(デンマーク沖の海面に浮かぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」から漏れたガスの気泡=9月27日(ロイター=共同)【10月29日 共同】)
【英はロシアの「非友好国」 独仏伊の対ロシア関係】
イギリスはロシアにとって「非友好国」の位置づけにあります。
****ロシア大統領、英首相に祝電送らず 「非友好国」理由に****
ロシア大統領府は26日、英国でリシ・スナク氏が首相に就任したことについて、同国は「非友好国」の一つであり、ウラジーミル・プーチン大統領からの祝意伝達はなかったと明らかにした。
大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は「英国は現在、非友好国に分類されている。よって(祝意を伝える)電報は送られなかった」と述べた。 【10月26日 AFP】
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欧州主要国とロシアとの関係はそれぞれ。
ドイツがエネルギー面でロシアに大きく依存してきたのは周知のところで、ウクライナ戦争を受けてそうしたこれまでの対応が問題となっています。
****なぜドイツはロシアの脅しにこれほど脆弱なのか****
(中略)ドイツの天然ガス輸入の約半分はロシアから来ている。ドイツが脱石炭と脱原子力に同時に乗り出すなか、ロシアへの依存は今後ますます重要になるだろう。ロシアはドイツにとって重要な輸出相手国でもある。また歴史的な理由もあり、ドイツの指導者は長年ロシアとの緊密な関係を望んできた。
徐々にではあるが確実に、ドイツはロシアに対して脆弱(ぜいじゃく)な立場に自らを追い込んでいるのだ。
ドイツの対ロシア関係の複雑さは欧州の近隣国と比べても独特だ。ドイツで初めて社会民主党(SPD)出身の首相となったビリー・ブラントは1969年以降、ソ連との緊張緩和を推進した。
ブラントの掲げた「オストポリティック」(東方政策)――西ドイツと東欧の間の関係正常化――は、戦後欧州の国境を承認した75年のヘルシンキ最終合意に至る道を開いた。
これは東欧の衛星国を支援しようと躍起になっていたソ連の指導者にとって重要な目標だった。一方で、ソ連帝国内の反体制派や市民権活動家にとっても、自由主義的な改革に向けたマニフェストになった。
だが、昨年12月に米国と北大西洋条約機構(NATO)に欧州安全保障秩序の全面的見直しを要求したことで明らかになったように、2022年のロシアは政治体制の強化や資金を求めていた冷戦時代後期のソ連とは全く異質な存在だ。1990年代のロシアは欧米政治に合流する構えを見せていたが、プーチン政権下のロシアはこれにも関心がない。(中略)
ドイツ政権は00年以降、ロシアと個人的にもビジネス上も密接な関係にあったSPDのシュレーダー元首相、続けてキリスト教民主同盟(CDU)のメルケル前首相の下、相互利益や繁栄、安定のためにロシアとの関係深化を図った。
一方、プーチン氏はこうした相互依存関係につけ込もうと弱点を割り出し、それを悪化させてきた。(後略)【2月3日 CNN】
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フランスは経済関係ではドイツ程ロシア依存は大きくないものの、マクロン大統領は事あるごとにプーチン大統領との関係を重視する姿勢も見せており、そのことはウクライナの強い反発を招いたこともあります。
****仏大統領の「ロシアに屈辱を与えてはならない」発言にウクライナ反発 東部では修道院燃える****
ロシアによるウクライナの軍事侵攻について、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4日掲載の新聞インビューで「ロシアに屈辱を与えない」ことが大事だと呼びかけ、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は同日、そのようなことを言う国にこそ「屈辱」がもたらされると、批判的なツイートをした。
複数のフランス地方紙が4日に伝えたインタビューで、マクロン大統領は「戦いが止まった日には外交を通じて出口が築けるよう、私たちはロシアに屈辱を与えてはならない」、「仲介者になるのがフランスの役割だと確信している」と話した。さらに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自らの「根本的な間違い」から抜け出す道筋を残すのが、何より大事だと述べた。
「自ら孤立するのはともかく、そこから抜けだすのは難しい」とも述べた。
マクロン大統領は開戦以降、西側首脳としては最も頻繁にプーチン大統領と対面や電話で直接対話を繰り返している。(中略)
さらに5月初めにも、ロシアとウクライナの停戦を呼びかけ、西側諸国は「(ロシアに)屈辱を与えたいという誘惑や、報復したいという気持ちに屈してはならない」と強調していた。(後略)【6月5日 BBC】
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イタリアでは22日、9月の総選挙で勝利した強硬右派(極右との指摘も)「イタリアの同胞」のジョルジャ・メローニ党首を首相とする内閣が就任宣誓を行い、右派連立政権が発足しましたが、連立を組む「フォルツァ・イタリア」を率いるベルルスコーニ元首相は自らの誕生日にロシアのプーチン大統領からウォッカを20本贈られたと明かすような、プーチン大統領の「お友達」。
右派「同盟」を率いるサルビーニ前内相もエネルギー価格の高騰を背景に対ロ制裁への不満を公然と口にしており、以前はプーチン大統領の顔写真をプリントしたTシャツ姿であらわれたことも。
メローニ新首相自身は「親北大西洋条約機構(NATO)で完全な欧州の一員」になると明言していますが、他国からロシアとの関係について疑念の目で見られるような状況にあります。
****イタリアの新首相がウクライナ支援明言****
イタリアのメローニ新首相は25日の所信表明演説で、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援を継続すると明言し「プーチン大統領の脅迫に屈することは問題解決につながらない」と述べた。【10月25日 共同】
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【英国内で、ロシア関与が疑われるロシア関係者暗殺も】
上記のような独・仏・伊の対ロシア関係からすると、英ロ関係の溝は際立っているように見えます。
これまでも、イギリス国内でロシア関係者が何者かによって殺害される事件が相次ぎ、ロシア当局の関与が疑われるなかで英ロ関係を悪化させてきました。
****リトビネンコ氏暗殺事件、ロシアが関与=欧州人権裁判所****
欧州人権裁判所は21日、ロシア連邦保安局(FSB)の元スパイで、プーチン政権を批判していたアレクサンドル・リトビネンコ氏が2006年にロンドンで毒殺された事件について、ロシアが関与したとの判断を示した。
同氏はロンドンのホテルで緑茶を飲んだ数週間後に43歳で死亡。体内からは放射性物質「ポロニウム210」が検出された。
英政府はロシアが毒殺に関与したと非難。ロシアは関与を否定し、両国関係が悪化していた。
英政府は2016年、プーチン大統領が同氏の暗殺を承認した可能性が高いとの報告書を作成。FSBの前身であるソ連国家保安委員会(KGB)の元職員アンドレイ・ルゴボイ氏と、別のロシア人、ドミトリー・コフトン氏が、おそらくFSBの指示で暗殺を実行したとの見解を示した。両氏は関与を否定している。
欧州人権裁判所は「リトビネンコ氏暗殺事件の責任はロシアにあることが判明した」と表明。「珍しい毒薬の調達、2人の移動の手配、繰り返された毒殺未遂といった計画的で複雑な作戦は、リトビネンコ氏が作戦の標的だったことを示している」として、英政府の見解を支持した。【9月21日 ロイター】
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****【元ロシア・スパイ】毒殺未遂事件の容疑者を公表 英政府****
今年(2018年)3月に英南部ソールズベリーでロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66)と娘のユリアさん(33)が有毒の神経剤「ノビチョク」による毒殺未遂に遭った事件をめぐり、英当局は5日、殺人未遂容疑でロシア人の男2人の名前を公表した。
テリーザ・メイ英首相によると、容疑者らはアレクサンデル・ペトロフとルスラン・ボシロフという名前を使っており、共にロシア軍情報機関の職員と考えられている。
ロンドン警視庁と検察庁は、2人を訴追するのに十分な証拠がそろったとしている。
スクリパリ氏とユリアさんは3月4日、ソールズベリーにあるショッピングセンターの外のベンチで倒れているところを発見された。2人を真っ先に助けようとしたニック・ベイリー刑事巡査部長も被害を受けた。
6月30日には、ソールズベリーから12キロ離れたウィルトシャー・エイムズベリーの住宅でドーン・スタージェスさん(44)とチャーリー・ロウリーさん(45)がやはりノビチョクを浴びて意識不明となった。警察はこの2つの事件を関連付けている。
スタージェスさんは7月8日に亡くなり、ロウリーさんは7月20日に退院している。(後略)【2018年9月6日 BBC】
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【ウクライナ情勢をめぐっても対立する英ロ】
ウクライナ戦争に関しても、イギリスは当初から(ロシアからすれば)非常に攻撃的な積極姿勢でした。
こうしたイギリスの姿勢は冷戦当時からのものとも言えます。
****イギリス ロシア軍事侵攻で機密情報を積極開示 そのねらいは****
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、イギリス政府は、通常は決して公にはしない機密情報を積極的に開示してきました。こうした姿勢は、アメリカ政府も同じで、情報を開示することで、欧米側はロシアの動向を把握していると機先を制するねらいとみられます。
このうちイギリス外務省は、軍事侵攻のおよそ1か月前にあたることし1月下旬の段階で独自の情報に基づく分析として、「ロシアが、欧米寄りのゼレンスキー政権を転覆させ、親ロシア派による政権の樹立を目指す動きがある」と発表しました。
ゼレンスキー大統領に代わる新しい指導者として元首相や元議員などの名前まで具体的に挙げ、ロシアの情報機関と接触しているなどと指摘しました。
また、イギリスの対外情報機関、MI6のムーア長官は、軍事侵攻が始まった2月24日ツイッターに投稿し、イギリスは、プーチン大統領によるウクライナへの侵攻計画のほか、ウクライナ側から攻撃を受けたかのような情報をねつ造する「偽旗作戦」についてもアメリカと協力して、明らかにしてきたと強調しました。
ムーア長官は、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャなどで多くの市民の遺体が見つかった今月上旬には「プーチン大統領の計画には軍や情報機関による即時の処刑が含まれていることはわかっていた」と指摘しました。
ゼレンスキー大統領に代わる新しい指導者として元首相や元議員などの名前まで具体的に挙げ、ロシアの情報機関と接触しているなどと指摘しました。
また、イギリスの対外情報機関、MI6のムーア長官は、軍事侵攻が始まった2月24日ツイッターに投稿し、イギリスは、プーチン大統領によるウクライナへの侵攻計画のほか、ウクライナ側から攻撃を受けたかのような情報をねつ造する「偽旗作戦」についてもアメリカと協力して、明らかにしてきたと強調しました。
ムーア長官は、ウクライナの首都キーウ近郊のブチャなどで多くの市民の遺体が見つかった今月上旬には「プーチン大統領の計画には軍や情報機関による即時の処刑が含まれていることはわかっていた」と指摘しました。
さらに、情報機関のGCHQ=政府通信本部のフレミング長官も先月講演で「ロシア軍の兵士が命令を拒否したり、みずからの装備を破壊したりと士気が低下している」と述べるなど、各機関が次々に機密情報を公表しています。
また、イギリス国防省は、ツイッターで、連日、戦況分析を公表し、ロシア軍の動きや攻撃のねらいなどについて、分かりやすく伝えています。
イギリスにとって、冷戦時代から、ソビエトは大きな脅威で、MI6は、KGB=国家保安委員会としれつな情報戦を繰り広げてきたとされています。
冷戦終結後も、2006年には、ロシアの元工作員が亡命先のロンドンで死亡し、体内から猛毒の放射性物質、ポロニウムが検出されたほか、2018年には、イギリス南部で別の元工作員と娘が意識不明の状態で見つかっています。
いまもロシアを脅威と捉えるイギリスの情報機関は、モスクワなどに多くの情報工作員を潜り込ませているとみられ、今回の軍事侵攻を巡っても情報収集と分析に力を入れています。(後略)【4月14日 NHK】
また、イギリス国防省は、ツイッターで、連日、戦況分析を公表し、ロシア軍の動きや攻撃のねらいなどについて、分かりやすく伝えています。
イギリスにとって、冷戦時代から、ソビエトは大きな脅威で、MI6は、KGB=国家保安委員会としれつな情報戦を繰り広げてきたとされています。
冷戦終結後も、2006年には、ロシアの元工作員が亡命先のロンドンで死亡し、体内から猛毒の放射性物質、ポロニウムが検出されたほか、2018年には、イギリス南部で別の元工作員と娘が意識不明の状態で見つかっています。
いまもロシアを脅威と捉えるイギリスの情報機関は、モスクワなどに多くの情報工作員を潜り込ませているとみられ、今回の軍事侵攻を巡っても情報収集と分析に力を入れています。(後略)【4月14日 NHK】
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このようなイギリスの対応に不快感を募らせるロシアは、イギリス首脳を「入国禁止」扱いにしています。
****ロシア政府、ジョンソン英首相ら英政府首脳の入国禁止 ウクライナめぐり****
ロシア政府は16日、ボリス・ジョンソン英首相をはじめ英政府首脳がウクライナ情勢をめぐりロシアに対して「敵対的」態度をとり、「反ロシアヒステリーをあおり立てている」と批判し、入国を禁止した。
ロシア政府は、ジョンソン首相のほか、リズ・トラス外相、ベン・ウォレス国防相など閣僚を中心に、計13人のイギリス政府関係者の入国を禁止すると発表した。ウクライナ侵攻開始以降にイギリス政府が発動した対ロ制裁への報復措置だとしている。
ロシア政府は3月、同様の入国禁止措置をアメリカのジョー・バイデン大統領に対しても発表している。
ロシア外務省は声明で、「イギリス政府は、ロシアを国際的に孤立させ、我が国を封じ込める状況を作り出し、ロシアの国内経済を逼迫(ひっぱく)させることを目的に、無軌道な情報戦、政治キャンペーンを展開している」と批判。
「要するにイギリスの指導部はウクライナをめぐる状況を意図的に悪化させ、キエフの政権に殺傷力の高い武器をつぎ込み、北大西洋条約機構(NATO)の一員として同様の取り組みを調整している」とも述べた。(後略)【4月17日 BBC】
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今日も、下記のようなニュースが。
****トラス前首相の私有携帯、外相時の通信情報1年分ハッキング被害か…ロシア関与の疑いも****
英大衆紙メール・オン・サンデー(電子版)は29日、英国のリズ・トラス前首相が外相当時、私有携帯電話を何者かにハッキングされ大量の情報を盗まれたと報じた。
ウクライナへの武器供与に関して外国の外相と交わした議論など機密情報も含まれていたとみられる。ロシアの犯行などが疑われているという。
同紙が関係筋の話として報じたところによると、ハッキングは今年7〜9月に行われた与党・保守党の党首選中に発覚。主要な国際パートナーとのやりとりなど、最大1年分のメッセージがダウンロードされていたという。
トラス氏は党首選に立候補しており、当時のジョンソン首相らの判断で公表が見送られたとしている。現在、犯人の特定などの分析作業が行われているとみられる。(後略)【10月30日 読売】
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【ロシア 英海軍の関係者が「ノルドストリーム」爆破と発表】
上記のような冷え切った英ロ関係もあっての話でしょうか、ロシア国防省はロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドスリーム2」のガス漏れについて、イギリス海軍の関係者が爆破したと発表、イギリス政府は否定しています。
****ノルドストリーム爆破、英海軍が関与=ロシア国防省****
ロシア国防省は29日、英海軍の関係者が先月、ロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドスリーム2」を爆破したとの見解を示した。
これに対し、英政府は虚偽の情報だと反論。ロシア軍のウクライナでの失敗から注意をそらす狙いがあると主張している。
ロシア政府は英国がパイプライン爆破に関与した証拠を示さず、「入手した情報によると、英海軍部隊の代表が今年9月26日のバルト海でのテロ攻撃の計画・準備・実行に参加し、ノルドストリーム1とノルドスリーム2を爆破した」と表明した。
スウェーデンとデンマークは、ノルドストリーム1とノルドスリーム2の4カ所のガス漏れについて、爆発が原因と断定したが、誰が爆発に関与したかは明らかにしていない。【10月30日 ロイター】
これに対し、英政府は虚偽の情報だと反論。ロシア軍のウクライナでの失敗から注意をそらす狙いがあると主張している。
ロシア政府は英国がパイプライン爆破に関与した証拠を示さず、「入手した情報によると、英海軍部隊の代表が今年9月26日のバルト海でのテロ攻撃の計画・準備・実行に参加し、ノルドストリーム1とノルドスリーム2を爆破した」と表明した。
スウェーデンとデンマークは、ノルドストリーム1とノルドスリーム2の4カ所のガス漏れについて、爆発が原因と断定したが、誰が爆発に関与したかは明らかにしていない。【10月30日 ロイター】
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もちろん真相はわかりません。
ただ、ロシアはこのところ、核兵器使用への言及とか、「汚い爆弾」とか、「本当かね・・・」「本気かね・・・」といった発言が相次いでいますので、「ノルドストリーム」に関してもやや真実味に欠けるところはあります。あくまでも印象の話ですが。