孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  静かに対応をさぐるスーチーさん 経済無策の軍事政権

2010-12-02 20:14:56 | 国際情勢

(先月13日 7年半ぶりに自宅軟禁から解放されたスーチーさん  “flickr”より By Gordon Whiting
http://www.flickr.com/photos/seeker56/5173882928/ )

敬称を付けて報道
ミャンマー情勢については、11月18日ブログ「ミャンマー スーチーさん、軍事政権ともに慎重姿勢 「不気味な」静けさ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101118)で取り上げたように、軍事政権側もスーチーさんの側も過度に相手を刺激しないような抑制された状況が続いています。

****スー・チーさん「国民の日」で団結訴え*****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは、今年で90回目を迎える「国民の日」の1日、ヤンゴン市内の旧野党、国民民主連盟(NLD)本部で演説し、「われわれには不安や貧困のない生活、安全と自由が必要だ。勇気を持って勝利を手にする努力を続けねばならない」と述べ、国民に団結を呼びかけた。
これに対し、軍事政権トップのタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長も同日、国営紙に掲載したメッセージのなかで、先の総選挙は「自由で公正な選挙だった」とたたえたうえで、「全国民は、強い愛国心を持って働くように」と指摘、国軍主導の新政権への支持を求めた。【12月2日 産経】
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26日には、国内でも聴取可能な米政府系ラジオのビルマ語放送に携帯電話を通じて、15分間、寄せられた質問に答える形で出演しています。
このラジオ番組のなかで、「権力を失うことを恐れる将軍たちとどう対話するか」などの質問に「大切なのはみんなが協力すること」「軍政の将軍たちだけでなく、誰もが不安を抱えずに生きられる国造りを」などと答えています。彼女の出演は今後も週1回続けられるそうです。【11月27日 朝日より】

また、国連でミャンマー問題を担当するナンビア事務総長特別顧問との会談も報じられています。
****ミャンマー:ナンビア国連特別顧問、スーチーさんらと会談*****
・・・・潘基文(バン・キムン)事務総長は総選挙の公正さに問題があったと表明する一方、スーチーさんには解放後の電話協議で全政治犯の釈放などに向け協力することで一致しており、顧問は今後の民主化の進め方などについてスーチーさんと協議したとみられる。
ミャンマー国営紙は28日付の紙面で、「特別顧問がスーチーさんや、解党された国民民主連盟(NLD)幹部らと面会した」と報道。同紙はスーチーさんやNLD幹部の名前に敬称を付けて報じた。国営紙がスーチーさんの動向を伝えたのは解放を報じた14日以来。【11月28日 毎日】
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国営紙がスーチーさんの動向を敬称を付けて報じるというのは、以前の軍事政権の対応からは想像しにくいものがあります。
国際世論への民政移管新体制アピールの狙いもあるでしょうし、総選挙を目論見通り圧勝した自信の表れでもあるのでしょう。

新国会の存在を直ちに否定しない考え
総選挙をボイコットしたスーチーさんですが、「選挙はボイコットしたが、それは(新たに発足する)国会を認めないという意味ではない」とも語っています。【11月28日 毎日より】

****ミャンマー:連日会合、民主化へ戦略練る…スーチーさん****
アウンサンスーチーさんが会見で、新国会の存在を直ちに否定しない考えを示したのは、国会の野党勢力との結束を保つ立場などから、当面は選挙のやり直しなどを求めない柔軟姿勢を示したものとみられる。
総選挙では軍事政権翼賛政党が民選議員枠の約4分の3を獲得。一方で選挙参加を拒否して解党処分となったスーチーさん率いるNLDから分裂した「国民民主勢力」(NDF)や少数民族系の野党勢力もわずかながら当選を果たした。
スーチーさんが新国会を全面否定した場合、野党勢力との共闘は困難になり、「民主化や民族自立を求めて投票した国民の意向を無視するものだ」との批判が出る恐れもあった。【11月28日 毎日】
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野党勢力との共闘を確立して民主化勢力を立て直していくうえで、現実的な対応と思われます。

国家の経済発展の必要性に意識を集中できないミャンマー軍政の固有の問題
ただ、今後に向けての展望は開けていない状況も相変わらずです。
****北朝鮮問題の陰に隠れたアジアのもうひとつの不安 スー・チー氏解放後も続くミャンマー軍政の視界不良*****
ミャンマーの問題は、民主化の遅れもさることながら、軍事政権の経済無策にあると米ブルッキングス研究所のシニアフェロー、レックス・リーフィール氏は説く。

――ミャンマーで、民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チー氏が通算15年に及ぶ自宅軟禁を解かれた。スー・チー氏はミャンマーの民主化実現へ政治活動を本格化させる決意を表明。軍事政権の出方次第では、制裁解除へ米欧諸国を説得する考えがあることも示し、軍事政権との対話の糸口を探っている。今度こそ民主化は進展するのだろうか。

 残念ながら現実は厳しい。ミャンマーでは(11月13日のスー・チー氏解放より6日前の)7日に20年ぶりの総選挙が開かれたが、結果は軍事政権を継承する政党(軍政の翼賛政党である連邦団結発展党=USDP)の圧倒的勝利に終わった。

 軍事政権は自らの統制力に自信を深めているのだろう。スー・チー氏の解放という決断自体がその表れであろうし、目下のところ、解放されたスー・チー氏に何らかの政治的役割が与えられる様子もない。(総選挙後90日以内に発足する予定の)新政権においても、状況はきっと変わらないだろう。新政権とスー・チ―氏との間に近い将来、共通の議論のプラットフォームが整備されると考えるのは、現時点では楽観の域を出そうにない。

――欧米諸国は、ミャンマー製品の禁輸措置や軍政関係者の在米資産凍結などの経済制裁を実施してきたが、こうした制裁の解除も望み薄か。

 こう答えよう。制裁はそもそもあまり効果を発揮できていない。これは、ASEAN諸国や中国、インドなどが欧米諸国の制裁を支持せず、全面的に従わなかったためだ。民主化を進めるという目的でアメリカが軍事政権にいくら圧力をかけても、ミャンマーは他の国々と普通に取引できているのである。その意味で、制裁の解除うんぬんをここで議論しても仕方がない。それよりも、現実を見据えれば、ミャンマーには「政治の自由化」よりも「経済の自由化」をまず促していくしかないのではないだろうか

――プライオリティは、民主化ではないということか?
 誤解しないで聞いてほしいのだが、もちろん私は民主化が悪いと言っているのではない。その逆だ。スー・チー氏は、長年にわたって悲惨な歴史を送ってきた国民にとって、風通しを良くしてくれるような新鮮な存在だ。
 しかし、考えてほしい。インドを除けば、ほとんどの東アジア、東南アジア諸国では、まず経済の自由化があって、その後で政治の自由化が起こった。アジアの過去80年の歴史を振り返っても、日本、韓国、台湾、インドネシアなどはみな同じフォーミュラで凄まじい経済発展を実現してきたのだ。特にベトナムや中国は非民主主義的政権下で大きな経済発展を遂げてきた。この事実はミャンマーの今後にとって大いに参考になるはずだ。
 国際社会はなぜ、ことミャンマーについては、政治の民主化を先に実現しなければならないと考えるのか。私にはそこが理解できない。

――では、ミャンマーは具体的に何をすればよいのか?
 やるべきことは明白で、アジアの他の国々を真似て、成長志向のマクロ経済政策と産業振興策を実行すればよい。
 はっきり言えば、ミャンマーは制裁によって経済発展を阻まれているのではなく、軍事政権の経済無策によって何十年にもわたって悲惨な状況に陥っているのである。金融、財政、為替政策などマクロ経済政策での失態は、他のアジア諸国が成し遂げたような生活レベルや教育の向上、貧困からの脱却といったことからミャンマーを遠ざけてきた。軍事政権が周辺国の成功に学んで普通にやっていれば、本来は5~10%の経済成長を実現できたはずだ。
 思うに、背景には、国家の経済発展の必要性に意識を集中できないミャンマー軍政の固有の問題があるのだろう。

――それはなぜか。
 そこが解せない。しかし、ミャンマーの軍事政権はこれまで国家の(経済的)地位を向上させるための選択肢がいくつもあったにもかかわらず、ことごとく無駄にしてきた。
 たとえば、中国やインド、タイ、韓国、マレーシアなどの企業が、ミャンマーで油田やインフラの開発に関わっているが、たいていは、政治の上層部と不透明な提携関係を結び、特定の個人が利するだけに終わっている。
 われわれは、これを「腐敗」という。もちろんすべての案件がそうだと言っているわけではないが、そもそもミャンマーの軍事政権をわずかながらも経済発展に積極的であると捉えている海外企業は皆無なのではないか。ミャンマーの問題は、民主化の遅れもさることながら、経済発展に関するこの意識の低さにあるのだ。
 ちなみに、軍事政権は今、国有資産の私有化を進めているが、資産が一方の占有グループから民間の顔をした他方の占有グループへと移るだけならば、何の意味もなさない。真のプライベートセクターへと移し、生産性を上げていかなければならないる。果たして、そうした決断が出来るのか。出来るのならば、ミャンマーは段階的に良い方向へと向かっていくだろう。しかし現状では、疑わしいことばかりなのだ。【12月1日 DIAMOND online】
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確かに、かつてのフィリピンのマルコス政権にしても、インドネシアのスハルト政権にしても、民主化では問題があったものの、「開発独裁」とも呼ばれるように経済発展にはそれなりに努めましたが、ミャンマー軍事政権にはそういった姿勢が見られません。

ミャンマーは政権が国民の生活向上に関心を払っていない点では北朝鮮同様ですが、北朝鮮ほど厳しい統制社会でもないこと、温暖な気候風土や食糧面でも自然の恩恵を受けていることもあって、とりあえず生きていくうえではなんとかなる社会でもあります。
以前、古都マンダレーを旅行した際、ガイド氏が「ミャンマーで生きて行くのはそう難しくありません。もし仕事がなければ、お寺の手伝いをすればご飯は食べさせてもらえます・・・」とも語っていました。
そんなある意味恵まれた環境が、民主化にも経済発展にもつくさない軍事政権がずるずると続いてきている背景にもあるのかも。

コメント
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