孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  10%超えのインフレで困窮する市民生活

2022-10-23 22:14:50 | 欧州情勢
(イギリス・ロンドンにあるファストフード店を取材。この店ではフィッシュバーガーのランチセットが、日本円でなんと約3,000円で売られています【10月6日 日テレNEWS】)

【トラス首相の「成長戦略」 インフレで減速する経済を立て直すための大型減税策だったが・・・】
イギリスのトラス英首相が、国民や議員、さらには市場からも総スカンを食い、英国史上最短の在任期間で首相の座を降りることとなった”混乱”は周知のところ。

****英政治、信用に傷 首相辞意 責任〝放棄〟に国民反発****
9月上旬に発足したトラス英政権が約1カ月半という異例の短期政権で終わる見通しとなった。

経済失政で市場を混乱させた失態だけでなく、大型減税策の修正をめぐる説明責任を十分に果たさず、与野党から非難が集中。求心力を大きく低下させ、与党・保守党内の亀裂も深めてしまった。ジョンソン前政権時に落ち込んだ保守党の支持は一段と低迷しており、今後の英政治情勢に暗雲がかかっている。

ロシアのウクライナ侵略の影響で英国民が物価高にあえぐ中、トラス氏は「英経済を成長させる」との目標を掲げ首相に就任した。

ジョンソン前政権ではガソリンや食料のインフレに抜本的な対策をとれなかった上、新型コロナウイルス流行に伴う行動規制下のパーティー開催などの不祥事が発覚。トラス氏は、抜本的な経済対策で国民の信頼を回復することが「最優先課題」(保守党員)だった。

だが、物価高騰のあおりで減速する景気を立て直すため政権が打ち出した大型減税対策は、信用不安を招き通貨ポンドが急落。市場の動揺が欧州圏に悪影響を与える恐れも高まり、国際通貨基金(IMF)やバイデン米大統領まで英政権に懸念を示す異例の事態に発展した。

大型減税策の失敗が明白になっても、責任放棄にも映るトラス氏の姿勢が国民の反発を強めた。英メディアによると同氏は、減税策の最高税率の引き下げについて政策責任者のクワーテング前財務相から「事前に知らされていなかった」と発言。クワーテング氏を解任した後の記者会見を8分ほどで打ち切り、議会審議でも減税策の修正を自ら十分に説明せず野党の失笑を買った。(中略)

英調査会社ユーガブによると今月12日時点、保守党の支持率は23%と最大野党・労働党に28ポイントも差をつけられた。ジョンソン前首相が辞任を表明した7月7日時点の11ポイント差から大きく拡大した。ある英政治専門家は「保守党が政権を維持し続けてよいのかを見直すときにきている」と述べた。【10月21日 産経】
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イギリスで深刻化するインフレとトラス首相のアベノミクスを意識していたともされる「成長計画」の相性の悪さは以下のようにも。

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9月23日に無理筋な「成長計画」が公表された直後から、金融市場では「クワーテング財務相の更迭と成長計画の修正は不可避」というのがメインシナリオとして指摘されていた。

通貨が著しく下落することで輸入物価が上昇し、その影響でインフレが進む。それによって実質所得環境が悪化すれば、消費・投資意欲は当然減退する。同時に市中金利も上がっているわけだから、状況はさらに悪くなる【10月20日 唐鎌大輔 [みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト] BUSINESS INSIDER】
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政治の方は、おそらくトラス氏と夏の党首選を競ったスナク元財務相が引き継ぐ形になるのでしょう。コロナ禍のもとでのクリスマスパーティーなど、そのいい加減な対応で国民の総スカンを食って退陣したはずのジョンソン前首相の名前がまた取り沙汰されてもいますが、そちらは機会があればまた後日。

【若者のライフスタイルも変化 “Quiet Quitting”】
今日は、インフレの方の話。
インフレはイギリスだけでなく、世界共通の現象でもあり、欧州各国も対応に苦しんでいます。
コロナ禍の社会変化なども合わさって、若者のライフスタイルを変えているとも。

****いま、欧州で仕事へのヤル気を失う若者たちが急増中…!コロナ・インフレ・戦争「三重苦」の、ヤバすぎる現実****
欧州で深刻な人手不足が起きている状況について伝えた前編記事『崩れ行く欧州社会の「ヤバすぎる実態」…! 「ガソリン代を払ってクルマ出勤するぐらいなら、失業手当で生活する」』に続き、後編ではその原因や背景についてさらに紹介します。

コロナ・インフレ・戦争の「三重苦」
なぜ、欧州ではいま、深刻な人手不足に見舞われているのでしょうか。  

現在、道行く人は誰もマスクを着用していないヨーロッパですが、パンデミックが始まった当初は各国厳しい規制を敷いていました。小売店や飲食業、交通などのビジネスは多大なダメージを受け、人々の間で「次また未知のウイルスが流行った時に、自分の仕事は直ぐに切られるのではないか」という不安が高まりました。  

解雇された従業員は、このような不信感からコロナが明けた今もそれらの仕事に戻ることがないと見られています。 

そんな欧州の人々の生活難に拍車をかけているのが、破壊的なインフレーションです。 ユーロ圏のインフレ率は8月も過去最高となりました。オランダ、イギリスともにインフレ率は7月時点ですでに10%を超えています。

物価が高騰し、オランダでは昨年9月に比べてスーパーでの買い物の価格が平均18.5%も上がったことが報告されています。 ある調査によると、平均的なオランダの4人家族の場合、昨年は1年間の食費に平均7000~8000ユーロ(約97万~111万円)かけていたのが、今年は1500ユーロ以上(約21万円)増える計算になるといいます。  

価格の高騰は食料のみならず、光熱費にも及びます。光熱費は家庭によっては前年に比べ3~4倍以上を請求されるケースもあり、オランダに住む我が家のガス料金も2.5倍近く値上がりしました。(中略) そして、今後の戦況次第では、さらに価格が高騰する可能性もあります。(中略)

パンデミックが終わった後も、上がっていくインフレ率に給料が追い付かず、家計は圧迫され、トドメにウクライナ戦争の影響で光熱費も高騰…。コロナ・インフレ・戦争の「三重苦」によって、今後欧州のさらなる格差拡大が危惧されています。大変残念なことに、これがいまの西欧社会の「現実」なのです。

「静かに辞める」若者たち
そうした中、現在欧米では、”Quiet Quitting”(静かに辞める)という言葉がトレンドになっています。  

これは、欧米の若者の「任された仕事はきちんとやるが、それ以上のことはしない」という仕事に対する態度を指す言葉で、TikTokやYouTubeなどで「仕事に全力投球してキャリアを築く」という文化に反発する意味で使われています。  

BBCは、“Quiet Quitting”を「パンデミック以降、余分な労働をしても認知されなかったり補償をされないことに疲れた若い労働者の数が増加した」と説明しています。  

パンデミックによる解雇に加え、感染状況によって変わる出社規制は生活を不安定にし、若者たちは会社や雇用主への不信感を高めたのです。  

人手不足が続く中、企業側もそうした若者たちの“Quiet Quitting”を意識して、求人ポスターをつくっている節があります。(中略) 3つめの老舗百貨店の求人ポスターは時給をいっさい明示しないまま、「やりがいがあり自分を試すことができる場所」であることをアピールしており、前の2つとの違いは明らかです。 

こうした企業による若者たちへのアピールが奏功するかはいまのところまだわかりませんが、ここまで露骨なことをしなければならないほどに、欧州の人材不足と“Quiet Quitting”が深刻であるということは確かです。【10月2日 千原ビットナー さとみ氏 現代ビジネス】
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Quiet Quitting・・・競争社会に疲れた中国の寝そべり族(家を買わない、車を買わない、恋愛しない、結婚しない、子供を作らない、消費は低水準、「最低限の生活を維持することで、資本家の金儲けマシーンとなって資本家に搾取される奴隷となることを拒否する」といったポリシー)にも共通するものがあるようにも。

【国内世帯の半数が食事回数を減らしている】
“Quiet Quitting”は日本でもわからないではないですが、三度の食事も難しくなっているインフレの現状については「本当かね・・・」って感じも。

****英世帯の半数、物価高騰で「食事抜き」 消費者団体****
英消費者団体は19日、物価高騰を受け、国内世帯の半数が食事回数を減らさざるを得なくなっていると警鐘を鳴らした。政府が光熱費抑制策の縮小を打ち出したことから、多数の国民が貧困状態に陥る恐れがあるとも予想している。
苦境に立たされている保守党のリズ・トラス首相は、山積する経済問題に直面。そうした中、9月の消費者物価指数上昇率は食品価格の高騰を受け、前年同月比で再び10%を上回った。

消費者団体「Which?」が3000人を対象に実施した調査によると、国内世帯の半数が食事回数を減らしている。同じく半数が健康的な食事をするのが以前より難しくなったと回答、80%近くが経済的に苦しいと答えた。

同団体で食糧政策を担当しているスー・デービス氏は、「生活費危機の直撃で数百万人が食事を抜くか、健康的な食事を取れない事態となっている恐れがある」と指摘した。

同団体はまた、政府が光熱費抑制策の縮小を決定したため、数百万人が十分な暖房を確保できなくなるだろうとの見方を示した。

ジェレミー・ハント財務相は17日、市場に混乱をもたらしていた減税計画を「ほぼすべて」撤回すると発表。目玉政策である光熱費抑制策の終了時期も2024年末から来年4月に前倒しするとした。 【10月20日 AFP】
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“国内世帯の半数が食事回数を減らしている”・・・・本当でしょうか? 俄かには信じがたいところも。 統計のマジックみたいなものがあるのでは・・・

【追い詰められ性産業に走る女性増加】
いずれにしても、食料品も上がる、光熱費も家賃も上がるという年率10%を超えるインフレで生活が非常に厳しくなっているのは事実でしょう。

Quiet Quittingや寝そべっていられるのは、ある意味恵まれた環境かも。
多くの人は生きるためには泥水をすすっても・・・ということにもなります。

****生活費高騰の英国、追い詰められ性産業に走る女性ら****
オンラインでのセックスワーカーとして働くマーサさん(29)は、英国の生活費危機のために収入が減りつつあるという。生活費の急騰で売春に走る女性が増え、競争が激化していることが一因だ。

身元を伏せるため仮名を条件に取材に応じたマーサさんは「誰もが稼ぐのに必死で、少ない対価で多くのサービスを提供するようになっている」と語る。

「家計がさらに苦しくなれば、状況はさらに悪化すると心配している」とマーサさん。ここ数カ月で、収入は以前の1日250ポンド(約4万2000円)から150ポンドに減ったという。

マーサさんは昨年、人員整理で解雇された後にこの仕事を始めた。その後、小売業で販売アシスタントの仕事にも就いたが、出産に備えて貯金をしており、生活費が高くなった分を賄うために副収入が必要なのだと語る。

英国各地の慈善団体やセックスワーカーによる労働組合は、今年に入って性風俗業を開始・再開する人が増えていると報告している。同国では消費者物価指数(CPI)の上昇率が、主要7カ国(G7)で最高の前年比約10%に達するためだ。

売春の非犯罪化を掲げて活動する現・元セックスワーカーのネットワーク、英売春婦組合(ECP)では、6月に性風俗業を始めるための支援を求める相談者が30%も急増した。また慈善団体「ビヨンド・ザ・ストリーツ」によれば、性風俗業を再開・拡大する女性は増えているという。

女性セックスワーカーを支援する慈善団体「マンチェスター・アクション・オン・ストリート・ヘルス(MASH)」では、2021年12月から2022年4月にかけて新規の支援利用者が100人を超えた。四半期としては4年ぶり最多の数字だ。

性風俗業への参入者が増える一方、利用者の財布のひもが固くなればなるほど、従事者が不本意なサービスの提供を強いられる、あるいはより大きなリスクを取らざるを得なくなる恐れがあると支援活動家らは警告する。

「生活が苦しくなるほど、いつもならやりたくもないサービスを提供することになる」と、ECPの広報担当者ローラ・ワトソン氏は語る。

お金のための性行為は英国では合法だが、支援団体は、売春業への勧誘や手助けを禁じる法律によってセックスワーカーへの支援が阻害されており、性風俗業を始める人々をかえって危険にさらす可能性があると語る。

「誰にも相談することなく、初めて性風俗業に就くことになる――そのことが安全に及ぼす影響を強く懸念している」とワトソン氏は語る。

<副業としての性風俗業>
英国は世界第5位の経済大国だが、食料・エネルギー価格の上昇率は引き続き賃金上昇率を上回っており、今年の春、国内労働者の実質賃金の下落幅は2001年以降で最大となった。やむなく副業を探すようになった労働者は多い。

保険会社ロイヤル・ロンドンが最近行った調査によれば、英国では500万人以上の労働者が、高騰する生活費を賄うため副業を始めたという。

その中には性風俗業を選ぶ人もいる。就業時間が柔軟である上、一時的にせよ定期的にせよ、手っ取り早く副収入が得られるという魅力があるからだ。

ECPのワトソン氏は「多くの女性は他に仕事があるか失業手当の給付を受けており、収入を増やそうとしている」と語る。

「何とか最低限の生活費を賄おうと、街頭に立つ女性もいるだろう」とワトソン氏は言い、ECPネットワークの約70%は母親だと言葉を添えた。

慈善団体「ヤング・ウィメンズ・トラスト」の調査では、生活費危機による影響は男性よりも女性の方が深刻であることが判明している。シングルマザーの約半数が過去1年のうちに食料品や生活必需品を購入できない状況を経験しており、若い母親の10人に3人は、子どもに食べさせるために自分の食事を抜いたことがあるという。

同団体のクレア・レインドープ最高経営責任者は、低料金の保育サービスや、いつもの仕事で残業を増やして収入増を図れるような就業機会に恵まれている女性は多くないと語る。

だが、ヨーク大学ビジネス社会学部の博士研究員であるテス・ハーマン氏によれば、性風俗業では労働者保護が手薄であり、インフレでもサービス対価を引き上げることは困難だという。

「公共料金も食料品も値上がりするが、賃金の多くは横ばいだ。不安定な職種やギグ・エコノミー(単発請負型経済)では特にそれが顕著だ」と同氏は分析する。(後略)【10月23日 ロイター】
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上記記事のマーサさんは、デジタルコンテンツのサブスクサービス、アダルトサイト、そしてツイッターで直接連絡してくる顧客向けに、成人向けコンテンツを制作しているとのこと。
自分の生活で手一杯という状況になれば、他の社会的弱者への配慮や対外支援といったものへの関心は薄れ、「そんなことに使うお金があるなら、私の生活をなんとかして」という話にもなります。

冬場の光熱費がかさむ季節になったとき、これまでのようなウクライナ支援をイギリス、欧州が続けられるのか・・・という問題にもなります。
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