原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

インドでの動乱

2008年11月28日 | 時事論評
 26日夜、インド西部の商業都市ムンバイで起きた同時多発テロ事件を受けて、つい先日インド旅行を終えたばかりの私宛に、複数の知人より「少し時期がずれていて何よりだった」等のメール、メッセージを頂戴した。
 皆様のお気遣いに心より感謝申し上げます。

 私にとっては自分の旅行の時期がずれていたことよりも、つい先だって微笑み合ったあの円らな黒い瞳のインドの人々が生を営む地で動乱が起こった事実自体に、心が痛む思いである。


 今回の同時多発テロは、インド最大の商業都市ムンバイ(旧ボンベイ)を狙った大規模な動乱であり、邦人ビジネスマンも含む100人を超える死者と300人以上に上る負傷者を出している。ホテルや鉄道駅、病院、レストラン等人が集まる公共施設ばかりが標的になっているのが今回のテロの特徴のようだ。

 ムンバイは世界の外資系企業も集まるインドの経済の中核都市で、現在日系企業も100社余りが事務所を構え270人を超える邦人が住んでいるらしい。 
 先月私の渡印直前に来日したインドのシン首相と日本の麻生首相との間で、日印の経済連携協定(EPA)の早期妥結に向け協力することで合意したばかりである。日本はニューデリーとムンバイを結ぶ貨物専用鉄道の建設に円借款の供与も約束している。もしもテロが続けばこうした日印間のプロジェクトにも陰りがでることも懸念される。 

 インドではここのところイスラム系過激派グループによるテロが頻発しているが、今回の事件もイスラム武装集団の関与による犯行であることが示唆されている。 
 報道によると、インド治安当局は、過去に首都ニューデリーやバンガロールで爆弾テロを起こしているイスラム過激派の「インディアン・ムジャヒディン」と、パキスタンに拠点を置くイスラム武装集団が事件に関与したとみて、背景解明を急いでいる。
 現地に立てこもっている犯行グループは地元テレビに対し「インド国内のイスラム兵士の解放を求める。(今回のテロは)イスラム教徒を迫害してきたことへの報復だ」と主張しているらしい。 過去のインドにおいては、ヒンズー教徒とイスラム教徒の間での宗教闘争も勃発しているのに加えて、貧富の格差の大きいインド人同士の対立も事件の背景に潜んでいそうである。

 ただ、今回のテロは過去にインド国内で起きた連続テロとは異質の部分もあるという。今回のテロの場合、ムンバイにある数多くのホテルのうち海外からの宿泊客が多い最高級ホテル2つを選んで襲撃し、さらに犯行グループは米国人と英国人を探していたとの報道もある。
 ここまで大規模な同時テロを行なった犯行グループの動機はいま一つ不透明であり、今後の捜査当局による犯行組織の実態や背後関係の徹底的解明が待たれる。

 (以上、朝日新聞、読売新聞、産経新聞の報道を参照)

 
 インド旅行出発前に私が想像していたよりもはるかに貧富の格差が激しく、悲しいかな“貧しさ”を実感させられた国、インド。 多宗教が混在する国でもあり、宗教間対立による争いも十分に予想出来る事態ではあった。

 そのように複雑な社会情勢の中にあって、旅行者である黄色人種の我々を見つけると純粋な瞳で見つめ微笑み返してくれたあのフレンドリーなインドの人々の表情やしぐさが、今尚私の脳裏に焼き付いている。

 文明の歴史や伝統があり自然環境も豊かなインド。そんな大地に生を受けた国民一人ひとりが貧富の格差や宗教の違いを超え、日々懸命に生を営むインドの人々にとって、動乱などまったく無用の存在と願いたいものである。 
     
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