水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

よくある・ユーモア短編集-73- 見方 

2016年12月04日 00時00分00秒 | #小説

 世の中には、両者に[齟齬(そご)が生じる]と言われる[見解の相違]、平たく言えば、[見方の違い]が発生することが、よくある。それは、はっきり言って、事物や事象に対する両者の捉(とら)え方が異なる点が大なのだ。例(たと)えば、富士山を目(ま)の当りにして、誰しもその優雅な自然の大パノラマに感動を覚えない者はいないだろう・・と思える。ところが、どっこい! 世の中には捻(ひね)くれ者もいて、『ちぇっ! たかが、山じゃねぇ~かっ!!』と、見向きもしない者もいなくはないだろう。それは見方の差異によるものなのである。こんなドブス…と一人の者が思ったとしても、別の者には可愛(かわい)いなぁ~と映るかも知れない訳だ。これも要は、見方の違いによる。
「おやじさん、これ値が下がったねっ! 大丈夫かい?」
 八百屋の店頭で、急に値が下がった松茸(まつたけ)の盛り篭(かご)を覗(のぞ)き見ながら、客が主人に訊(たず)ねた。
「ははは…よく見て下さいよっ! 旦那(だんな)。まだまだ大丈夫ですっ!」
「そうかい? …」
 客には少し前に見たときより、萎(しな)びて見えていた。
「ええ! 私が保証します。いい買い物ですよっ。ほらっ! 色艶(いろつや)のよさっ! ひと盛りで、土瓶蒸し、松茸の焼き物、スキ焼、松茸ご飯と、いろいろ味わえますよっ!」
「そうかい? そういや、そう見えなくもない…。だけど、余りにも安いじゃないか?」
「ははは…これはサマツですから」
「サマツ?」
 聞き覚えのない言葉に、客は訊(たず)ね返した。
「馬鹿松茸とも言われましてね。早く出回るんですよ。松茸に比べりゃ味は少し、という人もいますが、笠(かさ)が開いてない小ぶりのものは遜色(そんしょく)ないようです」
「そうかい…。そういや、美味(うま)そうに見えてきたよ。じゃあ、包んで貰(もら)おうか」
「へい、毎度!」
 客は包みを受け取り、代金を支払うと機嫌よく帰っていった。客が帰ったあと、八百屋の主人は、フゥ~と溜息(ためいき)を一つ吐いた。
「サマツでよかったよ…」
 そのサマツは、あと3日もすれば店頭に並べられない代物(しろもの)だった。
 やれやれ…と居間へ上がり、遅くなった昼食を食べながら主人はテレビを点(つ)けた。テレビには予算委員会の国会中継が映し出され、総理と野党党首が丁々発止(ちょうちょうはっし)の論戦を展開していた。
「見方が違うんだな…」
 二人の声を聞きながら、意味が分からないまま、主人はポツリと呟(つぶや)いた。
 見方の違いは十人十色(じゅうにんといろ)で、それにより話が纏(まと)まらなくなることは、よくある。

                             完


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