孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

旧ソ連、ベラルーシはルカシェンコ支配継続、キルギスは中央アジア諸国で初の議会制民主主義実現へ

2010-12-20 20:19:36 | 国際情勢

(キルギス、6月、警察に拘束されている兄あての手紙を赤十字に託す南部オシ近郊の女性 “flickr”より By ICRC http://www.flickr.com/photos/icrc/4748410928/

【「欧州最後の独裁国」】
旧ソ連のひとつ、ベラルーシ。強権支配を続けるルカシェンコ大統領のもとで、「欧州最後の独裁国」ともいわれています。その大統領選挙が19日行われましたが、大方の予想通り現職ルカシェンコ大統領が8割近くの票を集め、第1回投票で4選を果たしました。
不正選挙を批判する野党陣営の抗議行動も起きていますが、大統領側は抗議者を逮捕するなど強硬な姿勢に出ています。

****ベラルーシ:現職大統領4選…抗議運動の100人以上逮捕****
旧ソ連のベラルーシで19日投票された大統領選挙(任期5年)は即日開票の結果、現職のルカシェンコ氏(56)が4選を決めた。一方、治安当局は同日夜、抗議運動をしていた野党候補者を含む100人以上を逮捕、事態は混乱しており、国際社会からの非難の声が上がり始めた。選挙管理委員会によると、開票率99%で、ルカシェンコ氏が79.67%を獲得。野党候補のサニコフ元外務次官(56)が2.56%で、残りの8人は2%以下にとどまった。有権者数は744万人、投票率は90.66%だった。

野党連合は19日夜の投票終了後、首都ミンスク中心部で集会を開き、1万人以上が集まった。集会ではルカシェンコ陣営の不正行為を批判して、選挙のやり直しを要求。その後3000人以上が政府庁舎前に移動した際、一部参加者が施設を破壊したとされる。治安当局はサニコフ氏ら複数の野党候補を含めた参加者を逮捕。500人近くが逮捕されたとの情報もある。
現場で取材していた欧米やロシアの報道関係者も暴行を受けて負傷した。同日には野党候補の一人ネクリャエフ元作家連盟会長が治安当局者とみられる男に襲われて、骨折する事件も起きた。
「欧州最後の独裁国」といわれるベラルーシは、国際社会が注視する状況で、強権的な体質をむき出しにしている。

ベラルーシ政府は今回の選挙で、全欧安保協力機構(OSCE)など外国の選挙監視団を受け入れた。また欧州連合(EU)もベラルーシとの関係改善を重視して、民主的な選挙が実施されれば、最大30億ユーロ(約3300億円)の支援を約束していた。しかし欧州議会のブゼック議長は、ネクリャエフ氏への暴行に対する非難声明を発表。ベラルーシと欧米の関係が再び冷却化する恐れが出ている。
ルカシェンコ氏はソ連から独立後に初めて実施された94年の大統領選で初当選した後、01、06年の選挙で続けて当選。本来は憲法で3選を禁止されていたが、04年に禁止条項を撤廃する国民投票を可決させて、4選に挑んでいた。【12月20日 毎日】
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AFP通信によると、警察当局は野党の大統領候補9人中の7人の身柄を拘束したとも報じられています。
今回選挙では、ルカシェンコ大統領側も選挙期間中はEUの評価を意識して、ある程度“民主的選挙”に譲歩する姿勢も見せていました。
****ルカシェンコ大統領が4選へ=野党候補締め付け緩和―ベラルーシ****
・・・・選挙にはルカシェンコ大統領も含め過去最多の10人が立候補。同大統領は野党候補の集会開催も認め、欧米の民主化要求に一定程度、譲歩する姿勢を示した。
背景には、ベラルーシがエネルギーを依存しているロシアとの関係が6月の天然ガス紛争をきっかけに険悪化し、欧州連合(EU)の経済支援を必要としていることがある。EU側は大統領選が民主的に実施されれば、30億ユーロ(約3330億円)規模の支援を行うと表明している。【12月19日 時事】
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とは言え、“選挙戦では、ルカシェンコ氏が無制限にテレビ出演する一方で、野党候補はこれまで30分の演説を2回放送できただけという。選管から各候補に割り当てられた運動資金は2万7000ドル(約230万円)にとどまり、ミンスク市内では野党候補の看板を見かけない。一方でルカシェンコ陣営は、「大統領支持」を教えている教師にボーナスを与えているとも伝えられており、「不公正な選挙戦」の実態も浮かび上がっている”【12月18日 毎日】というのが実情でした。

欧米とロシアのはざまでの独自外交の今後は?】
ルカシェンコ大統領は、必ずしもロシアの意向に従わず、ロシアとEU・アメリカを天秤にかけるような独自の外交姿勢をこれまでとってきました。10月にはロシアのメドベージェフ大統領が、ルカシェンコ大統領のロシア批判の選挙運動に激怒したことも伝えられています。
ただ、その後両者の“和解”も報じられており、ロシアとしてはルカシェンコ大統領の続投を受け入れた形になっています。

****ベラルーシ大統領選 あす投票 不正票疑惑、延命は限界****
 ■4選狙う「最後の独裁者」
旧ソ連のベラルーシで19日、大統領選の投票が行われる。15年以上も大統領の座を占め、「欧州最後の独裁者」と称される現職のルカシェンコ大統領(56)の4選が有力視されている。しかし、大規模な票の不正集計疑惑が絶えず、首都ミンスクでは住民の政権不信が渦を巻く。欧米とロシアのはざまで双方の顔色をうかがい、あいまいな態度を取る戦術も色あせており、大統領の“延命策”は限界に近づきつつある-との声も聞かれた。
(中略)
安い価格で石油・天然ガスを同国に供給してきた“友好国”ロシアのメドベージェフ大統領は10月、「ロシアへの非難と罵詈(ばり)雑言がルカシェンコ氏の選挙運動のすべてだ」と批判した。経済面からベラルーシ統合を狙うロシアに反発してきたルカシェンコ氏へのいらだちを示したとみられる。
ところが両首脳は今月9日に会談、笑顔で和解をアピールした。「クレムリンは、大統領選で欧州連合(EU)加盟を推進する候補が当選するよりは、ルカシェンコ氏続投の方がましだと判断した」(反体制派の政治評論家、ザイコ氏)との見方もある。

一方、EUや米国は民主化促進を大統領に迫っている。反体制派のある陣営によると、今回の選挙運動期間中、当局による集会などの妨害は極端に減った。「公正な選挙」を示したい大統領の思惑がにじむ。
政治評論家のカルバレビッチ氏は「ロシアがエネルギーを安価で供給し続ける保証はなく、欧米など新たな融資元の開拓が不可欠であり、選挙の公正さをアピールして融資につなげるためのポーズにすぎない。民主化は当面進展しない」との見方を示した。【12月18日 産経】
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政変、人道危機を超えて
もうひとつの旧ソ連の国、キルギス。
従来からの南北の政治対立を背景に、4月、南部出身のバキエフ前大統領が追放される政変が起きましたが、その政治混乱のなかで、ウズベク系住民が多い南部では、これまた以前からあるキルギス系とウズベク系の民族対立が表面化し、400人以上の死者を出す民族衝突に発展。隣国ウズベキスタンに越境したウズベク系難民は10万人以上に達しました。
また、キルギス国内の避難民も約30万人に達し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、キルギスに「人道危機」が迫っていると警告を発する混乱状態にもなりました。

そうした混乱を収束させるべく、6月27日にはオトンバエワ暫定大統領の信任と新憲法案の是非を問う国民投票が行われ、投票総数の約9割の賛成で承認され一応の安定に向けて動き出しました。

10月には、他の中央アジア諸国が独裁体制を敷くなかで、中央アジア諸国で初の議会制民主主義を実現するための議会選(1院制、定数120)が実施され注目を集めました。
再度の民族衝突なども懸念された選挙でしたが、大きな混乱なく実施されました。
ただ、4月の政変で失脚したバキエフ前大統領を支持する野党アタ・ジュルトが第1党に躍進する意外な結果ともなりました。

****キルギス:前大統領派が第1党に躍進 議会選****
旧ソ連のキルギスで10日に投開票された議会選(比例代表の1院制、定数120)は11日までに開票が終了。中央選管の発表した暫定結果によると、臨時政府に参加する連立与党を抑えて、4月の政変で失脚したバキエフ前大統領を支持する野党アタ・ジュルトが得票率8.88%で第1党に躍進した。
選挙には29党が参加したが、議席獲得に必要な得票率5%を超えたのは5党にとどまった。議席を獲得したのは、連立与党側がキルギス社会民主党(得票率8.04%)とアタ・メケン(同5.6%)。野党側は、アタ・ジュルトと親露派のアル・ナムス(同7.74%)、「共和国」(同7.24%)だった。
アタ・ジュルトとアル・ナムスの野党2党は連携すると見られている。ただ、連立与党側と野党2党の双方とも過半数に達しないので、双方とも「共和国」の取り込みが必要になる。オトゥンバエワ暫定大統領はまず、社会民主党へ交渉権を与える模様だ。有権者数は約285万人、投票率は約56%だった。

事前予想では、与党のアタ・メケンが首位だった。しかし、キルギス国内で影響力を持つロシアのテレビ局が、同党のテケバエフ党首を批判する番組を報じたことが影響して、支持率が急落した。
第1党となったアタ・ジュルトは、バキエフ前大統領の出身地の南部を中心として支持を拡大。クロフ元首相が率いるアル・ナムスも親露政策を強調して躍進した。
キルギスは新憲法で大統領権限の多くを議会に移した。今回の選挙を経て中央アジアで初の議会民主制へ移行するが、ロシアは変革が周辺国に飛び火する事態を警戒。今後も、クロフ氏ら親露派を通じてキルギス内政へ干渉していくことを示唆している。
キルギス南部では6月に400人以上の死者を出す民族衝突が起きているが、選挙を監視した全欧安保協力機構(OSCE)は「平和裏に選挙が実施された」と評価。オトゥンバエワ暫定大統領も「これまで経験しなかった自由で、民主的で、開放的な選挙となった」と成功を強調した。【10月12日 毎日】
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なお、キルギスでは、一つの政党が強い権限を握ることを防ぐため、第1党に65議席以上を与えない規定を設けています。

中央アジアで初めて事実上の議会制民主主義
選挙後の連立交渉は難航しましたが、ようやくオトゥンバエワ暫定大統領の与党、社会民主党のアタムバエフ党首を首相とする連立政権が発足することになりました。
****キルギス:連立政権が発足 中央アジア初の議会制民主主義****
中央アジアのキルギスで17日、オトゥンバエワ暫定大統領の与党、社会民主党のアタムバエフ党首を首相とする連立政権が発足した。キルギスでは10月に行われた議会(定数120)選挙後、連立工作が難航していたが、中央アジアで初となる議会制民主主義体制が動き出す。
連立政権は、バキエフ大統領(当時)が失脚した4月の政変を主導した議会第2党の社会民主党のほか、野党でバキエフ前政権とつながりがある第1党「アタ・ジュルト」と第4党「共和国」が参加し、この3党で過半数の77議席を確保。議長にはアタ・ジュルトのケリディべコフ党首、第1副首相には「共和国」のババノフ党首がそれぞれ就任した。

キルギスは6月の国民投票で承認された新憲法により、大統領の権限を弱め、大統領独裁の傾向が強い中央アジアで初めて事実上の議会制民主主義を導入。10月の議会選では5党が18~28の議席を分け合う形となり、政党間の連立協議は11月末にいったん成立した合意が直後に破綻するなど難航していた。
アタムバエフ氏は07年3~11月に首相、今年4~7月に臨時政府副代表を務めた。

アタムバエフ新首相は今年6月に南部で大規模な衝突に発展したキルギス系とウズベク系の民族対立の緩和や、政治の安定、民主化推進などに取り組むことになる。ただ、連立パートナーのアタ・ジュルトは議会制に反対し大統領権限の回復を主張しており、対立が表面化すれば今後の政権運営に支障をきたす可能性もある。
また、新首相は最初の外遊先として「戦略的パートナー」であるロシアを訪問する考えを示す一方、アフガニスタンへの物資輸送拠点となっている北部マナスの米空軍基地使用をさらに4年間継続させると言明し、米国とロシアに対するバランス外交を展開する姿勢を見せた。
キルギスは91年にソ連から独立後、アカエフ、バキエフの歴代大統領が汚職などで支持を失い、いずれも国民の抗議行動により国外追放された。【12月18日 毎日】
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強権姿勢をあらわにして政権を維持するベラルーシのルカシェンコ大統領、中央アジア諸国で初の議会制民主主義実現を目指すキルギス・・・旧ソ連の二つの国のそれぞれの選択です。
もちろん、議会制民主主義が安定と繁栄を約束する訳ではありません。今後の運営次第です。

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