孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

OPECプラス  石油の大幅減産決定 EUの対ロシア制裁は結束を維持できるか?

2022-10-06 23:33:19 | 欧州情勢
(最近のWTI原油先物価格の推移  現在は1バレル=88ドル水準)

【EUはロシア産石油の価格上限設置で合意 ロシアは反発】
ウクライナをめぐる戦いは、ウクライナ現地における戦闘以外に、ウクライナを支援する欧米とロシアの間でも石油・ガスのエネルギーを含む経済取引の場でも戦われています。

欧米側は輸出入における対ロシア制裁、特にロシア産エネルギーの購入を減少させることでロシア財政に打撃を与え、ロシアの戦争遂行能力を削ごうとしていますが、そのことは特に欧州のエネルギー確保を困難にし、どこまでそうした対応で欧州が結束できるか危ぶむ声もあります。

ロシアとしても、そうした欧州の脆弱性につけこむ形で揺さぶりをかけ、欧州の結束したウクライナ支援にひびを入れようと狙っています。

日米欧の主要7カ国(G7)は9月、対ロシア制裁として、ロシア産石油の取引価格に上限を設定することで合意していますが、ロシアの東南部4州の併合を受けて、EUはロシア産石油の取引価格に上限を設定することを柱とする対ロシア追加制裁案に合意し、価格上限の実施に向けて動いています。

****EU、ロシア産石油の価格上限設置に合意 追加制裁近く発動****
欧州連合(EU)は5日、大使級会合を開き、ロシア産石油の取引価格に上限を設定することを柱とする対露追加制裁案に合意した。ロシアがウクライナ東・南部4州を一方的に「併合」したことなどを受けた措置。

EU議長国のチェコによると、価格上限を超えた露産石油について海上輸送を禁止する。鉄鋼製品や木材パルプのEU域内への輸入禁止や、ITや法的なサービスの輸出制限も盛りこまれた。追加制裁は近く官報に掲載し、発動する。(後略)【10月5日 毎日】
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ロシアはG7合意の時点から、プーチン大統領が「我々の利益に反するなら、ガスも石油も石炭も供給しない」と威嚇しています。

****プーチン大統領、対ロシア制裁のG7威嚇「ガスも石油も石炭も供給しない」****
穀物輸出先制限も示唆
ロシアのプーチン大統領は7日、先進7か国(G7)が対露制裁として、露産石油の取引価格に上限を設定した場合、「我々の利益に反するなら、ガスも石油も石炭も供給しない」と反発した。

輸出が再開されたウクライナ産穀物は「ほとんどが貧しい途上国ではなく、欧州連合(EU)諸国に運ばれている」とし、仲介したトルコのタイップ・エルドアン大統領と輸送先の制限を協議する考えを示した。(後略)【9月8日 読売】
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今回のEU合意についても、「減産」の可能性を表明し、影響が全世界に及ぶことを示しています。

****ロシア、価格上限導入なら石油減産の可能性=副首相****
ロシアのノバク副首相は5日、主要7カ国(G7)が合意したロシア産石油への価格上限設定を巡り、その影響を相殺するためロシアが原油生産を削減する可能性があると述べた。

G7が合意した価格上限計画は、参加国が原油と石油製品の価格上限を超える価格の石油貨物に対し、保険、金融、仲介、運行などのサービスを拒否することを求めている。

ノバク氏はこれに対し「全ての市場メカニズムに反していると考えている。世界の石油産業にとって非常に有害だ。我々は(意図的に)減産する用意がある」と述べた。【10月6日 ロイター】
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【OPECプラスの大幅減産で石油価格上昇】
「減産」ということでは、ロシアの思惑だけでなく、景気後退で石油需要が減退する恐れがあるという産油国全体の懸念から、ロシアを含むOPECプラスは日量200万バレル減産することで合意しています。

****OPECプラス日量200万バレル減産で合意 世界需要の2%相当  原油価格引き上げにつながる可能性***
世界の有力な産油国で構成される「OPECプラス」は、11月から日量200万バレル減産することで合意しました。

OPEC=石油輸出国機構やロシアなどで構成される「OPECプラス」は5日、閣僚級会合を行い、11月以降の原油生産量について、一日あたり200万バレル減産することで合意しました。世界需要の2%に相当する減産で、9月に決めた日量10万バレルの減産量を大きく上回ります。

世界経済の減速が懸念されるなか、原油価格を下支えするためとみられますが、需給が引き締められることで、ガソリンなどのエネルギー価格が再び上昇する可能性が出てきています。【10月6日 TBS NEWS DIG】
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この決定を受けて原油市場は値上がりしています。

****原油先物3週間ぶり高値、大幅減産受け****
5日の取引で、原油先物が3週間ぶり高値を更新。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が、11月から日量200万バレルの減産を実施する方針で合意したことに反応した。

減産幅は世界需要の2%に相当し、2020年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)以来、最も大幅なものとなる。米国は大幅な減産を行わないよう働きかけていた。

米週間石油統計で原油やガソリン在庫が減少したことも材料視された。(後略)【10月6日 ロイター】
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【バイデン大統領はOPECプラスの「短絡的」な決定に「失望」表明】
大幅な減産を行わないよう働きかけていたアメリカ・バイデン大統領は、OPECプラスの今回の大幅減産の決定に「短絡的」な決定という認識を示し、失望を表明しています。

****バイデン氏、OPECプラスの「短絡的な」減産決定に失望=米政権****
バイデン米大統領は5日、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が日量200万バレル減産で合意したことについて、「短絡的」な決定という認識を示したと、ホワイトハウスが明らかにした。

OPECプラスは5日の閣僚級会合で、11月から日量200万バレルの減産を実施することで合意した。減産幅は2020年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)以来最大。米国は大幅な減産を行わないよう働きかけていた。

ホワイトハウスは声明で「世界経済が(ロシアの)プーチン大統領によるウクライナ侵攻に伴う悪影響に対処する中、バイデン大統領はOPECプラスの短絡的な決定に失望している」とした。

バイデン大統領は米エネルギー生産を促進し、OPECのエネルギー価格への支配力を低減させる方策を模索するよう政権や議会に要請した。また、サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)によると、必要に応じ戦略石油備蓄(SPR)からの放出を引き続き指示する考えという。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、OPECプラスがロシアと足並みをそろえているのは明白とし、減産決定は「誤り」という認識を示した。

ブリンケン米国務長官はOPECプラスの減産決定について、米政府はこれまでOPECを含む産油国に対し、「需要に応じたエネルギー供給が必要であると明確にしてきた」と強調した。

OPEC加盟国で米国の同盟国でもあるサウジアラビアの動きに失望したかという質問に対しては、サウジに関し米政府は「多様な利益を有している」と応じ、減産に合意したことについては直接触れなかった。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、米国がOPECプラスなどへの依存度を低下させる必要があると強調した。【10月6日 ロイター】
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【石油価格上昇でEUは対ロシア制裁の結束を維持できるか?】
OPECプラスの今回の大幅減産で石油価格が上昇することになると、ロシア産石油の輸入を止めた国々は今後さらに燃料不足と価格高騰に苦しむことになり、EUの対ロシア制裁は今まで以上に結束が困難になることが予想されます。

****OPECプラスの大幅減産でEUの対ロ制裁にヒビ?****
<原油価格のさらなる高騰が予想される中、「背に腹は変えられない」と対ロ制裁の緩和に踏み切る国が出てくる可能性も>

OPEC(石油輸出国機構)とロシアなど主要産油国で構成するOPECプラスは10月5日、11月から日量200万バレルの大幅減産を実施する方針を決定した。これによりエネルギー価格の上昇は避けられず、冬を控えて燃料不足に耐えきれなくなったEUの一部加盟国がロシアのウラジーミル・プーチン大統領の狙いどおり、対ロ制裁の緩和に踏み切りかねない状況となった。

EUは3月末にウクライナへの軍事侵攻に対する追加制裁としてロシア産原油の輸入を禁止する方針を発表したが、一部加盟国の反発で協議は難航し、全面的な禁輸には至らなかった。

EUの苦境を見かねた米政府はサウジアラビアに原油増産の継続を働きかけてきたが、その甲斐もなく、OPECプラスは世界的な景気の冷え込みを理由に大規模減産で合意。

ロシア産原油の輸入を止めた国々は今後さらに燃料不足と価格高騰に苦しむことになりそうだ。エネルギーをはじめ物価の上昇が続けば、国内の政治的な軋轢が高まり、対ロ制裁の継続は困難になる。

対ロ制裁では「EUは必ずしも一枚岩ではない」と、ボストン大学のイゴール・ルークス教授(専門は歴史と国際関係)は本誌に語った。

ロシア寄りのハンガリー
ルークスによれば、多くのEU加盟国は石油禁輸でロシアの外貨収入は途絶え、戦費が底を突くとみて追加制裁を支持した。それらの国々は燃料価格の上昇に歯を食いしばって耐え制裁を続けるだろう。

一方、同じEU加盟国でもロシアと関係が深い国々はロシア産石油への依存度も高く、元々EUの対ロ制裁に非協力的だった。ウクライナへの軍事侵攻に対する非難にも温度差があり、一部の加盟国の指導者はプーチンを擁護するような姿勢も見せてきた。

「同じ旧ソ連圏でもバルト3国などは反プーチンの姿勢が鮮明だが、ハンガリーなどは元々プーチンの懐に取り込まれている」と、ルークスは言う。

ハンガリーのオルバン・ビクトル首相はロシアのウクライナ侵攻に抗議し、即時停戦を呼びかけもしたが、対ロ制裁には参加していない。ハンガリーはロシア産の石油・天然ガスに大きく依存しており、ABCニュースの報道によれば、EUのロシア産石油の全面禁輸は「わが国の安定的なエネルギー供給を破壊し」、自国経済を壊滅させると主張して、最後まで反対し続けた。

エネルギー価格の高騰対策として、EUからより手厚い支援を引き出すために対ロ制裁の緩和をちらつかせる加盟国もあるだろうと、専門家は指摘する。EUが値上がり分を補填する補助金を出してくれるなら制裁を続けるが、補助金なしにはこれ以上耐えられないと脅しをかけるというのだ。

ドイツは燃料価格の高騰による消費者の負担を軽減するため補助金を出しているが、全てのEU加盟国がそうした措置を取れるわけではないと、ニューハンプシャー大学で政治学の助教を務めるエリザベス・カーターは言う。財政に余裕がない国々はEUからの補助金頼みだ。

「EUがエネルギー価格の抑制とインフレ抑制のために、コロナ禍対応で実施したような緊急融資の枠組みを設ける可能性もあるが、すぐにまとまるとは思えない」

こうした枠組み作りでは、EUの協議は毎回難航するからだ。とはいえ欧州委員会のウルズラ・フォンデアライアン委員長はエネルギー価格高騰の影響を軽減するためロシアから輸入うする天然ガスに上限価格を設定する考えで、近くEU各国首脳と協議することになっている。

ロイターの報道によれば、大半の加盟国は上限設定を支持しているが、ドイツ、デンマーク、オランダは供給不足になる事態を警戒しているという。

危機の早期終結もあり得る
ドイツがロシアのエネルギー資源に大きく依存していること、そしてハンガリーがロシアと親密な関係を保ってきたこと。この2つの要因が、対ロ制裁におけるEUの足並みの乱れを招いてきたと、アメリカン大学のビル・デービーズ准教授は指摘する。

OPECプラスの減産でEU内の亀裂がさらに広がる可能性がある。「供給が減れば、加盟国同士の軋轢が一段と高まるだろう」

OPECプラスの主要メンバーであるロシアはサウジアラビアと共に大幅減産に同意した。今回の決定は、ウクライナで苦戦するプーチンの劣勢挽回のための戦略ともみられている。「欧州経済に打撃を与え、EUの結束に揺さぶりをかける狙いがある」と、カーターは言う。

プーチンの思惑どおり、EUに混乱が広がるとの憶測が飛び交う一方、 デービーズはこれを奇貨としてNATOの結束が固まる可能性もあるとみている。そうなれば、短期的にはガソリン価格の高騰で世論の不満が高まるにせよ、長期的に見ればアメリカにとってはプラスになる。「EU各国がこれまで以上にアメリカの石油備蓄に頼るようになれば、NATOの結束が強化されるだろう」

「さらに楽観的な見方もできる」と、デービーズは言う。「ウクライナの反転攻勢でロシアが追い込まれている現状を見ると、これまで予想されていたほど戦争が長期化せず、危機が早期に終結する可能性もある」【10月6日 Newsweek】
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今回のOPECプラスの減産で“NATOの結束が固まる可能性”というのは、あまりありそうにない感じも。アメリカの石油備蓄も限りがあります。

おそらくは補助金を含めたEU内部での駆け引き・議論が強まるのでしょう。結束を維持できるかはわかりませんが。

【長期的にはOPECプラスにとっても危険な決定】
ただ、OPECプラスにとっても、減産による価格操作は長期的には需要国の外国産化石燃料からの脱却を促進し、ひいては産油国の首を締めあげる事態にもなりかねません。

****OPECプラスの瀬戸際戦略、裏目に出るかも****
問題は減産を欧米諸国がどう解釈するかだ

このエネルギー戦争の勝者は誰か? おそらく勝者などいない。
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟主要産油国で構成する「OPECプラス」は5日、日量200万バレルの協調減産に合意した。事前に漏れ聞こえていた減産幅を上回る水準だ。(中略)OPECプラスが減産を発表するとの観測から、原油価格は3日以降上昇していた。5日のブレント原油価格は1.6%上昇し、1バレル=93.32ドルとなった。

今回の決定が注目に値するのは、原油価格が過去と比較してもなお高い水準にあるということだけでなく、原油市場が極めて引き締まった状態であり続けているからである。(中略)OPECプラスは需要減退を受けて減産を実施することは多かったが、これほど市場が逼迫(ひっぱく)している中で減産を実施したことはこれまでなかった。

OPECプラスが減産を行う論理的根拠は答える人次第で異なるだろう。
政治的不正行為(ロシアが欧米に打撃を与えるのをOPECプラスが助けている)から、OPECプラス自身が主張する理由(景気後退で石油需要が減退する恐れがあるという無難な懸念を含む)まで、理屈はさまざまだ。

もちろん、需要サイドの不確実性以外にも、供給サイドにはロシアという大きなワイルドカードがある。欧州連合(EU)によるロシア産原油の禁輸措置はちょうど2カ月後に発動される。先進7カ国(G7)が提案するロシア産原油の価格上限措置に対するロシア大統領府の反応は予測困難だ。

より大きな問題はOPECプラスの実際の意図ではなく、欧米諸国がこの動きを侮辱と解釈することだ。(中略)

もちろん、このような形で欧米の怒りを買えば、しっぺ返しを食らう可能性はある。ホワイトハウスは5日、OPECプラスの発表について、外国産化石燃料からの脱却が重要である理由を「再確認させるもの」だとし、クリーンエネルギーへの移行に取り組む構えを改めて示した。

これこそ、OPECプラスが今後綱渡りのようなバランス感覚を迫られる点である。足元での原油収入を最大化すれば、欧米は一刻も早く石油から脱却する方法を探し出すだろう。1973年に起きた原油輸出停止は結果的に、米国での燃費基準改善への大きなきっかけとなった。

短期的に見ればOPECプラスに勝ち目のあるゲームでも、あまりに挑戦的なプレーをすれば、長期的には確実に負けにつながることになる。【10月6日 WSJ】
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