(07年6月のガソリン価格引上げ時の混乱 今回は、民衆のこうした暴動を警戒してテヘラン市内の広場や給油所には治安部隊が展開したそうです。 “”より By danzitting
http://www.flickr.com/photos/dzvette53/655198326/ )
【外遊中の外相解任】
イランのアフマディネジャド大統領は13日、外遊中のモッタキ外相を解任、続いて20日にはバズルパシュ副大統領(青少年問題担当)を解任しました。
こうした人事には、保守派内部での大統領とラリジャニ国会議長らとの対立が背景にあるとも言われています。
****イラン モッタキ外相解任 外交路線で対立か****
イランからの報道によると、同国のアフマディネジャド大統領は13日、モッタキ外相を解任、サレヒ原子力庁長官に暫定的に外相を兼務するよう命じた。モッタキ氏は現在、セネガル訪問中で、解任理由は明らかにされていない。
モッタキ氏は外交面では、元大統領のラフサンジャニ最高評議会議長やラリジャニ国会議長らとともに、保守派の中でもより現実的な路線にシフトしているといわれ、近年は強硬派のアフマディネジャド大統領と意見対立があるとの指摘も出ていた。
ラリジャニ氏が2007年、核開発問題で米欧との交渉を担う最高安全保障委員会事務局長の職を辞任した際には、モッタキ氏の辞任説も取り沙汰された経緯がある。
中東の衛星テレビ局アルアラビーヤは今回のモッタキ氏解任について、今月6日に核開発問題をめぐる国連安全保障理事会5常任理事国にドイツを加えた6カ国との協議が再開される中、「大統領がより自分の考えに近い人物で周囲を固めようとしている」とする専門家の見方を伝えた。
モッタキ氏は駐トルコ大使や駐日大使などを歴任後、2005年のアフマディネジャド政権発足当初から外相を務めていた。【12月14日 産経】
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【新興勢力対エスタブリッシュメント】
保守派内部での大統領とラリジャニ国会議長らとの対立について、“保守強硬派の大統領と、保守穏健派のラリジャニ国会議長の間の路線対立”とも報じられていますが、アフマディネジャド大統領も現実的な面がある政治家ですし、ラリジャニ国会議長も核開発問題などでは“穏健派”とは言い難い面もあります。
両勢力の対立は、強硬派対穏健派と言うよりは、急速に肥大化する革命防衛隊を支持基盤とし、大衆迎合的なバラマキ政策で人気を維持する新興勢力としてのアフマディネジャド大統領周辺と、既存のイラン支配層・エスタブリッシュメントを代表する“保守本流”的なラリジャニ国会議長周辺の対立・権力闘争という感じがします。
****イラン革命防衛隊肥大化*****
大統領の支持基盤 軍組織・企業を傘下
イランのアフマディネジヤド大統領の支持基盤の中核で、軍事組織に加え、さまざまな企業も傘下に収める革命防衛隊が肥大化している。大統領の権力拡大に直結するだけに、米国などは「軍事独裁化」を推し進めていると批判している。
22日付イラン各紙は、革命防衛隊の関連企業が昨年9月、柚営通信会社の株式の50%を取得したことに関する疑惑を伝えた。時価総額は78億ドル相当とされる。
革命防衛隊は、1979年のイスラム革命後に作られ、同国の体制を守護する軍事組織。国防省の下にある正規軍とは別に組織されており、戦時には数百万人を動員できるとされる民兵組織バシジも抱える。さらに経済分野にも進出しており、年間総収入は100億ドル以上ともいわれる。石油や建設など数多くの分野に関連企業を持ち、核開発にも関与しているとされ、「イランは軍事独裁政権の道を歩んでいる」(クリントン米国務長官)と警戒されている。
2005年に大統領に就任したアフマディネジヤド氏も革命防衛隊の出身。側近や閣僚には革命防衛隊の出身者を登用。今月相次いだモッタキ外相、青年問題を担当するバズルパシュ副大統領の解任も、大統領により忠実な人物を登用するためとされる。
国内でも革命防衛隊や大統領側近の動きに懸念を示す動きが顕在化している。国営通信会社の株取得をめぐっては、国会議員の一部から「適切な入札が行われていない」と、取引の違法性を訴える声も出ている。
さらに司法府の報道官は20日、大統領側近のラヒミ第1副大統領に「汚職の嫌疑がある」と述べた。詳細は不明だが、一部の議員はラヒミ氏を「腐敗している」と名指しで批判していた。
司法府長官は、反大統領派で保守派の有力者ラリジャニ国会議長の弟が務めていることから、反大統領哉が巻き返しに出たとの見方が出ている。
ラリジヤニ氏はかつて核問題の対外交渉責任者で、核開発を推進する立場で大統領と大きな違いはないが、07年に対立して辞任。翌年の総選挙で当選し、国会議長になった。議員の6割以上といわれる反大統領派の代表格でもある。
ただ、同国の最高指導者ハメネイ師は沈黙を守っている。基本的には大統領を支持する立場だが、補助金削減など大統領が取り組む経済政策が失敗すれば、ラリジャニ氏支持に乗り換える可能性も指摘されている。
ラリジャニ氏が政権批判を強めるのは、12年の総選挙、13年の大統領選を意識して保守派の存在感を示す狙いもありそうだ。09年の大統領選では、ムサビ元首相ら政権に批判的な改革派が敗北。改革派は弾圧され、政界での影響力をほとんど失っている。
現在2期目のアフマディネジャド氏は、憲法の規定により次は立候補できない。【12月25日 朝日】
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【1リットル8円から32円へ】
アフマディネジャド大統領にとって最大の懸案事項は、国際的な核開発問題よりは国内経済問題であり、18日に発表されたガソリンなどの生活必需品への補助金削減政策の行方です。
****イラン、ガソリン価格4倍に 補助金カット法施行*****
イランで、ガソリンを格安に保ってきた補助金を削減する法律が施行された。1カ月の経過措置を経て、小売価格は従来の4倍となる1リットルあたり4千リアル(約32円)になる。核開発に対する国際社会の経済制裁が強まるなか、国民の不満がさらに高まる可能性がある。
1リットル4千リアルは普通車の場合で、割当量は1台あたり月60リットル。それを超えた分についても、従来の同4千リアルから7千リアルに値上がりする。
2010年度の国家予算はドル換算で約3680億ドル。うち約1千億ドルが補助金に投入され、ガソリンや電気代などを安く抑えていたが、この補助金を段階的に削減し、最終的には廃止する。補助金削減で浮いた金を製油所の施設更新や新規エネルギー開発などに振り向ける狙いがある。
イランは世界有数の産油国ながら、製油所の老朽化でガソリンの国内消費量の約3割を輸入に頼っている。【12月22日 朝日】
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これまでの1リットル当たり1000リアル(約8円)という価格に無理があります。
こうしたガソリン・食料品の価格維持のため国家予算の3割近くを補助金としてつぎ込む事態にもなっていますし、異常に安いガソリンが節約されることなく非効率に使用される結果にもなります。
今後、ガソリンに続いて、政府補助を行ってきた小麦粉、パン、飲料水についても値上げを行うとされています。
財政健全化、一部を輸入に頼るガソリン消費抑制のための政策ですが、大幅な物価上昇は避けられず、当然国民の不満の高まりが、反政府運動の再燃につながる可能性も考えられます。
以前、ガソリン価格を値上げした際は、給油所での騒動なども起きたことがあります。
今回は、民衆の暴動を警戒してテヘラン市内の広場や給油所には治安部隊が展開したそうです。
また、イラン政府は家計への打撃を緩和するため、補助金カットで浮いた予算の一部を1世帯当たり約80万リアル(6500円)の直接給付金という形で全世帯に支給し、国民の不満を和らげる考えです。【12月19日 時事・読売より】
核問題を巡る経済制裁がどれほどイラン経済に影響を与えるかについては諸説あるようですが、ガソリンの輸入制限は欧米が一番狙い所としている点です。
現在イランはガソリンが十分に輸入できなくなり、大量のガソリンを自前で生産していますが、粗悪なイラン製ガソリンによる排ガスが大気汚染を深刻化させているという報道もあります。
****イラン:テヘランの大気汚染深刻化 経済制裁も悪化に拍車****
人口増と交通渋滞が慢性化するイランの首都テヘランで大気汚染が深刻化し、地元紙は「汚染度が世界一になった」と指摘。体調不良を訴える市民も増え、イラン政府は休日増や車両制限で必死に対応している。核問題を巡る経済制裁で、イランはガソリンが十分に輸入できなくなり、大量のガソリンを自前で生産。多くの市民は「粗悪なイラン製ガソリンによる排ガスが大気汚染の原因だ」としている。
6日付のイラン紙シャルグによると、テヘラン市内の大気は公害基準を上回る危険な状態が前日まで25日間続き、従来の世界記録の連続日数を更新。有害浮遊物質は基準の10倍を超え、呼吸障害や頭痛などの救急病棟の患者が市内で4割増えたという。
政府は11月末から政府機関や銀行、学校の臨時休日を繰り返し導入したり、ナンバープレートによる市内の車両制限を連日実施。7日には航空機で上空から水をまいたが、大幅な改善にはつながっていない。
今年7月、米国は独自の制裁措置でイランへのガソリン禁輸を決定。ガソリン精製能力が低いとされるイランはこれまで約4割を輸入に頼っていたが、本格的な増産に乗り出した。8日付の地元紙エテラートは「現在使われているガソリンは不純物が多く、大気汚染につながっている」との専門家の指摘を掲載した。【12月9日 毎日】
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一般庶民は大気汚染は我慢しても、大幅な値上げには怒りを表します。
これまでバラマキ政策で貧困層の支持を維持してきたアフマディネジャド大統領にとっては、大きな賭けです。
【「大統領は本気で和解の糸口を探り始めた」?】
経済制裁効果については、その効果は大きく、イランを核協議の場へ引き戻した・・・との指摘もあります。
****イラン:制裁の打撃大きく、経済深刻…核協議再開へ*****
イランの核開発問題を巡り、国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国とイランとの協議が6日からジュネーブで始まる。協議再開は1年2カ月ぶりで、6月の国連安保理による経済制裁決議以降初めて。イランの米欧諸国への不信は根深く、アフマディネジャド大統領は表向きは強硬姿勢を変えていない。ただ、制裁による国内経済への打撃は深刻で、国民の強い反発を恐れる政府は制裁解除に向けて6カ国側との妥協点を探らざるを得ない状況だ。(中略)一連の経済制裁で金融取引が一層制限され、輸入コストが上昇。これが多方面のインフレを招き、深刻な影響を及ぼす。(中略)
一連の経済制裁による影響は、外国投資が規制された石油・エネルギー業界で打撃が大きいほか、外貨不足の進行で9月には現地通貨のイラン・リアルが一時暴落して両替所などが大混乱になった。(中略)
「核の(平和利用の)権利についての話は一切しない」と政府は表面上強気だが、米欧との接点を見つけない限り交渉の継続は見込めない状況。また、国内経済のこれ以上の混乱は政権維持を困難にする可能性が強く、協議を前に「アフマディネジャド大統領は本気で和解の糸口を探り始めた」(外交筋)との見方が出ている。【12月4日 毎日】
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しかし、ジュネーブでの2日間の協議では、核の「平和利用」を主張するイラン側とイランの核兵器開発阻止につながる方策を模索する欧米側との折り合いがつかず、来年1月下旬にトルコのイスタンブールで再開することを決めただけで終了しています。
“イラン核開発をめぐる協議は昨年10月以来、1年2カ月ぶり。だが、核問題に切り込めない交渉には手詰まり感が出ており、核開発を加速させる同国に「時間稼ぎを許した」(西側外交筋)との懸念も出ている。”【12月7日 時事】との指摘もあります。