人は品や格で他の人々から評価(ひょうか)され生きている。人間である以上、それは仕方がないことなのだが、土那辺(どなべ)の考えは世間一般とは少し違った。品は上品な人だ! とか、下品だわっ! とか思ったり言われたりする。格も同じで、格に合うから合格だとか、格に合わないから不合格だ・・と世間では評価する。土那辺にはその辺(あた)りの見えない基準が分からなかった。だいたい、偉(えら)そうに格に合わない・・などと上から目線で、お前はいったいどれだけの者なんだっ! とムカつくのである。その者とは見えず、漠然(ばくぜん)としているだけに、余計、腹立たしく思う土那辺だった。
そんなある日のことである。県職員の土那辺は箱矢(はこや)町への異動を命じられ、赴任(ふにん)した。列車を降り、駅を一歩出ると、電話で言われた出迎えを探すため、右や左と見まわした。
「土那辺さん! こっちです!」
少し離れた駅前広場で待機している一台の車があった。[箱矢町役場]とド派手な文字で書かれた車の前で手を大きく振る男がいた。車はまるでリオのカーニパルでパレードしても不思議ではないように装飾されたオープンカーだった。土那辺は見た瞬間、車評価で、すっかり町に惚(ほ)れ込んでしまった。だいたい、公共物がキチン! と地味(じみ)な楷書(かいしょ)で[箱矢町 商工観光課]と書かれねばならない決まりはないのだ。世間一般が役場は地味なものだ・・と評価しているだけで、ド派手が悪い! ということでは決してない。それに反論するようなこの町長の方針が土那辺を、大いに気分よくしていた。
「商業観光課の軽手(かるて)と申します」
「土那辺です」
対面した二人は、さっそく名刺交換をした。
「いい町ですねっ! この車は?」
「ははは…随分、派手でしょ? いやぁ~、運転する私ら職員が恥ずかしいくらいですから…」
「町長さんの方針ですか?」
「はい! なにせ、町長は元芸能人でしたから…」
「ほう!」
土那辺は少し興味が湧(わ)いた。
「まっ! さっぱり売れず、Uターンした口ですがね、ははは…」
「なるほど、それで…」
土那辺は、なるほど…と思った。
車が町役場へ着くと、玄関では町長らしき男が出迎えていた。町役場は今にも崩れそうで、町役場には似つかわしくない古い廃材で建てられたと思える建物だった。
「箱矢町へ、ようこそ。私が町長の掃杭(はくい)と申します…」
掃杭は蚊の鳴くような声で、か弱く言った。
「あっ! 土那辺です…」
そこへ走って飛んできたのは、助役の水滝(みずたき)だった。
「… …助役の水滝ですっ!」
土那辺は、そら当然、今夜の歓迎会は水炊(みずだき)だろう…と思った。
この話は、単なる笑い話だが、評価で人が世間を浮き沈みすることは、確かに、よくある。
完