(12月16日 ブリュッセルで開催されたEU首脳会議で、自国の主張を譲らなかったドイツ・メルケル首相 “flickr”より By europeanpeoplesparty http://www.flickr.com/photos/eppofficial/5266430509/ )
【エストニア:「小さな国が独自の通貨を持つのはぜいたくだ」】
ギリシャ、アイルランドの財政破たんで揺れる欧州経済・欧州単一通貨ユーロですが、今後もポルトガル・スペインの信用不安が拡大することが予測されており、前途に大きな問題を抱えています。
単一通貨ユーロに参加した場合、自国通貨切り下げによる輸出促進という方策がとれないという問題もクローズアップされています。
それでもエストニアは、単一通貨ユーロへの参加による為替変動リスクを回避するメリットの大きさから、来年1月から欧州単一通貨ユーロを導入することを選択し、その準備を進めています。
****真価問われるユーロ エストニア来月導入 東欧諸国には慎重論*****
旧ソ連諸国でバルト三国の一つ、エストニアが来年1月から欧州単一通貨ユーロを導入し、ユーロ圏は17カ国に拡大する。ユーロは紙幣流通量で米ドル紙幣を追い抜くなど、第2の基軸通貨としての存在感を増した。しかし、ユーロ圏周縁国のギリシャやアイルランドで財政が破綻し、ポルトガルやスペインでも信用不安がくすぶる。東欧諸国はユーロの早期導入を見直すなど通貨同盟の真価が問われている。(タリン 木村正人)
≪EU加盟≫
巨額のユーロ紙幣が保管されているエストニア中央銀行には24時間パトカーが張り付くなどタリンの街は厳戒態勢下にある。デパートはユーロとクローンの値段を表示し、偽札を見分ける装置も導入した。換算用の中国製計算機50万台も各家庭に配布された。
エストニアのリギ財務相は本紙と単独会見し、「小さな国が独自の通貨を持つのはぜいたくだ。わが国のクローンはドイツ・マルクに続いてユーロに為替レートを固定してきた。今回のユーロ導入も欧州連合(EU)加盟の公式ステップにすぎない」と話した。
ユーロ圏周縁国の財政危機については「どの国も財政赤字を減らしているので、導入国のユーロ離脱という最悪のシナリオはない。しかし、勝者と敗者という二極化が進む可能性は否定できない」との見方を示した。
2000年以降、国内総生産(GDP)比で7・1~11・4%の経済成長を続け、“バルトの虎”と呼ばれたエストニアだが、金融危機に直撃され、昨年の経済成長率はマイナス14・1%。しかし、この落ち込みが逆にユーロ導入の障害だった年10・9%のインフレ率を急激にさまし、今年6月、EU首脳会議でユーロ参加が正式決定された。
≪メリット≫
人口134万の小国エストニアにとり為替変動リスクを回避できる“大きな通貨”ユーロを導入するメリットは大きく、ユーロの信認を問われているEUにとって新規加盟を認めることは改めて通貨同盟の結束と大きな通貨の魅力を演出する格好の機会だった。
一方で、ギリシャより経済規模が大きいポーランドは「ユーロがこれほどの難局に直面しているときに導入時期を決めるのは難しい」と早期導入を見直し、慎重姿勢に転じている。チェコも同様に様子見の気配だ。
≪抜本対策≫
今回の財政危機でギリシャやアイルランドは国債金利の上昇により市場から資金が調達できなくなり、EUと国際通貨基金(IMF)の救済を仰いだ。しかも、単一通貨のため通貨切り下げによる輸出促進が期待できず、国内で賃金カットや社会保障切り捨てなど痛みを伴う改革を強いられる。
東欧諸国にとって財政再建と景気回復を両立させなければならないこの時期、ユーロ導入を急ぐメリットはないというわけだ。
年明けにはポルトガルの救済は不可避との見方が強まる中、EUは12月の首脳会議で、ユーロ圏の財政危機国救済策として欧州版IMFを13年に導入する構想を承認したが、融資枠の拡大や信用力の低い国の資金調達が容易になるようEU各国による共同債を発行する案はドイツやフランスの反対で議論されなかった。
スペインがEUに支援要請した場合、現行制度では支えきれない恐れがあるため、ユーロ圏は抜本的な対策を迫られている。【12月30日 産経】
******************************
【EU:抜本的な対策の導入には至らず】
EUは今月中旬、ブリュッセルで首脳会議を開きユーロ危機問題への対策を協議していますが、ユーロ圏諸国による共通債券(欧州共通債)発行などの抜本的な対策の導入には至りませんでした。
****EU首脳会議:欧州版IMF創設で合意 不安解消には時間****
欧州連合(EU、加盟27カ国)は17日までの2日間、ブリュッセルで首脳会議を開き、ユーロ危機問題を中心に討議した。財政危機に陥ったユーロ圏諸国を支援するため、欧州版の国際通貨基金(IMF)創設などに合意したが、現行基金の上積みや、ユーロ圏諸国による共通債券(欧州共通債)発行など、抜本的な対策の導入には至らなかった。5月のギリシャ、11月のアイルランドに続き、市場はポルトガル、スペインを次の攻撃対象に見据えており、財政・金融不安の解消にはなお時間がかかりそうだ。
抜本策が先送りされたのは、欧州最大の経済大国ドイツが、負担増につながる政策に反対したためだ。
EUとIMFは今年5月、総額7500億ユーロ(約83兆円)のユーロ防衛基金を設立した。11月末にアイルランド支援に初適用したが、今後、ポルトガル、スペインも支援に追い込まれれば、基金が不足する懸念がある。そのため、IMFやユーロ圏議長のユンケル・ルクセンブルク首相、欧州中央銀行(ECB)などが増額を求めていた。
包囲網の高まりを受けてメルケル独首相は10日、サルコジ仏大統領と会談。会談後の会見で、基金増額について「まだ、10%をアイルランドに使用したにすぎない。現時点では、増額の考えがない」と、巻き返しをはかった。
欧州共通債は、財政事情が悪化した国の国債が売り込まれる事態を回避するのが狙い。ユンケル首相やイタリアなどが積極的に導入を主張した。【12月17日 毎日】
*****************************
欧州委員会のレーン委員(経済・通貨問題担当)は21日、救済基金の拡大や欧州共同債券の発行に踏み切る可能性について、「現段階では、いかなる選択肢も排除するべきではない。最善策を分析する協議が必要だ」と述べ、ユーロ圏共同債券を発行する選択肢を排除すべきでないとの見解を示しています。
【ドイツ:“敗戦国意識”からの脱却】
しかし、欧州最大の経済大国ドイツが強く反対しています。
自国への負担増加のリスクもありますが、財政規律を重視している自国に対して放漫な運営を行う他の欧州諸国救済への抵抗感もあります。
そのようなドイツの主張の背景には、一歩ひいた「敗戦国」意識から、主張すべきは主張する「普通の国」への意識変化もあるとの指摘があります。
****ユーロ圏救済 独の乱 共通国債に抵抗*****
他国の財政「怠慢だ」
それはミスター・ユーロが敗北した瞬間だった。
16日、ブリュッセルで聞かれた欧州連合(EU)首脳会議の夕食会。ユーロ圈各国の財務相でつくる会議のまとめ役であるユンケル・ルクセンブルク首相が訴えた。
「危機には体系だった対策が重要だ」「共通国債こそが投機を止めることができる」財政危機は一つ一つの国債が市湯でたたき売られて起きる。ならば、各国の国債発行の一部を肩代わりする、EU共通の国債を発行してはどうか、との提案だった。
しかし、共通通貨に加えて共通国債というもう一つの傘をつくるというこの構想を、ドイツはまったく相手にしなかった。
この春のギリシヤ支援策も、メルケル独首相の反対で決定が遅れた。「(もっと対応が早ければ)支援額は少なくてすんだのに」とバローソ欧州委員長は5月、独紙に語った。
ドイツの強い姿勢は、他国は財政再建や経済改革にさぼり過ぎだとの意識からくる。
ドイツは2011年に、国内総生産(GDP)比の財政赤字をEUのルールである3%にまで減らし、16年にはゼロに近づける気だ。労働市場の柔軟化も00年代初めから進めてきた。
ブリューデレ経済技術相は一部の国の財政問題について、「分不相応な生活をしてきたことが現在の問題をもたらした。実体経済でも構造的な怠慢があった」と語る。オランダなど比較的競争力の強い国もドイツに同調する。
救済への反発は、共通通貨ユーロヘのドイツ国民の不信にもつながっている。アイルランド救済が決まった直後の12月上旬のARDの世論調査では「ドイツ・マルク復活」にドイツ人の36%が賛成した。「我々ドイツ人はヨーロッパのためにまたもや金を支払わなければならないのか」。16日の大衆紙ビルトはそんな見出しを掲げた。
敗戦国意識に変化
かつてのドイツは、自国の立場を主張するのに慎重だった。第2次世界大戦のナチスの歴史を背負い、低姿勢で欧州統合に加わることだけが国際社会復帰の道だった。その結果、欧州各国への輸出でうるおうという実利も得た。
そこに変化が出ているようだ。戦後60年以上がたち、ほとんどの閣僚が戦後世代になった。輸出先もいまや新興国など欧州外に目が向く。連立与党・自由民主党のライナー・シュティナー議員は「ドイツは戦後、経済的には大国になっていったが、政治的には小国だった。しかし、今は普通の国としてふるまうことが求められているのではないか」と語る。
若い世代はさらにはっきりしている。最大与党キリスト教民主同盟(CDU)の青年組織に属する大学院生ザビーナ・カールさん(25)は言う。「若い人たちはEU入りの幸福感を感じていた上の世代とは少し違う。EUを受動的にではなく、積極的に使うことを考えたい」
ドイツの声は、経済の好調を背景に通りやすくなっている。ユーロ圈のもう一つの大国フランスも、ドイツヘの同調が目立つようになった。
元フランス財務相アドバイザーで今はブリュッセルの研究機関ブリューゲル所長のジョン・ピザニフェリー氏は「これまでもドイツ経済は強かったが、ほかを圧倒するほどではなかった。そこに各国協調の枠組みが生まれていた。しかし今、ドイツと他国の差は最大だ」と話す。
もちろん、ドイツだけが強いということは、もしもの場合、ドイツが支援の中心になることを意味する。ドイツの銀行のユーロ圈への貸し出しは多く、放置すれば自らも傷を負う。アイルランド救済が固まった11月下旬、ドイツ国債の価格はわずかだが下がった。終わる兆しのない欧州財政危機。ドイツの両肩にのしかかる責任の大きさを市場は見つめている。【12月28日 朝日】
******************************
上記記事にもあるように、ドイツ経済の好調は欧州各国への輸出でうるおうという実利を享受してきた側面があること、ドイツの銀行のユーロ圈への貸し出しは多く、放置すれば自らも傷を負うこともあって、ユーロ圈経済崩壊はドイツ経済の危機でもあります。
そうした側面と、「我々ドイツ人はヨーロッパのためにまたもや金を支払わなければならないのか」という国民感情をどのように調整していくのかが、ドイツには問われています。