孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  ホドルコフスキー被告に対する再度の有罪判決に見るロシアの政治・社会体質

2010-12-28 19:43:32 | 世相

(12月15日 モスクワの裁判所近くでホドルコフスキー被告の裁判に抗議する支持者 男性の持つ写真左がホドルコフスキー被告、右はメドベージェフ大統領。 メドベージェフ大統領への期待もあるようです。
“”より By hegtor  http://www.flickr.com/photos/yuri_timofeyev/5262687235/ )

問われる“法の統治”】
ロシア・プーチン首相の政敵として投獄されているかつての大富豪ミハイル・ホドルコフスキー被告については、11月19日ブログ「ロシア メドベージェフ大統領の国内改革姿勢の実像は?
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101119)」でも取り上げたように、ロシア司法制度の在り方やメドベージェフ大統領の改革の真価が問われる問題として注目されています。

前回ブログでも書いたように、ホドルコフスキー被告自身は、03年に逮捕されるまでロシア最大手の石油会社ユコスの社長として君臨していた、政権にとりいったオリガルヒ(新興財閥)の代表でもありますが、プーチン首相と対立して投獄されて以来、リベラル派を代表する「殉教者」へ変身した感があります。

現在脱税などの罪で8年の懲役刑に服役中のホドルコフスキー被告は、マネーロンダリング(資金洗浄)などの罪で追起訴されていましたが、モスクワの裁判所は27日、同被告の有罪を認定し、刑期が更に延長されることになりました。

****露ユコス元社長に再び有罪判決、「法の統治」に欧米から懸念の声*****
マネーロンダリング(資金洗浄)などの罪で追起訴されたロシア元石油大手ユコスのホドルコフスキー元社長に対する裁判で、モスクワの裁判所は27日、同元社長の有罪を認定した。
ホドルコフスキー元社長は2003年に脱税などの疑いで逮捕され、2005年に有罪判決を受けた。現在8年の懲役刑に服役中。検察側は追加的に6年の懲役を求刑しているが、250ページに及ぶ判決文の読み上げには何日もかかる見通し。ホドルコフスキー元社長の弁護団はロイターに対し、控訴する意向を明らかにした。 

同元社長の逮捕時に大統領職にあったプーチン首相は、裁判を前にホドルコフスキー元社長について「泥棒は監獄につながれる必要がある」などと発言していた。
有罪が認定されたことで、メドベージェフ大統領の下で大統領府が推進している法の統治の進展に疑念が生じる結果となった。また2012年に大統領選挙を控えていることからも今回の裁判は国内外から注目されていた。2000年から2008年まで大統領を務めたプーチン首相が返り咲きを狙うかに関心が集まっている。

この日の判決について米国のクリントン国務長官は「起訴が選択的に行われていること、政治的な配慮の前に法の統治が薄れていることに対する深刻な疑問が生じた」との声明を発表した。
また欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障上級代表(EU外相)は声明で、EUは裁判の行方を注視していたとし、「ロシアが人権、および法の統治に関する国際的な確約を順守することを期待している」との考えを示した。
検察側は、ホドルコフスキー元社長が270億ドル相当の石油をユコス子会社から横領し、資金を洗浄したと主張。新たに6年の懲役刑が課された場合、2012年の大統領選で選出される次期大統領の任期終了真近の2017年末まで服役することになる。【12月28日 ロイター】
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ホドルコフスキー被告の裁判が注目されるのは、権力者プーチン首相の政敵が政治的に罪に問われて逮捕されたという、法治主義に反するロシアの司法制度の現状を示すもの・・・との見方があるからです。
クリントン米国務長官やEU・アシュトン外務・安全保障上級代表の反応も、ロシア社会が欧米と価値観を共有できる社会かどうかへの疑念からのものです。

ロシア国内でも野党・人権団体からの批判があります。
“野党勢力のカシヤノフ元首相やネムツォフ元第1副首相らは同日、「裁判所は現政権の命令を実行した。わが国の政治・経済の将来に禍根を残す」との声明を発表。人権活動家らも「落胆した」と地元メディアに語り、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのロシア支部は「最高裁の取り消しを期待する」と述べた。” 【12月28日 朝日】

首相と被告の確執 「犬にしか愛を感じない男」】
一方、プーチン首相はホドルコフスキー被告への敵意を隠していません。
“判決を前にした今月16日、プーチン首相はテレビ生放送の国民対話で、ホドルコフスキー被告の長期にわたる服役は公正かと尋ねられ、「泥棒は監獄に入るべきだ。米国ではマドフ氏(巨額詐欺事件で服役中の米ナスダック元会長)は禁錮150年。我々の方がよりリベラルに見える」と回答。放送後に「司法への圧力だ」との批判を招いた。”【同上】

ホドルコフスキー被告の方も、負けてはいません。
****プーチン、犬しか愛せない男」 ホドルコフスキー受刑者が同情*****
2010年12月27日 20:50 発信地:モスクワ/ロシア
ロシアの石油最大手だったユコス元社長で、脱税などの罪で服役中のミハイル・ホドルコフスキー受刑者(47)が「宿敵」ウラジーミル・プーチン露首相を「犬にしか愛を感じない男」などと批判する記事が24日のロシアのリベラル系紙ネザビシマヤ・ガゼータに掲載された。

ホドルコフスキー受刑者は、「最初に感じたことと別の感情がすぐにわきあがった。もう若くないのにとてもエネルギッシュに見える反面、この際限なく無情な国の最高の地位にあってとても孤独に見えるこの人物に対して、哀れだと感じた」と書いた。
「ミレニアムの始まりにロシアのシンボルとなったこの人物は、『氷の防具』を身にまとっている。その防具の中に入り込むことができるような偽りのない感情は、犬に対する愛情だけだ」「そんな防具を身にまとった人物が幸福であることは無い」

プーチン首相の犬への愛情ぶりは、「タフガイ」イメージのプーチン氏の中の数少ないソフトな側面。最近も、ブルガリアの首相からもらったバフイーをなでる様子が報道された。プーチン首相は16日に行われた毎年恒例の国営テレビ放送での国民との対話で、ホドルコフスキー受刑者について「泥棒は刑務所にとどまるべき」と発言していた。
服役中の事件とは別の横領などの罪で起訴されていたホドルコフスキー元社長ら2人に対して、モスクワの裁判所は27日、有罪判決の言い渡しを始めた。【12月27日 AFP】
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メドベージェフ大統領の司法改革は?】
今回裁判が注目されるのは、ロシア司法制度の現状と同時に、その改善を掲げるメドベージェフ大統領の司法改革の真価、強権的とも思われるプーチン首相との関係が反映されているとも見られるからです。
「司法への圧力だ」との批判を受けても敵意をむき出しにするプーチン首相に対し、メドベージェフ大統領は「大統領としても、その他の公職者も、判決言い渡しまでは自分の意見を述べる権利はない」と、違いを表していました。

結果的には、プーチン首相の意向に沿った判決でしたが、もともとメドベージェフ大統領の掲げる改革はプーチン首相による支配と表裏一体のものとも見られており、メドベージェフ大統領とプーチン首相による双頭政治の今後には影響はないとも指摘されています。12年大統領選挙出馬を含めて、メドベージェフ大統領の本音はよくわかりません。

邪魔者は・・・・
ホドルコフスキー被告の件や、政権批判を行うジャーナリスト襲撃など、ロシアの政治体質には疑念がもたれていますが、次の記事も、そうした疑念のひとつです。
****ロシア人記者の血から高濃度水銀 体制を批判****
ドイツ在住のロシア人ジャーナリスト夫妻の血液から高濃度の水銀が検出されたとの報道があり、ドイツ検察当局は27日、夫妻が毒を摂取させられた可能性も視野に捜査していると明らかにした。夫は旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元大佐で、妻と共にロシア政府を批判していた。DPA通信などが伝えた。夫はドイツ誌に「KGBの元同僚らから脅迫を受けていた」と語っている。【12月28日 共同】
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真相はわかりませんが、これまでも類似の疑いがもたれたことがあります。
どうも、“邪魔者は力で封じ込める”といった考え方があるようにも・・・・。

下記の記事などは、ロシアのそうした強権支配的な政治体質は、単に政治の世界だけでなく、ロシア社会に共通する何かがあるのかも・・・・と思わせます。

暴力的社会体質?】
****家庭内暴力で1時間に1人の女性が死亡、ロシア****
2010年12月14日 13:06 発信地:モスクワ/ロシア
ロシアでは、家庭内暴力(DV)で63分ごとに1人の女性が命を失っているとの統計結果を、女性支援団体「ANNA」が13日、発表した。

「ANNA」によると、ロシアでは毎年、65万人以上の女性が夫や家族から家庭内暴力を受け、うち1万4000人の女性が死亡している。これは63分に1人が死亡している計算になるという。
内務省がDV統計の公表を始めたのは2008年だが、「ANNA」のマリーナ・ピスクラコワ代表によると、DV被害者の数は1995年以降、ほぼ横ばいで推移しているという。
英女性支援団体「Refuge」がまとめた英国のDV統計によると、英国人女性がDVで死亡する割合は3日に1人で、ロシア女性のDV被害は際だって多い。

その要因は、ロシアが家父長社会であることが一因ではないかとピスクラコワ代表は推測する。夫婦間でささいな争い事が生じた場合に、女性側が夫が暴力をふるうことを当たり前と考えがちだからだ。
ロシア政府も家庭内暴力の問題を認識しているが、ほとんど対策はとられておらず、人口1000万人のモスクワでさえ、DV被害女性の避難用シェルターは、わずか35人の受け入れ態勢しか整備されていないという。【12月14日 AFP】
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もっとも、上記DVについては、家父長社会や暴力を当然とする考えの他に、ロシア人のウォッカの飲みすぎという面もあるのかも。

コメント (1)
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