孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ産穀物輸出滞留 合意の延長交渉を前にロシアの圧力か 「来年も記録的な飢餓リスク」(WFP)

2022-10-25 22:50:47 | 食糧・飢餓
(ウクライナから穀物を運び出す貨物船(9月、トルコのイスタンブール)=ロイター【10月25日 日経】
9月始めに、ちょうどこのあたりを観光でクルーズしていましたが、そのときはウクライナからの穀物輸出のことなど念頭にありませんでした)

【イスタンブール 貨物船検査の遅れでウクライナ産穀物輸出が滞留 ロシアは合意離脱を警告】
今年の春から7月頃まで、世界的に大きな関心が寄せられていたのが穀物輸出大国ウクライナからの穀物輸出がロシア軍の海上封鎖などでストップし、同様に穀物及び肥料の輸出大国でもあるロシアも制裁等で輸出が滞り、ウクライナ・ロシアに食料を依存してきた多くの国々が食糧危機にさらされていた問題でした。

欧米では「ロシアが食糧を“武器”として使っている」との批判が高まりました。

その後、トルコの仲介もあって、7月22日に関係国が合意文書に署名することに。

****ウクライナ穀物輸出の再開合意、ロシア側に一定の配慮か…米は速やかな履行求める****
ロシア軍の黒海封鎖によりウクライナ産穀物の輸出が停滞している問題で、ロシア、ウクライナ、トルコ、国連の4者が22日、イスタンブールで海上輸送再開に向けた合意文書に署名した。各国は歓迎しているが、ロシアに確実な合意履行を求める声も出ている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日のビデオ演説で、「合意内容はウクライナの利益に全てかなうものだ」と評価し、昨年収穫した約2000万トンと、今年の収穫分で100億ドル(約1兆3800億円)相当の穀物の輸出が可能になるとの認識を示した。

国連のアントニオ・グテレス事務総長は署名式で「(食糧危機で)破綻にひんしている途上国に安心をもたらす」と語り、穀物価格の安定化などにつながると強調した。

インターファクス通信によると、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は署名式後、「ロシアは合意文書で十分明確に示された義務を負った」と述べた。一方、米国のブリンケン国務長官は22日の声明で「合意の履行が速やかに開始され、中断や妨害なしに進むことを期待する」とくぎを刺した。

合意にはロシア側の要求が一定程度盛り込まれた模様だ。ウクライナの穀物輸出拠点のオデーサ、チョルノモルシク、ユジニの計3港からの航路が確保され、輸送対象は、ウクライナ産穀物と食料に限定された。

航路の安全を維持するためイスタンブールに設置される「調整センター」が積み荷を検査する。ロシアは航路を通じてウクライナに武器が輸送されることを警戒しており、露側の条件に従ったものとみられる。

国連も合意の見返りをロシアに示した。露国防省は22日、ショイグ氏とグテレス氏が会談し、ロシア産の農産品と肥料の供給を促進することに関する協力覚書に署名したと発表した。

露産肥料などの輸出促進はウクライナからの穀物搬出と合わせた「パッケージ」として国連が合意を目指していた。

国連によると、国連貿易開発会議(UNCTAD)のレベッカ・グリンスパン事務局長の下に作業チームを設置し、加盟国や、金融、保険、物流などの民間部門と調整するという。【7月23日 読売】
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合意署名翌日の23日には、ウクライナ南部オデッサの港がロシア軍のミサイル攻撃を受けるなどの問題もありましたが、とにもかくにもウクライナ産穀物の輸出再開への道筋がひらけたことで、世界の関心も薄れていったようにも。

しかし、必ずしもウクライナ産穀物の輸出が順調に進んでいる訳ではないとの報道が。

****貨物船165隻超が足止め ウクライナ、ロシアを非難****
ウクライナ政府は24日、穀物の積み込みのため同国の港に向かっているトルコ発の貨物船165隻超について、ロシアが入港を故意に遅らせていると非難した。

ウクライナ外務省によると、ロシア側の検査官が貨物船の検査を大幅に長引かせている。その結果、「165隻超の船舶がボスポラス海峡付近で待機を余儀なくされており、その数は日を追うごとに増えている」という。

同省は、検査の遅れのためすでに300万トンの穀物が滞留しており、約1000万人分の食糧安全保障が脅かされていると警告した。

ウクライナ産穀物の輸出再開をめぐっては、世界的な食糧危機への懸念緩和に向けてトルコと国連の仲介によってロシアと合意。船舶の検査は合意に基づき実施されている。

合意の履行状況を監視するための共同調整センターによれば、合意が発効した8月1日以来、850万トンを超える穀物・食料品が欧州や中東、アフリカに向けて出荷された。 【翻訳編集】AFPBB News
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イスタンブールの国連広報官も24日現在で未登録も含めて計173隻が待機していることを認め、「船の遅れによって食糧供給や港での作業が途絶しかねない」としています。

また、合意の有効期間120日の期限が来月に迫っており、ロシアが延長に応じるかどうかが現在の焦点ともなっています。ウクライナ側は「ロシアが延長交渉で新たな利益を引き出そうとしている」と批判しています。

ロシアは合意の際、ロシアの肥料や穀物の輸出も円滑に進めるとする覚書を国連と交わしており、その実現状況をロシア側がどのように評価するかが延長交渉に影響します。

検査作業の遅延も、そうした延長交渉に向けた圧力とも推察されます。ロイター通信によると、ロシアは合意離脱を警告しています。事態に国連も危機感を深めています。

****国連、黒海輸出協定の滞留解消に向けた「緊急」措置求める****
国連の報道官は24日、黒海を経由するウクライナ産穀物輸出に関する協定に関わる150隻超の船の滞留を解消するため、「緊急」の措置が必要だと訴えた。

協定の完全な履行をロシアが妨げているとウクライナが非難していることを受けた発言となる。ロシアはこの協定に不満を示し、離脱すると脅している。

ウクライナを発着する穀物やその他の食料を運ぶ船舶はトルコの停泊地で、4者で構成する共同調整センター(JCC)のチームによる検査を受ける必要がある。

パラ国連報道官は「現在はイスタンブール周辺で150隻超の船舶が移動を待っており、こうした遅れは供給網や港の操業に混乱をもたらす可能性がある」と指摘した。

パラ氏によるとJCCは最近、検査チームを5つに増やした。

ロイターは先月、滞留が急増し、マルマラ海の停泊船がイスタンブールから視界に入らない沖合まで伸びていると報じた。

ロシア、ウクライナ、仲介のトルコと国連の4者は現在、協定の期限である11月19日以降の延長、拡大の可能性について交渉している。

パラ氏は「国連は毎日関係者を集め、(協定への)完全かつ誠実な参加、供給網が混乱しないような緊急の追加措置の必要性、そしてこの事業が必要な食料をより多く世界に届け続けることを訴えている」と説明した。【10月25日 ロイター】
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【ウクライナ産穀物の輸出は中東・北アフリカに特に影響】
ウクライナからの穀物輸出の影響を最も大きく受ける地域は、以前から指摘されているように中東・北アフリカです。食糧供給が滞れば政情不安を惹起します。また、紛争国への国際的食糧支援もウクライナ産穀物が大きな割合を占めています。

****ウクライナ危機「中東・北アフリカに特に影響」 WFP****
ロシアによるウクライナ侵攻が引き起こした世界的な食料危機について、国連機関は特に中東と北アフリカ地域で深刻になっているとして国際社会による支援の継続を訴えました。

WFP フライシャー 中東・北アフリカ・東欧地域局長  「価格高騰によって中東の人々は食卓に食べ物を並べることができません」

WFP=世界食糧計画の中東・北アフリカ地域の担当者らは12日、日本記者クラブで会見し、ロシアの黒海封鎖でウクライナ産穀物の輸出が滞ったことにより、食料の多くを輸入に頼る中東や北アフリカ地域が特に影響を受けていると強調しました。

これらの国々では穀物輸出が再開されたあとも通貨安によって調達コストがかさんでいると指摘。「飢饉が再び起こりかねない」などと訴え、国際社会による継続的な支援を呼びかけました。

また、これらの地域ではウクライナ情勢だけでなく長年にわたる紛争や新型コロナウイルスの感染拡大などによって、インフレや飢餓に陥っていると指摘。

イラク事務所の代表は、一因として気候変動問題を取り上げ、雨量の減少によって農業ができなくなった人々が都市部のスラム街に押し寄せていると窮状を訴えました。【9月13日 TBS NEWS DIG)】
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【世界的な食糧危機が長期化する恐れ 「来年も記録的な飢餓リスク」】
世界の食糧危機にとってウクライナ情勢はひとつの要因にすぎず、その他の天候・災害あるいは政情不安・紛争などによっても危機は深刻化しますが、現状は「来年も世界的に記録的な飢餓に陥るリスクがある」(WFP)という悲観的な状況のようです。

****「来年も記録的な飢餓リスク」 食糧危機長期化にWFPが警告****
ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、世界的な食糧危機が長期化する恐れが強まっている。両国の穀物輸出が減少しているうえ、アジア・アフリカ諸国では肥料価格の高騰や洪水などの災害により農業生産が落ち込むとみられるためだ。国連世界食糧計画(WFP)は「来年も世界的に記録的な飢餓に陥るリスクがある」と警告し、さらなる支援を呼びかけている。

「ウクライナ侵攻による大きな問題は、肥料不足だ。来年にわたり食糧や換金作物の生産に影響するだろう」。WFPのクリス・ニコイ西アフリカ地域局長は24日、東京都内で日本メディアの取材に対し、危機感をあらわにした。

ロシアは化学肥料の主要輸出国だが、ウクライナ侵攻の影響で価格が高騰。西アフリカでは作付けが始まった4月時点で、通常の42%しか肥料が行き渡らなかったという。収穫量が減れば食糧危機に拍車がかかることになる。

アフリカ諸国では食糧の購入費を稼ぐため、出稼ぎに行く人も増えているという。だが、農業の担い手が農地を離れれば、農業生産の減少につながりかねない。ニコイ氏は「武力紛争も拡大しており、人の移動や生活の崩壊につながっている。農業や食糧輸送にも影響している」と懸念する。

災害や政情不安も食糧危機を加速させている。アフリカ諸国にも米を輸出していたパキスタンでは今夏、大雨による大規模な洪水が発生した。WFPのジョン・アリフ・アジア太平洋地域局長によると、少なくとも米の15%が被害を受けた。

アリフ氏は「輸出量が激減しても驚きはない」と指摘する。小麦も作付けシーズンを迎えたが、被災地では農作業が始まっていない地域も多いという。

アフガニスタンでは昨年8月、イスラム主義組織タリバンが復権し、政治や経済が混乱した。食糧危機も深刻さを極めており、国民の9割が十分な食事を取れていない状態が続く。

治安が安定したことでWFPの支援は全34州に届くようになったものの、タリバンが女子教育を制限しているため、学校給食の支援に影響が出ているという。

経済危機が続くスリランカでも食糧価格が前年比90%増に達し、国民の3割が食糧不足に苦しんでいる。こうした国々では医療費や教育費を取り崩したり、腎臓を売ったりして食糧購入に充てている人も少なくない。

家畜や農機具など、食糧生産に必要なものを売らざるを得ないケースも相次いでおり、食糧不足がさらなる農業生産の減少を招きかねない状況だ。

WFPによると、世界で深刻な飢餓に直面している人は昨年末時点では2億8200万人だったが、2022年はすでに過去最多の3億4500万人に増えた。

アリフ氏は日本が来年5月に広島で開かれる主要7カ国(G7)首脳会議で議長国を務めることに触れ、「WFPと日本はあらゆる面で協力を深めてきた。G7でも食糧問題にフォーカスしてくれると信じている」と訴えた。【10月25日 毎日】
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【食糧不安の状態は82カ国3.5億人にのぼり、そのうち45カ国で最大5000万人の命が風前の灯】
上記記事にもある西アフリカの状況については、以下のようにも。

****WFP担当者「西アフリカは最悪の食料危機」 日本に支援を呼びかけ****
世界的な食料価格の高騰が続く中、WFP(=国連世界食糧計画)の担当者が来日し、ロシアのウクライナ侵攻の影響で「西アフリカは過去10年で最悪の食料危機に陥っている」と訴え、日本に支援を呼びかけました。(中略)

国連世界食糧計画・西アフリカ地域局長クリス・ニコイ氏「ロシアとウクライナの戦争は、ただでさえ劣悪な西アフリカの食料事情をさらに悪化させた」

ニコイ氏は、世界がいま気候変動と紛争、新型コロナウイルス、食料と燃料コストの急激な上昇、という「4つのC」に直面していると警鐘を鳴らします。

中でも、西アフリカ地域では輸入のおよそ4割をロシアとウクライナからの製品などが占めていて、長期化する戦争がこの地域の食料供給に大きな打撃を与えているということです。

また、会見後に日本テレビのインタビューに応じたニコイ局長は、食料不安の要因の一つである気候変動が主に先進国によって引き起こされているとして、次のように訴えました。

国連世界食糧計画・西アフリカ地域局長クリス・ニコイ氏「親切心や寛大さからだけでなく、西アフリカのような場所で何が起こっているのか、日本人は自分のこととして関心を持つ必要がある」

WFPによりますと、西アフリカでは来年、食料危機に直面する人がさらに1000万人増える可能性があるということです。【10月24日 日テレNEWS】
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もちろん、飢餓の危機は西アフリカだけではありません。アフガニスタン、エチオピア、南スーダン、ソマリア、イエメン・・・・。

****WFPとFAO、世界的な食糧危機に警告****
世界食糧計画(WFP)と世界食糧農業機関(FAO)は、記録的な数の人々が飢餓に直面しているとして緊急人道支援の必要を訴えている。すでに以下の6カ国においては致命的な飢餓状態、または災害レベルの危機に9.7万人が瀕している。

アフガニスタン、エチオピア、南スーダン、ソマリア、イエメンにおけるこの数値は、5年前の10倍に上る。暴力と治安の問題をはらむナイジェリアの飢餓もまた同様の危機にある。

WFPとFAOの報告によれば、2022年10月から2023年1月までに失われる人命喪失の危機に対応するため、緊急人道支援は不可欠であり、そのための資金援助を呼び掛けている。

昨年末の時点で、すでに2.8億人が食糧不安の状態にあったが、現在その数は82カ国3.5億人にのぼり、そのうち45カ国で最大5000万人の命が風前の灯となっている。

WFP分析部門の発表は、このように語る。「世界は前例ない規模の食糧危機に直面している。現代史上最大の規模であり、今すぐ行動に移さなければ、数百万人が飢餓と死に直面する危機的状況にある。この危機が全世界の食糧事情と関連機関の対応能力を超える可能性は、いまや現実のものだ」

ソマリア、エチオピア東部と南部、ケニア北部と東部では、最大2600万人が深刻な食糧不安と飢餓に直面すると予想されている。資金と人材ふくむ資源不足が人道支援の妨げとなっている。

とくにソマリアは、この10年で3度目の飢饉に晒されている。気候変動による影響で干ばつが常態化しており、5年連続で雨季の喪失が予測されている。それにもかかわらず食糧価格は高騰し、パンデミック後の収入機会の見通しが立っていないからだ。

またコンゴ、ハイチ、ケニア、サヘル、スーダン、シリアは懸念地域としてみなされている。状況が悪化すれば、人命を脅かす段階へと移行する地域である。

その他、地域紛争と暴力が飢餓の主たる要因となっている。洪水、熱帯性暴風雨、干ばつなどの極端な気候も多くの地域での潜在的危機であり、飢餓対策においても「ニューノーマル」が掲げられる必要がある。【10月24日 Hunger Zero】
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