ふと、心に浮かんで、物ごとを『ついでに…』と、一緒にやってしまおう・・とするときがある。こういう場合にかぎって、ミスが発生することが多い。困ったことに、ミスをしてから反省することが多いのが日常、世間で生きる我々である。それだけ世の中がスピードアップされ、人が時の流れに追いつけなくなっている・・ともいえる。
「節川(ふしかわ)さん、あの…」
「なんです? 多々木(たたき)さん?」
「いや、べつに…。何かやられますか?」
「いいえ、これといって…。次の駅まで少し眠ろうか・・くらいのことです」
列車旅行で特急・鰹(かつお)の隣席に座った節川と多々木が、車窓に流れる外の景色を見ながら話しあっている。二人は昔ながら仲がよく、飲み屋で意気投合して決めた遠くの温泉への旅に出たのだった。
「そうですか。…でしたら、ついでに…といっちゃなんですが、次の駅で私の分も駅弁買ってもらえませんか」
「えっ? ああ、構わないですよ。なにか、されるんですか?」
多々木は『列車の中だぞ、妙な人だな…』と思いながら了承(りょうしょう)した。
「ええ、まあ。あなたも、ついでに…どうです」
「ついでに? 何をです?」
「あれですよ、アレ!」
「アレ?」
多々木が分からず首を傾(かし)げたとき、節川は持参したクーラーボックスで冷やしたワンカップの酒を、二本取り出した。ガラスの酒は冷えに冷えていた。釣りの旅でもあるまいし、クーラーボックスとは? と、思っていたから、その謎が解けた格好だ。
「ああ! ああ、なるほど!」
多々木は思わず口に出して納得した。
「何がです?」
「いや、べつに…」
「私、飲むと、すぐ眠る癖(くせ)がありますので、ついでに…お願いしたようなことで」
「ああ! ああ! それも、ああ!」
節川についでに…と言われた意味が分かり、多々木はすべて得心ができたのか、酒のツマミのように美味(おい)しく食われた。
完