Con Gas, Sin Hielo

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「ビューティフルボーイ」

2019年04月14日 13時28分14秒 | 映画(2019)
「みんなやってる」という絶望。


世の中に数多ある社会問題の中でも病巣が最も根深いと思うのが薬物問題である。

人の体をむしばむ直接的な被害に加えて、その売買で巨額のブラックマネーが反社会的組織へと流れることにより、おそらく世界の政治や経済が好ましくない方向へ動かされている。

それなのにハリウッド映画や音楽のPVを見ると、一般の人や学生までもが普通にドラッグを使用している光景が映し出されることが多く、なんでこんなに寛容なんだろうと不思議に思っていた。

本作はB.ピット率いるプランBエンターテインメントの製作である。先日の「バイス」とともに社会問題を提起する有用な作品を送り出す貴重な映画会社である。

主人公は父デヴィッドと息子ニック。デヴィッドはニックが幼い頃に離婚と再婚をするが、後妻のカレンと新たに生まれた弟や妹を含めた家族5人の仲は極めて良好であった。

デヴィッドは仕事に忙殺されることなく家族の一人一人を見つめることを忘れず、ニックもそんな父親の愛情をしっかりと感じ取って順調に成長していった。

しかしそこに割って入ったのがドラッグであった。

親のためのセラピー施設の壁に貼ってある標語に「本人に原因はない」と書いてあったが、家庭環境にすら問題はなかったのにニックは薬物に手を染めてしまったのである。

「みんなやってる」「ちょっとした息抜きは必要」と言いながら「昔はやってたんでしょ?」と逆に親に差し出す。

「昔はやんちゃしたもんだ」という台詞は昭和世代の冴えないニッポンのおじさんの専売特許と思っていたが、どうやらそうではないらしい。ちょっと悪いことをするまで育った息子を温かく見守る父親は、角度によっては美談に映ってしまう。病巣が根深いと思う由縁だ。

もちろん全員がドラッグ中毒になるわけではない。ただ手を出した瞬間にその可能性は跳ね上がる。本人が知らないうちにポイントオブノーリターンを越えると、更生する確率はひとケタ%台まで落ちてしまうらしい。

映画は、ニックが立ち直ろうとするたびに失敗する姿を何度も映し出す。何か月だろうが何年であろうが元に戻るのは悲しいくらいにあっという間である。その度に「今度こそ」と思っていた人たちは奔走し落胆する。

更生施設にもいろいろあるようだ。確かに患者が多ければ絶対数が足りず、中には質の悪い施設も出てくるのだろう。子供を正しい道へ導く方法はどこにあるのか。親の苦労は尽きない。

「君の名前で僕を呼んで」で一躍注目を浴びたT.シャラメが引き続き繊細で痛々しいニックを演じる。弟や妹と無邪気に戯れる姿とクスリの影響で感情が高ぶっている状況のギャップが強く印象に残る。

デヴィッド役はS.カレル。安定の演技で愛する故の苦悩を表現する。親の愛は薬物依存を防ぐことはできなかったが、愛の力こそがぎりぎりのところで踏み止まることを可能にしている。その事実は重い。

実話だけに安易なハッピーエンドは訪れない。家族はおそらく現在も勝ち目の薄い闘いを続けている。でもそれでいい。その姿を克明に伝えることだけが今後の希望へと繋がるのだから。

(85点)
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