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Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「来る」

2018年12月14日 23時45分37秒 | 映画(2018)
小さな悪でも容赦なく裁く。


前作の「渇き。」がイマイチだったこともあってか、4年ぶりの新作ということになった中島哲也監督

これまでも殺伐とした世界が舞台になった作品が多かったが、今回は純然たるホラー作品ということで、どのように料理するのか興味が持たれた。

宣伝のチラシでは一部の文字が伏せられていたが、原作はヒットホラー小説の「ぼぎわんが、来る」である。

悪いことをすると鬼が来て食べられてしまうといったような話は、最近ユネスコの無形文化遺産に登録された来訪神にも通じるところがあり、典型的な田舎の言い伝えに思えるが、この原作は新作である。

一般的な会社員である秀樹の周りで不可解な出来事が起こる。子育てをしながら真面目に働いているのに何故こんな目に遭わなければならないのか。しかし彼は幼いころにあるものを呼び寄せてしまっていた。

この話のおもしろいところは、あるものに憑りつかれてしまう秀樹の人物設定にある。

いわゆるイクメンとして周りから慕われていた秀樹は、実は外面を装うだけのぺらぺら人間であった。妻の香奈は家庭内暴力をふるう母親のもとで育った不幸な生い立ちを持っており、秀樹はそんな香奈を妻にもらってやったと内心思っている。

犯罪を犯しているわけではないし、もちろん巨悪というほどの存在でもないが、観ている側は秀樹の振る舞いにとてもいらいらを覚える。そんなときにやって来るのだ、「あれ」が。

子供のころに一緒に遊んでいた女の子に言われた言葉が秀樹の脳裏にふっとよみがえる。

「あんたのとこにも来るで。あんた、うそつきやから」

田舎の言い伝えは道徳教育の役割を果たしているが、秀樹のところへやって来た「あれ」は手加減を知らなかった。

中島監督の切れ味鋭い映像と相まってスクリーンに鮮血が広がる。普通のオフィスや大衆食堂が突然惨劇の舞台になり、秀樹の自宅は平穏な日常の青空の下で血まみれになる。

霊媒師・琴子による除霊の場面では、神主や女子高生、しまいには音響スタッフまで出てきて、除霊と言うよりも何かのイベントが始まるような演出。

ホラー映画と中島監督の相性は良いようだ。

「あれ」があまりにも訳の分からない存在で、突き詰めると納得がいかなくなりそうになるが、外国のホラーでも姿を見たら終わる「それ」だとか、音を立てたら終わる謎の生命体だとかがあるくらいだから、許容範囲ではないだろうか。

まったく救いようのないキャラクターだったが、演じた妻夫木聡黒木華は印象に残った。

(80点)
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「search/サーチ」

2018年12月09日 23時13分36秒 | 映画(2018)
武器がなくても父は闘う。


100%PCの画面の映像で展開する新しい映像体験、と宣伝されているが、僅か2年前の「アンフレンデッド」がなかったことにされているのはどういうことだろう。

観てみると2年分の進化もあるのか、テレビ映像も含めて動画の部分がかなり多いので、物理的な制約の中で努力している感はあまり見られない。

それより世の中の人たちはオンラインで会話するときに、自分の顔をPCの画面に出して話をするのだろうかとふと疑問に思った。

話はおもしろい。

高校生のマーゴットがある日突然姿を消す。父親のデビッドはPCに残された断片的なデータを元に娘の居場所を突き止めようとするが、マーゴットの知らなかった本質が明るみになり、安否の心配と真実に対する動揺でデビッドは追い詰められていく。

少し暴走気味になるものの、父親の誰よりも深く熱い愛情が事件解決の扉を開いていく展開は、同じ父親として勇気づけられる。

基本的にスリリングかつシリアスな空気でテンポよく話が進むが、マーゴットがよく使っていた生動画配信サイトをデビッドが強面の顔で試す場面など時折コミカルな描写を挟んだり、失踪事件がメディアに取り上げられた途端に群がり出すネット住民のあるあるを皮肉ったり、細部にまでしっかりと気を配った演出には非常に好感が持てる。

犯人探しのどんでん返しもきれいに決まった。全篇を通して完全な悪人が出てこないところも特徴かもしれない。

銃も出てこない。クスリは出てくるが、残念ながらこのくらいが米国の高校生の平均像ということだろう。

(80点)
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「ヘレディタリー/継承」

2018年12月09日 22時23分51秒 | 映画(2018)
正気と邪悪のあいまいな境界。


久しぶりの正統派オカルト映画と話題の本作。心の芯がじわじわと凍り付くような恐怖を期待していたのだが、実際に観てみると通り一遍で理解するのが難しい代物であった。

その最たる原因がミスリードだ。特に主人公の娘・チャーリーのオカルト要素全開な容姿に振り回された。

古くは「エクソシスト」から、悪魔が取りつくのは小さい女の子と相場は決まっている。加えて題名が「継承」である。祖母から邪悪なものを引き継いで後半で大暴れするのだろうと勝手に思い込んでしまっていた。

母親のアニーも序盤から半ば倒錯しているから、誰が真人間であって観客として寄り添っていけばいいのか判断が難しく、唯一間違いなく怪しいと分かったのは、アニーに接近する謎の女性・ジョーンくらいであった。

更に、頭に描かれた悪夢と現実の場面が時折入り混じることも混乱の一因となった。これは、怒涛の展開を見せるクライマックスを半信半疑で捉えざるを得ないという、致命的なマイナス点につながってしまった。

アニーがワイヤーで自傷する場面は、後から整理すればトラウマ級のものすごい画なのだが、彼女が何故壁に張り付いているのかがすとんと落ちず、前にもちらほら出ていた夢や幻想の類かと流してしまった。

息子のピーターのその後も、自分の理解が正解なのかどうか自信が持てないでいる。

苦悩や恐怖が表情から消え失せ、柔らかな音楽と光に包まれて歩を進めた先にいた出迎えの面々は、はっきりと判別はできないが、おそらく首から上はなかったのだろう。

完全なる継承。悪夢の完成。観終わってからいろいろなサイトで脳内補完をして、この映画の本質にようやく指が届いた気がした。

でも過去に名作と言われ伝説になったオカルト映画は分かりやすく恐怖を感じることができた。もう少し改善の余地はあったのではないか。

・・・と思っていたら、公式ホームページに「観た人限定完全解析ページ」なるものがあった。やっぱり映画としては不完全ということでしょう。

(70点)
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「ヴェノム」

2018年12月01日 21時49分47秒 | 映画(2018)
本当の悪では娯楽作品にはなれない。


「最も残虐な悪」に体を乗っ取られたヒーローという触れ込みの本作。原作ではスパイダーマンと対峙するアンチヒーローとのことでもあり、最近のMARVELのレベルから期待は高かった。

しかしここで気になることが。本作はソニーピクチャーズの製作。つまりスパイダーマンはいるが、アベンジャーズとは別の世界ということだ。

なんとも複雑な話だが、今回はエンドロール後を除いてスパイダーマンは影も形もない。ヴェノム誕生でまるごと1本を費やしている。

ヴェノムの造形はよくできている。人間と同化する前のオニヒトデのような容姿も、人体を乗っ取った後に変貌するおどろおどろしい姿も、これくらいでは驚かなくなってしまったが、よくできている。

しかし物語としては、特にはっとする意外性もなく終始したと言っていいだろう。

T.ハーディは熱演していたし、敵役もまあまあ憎たらしく最後の対決も盛り上がった。

ただ、ヴェノムがT.ハーディ演じるエディを気に入って、同類である地球外生命体と対決する決断をしたところで物語としての興味は潰えた。実際、後半のヴェノムは寄生するというより相棒と化していた。

純粋な悪のままではストーリーを作れないのは理解できるので特に不満はないが、上述のようにアベンジャーズとは違う世界にいる立場で、今後どう盛り上げていくのかは気になるところだ。

エンドロールでの特別映像に出てきたW.ハレルソンのキャラクターは期待できるが、その後のスパイダーマン(?)は正直なにこれ?だった。

それでも、「ヴェノムは帰ってくる」のだろう。明確なメッセージはなかったが。

(70点)
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「スマホを落としただけなのに」

2018年12月01日 21時03分11秒 | 映画(2018)
渡る世間は隙だらけ。


TOHOシネマズの1か月フリーパスを発動させたので、普通なら観ないで終わるかもしれない作品にも手を出せるようになった。今回はその第1弾。

関心がないわけではないが、題名から話の流れは想像がつくし、北川景子が特に好きということもないので、公開直後には食指が動かなかった本作。

共演は、今年ブレイクを果たした田中圭。スマホを落とすのは彼だ。

乗っていたタクシーが渋滞に巻き込まれて大事な会議に間に合わない。移動手段を地下鉄に変えようと慌ててタクシーを降りる際に座席に置いたスマホをそのままにしてしまう。

地下鉄の駅に行くと、こちらはこちらで運行見合わせになっていて、会社の人に連絡をとろうとして初めてスマホ紛失に気付くのだが、このあたりの田中圭のどたばた演技が見ていられない。

彼の演技なのかそもそもの演出なのか分からないが、手際の悪さにいらつきを覚えた。そもそも時間厳守の都心の移動でタクシーを使う選択がおかしい。頭が悪い。

細かい揚げ足取りは好きではないが、この映画はそうしたツッコミどころが多かったので敢えて書いてみた。

本題であるところの、情報セキュリティの話は身につまされる。ちょっとした隙から個人情報がダダ漏れになってしまう世の中が怖いということは伝わってきた。

でもこの映画の中では、落としたスマホが悪人の手に渡ってしまった不運と、主人公たちの意識の甘さが重なって起きた事件なので、教訓とまではいかなかった。

むしろ面白かったのは、北川景子演じる麻美の過去を巡るサスペンスの方で、クライマックスではサイコで恐ろしいはずの犯人を脇に追いやって話が展開する。

犯人探しの楽しみは、様々なキャストにミスリードをさせることで観る側の関心を引っ張っているが、やや無理があったように感じた。特に、千葉雄大が演じた新人刑事が聞き込み調査のときに異常性を見せる場面は明らかにやり過ぎ。

全体的に中弛みもなく一気に観られるけれど、その先のプラスアルファという点では物足りなさを感じてしまう作品であった。

(65点)
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「ボヘミアンラプソディ」

2018年11月18日 14時46分49秒 | 映画(2018)
WE ARE THE CHAMPIONS !


コンサートやライブの類にはあまり行ったことがない。会場が一体となって盛り上がる雰囲気に抵抗があるからというのが理由の一つなのだが、映画館はまったくその逆で、周りが暗くて集中できるからであろうか、よく笑うしよく泣く。

そんな自分が考えさせられた。このLIVE ADEの現場にいたら、気持ちの高ぶりを抑えることができただろうか。

それほどまでに、本作のラスト20分のステージは圧巻の一言に尽きる。

北米では、脚本が凡庸であるなどの批判的な評価が一部にあるらしい。確かに、世界的な名声を得た後にバンド内に確執が生じるという流れ自体に新鮮味はないし、友情や裏切りのエピソードは、時間軸があいまいだったり、でき過ぎた部分が多く見られたりするなど、真実かどうか怪しく感じられる。

ただ、それを差し引いたとしても、F.Mercuryが背負った運命や、彼とQueenのメンバーが作り上げた伝説に疑いをかける余地はまったくない。

主演のR.マレックは、どこからヴォーカルを吹き替えたのか気にならないくらい、フレディという人物を演じ切っていた。

印象的だったのは、売れる前からスターになった後まで一貫していた不安定な表情である。歯列が悪かったことを「音域が広がる要素」と言い張っていたが、その裏では出自も含めて蔑まれていた経験への劣等感も見て取れる。

溢れ出る才能に背中を押されるように前へ進み続ける一方で、常に破滅と崩壊の恐怖を心のうちに隠していたフレディ。家族への反発は成功の原動力となったが、それとは裏腹に、彼を大事に思ってくれる人の存在に気付くまでに長い時間をかける結果ともなった。

最期はこの映画のように、彼にとってのファミリーであったバンド仲間や親友たちに囲まれて安らかに旅立つことができたのだろうか。エンドロールまで全篇を通して流れるQueenの楽曲を噛みしめながらそんなことを考えていた。

ところで、本作に関する報道等を見ると、この映画の製作にもかなりの紆余曲折があったらしい。

監督として名前を連ねているB.シンガーは、出演者との確執等により解雇され、最後まで撮影することができなかったという話だ。

完成した作品を観るかぎり、ごたごたによるほころびは見られない。それにしても芸術というのはガラス細工のように繊細だと改めて感じた。

フレディは自らの命を削って、歴史に残る名曲の数々を世界に送り出したのだ。

(95点)
コメント (2)
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「ピッチパーフェクト ラストステージ」

2018年11月09日 23時33分52秒 | 映画(2018)
ごほうび感満載の延長戦。


第1作「ピッチパーフェクト」の公開から6年。ずっと大学生でいられるはずもなく、ベラーズの面々もすっかり社会人・・・と思いきや、栄光を極めた面影もなくみんな伸び悩みの日常を抱えていた。

前作の「ピッチパーフェクト2」で苦言を呈した無理やりな舞台づくりは更に拡大。

揃いも揃ってくすぶっているベラーズも相当だが、いきなり米軍の慰問に参加して、それが実はDJ Khaledの前座を争うアメリカンドリームの舞台だったというのもなかなかの現実離れ。

そこに集まった他のバンドメンバーに毎度おなじみアカペラバトルを仕掛けるのもあり得ないし、相手が楽器を使ったから「向こうの負け」と捨て台詞を吐いて立ち去るベラーズにいたっては意味不明。

ただ、練習をどこでしてたのかはまったく分からないが、パフォーマンスの完成度は相当高い。

SIAやDNCE、Robin Rhicke、Dayaといった最近の曲を彼女らのカラーで歌い上げるのを見るだけで十分に楽しいし、その選曲の中で最後の舞台でA.ケンドリック演じるベッカが歌うのがGeorge Michaelの"Freedom! '90"と来た。

静かなDJパフォーマンスから入って徐々に盛り上がり、ついにはメンバー全員が輪になって歌う姿には思わず感動してしまった。音楽の力、おそるべし。

もともとコメディーだし、肩肘張らずにとにかく楽しく歌おうよとなれば、この世界は有りだよねと思えてくる。

いつもストーカーのようについてくる実況の二人ももはやリアリティゼロだし、だからこそファットエイミーの父親として今回ゲスト出演した怪優J.リスゴー(懐かしい!)はぴったりの配役だったと言える。

それでもさすがにこれで終幕かな。パフォーマンスはまだまだ観たい気はするけれど。

(70点)
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「クレイジーリッチ」

2018年10月21日 22時08分23秒 | 映画(2018)
アジアと欧米のスクランブル交差点。


主要キャストすべてがアジア人の作品が北米BOX OFFICEで大ヒットを記録。そんな話題作が意外にも早く映画館にかかることとなったので、さっそく確認しに行ってみた。

冒頭は1995年のロンドン。高級ホテルのロビーに雨でずぶ濡れになった中国系と思しき家族が現れる。

明らかに分不相応な客人に対し、丁寧ではあるものの差別的に接するホテルマンたち。しかし、その中国系の家族は、ついさっきホテルを買い取った新しいオーナーさまであることが判明。

手のひらを返す従業員たちを尻目にスイートルームへ向かう家族。出だしの完璧な爽快感に本編への期待が膨らむ。

舞台は飛んで現代。ホテルの買収から20年余りが過ぎ、当時の子供たちは結婚適齢期に成長していた。跡継ぎ息子のニックは本拠地のシンガポールを離れ、ニューヨークで暮らしていた。

大金持ちは経済的に恵まれていても、何かと不自由があるらしい。誰も自分のことを知らないニューヨークで、大学で経済学を教えるレイチェルを恋人に持ち自由な生活を満喫するニック。

レイチェルとの関係を真剣に考えれば、いずれは家族に面通しをしなければならない。友人の結婚式の介添人を引き受ける機会に合わせて、ニックはレイチェルをシンガポールへ招待する。

本作の原題は「クレイジーリッチ:アジアンズ」。ただのリッチではない。スーパーリッチでもない。「クレイジー」なリッチである。

そして「アジアンズ」も単なるアジア人ではなく、様々な背景を持つアジア人というところが肝である。

旅行へ向かう前にレイチェルの母親が言う。アジアに住む中国系と米国で育った中国系は違うと。ニックの家族と会ったレイチェルは、そのことをいやというほど思い知ることになる。

クレイジーリッチな一族は、何にも増してファミリーの隆盛を第一に考える。見た目が似ていても、自由主義、個人主義の米国精神にどっぷりと漬かったレイチェルはエイリアン以外の何者でもない。

本作は、パッケージこそアジアを前面に押し出しているが、中身としては男女の恋仲に立ちはだかる家族や文化の壁という、極めてオーソドックスなテーマを扱った分かりやすい作品である。

キャラクターも分かりやすい。レイチェルは少したれ目がちで観る者を味方につけやすい顔立ち。ニックはさわやかなイケメン。厳しい表情でレイチェルを威嚇するM.ヨーに、変わり者揃いの脇役たち。

分かりやすさを派手さと明るさでコーティングして、アジア人の珍しさで話題性を加えたというところが勝因だろうか。

シンガポールが舞台というところもバランスが良い。米中関係は決して順風ではない中で、必然的に政治でも経済でもカギを握るのはこの場所である。双方の力をうまく利用してこれからも発展を続けていく。スクリーンに映る個性的な建物群や街並みを通して、あふれ出る活気を垣間見た気がした。

(80点)
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「はいからさんが通る 後編 ~花の東京大ロマン」

2018年10月21日 21時25分58秒 | 映画(2018)
そして40年越しの大団円へ。


結局1年待った。それでも、40年に比べればなんてことはない時間であり、前編の復習がなくてもすぐに物語に入っていくことができた。

記憶にあるのは、少尉とうり二つのロシア人が突然飛行船で現れたところまで。そして、このロシア人・ミハイロフ公爵がどうやら少尉本人であり、彼はシベリアの戦地で記憶喪失に陥っていたらしいということ。

その後の未見の物語も、前編までと同様にかなり端折って描かれていたのであろう。少尉の記憶が結構あっさりと戻ったのも若干肩透かしではあったが仕方ない。

後編の物語の中心は、紅緒、少尉、そして出版社編集長の青江冬星の3人による大正ラブロマンスである。時代背景こそあれ、2人の美男子から思いを寄せられる主人公という構図は少女漫画の王道と言える。

王道だからこそ結末も読めるのだが、冬星が少尉に負けないほどいい男なので、少なからず彼に肩入れする思いも湧いてきて、この話をどう決着をつけるのかとやきもきする展開となった。

特に、紅緒も少尉もお互いのことをきっぱりと諦め、紅緒と冬星の挙式が決まると、これはお決まりの「卒業」的ぶっこわしパターンではないかという不安がよぎるように。

この時点で明白なメッセージとして出ていた挙式の日:9月1日ということに気付かなかった自分。今回だけはこの鈍さに感謝したい。

恋の行方を決めるのは運命。運命によって出会い、運命によって一度は離別した二人が、再び結び付くのもまた運命。

真実の愛が恋敵を叩き落すのではなく、激動の大正時代というとてつもなく大きな存在が、クライマックスにまたしても3人の運命をいたずらに転がす。この流れには納得するしかない。

それにしても、改めて話を通して観てみると、この重要な後編をばっさりと切り捨てて打ち切ったということは、なんとも良くも悪くもおおらかな時代だったとしか言いようがない。

とにかく一にも二にも、物語すべてを通して見られたことに満足している。

(90点)
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「かごの中の瞳」

2018年10月08日 23時05分01秒 | 映画(2018)
度量がないなら諦めろ。


C.チャップリンの名作「街の灯」は、手術で目が見えるようになった女性がチャップリンに向かって「あなただったの?」と問いかけるところで終わる。どのようにもとれる優しくて残酷な名場面である。

本作の主人公であるジーナとジェームズの二人に待っているのは、その先の「残酷な」物語である。

夫婦の関係は長い間一緒にいることで、段々とそれなりの形に仕上がってくるものである。

しかし、突然パートナーの性格が変わってしまったらどうなるか。

この映画では妻であるジーナの目が見えるようになったことで、彼女の生活や考え方といったすべてに変化が生まれる。

今までは自分なしでは何もできなかったはずの妻が一人で歩き出している。自分が必要とされなくなることに焦りを抱くジェームズ。

男としての度量を見せようと、サプライズの旅行を計画したり、ジーナが希望していた引越しを決断したりするが裏目に。ついにジェームズは禁断の行動に出てしまう。

ジーナの行動にも問題はあるが、原因を辿ってみればジェームズの度量のなさに行き着く。しかし、設定は違うものの、付き合っていた異性との関係に自信が持てずに自ら破局を招いた経験を持つ身としては、彼に強い共感を抱かざるを得ない。

自分に翻ってみて、不釣り合いなほど美しい妻が外の世界へ誘われていくのをどっしり構えて見ていられるだろうか。

目が見えるジーナとの関係は、成り立つものではなかった。結論はこれに尽きる。

目が見えないジーナの世界は明らかに違う。序盤で頻繁に描かれていたぼやけた映像、不安を誘う物音。ジェームズの存在は、その恐怖を排するためには必要であった。

では、はじめから目が見えていたとしてジェームズと結婚していただろうか。ジーナはそれを確認しようと彼女なりに接触したが、結果としてジェームズは応えられなかったのだ。

目が見えないときは信頼で結ばれていた夫婦が、視界が広がるとともに疑念で相手のことが見えなくなっていく逆説的な設定が興味深いとともに恐怖を感じた。

しかし、描写を省き過ぎる場面が多く、鑑賞後にいろいろ検索して補完しないと分かりづらい点は残念であった。

特に、最後に出てきた手紙は観たときは理解できず、最後の二人の対峙がいまひとつ響いてこなかった。だから二人の決着の印象も、安直で生煮えに映った。

(75点)
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