(ウクライナからモルドバ南部パランカに到着した難民【4月15日 読売】)
【モルドバ 約9万人のウクライナ人を受け入れる欧州最貧国】
ウクライナの南西部に隣接し、ウクライナとルーマニアにはさまれる小国、モルドバ。
旧ソ連諸国のひとつであり、「欧州最貧国」とも言われるモルドバはその地理的条件もあって、ウクライナの戦火が直接自国に及ぶ危険にさらされています。
****モルドバで電力不足深刻 ロシア軍のウクライナ攻撃で給電停止に*****
モルドバ政府は12日、隣国ウクライナから輸入してきた電力が途絶えたとして、国民にピーク時間帯の節電を要請した。ウクライナ各地の電力関連施設は10日から11日にかけてロシアから集中攻撃を受けて被害が出ており、その影響が隣国にも波及した形だ。
ロイター通信によると、モルドバでは需要のピーク時間帯に電力を十分まかなえない恐れがあり、国民に洗濯機の使用や携帯電話などの充電を午後11時以降にするよう求めている。
隣国のルーマニアが不足分の電力を提供する意向を示しているものの、価格はウクライナから輸入するより割高になるという。(中略)
モルドバは「欧州最貧国」とも言われ、約9万人のウクライナ人が戦火を逃れて避難生活を続けている。【10月13日 毎日】
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より直接的な話としては、黒海に面しているため、黒海のロシア艦隊がウクライナにミサイル攻撃する場合、モルドバの領空を通過することにもなります。
****ウクライナ攻撃のミサイルが領空通過 モルドバ、ロシアを非難****
モルドバは10日、ウクライナを標的としたロシアの巡航ミサイルが領空を通過したことを受け、説明を要求するためにロシア大使を呼び出したと発表した。
ニク・ポペスク外務・欧州統合相はツイッターへの投稿で、「けさ、黒海のロシア艦船からウクライナに向けた発射された巡航ミサイル3発がモルドバの領空を通過した。ロシア大使を呼び出し、説明を求めるよう指示した」と説明。ロシアが首都キーウなどウクライナ各地の都市で民間施設を攻撃したことに「がくぜんとしている」とし、「ロシアは殺りくを止めなければいけない」と訴えた。
モルドバは、東部のトランスニストリア地域が親ロシア派勢力によって支配されている。 【10月11日 AFP】
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モルドバ国民の3割はロシア語を話すという文化的環境、経済面や天然ガス供給でロシアとの関係が深いという「親ロシア」の側面もある一方で、ロシア系住民の多い沿ドニエストル地域が親ロシア派によって実効支配されている安全保障の問題、近年の欧州との経済関係強化、欧州への出稼ぎ労働者増加によって「親欧米」の側面もあり、両方の間で揺れる国でもあります。
2020年11月の大統領選挙で親欧米派のマイア・サンドゥ氏が当選しています。
モルドバはEU加盟を目指していますが、今年6月にはウクライナとともに「加盟候補国」として認定されました。加盟に向けては先は長いですが、先ずは「第一歩」といったところ。
「大国」ロシアに翻弄されてきた歴史、親ロシア派が支配し、ロシア軍が駐留する沿ドニエストル地域の問題(モルドバはロシア軍の撤退を求めています)もあって、ロシアによって追われたウクライナからの難民を好意的に多く受入れていますが、9万人という数は、モルドバの人口約400万人を考えると膨大な数です。(日本で言えば300万人近くを受け入れたようなもの)
「難民1人の支援に1日あたり30ユーロ(約4000円)かかる。財政的に限界」(マリアナ・ツルカン首相顧問)という窮状も。
一方、親ロシア派が実効支配する沿ドニエストル地域(親ロシア派は独立国「沿ドニエストル共和国」を主張)を抱えるモルドバは、ウクライナ南部黒海沿岸(オデッサなど)へのロシアの攻勢が激しかった頃は、「次はモルドバか?」という恐怖にさらされました。
ただ、親ロシア派の実効支配する沿ドニエストル地域の立場も微妙で、ロシアからの天然ガスを勝手に抜いて、そのガスで安価な電力を生産し、モルドバに電力輸出するということで、モルドバとは“持ちつ持たれつ”の関係にもあります。
また、沿ドニエストル地域を取り囲むウクライナ・モルドバとの経済関係が途絶えると、すぐに干上がってしまうということもあって、本音としてはロシアのウクライナ侵攻に巻き込まれたくない・・・という思いがあるようです。
モルドバに対しては、当然にロシアからの合法・非合法の働きかけがあると思われますが、下記のニュースも。
なぜ今この時期に・・・・という背景は知りません。
****米、モルドバ内政干渉で制裁 ロシア人ら9人指定****
米財務省は26日、ウクライナに隣接するモルドバへの内政干渉工作や腐敗に関与したとして、ロシア人やモルドバの元議員ら9人と12団体を制裁対象に指定した。 米国内の資産が凍結される。
米財務省によると、制裁対象には、モルドバの政府・経済機関に影響力を行使して腐敗させたオリガルヒ(新興財閥)や、モルドバの議会を支配してロシアを利する法案を推進した元議員などが含まれる。【10月27日 時事】
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【ジョージア 部分動員によるロシア出国者の流入 国民にはロシア人への反感も】
モルドバ同様に旧ソ連諸国のひとつで、やはり親ロシア派支配地域を抱えるグルジアの場合、ロシアに接していることで、最近のロシアの部分動員の混乱から、多くのロシア人が逃れてくる事態になっています。
ジョージア内務省によると、ロシアで部分的動員が発表されてから1日に1万人のロシア人が入国しているとも報じられていました。
しかし、2008年8月には親ロシア派実効支配地域「南オセチア」をめぐってロシアと戦争が勃発し、敗北した経緯もあって、ロシア人に対する感情は好意的とは言い難い面もあります。
****ジョージア国境にロシア人殺到 ジョージア人「国土の20%をロシアに不当に占領されているのに…」****
(中略)受け入れるジョージア側にとっては複雑な思いを抱く人が多くいました。実際に話を聞いた複数のジョージア人は「自分たちはロシアに国土の20%を不当に占領されている状況なのに、なぜロシア人を受け入れる必要があるのか」と否定的に話していました。
ロシア人の流入が急増したジョージアでは、首都トビリシをはじめ、不動産の価格が急激に上がったことで賃貸契約の更新を断られる人が増えていて、こうした実際の生活での影響もあってか、国境の閉鎖まで求める声が一部では上がっています。【9月30日 TBS NEWS DIG】
ロシア人の流入が急増したジョージアでは、首都トビリシをはじめ、不動産の価格が急激に上がったことで賃貸契約の更新を断られる人が増えていて、こうした実際の生活での影響もあってか、国境の閉鎖まで求める声が一部では上がっています。【9月30日 TBS NEWS DIG】
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****ロシア人大規模流入で抗議集会 ジョージア****
ジョージアの野党は28日、ロシアのウクライナ侵攻への動員令を逃れようとする人々の「無秩序な」流入に対する抗議集会を開いた。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が21日に部分的動員令を出して以来、ロシアからの入国者数はほぼ倍増している。
抗議集会は親欧米派の野党ドロアが主催。ロシア人が殺到している北部カズベクの国境検問所付近。数十人の参加者はジョージアとウクライナの国旗を振り、ウクライナの国歌や民謡を演奏。「プーチンはテロリスト」「ロシアは人殺し」などと書かれたプラカードを掲げた。
主催者の一人はAFPに対し、「ロシア人がかつてない規模で無秩序に流入し、ジョージアの安全保障上のリスクになっている」として、「政府は移民危機に対処できていない。国境を直ちに閉鎖しなければならない」と訴えた。
さらに、数日中に同地で、国境の閉鎖を求めるさらに大規模な集会を開催するとした。
ロシアは2008年、ジョージアとの間で起きた軍事衝突の後、南オセチアとアブハジアの親ロシア派2地域の独立を承認。以降、現地に軍を駐留させている。こうした経緯があるため、ジョージア人はロシア人の流入に複雑な感情を抱いている。 【9月29日 AFP】AFPBB News
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【セルビア ロシアに好意的立場 ロシア出国者を人的資本として有効活用】
一方、ロシアからの脱出者を歓迎しているのがバルカン半島のセルビア。
旧ユーゴスラビアのセルビアは、ユーゴスラビア解体の紛争時には欧米から「悪者」とされ、コソボ紛争では1999年にNATO軍の空爆を受けました。その間、セルビアの後ろ盾となったのがロシアで、現在でもロシアとの関係は良好です。
もちろん、セルビアとてやみくもにロシアを支持している訳でなく、ウクライナの問題について言えば、コソボの分離独立を認めないセルビアの立場と、東部・南部の独立を認めないウクライナの立場は同じで、そうした「領土の一体性」の立場から、3月2日の国連特別総会でウクライナに侵攻したロシアを非難する決議に賛成して世界を驚かせました。
EU加盟を目指している「EU加盟候補国」というセルビアの立ち位置も影響しての行動でしょう。
しかし、その後のEUからの対ロシア制裁参加の要請には、これを拒否しています。
セルビアはロシア人出国者を受け入れるだけでなく、貴重な人的資本として有効活用しているようです。
****ロシア人材巡る争奪戦、セルビアがリード*****
バルカンの小国が西側の制裁やプーチン政権を逃れる企業・人材を引き付けている
ロシアから国外脱出するロシア人に門戸を開いている国の中で、バルカンの小国セルビアがテクノロジー企業や高度人材の最大の流出先に浮上した。
今年2月23日以降、推定で最大100万人のロシア人が自国を離れた。多くの人が仕事も国外に移している。ロシア政府が先月、ウクライナに展開する兵力を補給するため動員を開始すると、国外流出はさらに増えた。
ロシアがウクライナで戦争を始めた当初は、トルコやドバイ、ジョージアが多くのロシア人を受け入れていた。しかし今は、セルビアに多くの人が押し寄せている。セルビアは欧州連合(EU)加盟を目指しており、EUと無関税で貿易を行っている
セルビアに滞在しているロシア国民には、制裁の影響を受けずに西側とのビジネスを維持することが目的の人もいれば、ウラジーミル・プーチン大統領の権威主義的な政権から逃げることが目的の人もいる。(中略)
航空電子工学のエンジニアからサムスン電子傘下企業ウィスクのソフトウエア開発マネジャーに転じたウラジー
この何カ月かの間に数万人のロシア人エンジニア、プログラマー、起業家、芸術家、科学者がセルビアに到着した。政府のデータによると、2月以降、700社近いロシア系企業が数千人のロシア人を雇用する支社を開設し、約1500人のロシア人が新会社を設立した。多くの人はビザ(査証)免除制度を利用してセルビアに滞在しながら、外国企業にリモートで勤務している。
人口が700万人強のセルビアは歴史的にロシアの友好国で、ロシアのウクライナ侵攻は非難したものの、対ロシア制裁は実施していない。
ロシア人は今もビザなしでセルビアを訪問することが可能で、セルビアはロシアへの直行便を維持している数少ない国の一つだ。セルビア語はロシア語に近く、今、ベオグラードの最先端の店や飲食店ではロシア語が聞こえてくることは珍しくない。
セルビア内務省に2月以降のロシア人の入国者数を問い合わせたが、回答はなかった。一部の政府関係者はウクライナ戦争が始まってから、5万人から10万人が入国したとみている。
ラトビアに拠点を置くロシアの独立系メディア、メドゥーサがまとめた各国の記録によると、ロシアの隣国であるカザフスタンには9万8000人、ジョージアには5万3000人、フィンランドには4万3000人がそれぞれ入国した。
ロシアを出国し、セルビアに滞在する多くの人はウクライナ戦争やプーチン政権に反対していると話す。しかしセルビアでは、さらに西の地域より歓迎されていると感じると話す人も多い。(後略)【10月28日 WSJ】
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「各国はロシアを逃れた同国のエリートを呼び込もうと競い合っている。セルビアは貴重な人的資本、金融資本の流入の恩恵にあずかることができる絶好の立場にある」【同上】とも。
【ベラルーシ “プーチンの戦争”に巻き込まれたくない本音】
セルビアにとっては絶好のチャンスのようですが、同じようにと言うか、世界でも最も強くロシアを支援する立場にある旧ソ連諸国のひとつベラルーシにとっては、ウクライナの問題ははるかに切実・危険な問題です。
周知のようにベラルーシはロシア軍を受入れて合同部隊を編成し、ウクライナに圧力をかけています。
****露、ベラルーシ合同部隊が始動 ウクライナを威嚇*****
ロシアの同盟国ベラルーシの国防省は20日、同国軍と露軍の合同部隊が活動を開始し、国境地帯で露空軍機による哨戒飛行を行ったと発表した。インタファクス通信が伝えた
。場所は不明だが、ウクライナに隣接する南側か、北大西洋条約機構(NATO)圏に接する西側国境だとみられる。東部や南部の戦線で劣勢に立つロシアはベラルーシの参戦を示唆してウクライナを威嚇し、戦力を分散させる思惑だとの観測が強い。
合同部隊の編制はベラルーシのルカシェンコ大統領が10日、ウクライナやNATO側からの「軍事的脅威」の高まりに対応した措置として発表。ベラルーシ国防省によると、合同部隊には露軍から最大9千人の兵員と戦車や歩兵戦闘車など約470両が加わる。
米政府系メディア「自由ラジオ」も20日、衛星写真を基に、ウクライナ国境から約50キロのベラルーシの空軍基地に露軍のトラックや対空ミサイルシステムが搬入されていると伝えた。
ルカシェンコ氏は従来、参戦を否定する一方、「挑発」を受けた場合は軍事的対応も辞さないと主張。ウクライナやNATOは警戒を余儀なくされている。(後略)【10月21日 産経】
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「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領は国民の批判・抵抗を力で封じ込めており、政権存続にロシアの支援は欠かせませんが、また、国家統合に関する条約が結ばれているという両国関係からもロシアの要請をことわり切れない立場にありますが、ルカシェンコ大統領の本音で言えば「(形の上ではロシアに協力するが)プーチンの戦争に引きづりこまれるのは何とか避けたい」といったものでしょう。
“ウクライナとの戦争に巻き込まれたくないというのは、独裁者・ルカシェンコと国民との唯一と言っていいくらいの共通項だ”とも。
****「“一線を越えたくない”というルカシェンコ大統領の強い想い」 ロシアとの合同部隊配備に合意、ベラルーシの思惑は?*****
0日、ウクライナ全土に大規模なミサイル攻撃が行われた。ロシア側はクリミア大橋を破壊した報復攻撃だとする一方、各国からはプーチン政権に対して批判が相次いだ。
そんな中、今後のウクライナ情勢を左右するかもしれないのが、ベラルーシの動き。ルカシェンコ大統領がロシアとの合同部隊を配備することに合意したと明かした。ベラルーシはこれまで、ロシアと合同で軍事演習を実施したり、攻撃拠点を提供したりしてきたが、戦闘に参加することはなかった。(中略)
■「“一線を越えたくない”というルカシェンコ大統領の強い想い」
在ベラルーシ日本大使館に勤務した経験もある北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの服部倫卓教授は、実際に参戦する可能性は「現時点では低い」との見解を示す。
ロシアとベラルーシは似たような民族だと思われがちだが、戦争への意識は全く違う。ウクライナとの戦争に巻き込まれたくないというのは、独裁者・ルカシェンコと国民との唯一と言っていいくらいの共通項だ。
それを踏みにじって参戦するようなことがあれば、いくら強権的な独裁者といえども立場が持たないだろう
。実は2国間では国家統合に関する条約が結ばれていて、“情勢が緊迫した時に合同軍を編成する”という規定がある。ベラルーシ軍がウクライナに行って戦うというよりは、ベラルーシにロシア兵を置くための1つの手立てではないかとみている」
ロシアとしてはベラルーシを引っ張り出したいのか。
「戦争が始まってからずっと要請していると思う。9月と10月の話し合いで、ルカシェンコはプーチンにかなり詰められたようだが、やはり最後の一線、“これは越えたくない”という思いが相当強い。
プーチンとしても、ベラルーシは残された希少な同盟国で、ルカシェンコという独裁者がいるからこそついてきてくれる面がある。この戦争に参加することによって、国内の支持基盤を失い倒れてしまうようなことがあれば一大事なので、無理強いもできない」
一方で、懸念もあるという。
「先ほど申し上げたような両国共同の軍事ドクトリンによって、脅威が迫った有事の時には合同作戦本部のようなものが設置されて、ロシアの傘下に置かれるということが書いてある。それが適用されて、ルカシェンコのあずかり知らないところでベラルーシが合同軍に入って動かされてしまうのではないかという指摘もあり、今のところは何とも言えない」(後略)【10月13日 ABEMA Times】
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ロシア軍の状況が悪化すれば、プーチン大統領としてはベラルーシを巻き込みたい思いが強まるでしょうが、ルカシェンコ大統領からすれば、そんな“負け戦”に巻き込まれるのは御免被るといったところでしょう。
海千山千のルカシェンコ大統領がプーチン大統領の圧力をかわし切れるか・・・。