孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア  増え続けるコカ栽培 左派大統領「アメリカ主導の麻薬戦争は失敗した」

2022-10-21 23:23:22 | ラテンアメリカ
(コロンビア・カタトゥンボのコカ農園の収穫の様子(2022年8月20日撮影)【10月21日 AFP】)

【左翼ゲリラや麻薬組織、右派民兵組織、軍が関与した暴力事件が頻発し、世界第3位の国内避難民】
8月9日ブログ“中南米 「第2のピンクタイド」 コロンビアも左派政権へ 各国政権で多様性も 低下する米の影響力”で、中南米において「第2のピンクタイド」が起きており、2000年代初頭の「ピンクタイド」で右派・親米政権を維持していたコロンビアも左派政権に転じたことを取り上げました。

「ピンクタイド」とは次々に左派政権が成立している現象ですが、多くの国では「共産化」するほど過激ではないことからレッドではなくピンクという表現が用いられています。

****ピンクタイドの特徴****
「ピンクタイド」とは、このように2000年前後に中南米地域の多くの国において次々に右派政権から左派政権に変わった現象のことを示している。

左派政権における政府は、各国で程度の違いはあったもののアメリカやIMF、世界銀行による介入を批判し反ネオリベラリズムや反帝国主義を掲げた。

そして、政策としては格差を減少させ、貧困問題の改善に取り組むことを目指した。また、複数の国の経済では西欧諸国の社会民主主義を掲げ、自由市場経済と福祉国家の両立を目指した。【2020年2月13日 GNV Saki Takeuchi氏「中南米:揺れ動く政治体制」】
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「ついにコロンビアも・・・」と注目されたコロンビアでは、過去60年間、左翼ゲリラや麻薬組織、右派民兵組織、軍が関与した暴力事件が頻発しています。

****コロンビア、3日で17人死亡 暴力事件相次ぐ****
コロンビアで暴力事件が相次いでいる。当局によると、10日から12日にかけて少なくとも17人が殺害された。

北部の都市バランキジャで12日朝、バーにいた客6人が、銃を持った集団に撃たれて死亡した。
警察は、国内最大の麻薬密売組織「クラン・デル・ゴルフォ」のメンバーがライバル組織「コステニョス」を襲ったとしている。

北部サンタンデル県では、11日朝、教師と妻・子どもの4人が複数人に襲われて亡くなった。その後、ベネズエラからの移民5人が一家殺害に関与した疑いで住民にリンチされ死亡した。

地元の首長は国営ラジオに出演し、犯人は「ベネズエラ出身者」で、「金品を盗む」目的で被害者を刺殺したと述べた。負傷した使用人が近隣住民に助けを求めたところ、住民が移民5人を「処刑」したという。

北東部アラウカ県でも11日夜から12日にかけて、先住民の警備隊員1人が殺害された。状況は明らかになっていない。

10日夜には、北東部の川沿いの街バランカベルメハで、労働組合の指導者がバイクに乗った2人組に銃で撃たれて亡くなった。

コロンビアでは過去60年間、左翼ゲリラや麻薬組織、右派民兵組織、軍が関与した暴力事件が頻発している。 【9月13日 AFP】
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麻薬組織が横行し、治安が極度に悪く、日本では想像できないほどの殺人が日常茶飯事に起きているのは、多くの中南米諸国に共通した話で、コロンビアだけが・・・という訳ではありません。

特にコロンビアでは、麻薬組織だけでなく、左派ゲリラ組織、それに対抗する右派民兵組織、更には政府軍が入り乱れて、麻薬利権などをめぐって争っている状況が続いており、アメリカの支援を受けて麻薬撲滅を進めてきたはずですが事態は改善していません。

その結果、コロンビアでは国内避難民が523万人と、シリア(666万人)、コンゴ民主共和国(534万人)に次いで、世界でも3番目に多い国となっています。【数字はGLOBAL NOTEより】

上位に並んでいるのは上記の他、アフガニスタン、イエメン、エチオピア、ナイジェリア、スーダン、ソマリア・・・と、いずれも紛争を抱える“さもありなん”と思われるような国ばかりで、その中にコロンビアが3位にランクされているのは奇異な感じも受けますが、それだけ国内の左翼ゲリラや麻薬組織、右派民兵組織、軍による暴力が凄まじいということでしょう。

資金源という形で、そうした状況の基盤にあるのがコカなどの麻薬栽培・麻薬製造です。

【コロンビア左派大統領 「アメリカ主導の麻薬戦争は失敗した」】
今年8月に就任したコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領は国連演説で、これまでの政権がアメリカの協力で進めてきた「コカイン戦争」が失敗に終わったこと、コカインがなくならないのはコロンビアのせいだけではなく、アメリカなどコカイン消費国や資本主義の構造もコカインを支えていると訴えました。

****コロンビア左派大統領の演説に賛否 第77回国連一般討論演説****
9月21日から第77回目となる国連総会がニューヨーク国連本部で開かれています。今年8月に就任したばかりのコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領はコロンビア史上初の左派大統領として、初めて国連総会に参加しました。

一般討論演説では日本やアメリカを含む多く国がロシアのウクライナ侵攻に対する批判をメインのテーマとして演説を行なっていく中で、ペトロ大統領はコロンビアが現在直面している「戦争」にフォーカスし演説を進めていきました。

ペトロ大統領の演説は麻薬戦争・アマゾン破壊・天然資源の3つがテーマとなっており、これらが原因でコロンビアでたくさんの自然が侵され人の命が奪われていると訴え、各国に援助を求めました。
 
失敗したコカイン戦争
コロンビアは残念ながら世界最大のコカイン生産国であり、世界のコカイン供給量の70%をコロンビアが占めていると言われています。

コカイン生産はコロンビアに存在する多くの武装グループの資金源となっており、コカインの生産を止めるためにはこれらの組織と対立しなくてはなりません。

今まで他国からの資金援助を受け様々な方法でコカ畑撲滅作戦を行なってきたコロンビアですが、撲滅どころか生産量は年々増えていくばかりです。ペトロ大統領は演説の中でこう述べました。

「森に毒を巻き散らかし、男たちを牢屋にいれること以外あなたたちは私たちの国に興味がないのでしょう。子供の教育ではなく、あなたたちが興味があるのはジャングルを殺し石炭や石油を持ち出すことなのです。」

コロンビアは長い間アメリカと手を組み麻薬撲滅に取り組んできました。その中で主に行われてきた除草剤(グリホサート)を使用しコカの畑を枯らすという方法は、現地の農民たちの健康を脅かすだけでなく、土が死に作物が育たなくなるため農民たちが生計を立てることができなくなってしまうという理由から国民からたくさんの反対の声が上がっています。

実際コカの葉を栽培している人物は麻薬組織ではなく貧しい農民たちで、除草剤を使って彼らを追い込んだところで麻薬組織は痛くも痒くもないのが現状でしょう。

「薬物中毒の原因はコロンビアの自然ではありません。世界の権力の不合理さなのです。」
コカインがなくならないのはコロンビアのせいだけではなく、コカイン消費国や資本主義の構造もコカインを支えているとペトロ大統領は訴え、各国に協力を求めました。

「私の傷ついたラテンアメリカから不合理な薬物戦争を終わらせることを要求します。薬物の消費を減らすのに必要なのは戦争ではなく、みんなでより良い社会を構築することです。薬物を減らしたいですか?それでしたら利益ではなく、もっと愛について考えましょう。合理的な権力行使について考えてみてください。」

止まらない環境破壊
「皆さん、あなたたちが戦争をしてそれで遊んでいる間にジャングルは燃えているのです。世界の気候の柱となるジャングルはその生命とともに姿を消しています。二酸化炭素を吸収する巨大なスポンジは蒸発していっているのです。」

過去10年間、毎年コロンビアの保護地区の森1,5%が、放牧やパーム油の栽培などを目的に伐採され消滅していると言われています。2022年第一四半期の森林伐採は昨年同時期より10%も増加しているのに加え、伐採面積は年々過去最大を更新し続けています。

2016年コロンビア政府はゲリラ軍FARCと平和協定を結び、それによって解体されたFARCのメンバーたちが身を潜めていたジャングルをあとにしました。それまでFARCに対する恐怖からジャングルに踏み込むことができなかった違法業者たちが野放しになったジャングルに次々と足を踏み入れ、違法伐採や違法採掘を繰り返し、アマゾンをはじめとするコロンビアの自然破壊は平和協定を境に異常なスピードで増えていったのです。(中略)
  
お金と権力への依存
「偽善者たちは自分たちの社会の失敗を隠すためにコカインを排除している一方で、私たちに次々と石油と石炭を要求してきます。消費、権力、お金という他の中毒を落ち着かせるために。」

ペトロ大統領は新規石油プロジェクトの禁止を公約に掲げたり、税制改革で石油・石炭の輸出へ課税をかけるなど、脱炭素化に非常に意欲的な姿勢をみせています。

フラッキングなどによる石油採掘によってコロンビアの自然が侵されている一方で、石油や石炭の依存から抜け出せない先進国はコロンビアに環境保護を求めている。今回のペトロ大統領の演説は、先進国に対する皮肉に溢れているように感じました。

「真実を隠すことで、ジャングルと民主主義が死んでいくことを目撃することになるでしょう。薬物戦争は失敗、気候変動の戦いも失敗したのです。薬物の使用は増加し、私の国や大陸でたくさんの人が虐殺され、社会的罪悪感をジャングルとコカインのせいにして何千もの人が牢屋に入れられました。そしてその穴をスピーチと政策で埋め合わせるのです。」

コロンビアからニューヨークに向かう飛行機の中でペトロ大統領自身が書き上げたという強気な演説に対して、コロンビア国民からは「自国の問題を他国のせいにするなんて恥ずかしい!」と演説内容を非難する意見と、「よくぞ世界の偽善者にバシッと言ってくれた!」と支持を表す意見の両方があるようですが、これを聞いた世界の権力者たちがこれからどの様にコロンビアと共にこれらの問題に立ち向かっていくのかが非常に興味深いところです。【9月26日 松尾彩香氏「日本人コーヒー生産者が語るコロンビア」 Newsweek】
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【コカ栽培面積は過去最大を更新】
実際、コカ栽培は減るどころか、年々増加しています。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は20日、コロンビアの昨年のコカ栽培面積が前年比43%増の20万4000ヘクタールで「歴史的水準」に達したと発表しました。ほぼ東京都の面積に相当する免責です。そこからは過去最大の推定1400トンのコカインが生産できるとのことです。

****コロンビアのコカ栽培面積、過去最大****
世界有数のコカイン生産国コロンビアで、2021年のコカ栽培面積が20万4000ヘクタールと過去最大を更新したことが、20日に公表された国連薬物犯罪事務所の報告書で明らかになった。同国政府は、米国が主導する麻薬戦争の「失敗」だと強調している。

UNODCによると、コロンビアの21年のコカ栽培面積は、前年の14万3000ヘクタールから43%増の20万4000ヘクタールとなった。栽培面積は14年以降、拡大傾向が続いている。

コカイン生産量も20年の1010万トンから昨年は1400トンに増加した。主に米国と欧州向けだという。

ネストル・オスナ法相は、首都ボゴタで行われた報告書の発表で、これらの数字は米主導の麻薬戦争が失敗だったことの明確な証拠だと指摘した。

左派のグスタボ・ペトロ大統領は、新政策の一環で、麻薬取引を止める意思があり、自首してきた麻薬密売人に対しては恩赦を認めることも検討している。

小規模農家については、麻薬組織に頼らずに生活できるよう、合法的な作物への転作を支援する方針も掲げている。 【10月21日】
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アフガニスタンのケシ栽培も同じような話が。
コカにしてもケシにしても、“合法的な作物への転作”が基本ですが、これがなかなか進まないのが実態。コカやケシのように収入をあげられる作物がなく、結局コカ・ケシ栽培に・・・。
手厚い政府の指導・保護が必要ですが、そうした対応ができないことがコロンビアやアフガニスタンの現状をもたらしているとも言えます。

【麻薬の合法化論議】
「違法」な状態にあることが莫大な利益をあげ、その利権をめぐる争いを惹起しているのであれば、いっそのこと合法にしてしまえば・・・という話も。
コロンビア・コカ栽培についても8月段階で、そのような報道もありました。

****コロンビア政権、コカイン合法化検討か=カルテル資金源断ち流通制御―米紙****
米紙ワシントン・ポストは23日までに、南米コロンビアの左派ペトロ政権が麻薬カルテルの資金源を絶ち、流通を制御するためコカインの合法化を検討していると伝えた。

コロンビアは世界最大のコカイン生産国。左派初の大統領に今月就任したばかりのペトロ氏は「(力で抑え込む米国主導の)麻薬戦争は失敗に終わった」と断じ、発想転換を訴えている。

同紙によると、ペトロ政権の麻薬担当高官は「もし公共の市場のようにコカインを扱えば高い利潤はうせ、麻薬密売も消滅する」と指摘。流通を政府の管理下に置く構想を明かした。

米国の一部の州やウルグアイなどでは、同じ理由で嗜好(しこう)目的のマリフアナを合法化している。 【8月23日 時事】
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しかし、直後にコロンビアの法相が「政府がコカインを合法化することはない」と明確に否定しています。

なお麻薬問題については、消費国における依存症対策としても、違法行為として刑務所に送り込むと脅すよりは、非犯罪化して治療体制を拡充して治療が受けやすい環境を作ったほうがベターという考えもあります。

****マリファナ以外の合法化も加速、薬物問題は「犯罪ではない」という国民の選択に揺れる米国****
(中略)
(2020年のアメリカ)大統領選と同時に実施された住民投票で、、ワシントンD.C.ではシロシビン(マジックマッシュルーム成分)の使用が非犯罪化され、オレゴン州の有権者は画期的なふたつの改革法案に賛成した。その法案とはシロシビンによる治療を合法化する法案109と、コカイン、メタンフェタミン、オピオイドといった薬物の個人所有を非犯罪化する法案110である。(中略)

法案110の可決にともない、オレゴン州で違法薬物を所持している者は、認定薬物アルコールカウンセラーのもとで健康診断を受けるか、罰金100ドル(約10,512円)を収めるかのいずれかに問われることになる。

今回の法改正では、カンナビスからの税収や非合法化による司法関連の経費節減分は、薬物依存治療の財源に充てることになっている。つまり、薬物問題に対するオレゴン州全体の反応を再考し、薬物問題を刑事司法ではなく公衆衛生の案件とするわけだ。(後略)【2020年11月17日 WIRED】
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もちろん、こうした考えには賛否両論あります。
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