水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-52- 魔力

2017年06月01日 00時00分00秒 | #小説

 困ったことに、人は種々の魔力に取り憑(つ)かれやすい。たとえば色気で迫る女性の魔力、金儲(かねもう)けの魔力、ああでもない…こうでもないと悩(なや)ませる魔力、つい気を許す油断させる魔力・・など、さまざまだ。その人の出来次第で、結果は大いに変わる訳だ。
 営業二課の中である。隣りのデスクに座る寺崎が、守宮に声をかけた。
「守宮さん、どうです今夜、一杯?」
「えっ? ああ、いいですよ。久しぶりですねぇ~」
 守宮はスンナリと快諾(かいだく)した。
「かれこれ、半年になりますか…」
「もう、そんなになりますか…」
「ええ…。あの店には近づかない約束をしたんでしたよね」
「そうでした、そうでした。あの店は危険ですから…」
「ええ、あの店は男を食い殺すような魔力があります」
「でしたね。雌(メス)カマキリみたいな…」
「そうそう!」
「やはり、別の店にしますか?」
「おお! それがいい」 
 二人は別の店で飲むことにした。ところが、二人は密かにその店に通っていたのである。店の魔力に完全に翻弄(ほんろう)されていたのである。二人とも通っている事実を、ひた隠していた。魔力とは、かくも恐ろしい力を秘めているのである。

                             


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