水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

よくある・ユーモア短編集-89- ダメだっ!

2016年12月20日 00時00分00秒 | #小説

 人は物事をいつの間にか勝手に判断して動いている。ある人が、いい出来だ…と思っても合格せず、別の人がダメだっ! と肩を落としたものの、合格していた・・というような真逆の結果も当然、起こる。その人の判断と他人や社会の判断は違うのだ。概して、ダメだっ! と悲観ぎみに自分を下目に見ている人の方が、上目の人より好結果を得られるようだ。
「ああ、ダメだっ! 予備校だな…。高くつくから無理だな」
 鹿馬岡(かぱおか)は頭を掻き毟(むし)った。受験した大学の入試結果が、思わしくなかったのだ。むろんそれは試験を終えて校門を出た鹿馬岡の判断で、結果そのものではなかった。鹿馬岡は、偏差値も低く、試験前から、自分はダメだっ! と下目線で決めてかかっていた。それに対し、クラスの優等生である賢崎(けんざき)は、テストの延長のように入試を軽く上目から見ていた。賢崎は見事に合格することはした。だが、軽く見た油断からか体調を崩して数年の療養を余儀なくされ、春四月どころか、何年も大学の門を潜ることはなかった。
 桜咲く春、晴れて合格した鹿馬岡は大学の門を潜っていた。ダメだっ! と悲観していた鹿馬岡だったが、全然、ダメじゃなかった。確かに昼間試験は不出来で不合格だったが、鹿馬岡は浪人せず働きながら夜間大学の試験に合格したのだった。そんなこともあろうかと…という下目の判断が功を奏したといえる。
 ダメだっ! はダメ! なのではない。そんな真逆が世の中では、よくある。

                            完


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする