今朝のTVニュースで見ると、「ウイルス研究所から出たにしても、コウモリから出たにしても・・・・」といった発言をしているようですが、「決定的証拠」云々とは随分主旨が違います。いつもの変節・誤魔化しです。
2点目は、中国が情報を隠蔽したことで、世界各国の対応が遅れて、結果、ウイルスが世界に拡散したと言う主張。
中国が地方レベル、中央レベルで情報を隠蔽、あるいは操作しようとしたのは事実でしょう。そいう国ですから。
習近平主席に権力が集中する政権の体質も指摘されるところです。
ただ、そのこととアメリカが現在世界最悪の感染国となっていることとは無関係でしょう。
すでに武漢での悲惨な状況が報じられている段階でも、トランプ大統領は新型コロナなんて大したことない・・・という対応で、対岸の火事、遠いアジアの問題という姿勢でしたから、中国がどの段階でどんな情報を公表していようと結果は同じでしょう。
麻生財務相の3月24日衆議院財政金融委員会での「2月末に行われたG20財務相・中央銀行総裁会議でこの件(感染拡大)を話したが、誰も反応しなかった。その1週間後にG7財務相電話会議をやろうと提案され、『つい1週間前に何の関係もない、黄色人種の病気でわれわれには関係ないと誰が言ったのか、お前じゃないか、何考えているんだ』と言った」という発言にも、当時の欧米の姿勢が表れています。
トランプ大統領の中国叩きが、現在の新型コロナの惨状の責任を中国に責任転嫁しようとする再選戦略によるものだというのは衆目の一致するところです。
ただ、中国叩きが再選につながるということは、中国批判がアメリカ世論に受けるということであり、アメリカ世論が中国に対し非常にネガティブになっていることと表裏の関係にあります。
アメリカ国民も、責任が自分たちが選んだ大統領の無能・無策、自分たち自身の努力不足・認識不足にあることを受け入れるより、外敵「中国」のせいだと批判する方が受け入れやすいのでしょう。
そして、大統領の中国批判と世論の中国ネガティブ評価は互いにフィードバックして呼応し、ますますエスカレートしていきます。
*****コロナで加速する米中衝突の危機****
数十万人の命を奪い、世界経済に大打撃を与えている新型コロナウイルスの蔓延は、地政学的な風景も変えようとしている。米中関係がますますこじれ、両国が互いをさらに敵対視することになりそうなのだ。
コロナ禍はただでさえ危機にあった米中関係にとって、とどめの一撃になったかもしれない。特に中国当局が流行の初期段階で情報を隠蔽していたことと、中国の国土封鎖が世界のサプライチェーンを寸断したことは、米中関係に潜む2つの「脆弱性」をアメリカ人に思い知らせた。
1つ目の脆弱性は、中国の抑圧的な政治体制だ。
もちろんアメリカ人は、中国との間にイデオロギー上の隔たりがあることを知っていた。ただし中国による新疆ウイグル自治区やチベットなどへの弾圧は、遠い世界の出来事だった。コロナ危機で7万8000人以上の国民が死亡し、経済が停滞し、大量の失業者を生んだことにより、やっと「そこにある」危機になったのだ。
これは多くのアメリカ人の偽らざる実感だ。ハリス社の最近の世論調査によれば、中国がウイルス流行について不正確な情報を発信していたと考えるアメリカ人は70%以上、感染拡大の責任は中国政府にあると考える人が75%以上いた。米国内の流行について自国より中国政府に責任があると思う人も、実に55~60%いる。
2つ目の脆弱性は両国の経済的な相互依存、特に中国のサプライチェーンに対するアメリカの依存だ。
コロナ禍以前なら、アメリカ人はこの点を貿易不均衡と雇用の問題とみていた。だが今は、中国が医薬品原 料などで世界に占めるシェアの圧倒的な高さが安全保障上の脅威と見なされている。
ただし、それだけで互いの敵対心が高まるわけではない。事態を悪化させているのは、危機に乗じて国内での存在感を高めようという両国政府のもくろみだ。
感染の震源地である武漢で初動対応に失敗したと報じられると、中国はイメージ回復に向け積極的な外交と大々的なプロパガンダを展開した。国外ではイランなど被害の大きな国へ医療支援を提供し、国内では感染対応を自画自賛してナショナリズムを鼓舞しつつ欧米諸国の対応を批判した。
欧米は批判材料をたっぷり提供した。特にトランプ米大統領は、責任転嫁や虚偽の言動などで醜態をさらした。トランプの再選が危ぶまれる今、与党・共和党は中国に責任をなすりつけようとしている。多くのアメリカ人はそれに納得しているようだ。
ハリスの世論調査では回答者の半数以上が、トランプが新型コロナを「中国ウイルス」と呼ぶことに同意している。
イデオロギー対立が生む敵対心、貿易戦争の長期化、地政学的な対立――これらが両国関係をさらに悪化させる要因になるだろう。
米議会では安全保障関連製品の生産を中国から米国内に移すことを義務付ける法案が成立する見込みだ。トランプ政権は中国への新たな制裁を検討しているという。
こうした懲罰的外交は世論の支持を得やすい。だとすると焦点は政権がどれくらい厳しい制裁を打ち出すかだが、自らの政治生命の危うさを考えればトランプが手加減するとは考えにくい。秋の大統領選で、米申関係は最も重要な外交上の争点になる。
習近平国家主席も引き下がるつもりはなさそうだ。4月初めの共産党中央政治局常務委員会で習は「最低ラインを守る考え」を堅持し、「外部環境の変化」に備えると語った。
「最低ライン」が何を意味するかは定かでないが、アメリカには報復をもって臨むという意味だと考えていいだろう。
世界が共通の脅威にさらされている今、米中冷戦の悪化は最も避けたい事態だ。だが、衝突の危機はそこまで追っている。【ミンシン・ペイ氏 5月19日号 Newsweek日本語版】
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【州レベル、米議会でも強まる中国批判】
中国のサプライチェーンに対するアメリカの依存、特に医薬品という安全保障にも関わる分野での依存については、州知事からアメリカ国産への提言も出ています。
****米州知事ら「中国の医療用品は安いが、高くても自分たちで作るべき」****
米AP通信によると、ミズーリ州、フロリダ州、インディアナ州、マサチューセッツ州などの知事は「中国などの国から購入する医療用品は確かに安いが、今回の新型コロナウイルスの流行で得た教訓は自給自足とすべきであるということで、米国での生産は価格が高いとしても価値のあることだ」との見解を示した。中国メディアの観察者網が11日付で伝えた。(後略)【5月12日 レコードチャイナ】
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中国批判はトランプ大統領に限らず、議会でも強まっています。(もともと貿易摩擦に関しても、トランプ大統領の中国とのウインウインを目指すような取引姿勢に比べて、世界覇権をめぐる争いという観点からの中国批判は議会の方で強かった経緯もあります)
****米上院議員ら、対中制裁法案を提出 コロナの説明求め圧力****
米共和党の上院議員らは12日、中国政府が新型コロナウイルスの発生をめぐる「完全な説明」を行わない場合に、ドナルド・トランプ大統領に中国への制裁を課す権限を与える法案を提出した。
「新型コロナウイルス感染症説明責任法」を提出した共和党議員の一人、ジェームズ・インホフ上院議員は、「中国共産党は、このパンデミック(世界的な大流行)において果たした有害な役割について説明責任を負わねばならない」「ウイルスの発生源と感染拡大に関する彼らの明白な欺瞞(ぎまん)は、ウイルスの感染拡大が始まる中で世界の貴重な時間と命を犠牲にした」と述べた。
この法案は、トランプ氏に60日の期間を与え、その間に米国とその同盟国、または世界保健機関をはじめとする国連機関が主導する可能性のある調査に対し、中国が新型コロナウイルス感染症の発生に関する完全な説明を提供したかどうかを検証し、議会に報告させるもの。
トランプ氏はまた中国が新型ウイルス発生に関するリスクが最も高い生鮮市場を閉鎖したかどうか、さらに新型ウイルス発生後の弾圧で逮捕された香港の活動家を釈放したかどうかを検証する。
これらについて確認できなかった場合、トランプ氏は同法案の下で、中国関連の資産凍結、渡航禁止、ビザ取り消し、さらに中国企業による米国の銀行融資や資本市場へのアクセス制限といった制裁措置を課す権限を与えられる。
もう一人の法案発起人であるリンゼー・グラム上院議員は、「中国は国際社会が武漢の研究所に立ち入って調査することを拒否している。彼らは調査官に発生の経緯を調査させることを拒否している。強制的にやらせない限り、中国が真剣な調査に協力することはないと確信している」と述べた。 【5月13日 AFP】AFPBB News
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【台湾、更にはウイグル、チベットにも】
中国批判は新型コロナにとどまらず、WHOへの台湾参加問題にも波及。
ポンペオ米国務長官は5月6日の記者会見で、5月18日から開かれる世界保健機関(WHO)総会に台湾をオブザーバーとして招待するよう、WHOのテドロス事務局長に要望すると述べていますが、それ以外にも・・・
****「コロナ乗じ中国が台湾に圧力」 米議会の諮問機関が報告書公表****
米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は12日、中国が新型コロナウイルスの感染拡大に乗じて台湾へ軍事・外交面で圧力を強めていると非難する報告書を公表した。中国の反対で台湾が世界保健機関(WHO)に参加できず、新型コロナを巡る情報共有が阻害されていると批判した。
米上院は11日、台湾のWHO年次総会へのオブザーバー参加を促す法案を全会一致で可決した。
報告書は、中国軍の航空機が台湾海峡の中台の中間線を台湾側に越える事案が今年既に3件起きたことなどを挙げ「世界が新型コロナに気を取られている間に、中国は圧力を強化した」と指摘した。【5月13日 共同】
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更には、ウイグル・チベット問題で最近動きが見られるのも、昨今の米中対立激化を反映したものでしょう。
****ウイグル人権法案を可決=対中制裁、大統領に求める―米上院****
米上院は14日、中国政府による新疆ウイグル自治区のウイグル族への弾圧に関し、トランプ大統領に制裁発動を求める法案を全会一致で可決した。新型コロナウイルス問題で対立する米中関係が同法案をめぐってさらに緊張するのは必至だ。
下院は昨年12月に同様の法案を可決したが、上院で修正されたため、成立には下院で再び可決し、大統領が署名する必要がある。
米メディアなどによると、法案は、ウイグル族や他のイスラム教徒の弾圧に関わった責任者に制裁を科すよう大統領に求める内容。トランプ氏はこれまで、対中貿易協議への影響などを考慮し、ウイグル問題での明確な中国政府批判を避けてきた。【5月15日 時事】
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****25年前から不明のパンチェン・ラマを解放せよ、米が中国に改めて要求****
米国は14日、25年前にチベット仏教第2の高位者パンチェン・ラマに認定され、その後まもなく拘束された男性を解放するよう中国政府に改めて要求し、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の後継者選びに介入しないようくぎを刺した。
世界的な支持を得ているノーベル平和賞受賞者で、亡命中のダライ・ラマは1995年5月14日、当時6歳だったゲンドゥン・チューキ・ニマ氏をパンチェン・ラマの生まれ変わりと認定した。
パンチェン・ラマはその3日後に拘束され、以来、一度も姿が確認されていない。人権団体はパンチェン・ラマが「世界最年少の政治犯」になったとして、中国政府を非難した。
米国務省で国際的な信教の自由問題を担当するサム・ブラウンバック特使は、「中国当局に対し、パンチェン・ラマを解放し、自由にするとともに、彼の居場所を世界に知らせるよう引き続き圧力を掛けていく」と述べた。
ブラウンバック氏は記者団に対し、「中国共産党はダライ・ラマの後継者を指名する権利を主張し続けており、この問題への関心と注目が高まり、重要性を増している」と指摘。「中国共産党には、ローマ教皇の後継者を指名する権利がないのと同じように、ダライ・ラマの後継者を指名する権利はない」と述べた。
無神論の立場を取っている中国政府は、ダライ・ラマの後継者指名を目指していくと公言している。ダライ・ラマがいなくなれば、チベットの自治権を回復する国際的な動きが弱まると期待しているのは明らかだ。
ダライ・ラマは、多忙を極める各地の訪問を減らしているが、深刻な健康上の問題があるのかどうかは明らかにされていない。中国政府の計画を阻止するため、慣例を破るか思案しているとされる。後継者を生前に指名することや、自らの死と共にチベット仏教の宗教的伝統を終わりにすることに言及したこともある。後継者には少女を選ぶ可能性もあるという。
中国政府が独自に任命したパンチェン・ラマは、厳格に行動を指示される中で公の場に何度か姿を現しているが、多くのチベット人は彼をパンチェン・ラマとして認めていない。 【5月15日 AFP】
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南シナ海でのけん制も相変わらず。
****米軍、2日連続「航行の自由作戦」=南シナ海で中国けん制****
米海軍第7艦隊は29日、中国が軍事拠点化を進める南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島付近をミサイル巡洋艦「バンカーヒル」が航行したと発表した。
28日にはミサイル駆逐艦「バリー」が西沙(英語名パラセル)諸島付近を通過。過剰な海洋権益の主張を否定する「航行の自由作戦」を2日連続で実施し、中国へのけん制を強めた。【4月30日 時事】
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こうした米中対立が「断交」とか「軍事衝突」に至るとは思っていませんが、トランプ大統領の中国叩きが奏功して再選をはたすというのは十分にありうる話。
それだけでも、新型コロナ蔓延以上に個人的に気が滅入る話です。世界へのダメージも。