孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新型コロナ  自殺者増加の見込み 感染のための「コロナパーティー」 犠牲が小さいアジア諸国の事情

2020-05-07 23:25:19 | 疾病・保健衛生

(【5月7日 WSJ】 縦軸は等間隔ではなく対数目盛になっていることに注意  日本とアメリカでは100倍の開き)

【オーストラリア 経済的影響による自殺者増加が感染による直接的な死者を大きく上回る公算】
新型コロナに関するニュースから2件

****コロナ関連自殺、5割増も=豪医師団体が警告*****
医師らを会員とするオーストラリア医療協会などは7日、声明を出し、新型コロナウイルスによる経済的影響を受けて、自殺者が最大50%増える恐れがあると警告した。同協会は「心の健康と自殺防止に優先的に取り組むことが急務だ」として、政府などに対応の拡充を求めた。
 
声明によると、豪州では毎年約3000人が自殺しているが、新型コロナの影響で自殺者が750〜1500人増える可能性がある。豪州の新型コロナの死者は現時点で約100人。

同協会は「コロナ感染による直接的な死者を大きく上回る公算が大きい」と分析した。経済の悪化が1年以上続けば、こうした高い水準が最大5年間続くとみられるとも説明した。【5月7日 時事】
********************

日本では自殺者は年間約2万人でオーストラリアの6倍強、人口は約5倍。
ということは、5倍としても、新型コロナによる経済悪化で自殺者が3800〜7500人増える可能性がある・・・という話にもなります。

新型コロナが「生命」に及ぼす経済的影響は、明示的な「自殺者」という形にはとどまらないでしょう。
例えば、収入が減少し、それまで受けていた治療を中止したことで症状が悪化して死亡とか、失業で健康保険が払えなくなった結果、受診が遅れて手遅れになるとか・・・様々な影響が考えられ、結果として死亡数を増やすことが推測されます。

その影響は数年(上記記事で最大5年)続きます。数字は推測の域をでませんが、相当に大きなものがあると考えるべきでしょう。

翻って、新型コロナによる死者数は現在590人。

感染爆発による医療崩壊、死者急増という事態は回避しないといけませんが、そうした事態を回避できる目途が立ったら、その後については、「健康か経済か」「命かカネか」という話ではなく、「感染による健康被害か、経済悪化による健康被害か」と考えるべきでしょう。

【アメリカ 敢えて感染するための「コロナパーティー」】
****感染者とあえて交わる「コロナパーティー」に警鐘、米当局****
米北西部ワシントン州当局は6日、新型コロナウイルスにわざと感染する目的で非感染者が感染者と交流する「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パーティー」を計画する人々がいるとの報告について、懸念を表明した。
 
ジョン・ウィースマン州保健相は、「パンデミック(世界的な大流行)のさなかに集まるのはとてつもなく危険で、入院どころか死亡する危険が高まる」と指摘。

「その上、COVID-19から回復した人が長期的な免疫を獲得するかも、分かっていない」「このウイルスについては、まだ分からないことが多い。感染者に長期的な健康問題が起きるかもしれない」と述べた。
 
これに先立ち、シアトルの南東約420キロに位置するワラワラ郡の当局が、郡内で確認された感染者の中に、意図的に感染を拡大させる「COVID-19パーティー」と称する集まりに参加していた人が複数いると報告していた。ワラワラ郡では6日までに、94人の感染と1人の死亡が確認されている。
 
地元保健当局トップのメーガン・デボルト氏によると、接触者についての追跡調査で、感染者のうち25人がわざとウイルスに感染するため「COVID-19パーティーに参加した」と話したという。
 
デボルト氏は、このような行動は無責任だと述べ、身体的・社会的に距離を取る「正しい対策」に従って地域内での感染拡大を予防するよう、フェイスブック上で市民に強く呼び掛けている。 【5月7日 AFP】
********************

上記の「コロナパーティー」の詳細がわかりませんが、感染による免疫獲得を目的としたものでしょうか。
何のために? 不確かで継続的な感染の恐怖から解放されるため?

これまでのブログで取り上げてきた「免疫パスポート」という発想に関し、「雇用主はパスポート保有者を優遇し、未感染者に対する差別につながる」「職場や通常の活動に戻れるようにわざと感染して証明書を得ようとする人が出てくる」との批判があることは紹介してきましたが、杞憂ではなさそうです。

【アジア諸国 過去のパンデミックの経験と備え 迅速な行動】
感染爆発で多大な犠牲者を出した欧米に対し、感染をほぼ抑え込んだ形の香港・韓国・台湾・ベトナムなどアジア諸国は比較的軽微な犠牲にとどまっています。

****アジアのコロナ禍、欧米より軽く済んでいる理由は**** 
(中略)重症急性呼吸器症候群(SARS)のコロナウイルスに感染した経験を持つラム氏は「香港の誰もが2003年の厳しい状況を覚えている」と語り、同じことを繰り返したくないとした。
 
新型コロナウイルスが出現した際、彼はすぐに人前ではマスクを着用し、手を洗い、人混みを避ける習慣を始めた。また80代になる母親のもとを訪れるのを自主的にやめた。母親の感染リスクを減らすためだ。
 
多くの欧米諸国よりもアジア諸国・地域の方が新型コロナ感染症(COVID-19)にうまく対処しているように見える理由の1つとして、SARSなど過去の疫病流行の経験から得たパンデミック(感染症の世界的大流行)に対するより深い理解があったことが指摘されている。

世界全体の新型コロナ感染確認者数370万人のうち、約4分の3は西欧諸国と米国の感染者が占めている。ウイルスが最初に出現した東アジアに東南アジアを加えた感染者数は、全世界の感染者数のわずか15分の1程度にすぎない。この地域の人口が世界全体の約3分の1を占めているにもかかわらずだ。ただし、一部のアジア諸国では、人口のごく一部しか感染検査を受けていない。
 
今週、香港では、域内で感染したケースがゼロの日が14日目となった。台湾では最近、3週連続で域内感染ゼロを記録した。早期の感染拡大が最も深刻だった韓国は、4月の新規感染者数がピーク時の1日の感染者数909件を下回ったことから、6日にソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)の規制を緩和した。タイとベトナムはこれまで、深刻な大流行の発生を回避している。
 
4月に予想外のクラスター(感染者集団)が幾つも発生したシンガポールと日本でさえも、コロナ問題が制御不能な状態には至っておらず、全国で猛威をふるってもいない。それは主として、感染者の追跡や市民の移動自粛といった準備された対応の成果だ。
 
中国では3日以降に確認された新規感染者数が6人となっており、新型コロナの抑え込みに成功したように見える。ただし、こうした成功のように見える状況に至るまでには、人類史上最大級の大規模隔離など他国よりも厳格な措置が必要だった。

これらすべての国・地域では、隔離措置の緩和や行動の自由拡大を受けて、新たな感染の波が起きる恐れがある。この地域でも、インドネシアなど一部諸国では、新規感染者数が依然増加傾向にある。
 
アジアの多くの国々は、感染症危機の初期の兆候が現れた際により迅速に対応する傾向があったり、国民の間に社会統制に対する幅広い支持があったりするという特徴を共有している。専門家はそれが、現段階で危機に比較的うまく対処できていることにつながっている可能性があると指摘している。
 
ベトナムにある英オックスフォード大学臨床研究ユニットの責任者を務めるガイ・スウェイツ氏は、「迅速に行動すること。それが最大の教訓だ」と述べる。
 
それぞれのアジア諸国が取った措置には、大きな開きがある。ロックダウン(都市封鎖)や一部の欧米諸国では受け入れがたいような接触者追跡手段を利用した国もあれば、検査と隔離を優先にした国もある。
 
しかし、大半の国は、過去に鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ(H1N1)やSARSといった感染症に遭遇してきたことを受けて、パンデミックが起きるかなり前から中央集約型の危機管理計画を有し、国民が正しい対処法を知っていた。
 
対応の遅さを批判されていた日本の安倍晋三首相は4月16日に全国を対象にした緊急事態宣言を出したが、そのとき既に多くの国民は何週間も前からマスクをしていた。

現在米国の一部の州で起きているような、政府による行動規制に対する抗議は、アジアではあまり見られない。
 
中国に近いことも、予想外の強みになった可能性がある。多くのアジア諸国はパンデミックの最初の流行地に近かったために迅速に動き、中国からの航空便を禁止する傾向にあったため、感染拡大を一部抑制できた。一部の国はアジア旅行者の出入国を禁じたため、他国でウイルスに感染した市民がウイルスを持ち帰る可能性が低下した。

韓国の迅速な対応は、備えがないまま放置したために死者を出した5年前の中東呼吸器症候群(MERS)の流行から得た教訓によって育まれた。

今年2月半ばに新型コロナウイルスの感染者数が急増した際、政府は大量に検査を実施して、重篤な患者を軽症者から切り離し、情報を共有して警鐘を鳴らすシステムを展開することができた。
 
同国の対応は、キム・スミンさん(23)のような市民の行動を頼りにするものだ。彼女は要請に従って屋内にとどまっていた。要請に従った理由の1つには、政府のアグレッシブな接触者追跡措置の一環で、自分の居場所が公開されてしまうことへの心配もあった。彼女は友人と会うのを一切やめ、おおむねソウル市内の自宅にとどまった。
キムさんは「絶対に行かなくてはならないところにしか行かなかった」と話した。
 
ソーシャルディスタンシング措置は、香港でも施行された。中国が1月に新型コロナウイルスに関して最初のロックダウン措置を講じた直後のことだった。当局は1月下旬に学校を閉鎖し、香港市の数千人の公務員に在宅勤務を命じた。民間企業が独自の制限を適用するなか、街中から人の姿が消えた。

香港当局は多くの部署にまたがるタスクフォースを設置。キャンプ場や公営住宅の空き物件を検疫施設として利用して、感染の疑いのある人たちの隔離や、接触者の追跡のための強力な実行計画を導入した。
 
この戦術は、2003年に香港で拡大したSARS感染の経験から学んだものだ。その翌年には、感染拡大を制御するための保健センターが香港に設置されている。今ではどこでも見られる、公共の場での体温測定は当たり前のこととなった。住民たちのマスク着用は習慣となり、世界的な専門家の多くは、マスクは感染者が他の人に感染を拡大するのを防ぐのに役立つと考えている。
 
香港大学公衆衛生学院で疫学・生物統計学部門を率いるベン・カウリング教授は「15年以上も続いた平時に、私たちは準備をしてきた」と話している。2004年に3人だった感染・疫学部門の人員は50人に増員され、当局に感染症の対応をアドバイスしてきた。「われわれの戦いの準備は整っている」という。(中略)
 
台湾でも、公衆衛生の専門家たちは感染者数が少ないことについて同様の要因を挙げている。マスクの自主的な着用や、政府によるロックダウンが実施されなくても人々の外出・移動が自然に減少したことに加え、接触者の厳密な追跡や、入国者に対する厳しい14日間の自宅待機ルールが適用された。
 
271人の感染者が報告されているベトナムでは、最初の感染者が出た直後に当局が大学やその他の学校を閉鎖し、中国との航空便を停止。さらに、感染防止のための情報やガイダンスをテキストメッセージで国民に送り始めた。
 
欧米でも流行が始まったことが明らかになると、ベトナム当局は、ほぼ全ての国際線の離着陸を停止した。接触者の調査を拡大し、濃厚接触者に対して14日間の検疫を義務付けた。検査能力も急速に全国で拡大したが、ほとんどは隔離された個人が対象だった。
 
米疾病対策センター(CDC)に勤務した経験のあるワシントン大学のアリ・H・モクダッド教授(保健数理学)は、新型コロナの感染を現在最もうまく切り抜けている地域は、ウイルスによる被害を過小評価せず、一定の謙虚さをもって対応してきたと指摘する。「早めに閉鎖すれば、より早く再開することができる」【5月7日 WSJ】
*************************

過去の感染症の記憶が強く、準備を進めてきた、そして迅速に行動したアジア諸国は犠牲者が少なく、準備もしておらず、行動も遅れた日本は感染が拡大したが、国民自体が早い段階から周到に備えていたことで緩やかな感染拡大にとどまった・・・・というところでしょうか。

【韓国 国民管理とプラバシー保護の問題】
もちろん、詳しく見ていくと、各国の事情は様々。
韓国では住民登録番号などの国民管理の在り方が日本などとは異なります。

****行動制限を大幅緩和した韓国からみる「管理と自由」のあり方****
韓国が行動制限を大幅に緩和
新たな感染者がほぼ抑え込まれている韓国では5月6日、外出自粛要請を含む行動制限が大幅に緩和された。
韓国政府は「ソーシャルディスタンスの確保」の要請を大幅に緩和し日常生活の中で感染防止に努める取り組みに切り替えた。これにより、会食などを含む外出やイベントの開催も自粛要請の対象から外れる。

また、博物館など国立の文化施設も営業を再開したが、事前予約制にすることで入館者数を制限している。

韓国での新たな感染者はこの3日間、国外から入国した人のみで国内では1人も出ていないが、行楽地が賑わいを見せるなど緩みが指摘されていて、政府は、感染対策の徹底を呼びかけている。

住民登録番号から感染者の行動を把握
Live News αでは津田塾大学の萱野稔人教授に中継で話を聞いた。

三田友梨佳キャスター:韓国のウイルスとの戦い、どうご覧になりますか?

津田塾大学・萱野稔人教授:
政府による感染拡大防止策と、国民の自由との関係をどう考えるかという問題が大きいと思います。韓国は感染拡大の防止策としてテクノロジーを大いに活用しています。

もともと韓国では、国民の住民登録番号がITで管理されていて、それが銀行口座とかクレジットカード、さらには健康保険証、携帯電話などと紐付けられています。

この番号をたどると、感染者がどのような行動をしたのか、どこでなにを買ったのかもすべてわかり、それをネットで公開しています。そうした対策が、感染拡大防止に大いに役立った、という背景があります

結果的に自由が提供できた
三田友梨佳キャスター:テクノロジーを活用して行動履歴をたどるのは、プライバシーの侵害なども懸念されると思いますが?

津田塾大学・萱野稔人教授:
実際にフランス政府内部からも、韓国のやり方はプライバシーの侵害にあたる、という批判もあったんですね。一方で、フランスはそういったテクノロジーによる管理を行わなかったかわりに、物理的な都市封鎖に踏み切らざるを得ませんでした。

日本は日本で、国民の協力を仰ぎながら感染防止対策をしていますが、結果的に韓国はそういったテクノロジーを活用することで、プライバシーをある程度、侵害したことになったかもしれませんが、行動規制を大幅に緩和することができ、他国よりも早く自由を提供できました

津田塾大学・萱野稔人教授:
韓国のまねをするべき、ということではありませんが、行政のテクノロジーによる効率化と、自由との関係というものを再考しなければならないという問題提起はなされているとおもいます

三田友梨佳キャスター:日本がすすめるべき行政の効率化はどういったものがありますか?

津田塾大学・萱野稔人教授:
たとえばマイナンバーという制度がありますが、ほとんど今回、現金給付でも活用されていません。これが活用されれば、いち早く現金が給付されるということで、結果的に国民の生活を保障したり、自由を保障することにつながっていきますから、自由と管理がかならずしも対立するものではないという点からの行政の効率化を検討する必要はあると思います

三田友梨佳キャスター:
韓国とは国家体制の違いもありますし、そもそも日本の方針は、ピークを遅らせて感染の山の高さを下げ、医療崩壊を防ぐという狙いがありましたから、一概にほかの国との比較はできないとは思うのですが、行政の効率化という、見えてきた課題については迅速な対応が求められます【5月7日 FNN PRIME】
**********************

【ベトナム 徹底した封鎖・隔離政策】
死者ゼロのベトナムの場合は、よく言えば「徹底した追跡と隔離」、悪く言えば相当に強引な封鎖・隔離政策という話にもなり、とても日本などで取れる方法ではありません。徹底していることは間違いありませんが。

****コロナ封じの優等生、ベトナムが成功した理由 ****
人口9500万人強で感染者300人以下、死者はゼロ
世界が新型コロナウイルスのことをようやく知り始めた1月、ベトナムの指導者はすでにこのウイルスを国民が戦うべき「敵」になぞらえた。それから数カ月間で、政府は国営施設に数万人の市民を隔離したほか、小さなクラスター(感染者集団)が発生しただけでその村全体をロックダウン(封鎖)した。(中略)

ベトナムで大規模な感染拡大を防ぐ決め手となったのは、数万人の市民を軍の兵舎や大学の寮などの国営施設に収容するなどの徹底した隔離政策だ。1人の感染が確認されると、無症状の人を含めた濃厚接触者の多くが、高齢者への感染リスクがある自宅ではなく、政府が管理する施設や病院で待機することになった。(中略)

感染報告数が250件足らずだった4月上旬時点で、4万5000人近くが政府の施設に隔離されていた。現在この数字は約1万1000人に減少したが、まだ4万人余りが自宅待機となっている。主に感染者の濃厚接触者と接触があった人々だ。
 
このシステムは感染者が接触したであろう全ての人を突き止める「接触者追跡」を基本とする。保健当局は政府ウェブサイトや新聞、ソーシャルメディア(SNS)で感染者の行動の詳細(例えば、どこの飲食店を訪れたか、市場にどのくらい長く滞在したか)を広く公表し、接触があったと思われる人は名乗り出ることを促している。(中略)

ハノイ郊外に住む1人の男性が同病院を訪れ、その後検査で陽性になった。それを知った当局は男性が住んでいる地域を封鎖し、入り口に法執行当局職員を常駐させた。男性の濃厚接触者は政府施設に収容されることとなった。付近の住民およそ1万1000人が検査を受け、このうち13人が陽性と判明した。
 
この地域はまだ封鎖が解かれていない。他にも通常の生活に戻れない地域がいくつかある。再開のルールは場所によって異なるが、一部の大都市では20人以上の集まりが今も禁止されている。【4月30日 WSJ】
*******************

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする