孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ハイチ  拡大するコレラ感染 進まない地震復旧 機能しない政府

2010-12-07 20:45:56 | 災害

(11月15日 首都ポルトープランスで、コレラ感染の原因としてネパールPKO部隊に抗議して、タイヤを燃やして抗議活動を行う学生 その煙を避ける女性 “flickr”より By anyi_oliva
http://www.flickr.com/photos/55001484@N05/5182774166/ )

拡大するコレラ感染
今年1月12日に大地震に見舞われ、20万人以上の犠牲者を出したハイチの復興は進んでいません。
追い打ちをかけるように10月からはコレラが流行、いまだにその勢いが衰えていません。
当初農村地域に発生したコレラは被災者が多く集まる首都ポルトープランスにも拡大。また、11月にはハイチ沖を通過したハリケーン「トマス」が地震被災地に洪水をもたらし、被災後の劣悪な衛生状況を更に悪化させ、コレラ拡大を悪化させています。

****ハイチのコレラ禍、死者2000人超える****
ハイチ保健省は6日、同国で10月から流行しているコレラによる死者が2013人、コレラ患者が8万8789人になったと発表した。
1月に発生した大地震からの復興が進まないなかハイチのコレラ禍は拡大を続けており、国連の保健衛生担当者はコレラで死亡した人の数は公式発表よりはるかに多い恐れがあるとしている。【12月7日 AFP】
***************************

国連PKOに向けられる不満
進まない大地震からの復旧、広がるコレラの脅威から、住民の不満は、日本も自衛隊が参加している国連によるPKO活動にも向けられています。
国連支援活動に向けられた暴動により、国連による衛生対策のためのせっけんや医療物資の輸送がストップするなど、住民にとっては自らの首を絞める結果ともなっています。

****窮乏のハイチ市民、国連に矛先 「生活よくならない*****
ハイチでコレラの大流行をきっかけに国連PKO部隊への抗議デモが起き、PKOに参加して復興支援活動にあたる日本の自衛隊も対応を迫られた。先進国にほんろうされた歴史と、地震後の復興が進まないことへの被災者の不満が、その背景にある。

「アバ・オキパシヨン」(占領反対)、「アバ・ミヌスタ」(くたばれMINUSTAH)――。首都ポルトープランスに、国連ハイチ安定化派遣団(MINUSTAH)批判の落書きが目立つ。
11月半ば、「ネパール軍部隊がコレラを持ち込んだ」とのうわさがもとで反国連デモが起き、ネパール兵6人が負傷、国連側の発砲を受けるなどして市民2人が死亡。移動中の国連車両が投石を受けた。
孤児院の寮建設などの活動を続けている自衛隊のハイチ派遣国際救援隊には、被害は出ていない。だが首都にある宿営地の監視塔に投石よけの金網を張り、デモ隊を退散させる実地訓練もした。

大学で政治学を学ぶマヌエラさん(21)は首都郊外で、「国連は、この国にとって最悪の存在。自分で混乱を作って、『安定化』を口実に入ってきた」と言い切った。
2004年、アリスティド大統領(当時)の国外追放で内戦の危機が高まり、国連安保理決議に基づいてハイチに多国籍軍が送られた。多国籍軍を引き継ぐ形で派遣されたのがMINUSTAHだ。
選挙で選ばれた大統領を追放し、乗り込んで来た外国軍。国連PKOには、そんな見方がつきまとう。他方で、地震で被災した多くのハイチ人は、「生活がよくならない」というもっと現実的な不満を国連に向けている。
1月から首都でテント暮らしを続けているマリーミカ・ドゥブルビルさん(27)は「早く家が欲しい。政府は頼りにならない。MINUSTAHは何をしているのか」と言った。PKOの主任務は社会の安定で、復興そのものではない。だがそんな理屈は一般市民には通じない。
首都で朝日新聞の取材に応じた自衛隊の佐々木俊哉・3次隊長(1等陸佐)は「我々は与えられた仕事を淡々とやるだけ。任務をきちんと務めることで、反MINUSTAHの人も信頼を寄せてくれるようになる」と語った。【12月6日 朝日】
*********************************

NGO任せの復旧作業
事態の根幹にある地震災害の復旧状況については、大幅な遅れが指摘されています。
その原因は、国際社会の支援約束が履行されていないことや、地震による役所の崩壊で土地所有の権利関係を証明する書類の多くが散逸してしまったこともありますが、何よりも復旧作業を束ねるべき中央政府が機能しておらず、多くのNGOによる非効率な資金使用に陥っている状態があるようです。

***ハイチ再建までの遠すぎる道のり****
ハイチ復興の絶対的な前提条件は、首都ポルトープランスを埋め尽くす瓦牒の撤去だ。
今年1月にハイチで起きた大地震では20万人以上が死亡し、100万人以上が家をなくしただけではない。多くの建物が倒壊し、約2000万立方メートルもの瓦喋の山が残った。
住居を失った人は(しばらくの間なら)テントで暮らせるし、学校や病院は仮設施設で業務を続けられる。だが破壊された都市を再建するには、瓦蝶を片付けなければどうにもならない。
にもかかわらず、地震発生から10ヵ月が過ぎた今、除去された瓦喋はわずか5%。体積にして75万立方メートル強だ。
つるはしや手押し車で除去作業をしている現実を考えれば、75万立方メートルという数字は大変なもの。とはいえ、これは当局が現時点までに除去済みになると見積もっていた量の10%に満たない。手付かずのまま放置されている倒壊家屋は25万軒、校舎は4000棟近くに上る。

進まないのは、瓦蝶の撤去だけではない。国際社会が支援を呼び掛け、ハイチの復興と真の国家再建のため2年間で総額87億5000万ドルの拠出を約束してから約半年。今や復興作業は全面的に停滞している。
被災者向けの仮の住まいは整備されているが、大半はテントや防水シート製のもので、暴風雨から身を守ってはくれない。11月5日にハリケーン「トーマス」が襲来した際には、ポルトープランス近郊で洪水が発生し、死者も出た。
仮設の学校もできているが、派遣された教師のほとんどは公用語のクレオール語やフランス語が話せない。
一部の調査によれば、ハイチでは清潔な水へのアクセスが改善し、地震前を上回るレベルになっている。とはいえ、そうした水の大半はいまだに支援団体が運び込んでおり、持続可能性のある解決策とは言えない。その一方で、地方部ではコレラの感染が広がっている。

「つまりハイチの復興はうまくいっていない」と、米シンクタンクのブルッキングズ研究所で人道危機問題を担当するエリザベス・フェリス上級研究員は指摘する。「スタート地点からほんの少し踏み出しただけだ」 
背景には、複雑に絡み合う要因がある。
第1に、国際社会が約束した支援の実現に時間がかかり過ぎている。アメリカは総額11億5000万ドルの支援策を表明したが、米議会がその大半を承認したのはつい最近。多くの国はいまだに具体的な支援を何もしていない。
第2に、地震で国家公務員の2割弱が死亡し、連邦政府庁舎28棟のうち27棟が倒壊したため行政活動が滞っている。書類が散逸して土地の所有者をなかなか確認できないせいで、多くの地区では建物の取り壊しや建設がほぼ不可能になっている。

支援金の使い道に疑問符
だが一番の問題点は、ハイチ政府も現地で活動する多くのNGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)も、復興・再建活動をめぐる巨額のカネの使い方を知らないことだ。人道団体の赤十字は復興基金の分配があまりに困難なため、積極的に寄付を募ることをやめた。各国からの支援金を管理している世界銀行は、ハイチ政府への送金を意図的に遅らせている。
「NGOは、特に地震発生直後の段階で多くの立派な仕事をしてきた」と言うのは、災害復興作業などを手掛ける米企業アッシュブリットのランダル・パーキンズCEO。同社は先日、瓦牒除去を請け負う初の大型契約をハイチ政府と結んだ。パーキンズによれば、ハイチでいま求められているのは地震発生直後よりずっと大規模な事業だ。これをNGOに任せるのは、車のギアをセカンドに入れたまま100キロに加速しようとするようなものだという。(中略)
ほかの国ではそれ(資金の効率的な使い道の決定)はたいてい中央政府の役目で、公共セクターの官僚がいくらでもいる。しかしハイチの公共セクターは、地震で大統領宮殿が崩れ落ちるはるか以前に崩壊していた。

NGOの数では世界一
ハイチのジャンペルトラン・アリスティド大統領(当時)をよく思わなかった米ブッシュ前政権は、02年から「すべての援助を直接NGOに提供し始めた」と、ポール・ファーマー国連ハイチ副特使は言う。「アメリカの方針はほかの国々と国際金融グループの方針にも影響していった」
比較的給料のいいNGOの仕事に優秀な人材が殺到し、ハイチの公共セクターは衰退。医療と教育はますます悪化し、蔓延する腐敗にも拍車が掛かった。その一方でNGOは猛スピードで広がった。ハイチの国民1人当たりのNGOの数は、地震発生時は既に世界一だった。
NGOとは博愛精神に満ちた人々が運営する慈善団体だ。それでもやはり、大きな官僚機構に付き物の問題と無縁ではない。資金供与団体と篤志家の善意が頼りで、競争心むき出しで秘密主義で外からの声に対して過敏になりかねない。しかもハイチの場合は、被害の規模もNGOの注意を引こうとする声も大き過ぎる。(後略)【11月24日号 Newsweek日本版】
*******************************

国際社会の資金援助に関しては、国連の潘基文事務総長が3日、国連が先月11日に国際社会に行った約1億6400万ドル(約136億円)の援助要請に対し、これまでの拠出額が20%にとどまっていると明らかにし、コレラ感染拡大もあって「要請額は控えめなものであり、上方修正されるだろう」と述べ、各国に積極的な貢献を求めています。【12月4日 時事より】

大統領選挙はおこなわれたものの・・・
肝心の中央政府の立て直しですが、コレラ感染拡大を受けて延期すべきとの声もあった大統領選挙が11月28日行われました。

****ハイチ:候補者12人が大統領選無効訴え 「政府が不正****
1月に大地震が起きたカリブ海のハイチで28日、大統領選があり、現職のプレバル大統領が支援する候補(48)を当選させるため、政府が不正を行ったとして、候補者18人のうち12人が選挙の無効を訴えた。現地には米国やフランスなどの選挙監視団が派遣されていた。
報道によると、12人は共同声明で、有権者に対しプレバル政権と選管に抗議デモを行うよう呼び掛けた。多くの市民が有権者リストに名前が載っていなかったり、投票所が閉まっていたりしたなどの理由で投票できなかったという。
開票作業は12月初旬まで続く予定。次期大統領は、1月の大地震で世界各国が3年間で拠出すると約束した99億ドル(約8320億円)の震災復興支援資金を使うことになる。【11月29日 毎日】
*******************************

「誰でもいいから早く責任者を決めて、機能する政府を組織してよ・・・」とも言いたくなりますが、現実には巨額の震災復興支援資金にかかわる巨大な利権が発生するポストでもあり、大統領確定、組閣、復旧作業実効にはいろんな問題が予想され、「ハイチ再建までの遠すぎる道のり」を痛感させられます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする