水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

困ったユーモア短編集-55- さて…

2017年06月04日 00時00分00秒 | #小説

 人は時折り、ポカ~ンとしてしまう空虚(くうきょ)な瞬間に立ち至ることがある。それまでは、アアシテ…で、そのあとはコウシテ…と頭で考えていたものが、困ったことに瞬間、ポッカリと穴が開いたような無の状態である。無とは、先々(さきざき)を何も思い描けない状態に陥(おちい)ってしまったことを意味する。縦川もそんな状態に陥った一人だった。
 その日も縦川は、いつものように家の雑用を熟(こな)し、寛(くつろ)いでいた。しばらくして、さて…と、立ち上がったときである。急に先々のことが浮かばなくなったのである。手を見れば、飲み終えた紅茶カップを握っている自分がいた。ああ、飲んだのか…と思え、とにかく洗おうとキッチンへ歩いた。そして、洗い場でマグカップを洗った。そこまでは、まだよかった。ところが、さて…と、その先の行動を思い描くのだが、何も浮かばない。洗い場でポカ~ンと立っていても仕方がないか…と思った縦川は和室へ入ると畳の上へ横になり、ドッペりと寝そべった。縦川が横になったのである。縦が横になれば絵にならない・・ということでもないが、先のことは何も動かなくなることは確かだ。縦川はいつしか、ウトウトと睡魔に襲われていた。気づけば夕方近くになっていた。そういえば、ここ最近、無理をしていたから、睡眠不足になっていたのは確かだった。腹に空腹感を覚えた縦川は、さて…と動くことにした。頭に先々のことが浮かばなくても、生理的要求を満足させることは出来る。縦川はキッチンでパスタを茹(ゆ)で始めた。先々のことは浮かばなかったが、ナポリタンを食べたい…とは思えたからだ。過去の感覚が縦川を、さて…と動かせた。茹で上がったパスタはフライパンの上でトマトピューレや他の食材とともに、賑(にぎ)やかな盛り上がりを見せていた。さて…は、案外と何とかなるものである。

                             


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