水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-68- 救いの神

2017年06月17日 00時00分00秒 | #小説

 予想もしていない困った状況に、ヒョイッ! と正義の味方のように現れてくれるのが救いの神だ。救いの神の出現は、その者にとって、有難くも有難い。なんといっても最悪のピンチを脱出できるからだ。そうなるピンチの予想は誰もしていないし、どこで、いつ、どうなるか・・は、神のみぞ知る未来の姿だからだ。一秒でも時間がづれればそうならないし、それが可能となるタイミングが必要となるからだ。
 竹鋸(たけのこ)は、その日どうしたことか、いつもの落ち着きを失っていた。車でスーパーへ買物に出かけた竹鋸は、いつものように4階以上に敷設されている駐車場へ車を止めようと、車でスパイラル通路を上っていた。生憎(あいにく)その日は混んでいて、車は次から次へと数珠(じゅず)つなぎで上っていた。最初のうちは竹鋸の車も順調に上っていた。ところが2階の踊り場で前の車が急にストップしたのである。竹鋸の車は踊り場手前の上り坂だったから、予想外の展開に、慌(あわ)てて竹鋸はサイド・プレーキを引いた。数珠つなぎで後ろからも車が上ってきている。以前にも同じようなことがあったが、そのときは焦(あせ)っていなかったからか、スンナリとサイド合わせ[ギアをローの位置にし、アクセルをやや強めに吹かしながら静かにサイド・プレーキを戻(もど)す]が出来たが、その日にかぎって少し焦っていたこともありアクセルの吹かしが弱かったのである。当然、車は逆走し、下り始めた。下からは車が数珠つなぎで上ってきていたから竹鋸はかなり慌(あわ)て、ふたたびサイド・プレーキを引いた。そして、もう一度、試みたが、アクセルの吹かしが甘く、車は下り始めた。竹鋸はまたまた、サイド・プレーキを引いて車を停止させた。さあ! 弱ったぞ…と思ったとき、後ろの車を降りた男性が近づいてきた。
「変わりましょうか?」
 竹鋸は瞬間、救いの神だ…と思った。竹鋸は車を降りた。車は見事に上がった。竹鋸は『さすがは神技(かみわざ)だ…』と感じた。
「すみません…」
 竹鋸はフラットな踊り場に止まった車から降りてきた男性に、思わずそう言っていた。お手数をおかけして・・の意味が込められていたのは当然である。救いの神は確かにこの世に存在するのである。

                          完


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