孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルゼンチン  インフレ・財政難に苦しむ現状 先進国から脱落した例外国 日本の将来の姿?

2022-10-16 22:34:04 | ラテンアメリカ
(南米アルゼンチンは猛烈なインフレに見舞われている。写真はブエノスアイレス郊外のごみ処理場で、使えるものを探すディエゴさん。10月5日撮影【10月15日 ロイター】)

【年間インフレ率100%ほど 困窮する市民生活】
欧米・日本を含め、世界中で物価上昇が問題になっていますが、アルゼンチンでは“今年の消費者物価指数(CPI)の年間上昇率は100%を突破し、1990年前後のハイパーインフレ期以来となる高い伸びになる見通し”と、状況は深刻です。

****ハイパーインフレのアルゼンチン、ごみ物色や物々交換も****
南米アルゼンチンは猛烈なインフレに見舞われている。暮らし向きが苦しくなった市民は、再利用できるものを探してごみの山をあさったり、物々交換会に参加するするなど、日々の生活を続けるのに必死だ。

今年の消費者物価指数(CPI)の年間上昇率は100%を突破し、1990年前後のハイパーインフレ期以来となる高い伸びになる見通し。ロシアのウクライナ侵攻で悪化したインフレを抑え込む取り組みは世界中で繰り広げられているが、アルゼンチンの物価高騰は突出している。

「もう収入が足りない」と嘆くセルギオ・オマルさん(41)は、首都・ブエノスアイレス郊外ルハンにあるごみ処理場で1日12時間ごみの山をあさる。段ボールやプラスチック、金属などを探し、売っている。

食品価格がこの数カ月間で急騰し、5人のこどもを抱えるオマルさんは家族を養うのが難しくなった。生活が行き詰まり、ごみ処理場で売れるものを探す人は増えているという。

「状況が危機的になり、ここに来る人は2倍になった」とオマルさん。リサイクル可能な廃棄物を売れば、1日に2000−6000ペソ(13─40ドル)を稼ぐことができる。

ロイターの記者は、ごみ処理場でまだ使える衣類どころか食料すら探し回っている男女の姿を目撃した。ごみの山では腐敗した廃棄物から出るガスが突然発火したり、ネズミや野犬、腐肉をついばむ鳥が群れている光景が広がっていた。

アルゼンチンは1世紀前には世界で最も豊かな国の1つだった。しかし、近年は繰り返し経済危機に見舞われ、インフレを抑え続けるのが困難になっている。

紙幣の増刷と企業による値上げの悪循環という従来の問題に、肥料と天然ガスの輸入コスト上昇が追い打ちをかけ、足元の物価上昇ペースは1990年代以降で最も速い。

ロイターのアナリスト調査によると、9月のインフレ率は前月比6.7%と予想され、中央銀行は政策金利を75%に引き上げ、その後も引き締めを続ける可能性がある。

今年上半期の貧困率は36%を突破。極貧層は全人口の8.8%、約260万人に上っている。政府の支援計画がこれ以上の悪化を防いではいるが、国家予算が限られているにもかかわらず、福祉予算の拡大を求める声も出ている。

アルゼンチンがひどい経済危機のさなかにあった2001年にサンドラ・コントレラスさんが立ち上げた「ルハン物々交換クラブ」は最近、再び活動が盛り上がっている。物価高についていけない人々が、古着を小麦粉やパスタと交換しようとやって来る。

「給料が足りず、状況が毎日のように悪化しているから、みんなものすごく必死になっている」とコントレラスさん。「お金がなくて、でも家に何か持って帰らなければいけないから、物々交換するしかない」と説明する。(後略)【10月15日 ロイター】
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“アルゼンチンは1世紀前には世界で最も豊かな国の1つだった”・・・・「衰退途上国」日本の現状も想起されるところですが、その話はまた後で。

アルゼンチンの経済危機は「倹約が苦手」という国民性・国家の体質にも依るとの指摘も。

****アルゼンチンの驚愕のインフレ率:自国通貨に信頼のない国****
昨年まで5年間の累積インフレは200%超え
アルゼンチンの今年のインフレは100%近くになりそうだ。10月5日付のアルゼンチン代表紙のひとつ「クラリン」は9月のインフレが7%に手が届くまでになったことを報じている。また同月までの昨年から1年間のインフレは82.8%になるとしている。

昨年まで5年間のインフレ率は26%(2017)、34%(2018)、53%(2019)、42%(2020)、51%(2021)となっている。

自国通貨に全く信頼を寄せない国
今年インフレが急激な高騰を見せている主因はコロナ禍によるパンデミックの影響による景気の低迷と自国通貨ペソがドルの前に暴落しているということだ。

国民の間で自国通貨への信頼はなく、国民はドルを持ちたがる。また不況になればなるほどドルの需要が高まる傾向にあるからドルは高騰しペソは下落するということになる。

しかも、アルゼンチンは国の規模に比べ輸出量が少ない。その為、外貨が市場で常に不足気味だ。それもドルが高騰する理由のひとつだ。これがすべてインフレを煽る。

倹約が苦手な国
しかも、アルゼンチンは体質的に倹約ができない国だ。だから政府の歳出が歳入を大きく上回るのが常となっている。それを修正するのに倹約して歳出を削減するのではなく新しく通貨を発行する傾向にある。だからインフレはますます上昇する。

余談であるが、これに似たようなことをやっているのが日本だ。財政赤字を国債で補填している。この国債を民間金融機関が引き受けることができなくなる時が必ず来る。その内、日本もアルゼンチンのようになるのが懸念される。

来年もインフレは100%以上
上述紙は2023年のインフレが112%になると指摘している。10月4日付の「アンビト」もJPモルガンが100%を超えると指摘しているのを報じている。

インフレが上昇を続ける理由のひとつに、販売業者は到来するインフレ率を憶測してそれでも損をしないように上積みして価格を設定する傾向にあるということ。

だから、9月が7%のインフレ率となったことから、販売業者は10月はそれ以上に値上がりすると見込んで販売価格を設定するのでより高い価格になる。それが翌月のインフレをさらに煽ることになるというわけである。同様にこのインフレを利用して便乗値上げをする業者もいる。(中略)

倹約の精神はゼロ
そうかといって、国民も政府も倹約する姿勢にない。多くの国民は貯蓄をするのはなく、もっているお金を使う傾向にある。と同時にドルと交換する機会を狙っている。政府は必要な紙幣を刷る。

このような国民性であるから国全体が貧困化に向かっているのは当然だ。実際、現在の国民の4割は貧困者だとされている。子供は5割以上が貧困者だという。

世界でも有数の天然資源の豊富な国であるが、それを1世紀以上もの間生かしきれないでいるのがアルゼンチンだ。【10月13日 白石 和幸氏 AGORA】
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「倹約の精神はゼロ」という国民性・財政規律の緩さもあってか、アルゼンチンはこれまでもデフォルト(債務不履行)を繰り返しています。

昨年5月のは“10回目”のデフォルトの危機にありましたが、これはなんとか凌いだものの、厳しい財政状況が続いています。

****アルゼンチン、デフォルト回避へ模索が続くも、先行きの道のりは険しい*****
アルゼンチンは昨年、パリクラブ向け債務のデフォルトが懸念されたが、返済条件の交渉合意によりデフォルトは回避された。

他方、政権を取り巻く状況は厳しさを増したが、その後もフェルナンデス政権はIMF及びパリクラブとの債務再編交渉を継続させた。

IMFとの交渉は今年1月に基本合意、今月(22年3月)には最終合意に至った。また、今月末に迫ったパリクラブとの債務再編交渉も3ヶ月延長で合意し、デフォルトは回避された。【3月29日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所HP】
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インフレで臣民生活が困窮する情勢で、当然ながら国民の不満は募っています。

****アルゼンチン、数千人がデモ 賃上げとインフレ対策求め****
ブエノスアイレスの中心街で17日、賃上げと失業手当引き上げに向けた政府の対策を求めて数千人が抗議デモを展開した。

消費者物価上昇とペソ相場安が打撃をもたらす中、貧困者の割合は人口の40%に達し、インフレ率は年率70%前後で推移している。フェルナンデス大統領はインフレ対策に苦慮している。

デモ参加者は、大衆救済路線のペロン主義を掲げる正義党(ペロン党)関連の労組や左派グループの人々で、旗を掲げたりドラムを叩いたりしながら市内の大通りを行進。インフレ率に応じた賃上げと、広範囲な経済の痛みを緩和するための社会支出拡大を訴えた。(後略)【8月18日 ロイター】
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昨年11月の上下両院の議会選では与党が敗北し、左派フェルナンデス政権は厳しい政権運営を余儀なくされています。

【先進国から脱落した例外国のアルゼンチン 日本はアルゼンチンの二の舞いか】
そうした苦境にあるアルゼンチンが、最近「衰退」を云々される日本とよく似ているとの指摘が。

****日本が「先進国脱落」の危機にある理由、衰退国家アルゼンチンの二の舞いに?****
アルゼンチンは19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落した国家として知られる。農産物の輸出で成長したが、工業化の波に乗り遅れ、急速に輸出競争力を失ったことがその要因だ。国民生活が豊かになったことで、高額年金を求める声が大きくなり、社会保障費が増大したことも衰退につながった。

時代背景は違うが、似た現象が起きているのが現代の日本である。IT化の波に乗り遅れ、工業製品の輸出力が衰退しているにもかかわらず、社会は現状維持を強く望んでいる。この状況が続けば、アルゼンチンの二の舞いになっても不思議ではない。

かつて対照的な立場にあった日本とアルゼンチンだが…
このところ、「日本が先進国の地位から脱落するのではないか」との指摘をよく耳にするようになってきた。(中略)

社会の近代化が急速に進んだ19世紀以降、先進国として豊かな社会を形成していた国がその地位を失うケースは極めて珍しい。

近代資本主義社会は先行者に圧倒的に有利なシステムであり、欧米を中心に一足先に近代化を実現した国は当初から豊かで、その後も豊かな社会を持続している。後発の国はなかなか豊かになれず、先行した国が脱落することもなかった。

だが、この常識に当てはまらない国が世界に2つだけある。それが日本とアルゼンチンである。(中略)

アルゼンチンの経済規模はタイやマレーシアと同程度
両国の経済レベルに目を向けると、現時点におけるアルゼンチンの1人当たりGDP(国内総生産)は約1万ドルで、日本の4分の1である。東南アジアの新興国としては比較的豊かな部類に入るタイは約7800ドル、マレーシアは1万1000ドルなので、アルゼンチン経済は豊かな新興国と同水準と考えれば分かりやすいだろう。

だが、戦前のアルゼンチンは今よりもはるかに豊かであり、先進国とみなされていた。1910年におけるアルゼンチンの1人当たりGDP(90年ドル換算)は3822ドルと、英米仏独4カ国の平均値である4037ドルとほぼ同じ水準となっており、旧宗主国であるスペイン(2175ドル)を大幅に上回っていた。(中略)

戦前のアルゼンチンは日本よりも圧倒的に豊かであり、欧米先進国と同等かそれ以上の生活水準だった。ところが、欧米各国が戦後さらに成長ペースを加速させたのとは対照的に、アルゼンチンの成長は一気に鈍化し、今では完全に衰退国となっている。(中略)

アルゼンチンが突然の衰退背景にある英国との関係
戦前のアルゼンチン経済を牽引していたのは食料の輸出である。社会の教科書で習ったように、アルゼンチンにはパンパと呼ばれる高大な平原があり、当時としては農業の生産性が圧倒的に高かった。アルゼンチンは欧州各国に大量の小麦を輸出し、その後は牛肉も加わり、圧倒的な輸出大国となった。その背景には英国からの投資がある。(中略)

1890年以降、アルゼンチンは圧倒的な食料輸出を背景に貿易黒字が続いており、豊富な外貨(当時はポンド)を保有していた。英国はアルゼンチンに積極的に投資を行ったので、アルゼンチン経済は発展を続けた。

アルゼンチンの人々は、諸外国から多くの製品を輸入し、消費生活を楽しんだ。同国の首都であるブエノスアイレスは美しい街として知られるが、多くの建物は当時に建設されたものである。

社会保障費の増大や政治的な問題も衰退要因に
だが世界恐慌以後、各国が工業化に向けて動き出したことで、アルゼンチン経済の変調が始まる。農業と比較すると工業の生産性は圧倒的に高く、相対的にアルゼンチンの輸出は不利になってきた。

同国も工業化投資を行ったが、それは新しい輸出産業を育成するというよりも、輸入によって賄っていた製品を自国産に切り換えるという輸入代替としてのニュアンスが強かった。このため、かつての食料に代わる高い輸出競争力を持つ産業の育成がうまくいかず、貿易赤字を計上する年が増えてきた。
 
一方で、国民生活が豊かになったことで、高額な年金を求める声が大きくなり、社会保障費の増大という問題が発生したほか、農業資本に代表される既得権益者が工業化などの諸改革を拒むなど、政治的な問題も起きた。これらが凋落の要因として大きかったといわれる。

第2次大戦と前後してアルゼンチンは激しいインフレ(というよりもスタグフレーション)に陥り、経済の衰退が目に見えて明らかになってきた。こうした状況で、戦後のアルゼンチンの政権を担ったのは強権政治とポピュリズムで知られるペロン大統領である。

ペロン氏は、ナチスドイツの思想に共鳴しており、政権の座に就くと産業の国有化などナショナリズムを前面に出した政策を推し進め、労働組合を取り込み、広範囲な賃上げを実現した。一時はこうした政策が功を奏したが、国有化した産業の競争力は急激に低下し、アルゼンチンの経常収支は赤字体質が定着した。

政府が国内産業の保護を続けたことから、経済はさらに非効率になり、何度もインフレを繰り返すという慢性的なインフレ国家に変貌した。その後、80年代には新自由主義的な構造改革も実施されたが、うまくいかず、ペロン氏の死去から50年近く経過した今でも同国経済は不安定な状態が続いている。

日本とアルゼンチンの状況は実はよく似ている
アルゼンチンと日本は時代背景も産業構造も異なるが、衰退のプロセスはよく似ている。

日本経済は戦後、工業製品の輸出で経済を成長させたが、90年代以降、日本の輸出競争力は急激に衰えた。世界全体の輸出に占める日本のシェアは80年代には8%とドイツに並ぶ水準だったが、現在ではわずか3%台にとどまっている。

日本の製造業が凋落した最大の原因は、全世界的な産業のパラダイムシフトに乗り遅れたことである。90年代以降、ITが急激に進歩し、世界の主力産業は製造業から知識産業に移行したが、日本はこの流れを見誤り、ハード偏重の従来型ビジネスに固執した。

IT化の波に乗り遅れたという点では、国内のサービス産業も同じである。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本におけるIT投資水準は横ばいで推移する一方、米国やフランスは投資額を約4倍に増やしている。

IT化が進まないと業務プロセスのムダが温存され、生産性が伸びない。IT投資を成功させるためには人材投資も並行して行う必要があるが、日本企業における人的投資の水準は先進諸外国の10分の1しかなく、状況をさらに悪化させている。

豊かになった国民が社会保障の維持を強く求めていることや、競争力の低下に伴う国産化(工場の国内回帰)への過度な期待、ナショナリズムの勃興など、アルゼンチンと日本の共通点は多い。

日本がこのまま手を打たなければアルゼンチンの二の舞いになる
では、日本がこのまま何も行動を起こさず、アルゼンチンと同じ道のりをたどった場合、私たちの生活はどうなるだろうか。結論から言えば、貧富の差が広がり、激しい格差社会になる可能性が高い。

先ほど、現在のアルゼンチンの生活水準は、豊かな東南アジアと同程度であるという話をした。タイやマレーシアの人たちは、今ではかなり豊かな生活をしているので、この程度であれば悪くないと思った人もいるだろう。だがそれは、あくまでも表面的な印象にすぎない。

日本がアルゼンチンと同程度まで経済が衰退したとしても、相応の仕事に就き、平均以上の年収を得ている人にとっては、何とか我慢できる生活水準かもしれない。だが、平均値の低下は、大抵の場合、格差の拡大と同時並行で進んでいく。

アルゼンチンは経済の低迷によって何度も年金制度の再構築を余儀なくされている。経済が低迷すると、最初に打撃を受けるのは貧困層や高齢者である。(中略)

また、日本の相対的貧困率は15.7%と先進国としては突出して悪い数字になっていることはよく知られている。統計が異なるが、アルゼンチンはコロナ危機前の段階で20%台後半となっており、コロナによってさらに悪化したといわれる。

アルゼンチンの場合、非正規労働者や自営業の比率が高く、こうした人たちは社会保障の枠組みに入っていない可能性が高い。日本においても同様に、時代に合わない年金制度や非正規社員の増加、貧困化の進展や格差拡大などが問題視されている。これらを放置すれば、日本はよりアルゼンチンに近づくことになる。

仮に日本が衰退しても、「豊かなアジア各国と同水準なら良し」とするのか、「激しい格差社会になり果てるのは到底受け入れがたい」と考えるのかは、人それぞれかもしれない。だが平均値の低下というのは、目に見えない部分で、国民に相当な苦難をもたらすことは確かだ。【2月7日 加谷珪一氏 DIAMONDonline】
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