孤帆の遠影碧空に尽き

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ドイツ  悩ましい中国との関係 関係見直しを迫る「政治」 経済的には中国は「最も重要な貿易相手国」

2022-10-22 23:13:27 | 欧州情勢

(【4月26日 日経】 自動車最大手のフォルクスワーゲンの21年の国別販売台数で見ると、中国は全体の4割近くを占めている最大のお得意様、また、ドイツが輸入しているスマートフォンの50%以上が中国製など、中国にとってもドイツはアメリカ・近隣国以外ではとびぬけた上顧客・・・等々、ドイツと中国は経済の観点では“相思相愛の間柄”とも)

【ショルツ首相「中国の切り離しは誤った道」】
10月18日ブログでも取り上げたように、アメリカは中国を「国際秩序を変える意図と能力を持つ唯一の競争相手」と位置づけ、対抗していく姿勢を強めています。

****米安保戦略、中国との競争優先 ロシア危険視****
米政府は12日、外交・安保政策の指針をまとめた「国家安全保障戦略」を発表した。国際社会で唯一の競争相手と見なす中国に勝つことを優先課題とした上で、「危険な」ロシアの抑制にも取り組むとした。

同戦略の発表はロシアによるウクライナ侵攻の影響で遅れていた。米政府は、2020年代は紛争を抑制する上でも、気候変動という共通の大きな脅威に立ち向かう上でも、「米国と世界にとって決定的な10年になる」と説明。

米国は「中国に対する持続的な競争力の維持を優先しつつ、依然として極めて危険なロシアを抑制していく」とした。

中国については、「インド太平洋地域に強力な影響圏を構築して世界屈指の大国となる野望を持っている」と指摘し、「国際秩序をつくり変える意図を持ち、その目標を推進する経済力、外交力、軍事力、技術力を強めている唯一の競争相手」と位置付けた。 【10月13日 AFP】
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こうした国際環境で、アメリカと共同歩調をとる日本や欧州にとって、中国との距離の取り方が大きな問題となります。

中国と隣国の位置関係にあって、歴史的にも、現在の政治的にも中国との間に多くの問題を抱える日本に比べると、欧州にとっては中国はやや遠い存在であり、以前は単純に経済関係、特に、その市場としての価値を重視するような傾向もありましたが、近年は新疆ウイグルの人権問題など、中国の政治体質に対する警戒感も強まっています。

ただ、いたずらに中国を敵視し、中国との経済関係を断とうとするような動きについては、中国との経済的な関係を重視するドイツ・ショルツ首相などは警戒を示しています。

****「中国切り離し」に反対したショルツ首相を中国が称賛―独メディア****
2022年10月12日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国の切り離しに反対するドイツのショルツ首相を中国政府が称賛したと報じた。

記事は、ショルツ首相とドンブロウスキス欧州委員(貿易担当)が11日にベルリンで開かれたドイツ機械工業連盟(VDMA)の会合で中国の切り離しを行わないよう警告を発し、ショルツ首相が「中国の切り離しは誤った道。求められるのは知恵に満ちた政治と、経済の多様化だ」と述べたことを伝えた。

そして、ショルツ首相らの発言に対して中国外交部の毛寧(マオ・ニン)報道官が12日の定例記者会見で「われわれは欧州政府の姿勢をポジティブに評価する。中国もグローバル化を支持し、デカップリングには反対だ」と評価するとともに、世界経済が低迷する中でオープンな協力を堅持し、経済、貿易のつながりを強めることが、中国と欧州双方にとってメリットとなるばかりでなく、世界経済の回復にも寄与すると述べたことを紹介した。

また、ショルツ首相が11月に初めて中国を訪問して習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談する予定だと複数のメディアが報じており、実現すればG7諸国首脳では新型コロナ後初めての訪中となるとともに、中国共産党第20回党大会終了後最初の海外首脳の訪中になる見込みだと伝える一方で、ドイツ、中国の両政府はショルツ首相の訪中について明言していないとしている。【10月13日 レコードチャイナ】
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【ドイツ経済界「中国市場を捨てたくない」 ドイツにとって中国は「最も重要な貿易相手国」】
中国との関係を重視するのは、ドイツ政府・ショルツ首相というより、ドイツ経済界でしょう。

ドイツにとって中国は「最も重要な貿易相手国」であり、2021年の貿易総額は2450億ユーロ(約35兆円)とドイツの対外貿易総額の10%近くにもなる・・・そういう国を“世界屈指の大国となる野望を持っている”として、あっさり捨てる訳にいかない事情があります。(それは、日本も、そしてアメリカも同じでしょう)

****ドイツ経済界は中国市場に未練も、副首相「ゆすられること許してはならない」―独メディア****
独メディアのドイチェ・ヴェレ中国語版は16日、ドイツ経済界から「中国市場を捨てたくない」との声が上がる一方、政府は対中強硬姿勢を強めていると伝えた。

記事によると、ドイツ商工会議所連合会(DIHK)の対外貿易部門責任者のVolker Treier氏は、このほどロイターの取材に「経済関係において多くの困難があるものの、大多数の(ドイツ)企業にとってはこの(中国)市場を放棄する意味がない」と述べた上で、「重要なのはわれわれが中国と明確な貿易・投資ルールを制定しようとしていること。できれば世界貿易機関(WTO)を通してだ」とした。

同氏はまた、「(中国の)指導部の最終的な構成は、中国の今後数年間の経済政策の優先事項についての情報を提供してくれるだろう」とした。中国では現在、第20回の共産党大会が行われており、習近平(シー・ジンピン)総書記が3期目に突入することが確実視されていると同時に、経済政策を主導してきた李克強(リー・カーチアン)首相の去就にも注目される。

キール世界経済研究所のRolf Langhammer氏は「中国は台湾問題で『内政干渉』をしないよう欧州連合(EU)に求めるだろう」としたほか、「中国は外国企業が単に中国に物を輸出するだけでなく、生産チェーンを中国に移転するよう奨励するだろう」との見方を示した。

記事によると、ドイツにとって中国は「最も重要な貿易相手国」であり、2021年の貿易総額は2450億ユーロ(約35兆円)とドイツの対外貿易総額の10%近くにもなる。また、中国で事業を展開するドイツ企業はおよそ5000社に上る。

ただ、Treier氏は「中国経済はすでに停滞に陥り始めている」と指摘。特に機械、自動車などの分野での減速が目立ち、輸出に依存するドイツ産業界では懸念が広がっているという。

ドイツでは近年、中国への過度な依存によるリスクを警告する声が増え始め、今年は特に顕著に。ドイツはロシアからのエネルギー供給に大きく依存してきたが、ロシアによるウクライナ侵攻後にそれが弱点となった。

ドイツのハーベック副首相兼経済・気候保護相は「通商政策で中国に対しより強硬な姿勢を取るだろう」とし、「中国は確かに歓迎される貿易パートナーだが、保護主義が存在するならそれに対応しなければならない。われわれはゆすられることを許してはならない」と述べたという。【10月17日 レコードチャイナ】
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【ベーアボック独外相「中国経済に過度に依存してはならない」 ショルツ首相とは異なるベクトル】
一方でドイツ国内には、ロシア依存で苦しむ現状を引き合いに、中国への過度の依存を戒める見方もあります。

****ロシアの教訓、独外相「中国に過度に依存してはならない」―独メディア****
ドイツのベーアボック外相が中国への過度な依存を警告した。独メディアのドイチェ・ヴェレ中国語版が19日付で伝えた。

ベーアボック氏は18日、対中戦略を調整するにあたり、「ドイツはロシアのエネルギーに大きく依存していたこれまでの過ちを犯さないようにしなければならず、中国経済に過度に依存してはならない」との考えを示した。同氏は先日行われた外交政策フォーラムでも「われわれはここ数十年のロシアに対する政策から教訓を得なければならない」と述べていたという。(中略)

同氏はさらに、政府が現在起草中の「国家安全保障戦略」には対中戦略も含まれるとし、「国際法を信じる国や協力する国と、専制政権を信じる国との間で制度的な競争があることを、ドイツは直視しなければならない」とも指摘したという。

AP通信によると、ドイツ企業は近年、中国に大量の投資を行っており、中国はドイツの最大の貿易相手国の一つ。ドイツでは最近、中国遠洋海運集団がハンブルク港の運営会社に出資しようとしていることをめぐり、激しい論争が繰り広げられている。

ドイチェ・ヴェレは一方で、「ベーアボック氏に比べてショルツ首相の態度は保守的だ」と指摘。ショルツ氏が「われわれは個別の国とビジネスを続けなければならないが、それには中国も含まれている」と述べ、中国切り離しは賢明ではないとの考えを示したことを伝えた。【10月20日 レコードチャイナ】
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(上記記事にある“ハンブルク港の運営会社”の問題は、9月17日ブログ“英独と中国の最近の摩擦 宙に浮くEU・中国の包括投資協定”で取り上げています)

ショルツ首相の「中国の切り離しは誤った道」という発言と、ベーアボック外相の「中国経済に過度に依存してはならない」、ハーベック副首相兼経済・気候保護相の「われわれはゆすられることを許してはならない」という発言の間には、やや温度差があるようにも。

実際、両者は社会民主党と中国に厳しい緑の党と、所属政党が異なり、中国へのスタンスに差もあります。
“迷走”とも評されるような異なる向きのベクトルが交錯しているのがドイツの現状でしょう。

【対決も辞さないとする「政治」と、相互関係を重視する「経済」の違い】
安全保障を重視し、対決も辞さないとする「政治」と、相互関係を重視する「経済」の立場の違いとも言えます。

****英国EU離脱の「6倍」という衝撃。ドイツ経済界が懸念する「脱中国」の影響****
イデオロギーを全面に押し出した政治は、経済的にマイナスとなる面があり、不協和音や対立を生むようです。ウクライナ支援や中国との関係に関して、アメリカ国内とドイツ国内で対立が顕在化していると指摘するのは(中略)拓殖大学教授の富坂聰さん。(中略)

ヨーロッパの各国国内には「経済的な逆風は我慢してウクライナ支援をすべき」という主張と「自分の生活を守ることを優先すべき」との主張がぶつかっている。交錯する思惑のなかで難しいかじ取りを迫られるのは各国の政治が抱える悩みである。

なかでも目立つのはドイツの迷走だ。同国で明らかなのは、中ロに対する姿勢をめぐり、首相と他の閣僚との間に明らかにスタンスの違いが生じていることだ。例えば、10月11日、ベルリン機械工業サミットで演説したオラフ・ショルツ首相は、グローバル化の可能性に触れ、中国との関係を意識して「サプライチェーンの寸断には断固として反対する。それは明らかに誤った道だ」と述べた。

しかし、その直後に何とドイツ外相のアンナレーナ・ベアボックが「ドイツ経済は過度に中国との貿易に依存すべきではない」とサプライチェーンを調整する必要性に言及しているのである。

同じタイミングで欧州連合(EU)もフォンデアライアン委員長がレアアースなどで対中依存の見直しに言及しているので、欧州全体の流れと見ることもできるが、ドイツ国内の事情を忘れてはならない。

それは緑の党とドイツ社会民主党の政策の違いからくる齟齬だ。事実、ベアボックと同じくショルツ政権で副首相及び経済・気候保護大臣を務めるロベルト・ハーベックも「脱中国」を公然と口にする。ハーベックも緑の党だ。

ハーベックはG7(先進7カ国)貿易大臣会合でロイター通信のインタビューに応じ、中国産の原材料、バッテリー、半導体への依存度を減らすために「新たな対中通商政策に取り組んでいる」と語っている。

中ロを一括りに厳しい姿勢で臨むのが緑の党の姿勢だ。それに対しショルツ首相が現実的な調整を迫られるという図式だ。

この二者の立場は、アメリカの政界と経済界の立場の違いにも似ていて、おそらく多くの国で見られるねじれ現象だ。政治が経済成長にとっての大きな逆風になる時代である。

ドイツの経済界は、メルケル後に誕生した連立政権から、おそらく政治の逆風が吹くとを予測し、早くから「脱中国」のマイナス影響を明らかにし、けん制する動きを続けてきた。

代表的なのは今年8月、ミュンヘンに本部を置くIfo経済研究所だ。同研究所は、もしドイツと中国の間に経済戦争が起きれば、という仮定で損失のシミュレーションを行っていて、その損失を「イギリスのEU離脱の6倍にあたる」と算出。衝撃的な結論を導き出している──【10月18日 富坂聰氏 MAG2NEWS】
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【EU ロシア依存の教訓から、中国との関係を見直す動き】
上記記事にもあるように、EU全体としては、ロシア依存の教訓から、中国との関係を見直す動きがあります。

****EU首脳、中国への経済依存に懸念 ロシア問題で苦い経験*****
欧州連合(EU)は21日、ブリュッセルで開いた首脳会議2日目の討議で、ロシアへのエネルギー依存を高めたことによる苦い経験を踏まえ、中国への経済依存に懸念を示し、団結した厳しい対中姿勢が必要との考えを示した。

EUは2019年以降、中国をパートナー国、経済的な競合国、システミックなライバル国と公式に見なしている。

フランスのマクロン大統領がEUは中国にインフラを売却するという「戦略的な誤り」を犯していると述べたほか、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、EUはロシアに依存したことで教訓を学んだため中国に対し警戒する必要があるとし、「中国の場合は技術や原材料に依存するリスクがある」と指摘。EUは生産能力を高め、信頼できる供給源にシフトしなければならないと述べた。

フィンランドのマリン首相も、EUは革新的な技術への依存を回避し、代わりに民主主義国家間の強固な協力関係を促進する必要があるとの考えを示した。

このほかラトビアのカリンシュ首相は、ロシアによるウクライナ侵攻について、中国が「歴史の正しい側に位置している」ことを確認するために、中国と対話を行うことが重要になると語った。(後略)【10月22日 ロイター】
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【EU内で批判にさらされるドイツ ショルツ独首相、11月初旬にG7首脳としては初めての訪中】
こうした中、「われわれは個別の国とビジネスを続けなければならないが、それには中国も含まれている」として現実的調整を重視するショルツ独首相は企業代表団とともに訪中すると表明。メルケル前首相は中国重視の姿勢を示していましたが、ショルツ首相がどのような態度で臨むのかが注目されています。

ショルツ訪中団が実現すれば新型コロナの感染拡大以降、G7首脳としては初めてとなります。

****独首相、11月初旬に訪中 企業代表団と****
ドイツのショルツ首相は21日、企業代表団とともに訪中すると明らかにした。フランスのマクロン大統領と同行するかは言及しなかった。欧州連合(EU)首脳会議に出席するため訪問中のブリュッセルで述べた。

首相報道官によると、時期は11月初旬になる見通し。

独政府は現在、中国との貿易関係を見直す姿勢を示している。

またショルツ首相は、EUにはエネルギー価格引き下げに向けた確固たる枠組みがあるとし、エネルギー政策についてどの国も反対票を投じることはないとの認識で一致したという。【10月21日 ロイター】
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ミシェルEU大統領は21日の記者会見で、中国は「競争相手」という立場を確認したと述べ、「供給網で対中依存を減らさねばならない」と訴えると同時に、地球温暖化対策では対話が必要だと訴えています。

ミシェルEU大統領のような主張とショルツ独首相の間で認識の一致があるのか・・・中国政策も微妙ですが、ショルツ独首相は天然ガス価格の上限設定や、消費者と企業をエネルギー価格の高騰から守るための2000億ユーロ支援策などを巡り、他のEU諸国からの圧力に直面しています。

****EU首脳会議、独に批判の集中砲火 ガス価格対策で****
欧州連合(EU)は20、21の両日、首脳会議を開いた。天然ガス価格高騰に対応するため、ガス価格への上限設定が焦点となった。

ドイツが難色を示し、結論は先送りされた。EUではドイツが単独で巨額の国内支援策を決めたことへの不満も高まっており、「自国優先」という批判が相次いだ。会議では、EUの中国政策も課題になった。

首脳会議の声明は、ガス価格への上限設定には踏み込まず、「過度な価格上昇を制限する」ための一時的な方策を定める方針を明記した。また、加盟国のガス備蓄の15%を共同購入する目標を掲げた。

上限価格の設定は9月末に、イタリアやフランス、スペイン、東欧など15カ国が提案した。ショルツ独首相は20日の首脳会議直前、「政治的に価格に上限を設ければ、欧州へのガス供給を減らす危険がある」と演説。ロシアに代わる供給元を探る中、ガス輸出国との新たな契約が難しくなるとの懸念を示した。

ドイツの国内支援策はガス高騰から企業や消費者を守るため、総額2千億ユーロ(約30兆円)を拠出する内容で、9月末に発表された。

EU域内でドイツ企業を優遇することになるという指摘が強く、エストニアのカラス首相は20日、「EU27加盟国が自国のことしか考えなければ、EUは沈没する。このことをドイツは理解してほしい」と主張。ポーランドのモラウィエツキ首相は「ドイツが単独行動をとれば、EU市場が阻害される」と訴えた。

20日にはウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで演説し、「ロシアの攻撃で国内のエネルギー施設の3分の1以上が破壊された」と述べた。ロシアは暖房や電気を使えなくして、EUに再び大量の難民を送り込もうと画策していると強調した。(後略)【10月22日 産経】
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こうした状況でのショルツ訪中団の動向が注目されます。
エネルギーを頼ってきたロシアを捨て、更に「最も重要な貿易相手国」中国を捨て・・・ではドイツ経済が立ち行かない・・・というのも現実。
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