孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

モルドバ  ウクライナ隣国でロシア系「未承認国家」が存在 「次はモルドバ」の不安

2022-04-26 23:04:49 | 欧州情勢
(昨年1月、ウクライナを訪問したモルドバのサンドゥ大統領(左)とウクライナのゼレンスキー大統領(右)【ukrinformより】)

【親ロシアから親欧米に舵を切ったモルドバ】
ウクライナとルーマニアに挟まれた東欧の最貧国、旧ソ連のモルドバ共和国・・・・日本にはあまり馴染みがない国です。更に、「未承認国家」沿ドニエストルとなると・・・

****モルドバ共和国****
人口約270万。公用語はルーマニア語。現在のモルドバの領土は1918年にルーマニアに編入されたが、40年にソ連がナチスドイツとの密約にもとづいて併合。91年のソ連崩壊で独立した。

その際ロシア系住民の多い東部の沿ドニエストル地域が分離独立を主張し、ロシア軍の支援を受けて政府軍と紛争に。92年7月に休戦協定が成立。以来同地域は中央政府の支配を受けず、「平和維持軍」としてロシア軍が駐留する。【2021年7月12日 日系メディア】
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****旧ソ連「未承認国家」多く 紛争再燃の危険はらむ****
旧ソ連圏には、モルドバの「沿ドニエストル」以外にも、各国政府の施政権が及ばず、一方的に独立を宣言した「未承認国家」が存在する。過去に中央政府との紛争を経ており、軍事衝突が再燃する危険をはらんでいる。

アゼルバイジャン西部のナゴルノカラバフ自治州をめぐる紛争が(2020年)9月に起き、11月の停戦までに5千人以上の死者を出したのが一例だ。
 
ナゴルノカラバフではソ連末期の1980年代後半、多数派のアルメニア系住民がアルメニアへの帰属替えを要求し、アゼルバイジャンとの紛争になった。ロシアは91年に「共和国」樹立を宣言したアルメニア側を支援し、94年に停戦。しかし対立は続き、今年(2020年)9月に紛争が再燃した。
 
ジョージア(グルジア)の南オセチア自治州とアブハジア自治共和国はそれぞれ90年代前半にジョージア中央と戦火を交え、独立を宣言した。両地域はロシアの庇護を得る形で事実上の独立状態を享受。2008年のロシアとジョージアの軍事衝突後、ロシアは両地域の独立を承認した。
 
ウクライナでは14年、東部ドネツク、ルガンスク両州の親露派武装勢力が「人民共和国」樹立を宣言し、ウクライナ軍との大規模戦闘になった。親露派はロシアの軍事支援を受けて現地の実効支配を続ける。
 
ロシアにはジョージアやウクライナの分離派地域を支援することで、両国の北大西洋条約機構(NATO)加盟を阻止する狙いもある。【2020年12月4日 産経】
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モルドバは欧州とロシアのはざまで揺れる小さな国で、ウクライナ、ジョージアとともに、2014年に欧州連合(EU)と連合協定を締結。しかし、2018年、ドドン前大統領はロシア主導のユーラシア経済連合のオブザーバー国となるなど、親ロシア路線に舵を切ります。

そのモルドバでは2020年11月に大統領選挙が実施され、親ロシア派として知られたドドン前大統領に対し、親欧米派のサンドゥ前首相が地滑り的勝利を収めて政権交代が起きました。

サンドゥ氏は、ロシア系住民が実効支配する親露分離派地域「沿ドニエストル」に駐留するロシア軍は撤収すべきだと発言し、ロシアの反発を招いています。(なお、サンドゥ氏当選時にはプーチン・ロシア大統領も一応祝電を送っています。)

2021年7月の議会選挙でも、親欧米派のサンドゥ大統領の与党「行動と連帯」が第1党の座を得ています。

【ロシア系「沿ドニエストル」で攻撃?】
親ロシアから親欧米への政権交代で、ロシアと緊張は高まっており、2021年10月には天然ガスのロシアからの供給で(モルドバはロシアにガス供給を100%依存)、ロシアが圧力をかける展開もありました。
このときは、ロシアからのガス供給が11月にも止まる可能性がありましたが、延長合意でモルドバのガス危機はひとまず回避されました。

以上のような経緯、状況にあるモルドバとロシアの関係は、ウクライナ戦争によって「次はモルドバ」と更に高まっていますが、そんなモルドバの親ロシア派支配地域「沿ドニエストル」で不審な出来事が。

****モルドバの親ロシア派地域で攻撃か****
モルドバ東部の、ロシア系住民が分離独立を宣言した「沿ドニエストル・モルドバ共和国」の「内務省」は25日、「国家保安省」の庁舎が攻撃されたと発表した。
 
攻撃が起きたのは現地時間24日午後6時ごろ。内務省によると、負傷者はいないものの、建物の窓が吹き飛ばされ、煙が上がった。攻撃には、携行型の対戦車グレネードランチャーが使用されたとの見方を示した。
 
共和国トップおよびモルドバ政府は今のところコメントを出していない。
 
ウクライナ西部と国境を接する、モルドバ東部のトランスニストリア地域では、多数派のロシア系住民が1990年に共和国の分離独立を宣言。ただ国際的には承認されていない。ロシア軍が駐留しており、約2万トン分の武器・弾薬などを保管している。 【4月26日 AFP】
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“モルドバ政府は「緊張を引き起こすことが目的」と懸念を示した。”【4月26日 朝日】

モルドバ側からロシアを刺激することは考えにくいので、ありていに言えば、敵になりすまして行動し、結果の責任を相手側やになすりつけ、それを口実に大規模な“報復”に出る・・・親ロシア派側の「偽旗作戦」の可能性も捨てきれません。

【ウクライナ侵攻で高まる「次はモルドバ」という緊張・不安】
ウクライナの隣国モルドバではロシアのウクライナ侵攻以降、「次はモルドバ」という緊張・不安が高まっています。

****ウクライナの次はモルドバか ロシア恐れる住民****
ウクライナの隣国モルドバで、ロシアの次の標的は自国ではないかとの不安が広がっている。モルドバは30年前にロシアの支援を受けた分離独立派との紛争を経験しており、人々はウクライナ情勢を見守りつつ当時を思い出して胸を痛めている。

ウクライナとの国境の町パランカで、押し寄せるウクライナ難民にコーヒーや茶を配るボランティアをしているアレクシオ・マテエフさんは、「誰もが怖がっている」とAFPに語った。

緊張の高まりを示すかのように、欧州の最貧国の一つであるモルドバは、西側諸国から異例の注目を集めている。2日には欧州連合の外相に当たるジョセップ・ボレル外交安全保障上級代表、先週末にはアントニー・ブリンケン米国務長官が訪れた。

ボレル氏は首都キシニョフで2日、マイア・サンドゥ大統領と共同記者会見し、紛争の引き金になりかねない「国境の不安定化」に懸念を表明した。

親欧米政策を掲げて2020年に当選したサンドゥ大統領は、キシニョフでも「国境を越えて爆撃の音が聞こえる」として、「モルドバの安全保障リスクは深刻だ」と述べた。

■紛争の記憶
キシニョフから東に約80キロのトランスニストリア地域では、1990年に多数派のロシア系住民が「沿ドニエストル・モルドバ共和国」の分離独立を宣言したが、国際的には承認されていない。

1991年にロシア軍の支援を受けて政府軍との紛争になり、92年に停戦協定が成立した。ロシアは今も駐留軍を維持し、約2万トンの弾薬を保有している。

モルドバ政府は長年ロシア軍に撤退を求めてきたが、徒労に終わっている。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、モルドバでは多数の死者を出したトランスニストリア紛争のつらい記憶を思い出す人が少なくない。

アレクサンドル・タナセ元法相は「ウクライナが陥落すれば、ロシアはモルドバを片付けにかかるだろう」とフェイスブックに投稿。「クレムリン(ロシア大統領府)には、かいらい政権のための名簿がある」と確信していると主張した。

■ハイブリッド攻撃
シンクタンク「ウオッチドッグ」のアナリスト、バレリウ・パシャ氏によると、モルドバ人は隣国ルーマニアのような北大西洋条約機構加盟国としての安全保障がないことを知っているという。

パシャ氏は「すべては現場の状況次第だ。特にロシアが(ウクライナ南西部の港湾都市)オデッサ周辺を占領すれば、モルドバは危険にさらされる」との見解を示した。

パシャ氏によれば、モルドバはすでにEUに接近したことへの報復として天然ガス供給量を削減されるなど、ロシアの「ハイブリッド攻撃」の標的となっている。

一方、今回の危機でEUがウクライナに門戸を開くことになれば、モルドバにとっても好機となる。3月初め、欧州議会はロシアの「侵略」を非難する決議を圧倒的多数の賛成で採択し、ウクライナのEU加盟申請を支持した。モルドバも3日、EU加盟を正式に申請した。

サンドゥ大統領は申請について「ある種の決断は迅速かつ断固たる形で行われなければならない」と述べた。 【3月11日 AFP】
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「ロシアが怖い」と言いつつも、モルドバのつらいところは先の天然ガスでもそうですが、経済的にロシアに依存している点です。

****ウクライナ難民10万人「財政は限界」…行き詰まるモルドバ、親欧米だが経済は露依存****
ロシア軍が侵攻するウクライナから多くの難民が押し寄せたモルドバが揺れている。モルドバは3月、ウクライナに続き欧州連合(EU)への加盟を申請したが、エネルギー調達や農産物の輸出など経済的にはロシアと強く結びつく。領内に独立を主張するロシア系住民を抱えており緊張が高まる。

1人の支援に1日30ユーロ
「私は第2次世界大戦を経験し家を失う悲しみを知っている。困難な時こそ助けなければならない」
首都キシニョフの集合住宅にある自宅に、3月中旬から難民一家の4人を受け入れるマリーナ・スメシュナヤさん(85)は話した。
 
孫が通う高校で難民を受け入れる家庭を募っていることを知り、「空き部屋があるし1人で生活するよりは良い」と決断した。月2000レイ(1万3000円)の年金を生活費と難民の支援に充てている。
 
モルドバには人口の15%に相当する約40万人がウクライナから流入した。入国後、ルーマニアやドイツに向かった難民も多いが、現在も約10万人が国内にとどまっている。難民の75%は一般家庭に滞在し、善意で支援が成り立っている。
 
マリアナ・ツルカン首相顧問は「難民1人の支援に1日あたり30ユーロ(約4000円)かかる。財政的に限界」と窮状を訴える。
 
モルドバを支援するためドイツ、フランス、ルーマニアの3か国は5日、ベルリンで支援国会議を開き、6億6000万ユーロ(約900億円)の財政支援を打ち出した。

露系住民に警戒
モルドバはロシアが「勢力圏」とみなす旧ソ連の国で、ウクライナと同じく親欧米の外交方針を掲げる。だがウクライナと同様、ロシア系住民が独立を主張する。
 
モルドバ東部のロシア系住民はソ連時代末期の1990年、「沿ドニエストル共和国」の「独立」を一方的に宣言した。この地域にはロシアが1000人以上の兵力を駐留させ、モルドバ政府の実効支配が及んでいない。ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、モルドバ側では警戒が強まっている。

輸出 行き場失う
親欧米路線の反面、モルドバはロシアとの経済的な関係が強く天然ガス輸入はロシアに100%依存する。
 
マイア・サンドゥ大統領は2日、地元メディアのインタビューで「国民とウクライナ難民のため、天然ガスや電力の供給を止めるわけにはいかない」と述べた。
 
貿易相手としてもロシアは重要だ。主要産品のリンゴは95%をロシアに輸出し、その額は8000万ドル(約100億円)に上る。だがロシア軍の侵攻でウクライナ経由の輸出が難しくなった。生産者組合のオクタビアン・オラル氏は「10万トンのリンゴが行き場を失った。ロシア向けの品種は欧州では買い手がつかない」と頭を抱える。【4月15日 読売】
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2013年にモルドバがEUに接近した際には、主要輸出品であるワインをロシアが「品質に問題がある」として輸入禁止にしたことも。

【ロシア中央軍管区司令官 「(沿ドニエステル共和国でも)ロシア語系住民への抑圧も確認されている」】
ロシアの脅威、「次はモルドバ」という不安は、より「現実的」なものになりつつあります。

****ロシア中央軍管区司令官、モルドバにも介入の考え…親ロシア派が「沿ドニエステル共和国」名乗る地域も****
ロシアによるウクライナ東部への大規模攻撃が続く中、ロシア中央軍管区の司令官がモルドバにも介入していく考えを明らかにした。

ウクライナの西隣モルドバの一部地域では、親ロシア派が「沿ドニエステル共和国」を名乗り、1990年にモルドバからの分離独立を宣言し、ロシア軍が今も駐留を続けている。
 
インタファクス通信によりますとロシア中央軍管区の司令官は「沿ドニエステル共和国」について「ロシア語系住民への抑圧も確認されている」と指摘した。
 
そのうえで、「ウクライナ南部を支配することは沿ドニエステル共和国へのもう一つのアクセスポイントとなるだろう」と述べ、モルドバにも介入していく考えを強調した。【4月22日 ABEMA Times】
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「ロシア語系住民への抑圧も確認されている」云々はウクライナ侵攻でも口実にされていることです。
モルドバ政府は否定しています。

****モルドバ、ロシアに懸念表明=「住民抑圧」根拠なし****
モルドバ外務省は22日、「(東部の親ロシア派支配地域)沿ドニエストルでロシア語を話す住民が抑圧されている」とロシア軍幹部が主張したのを受け、駐モルドバ・ロシア大使を呼んで「深刻な懸念」を表明した。ロイター通信が伝えた。
 
外務省は声明で「(幹部の)発言は根拠がなく、モルドバの主権と領土一体性を支持するロシアの立場と矛盾する」と指摘。その上で「モルドバは中立的な国家で、その原則は(ロシアにも)尊重されなければならない」と不快感を示した。【4月23日 時事】 
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上記ロシア中央軍管区司令官の発言に、ウクライナのゼレンスキー大統領も「ロシアは他の国も占領しようとしている」と警告しています。

****ゼレンスキー氏「ロシア、他国占領も」 黒海沿岸の制圧意図を警戒****
ロシアの侵攻が続くウクライナのゼレンスキー大統領は22日、「ロシアのウクライナ侵攻は始まりに過ぎない。ロシアは他の国も占領しようとしている」と警告した。

ロシア軍幹部は同日、軍事作戦の「第2段階」は、ウクライナ南部の制圧も「任務の一つ」と発言し、実現すれば親露派が実効支配するモルドバ東部の「沿ドニエストル共和国」へのアクセスを確保できるとの見通しを示していた。

「第2段階」の戦略目標に、東部ドンバス地方だけでなく、ウクライナ南部からクリミア半島、モルドバ東部の親露派勢力支配地域に至る黒海沿岸の完全制圧まで含まれていることを示唆したもので、モルドバは強く反発している。
 
ロイター通信などによると、ロシア中央軍管区のミネカエフ副司令官は22日、「ウクライナ南部を制圧すれば(モルドバ東部の親露派勢力が一方的に独立を宣言した)『沿ドニエストル共和国』へつながる道となる。そこでもロシア語系住民が弾圧されている」と表明した。ロイター通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は23日現在、この件についてコメントしていない。(後略)【4月23日 毎日】
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ウクライナで手一杯のプーチン大統領が更にモルドバまで・・・とは考えにくいところですが、この際、一気に他の地域でも、あるいは自分の地域でも・・・と考える勢力があってもおかしくはありません。
クレムリンの考えと現場の考えが一致していないこともあります。

そんな不安がよぎる「沿ドニエストル・モルドバ共和国」での“出来事”です。

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