水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

よくある・ユーモア短編集-81- 曖昧(あいまい)

2016年12月12日 00時00分00秒 | #小説

 結論を曖昧(あいまい)にすることで話が首尾(しゅび)よく纏(まと)まることは、よくある。右か左かっ! 白か黒かっ! とかの話ではなく、物事が順調に進むために双方が納得できる合意点に歩み寄る訳だ。右なら左へ、左なら右へ、白や黒なら少し灰色へ・・と歩み寄る訳だ。程度の幅はあるものの、双方の妥協である。玉虫色だから、あとあと話が拗(こじ)れる原因にもなるが、ともかくその場は、まあ、いいか…と、双方が丸く矛(ほこ)を収(おさ)める。
 地球規模の国家間では、大筋で合意する・・とかいわれる共同声明などがある。少し規模を小さくすれば、わが国の具体例として、国会の与野党の国対委員長による会談や各委員会の理事会などがある。
『その件に関しては理事会で協議いたします…』
 テレビの国会中継で決まり文句のようによく耳にする、聞き馴れた言葉である。まあ…その件に関しては理事会で・・と曖昧に暈(ぼか)し、審議を続行させる手段である。これで双方の激突は一時的に回避(かいひ)され、審議はスムースに進むことになる。
 会社の昼どきである。昼少し前、買い出し役の後輩社員、井川に頼んだ元久保は、買って帰った井川に愚痴っていた。
「俺は、いつもの! って頼んだんだよっ!」
「いつもの、でしょ。いつものならコロッケ弁当じゃありませんかっ!!」
「馬鹿言えっ! それは、一昨日(おととい)までだろっ。昨日(きのう)からはハンバーグ弁当に昇格させたじゃないか」
「そりゃそうですけどね。いつものというのは一昨日までのも含まれるんじゃないんですかっ!!」
 いつもの・・の解釈を巡って、課内では二人の論争が始まっていた。他の課員達は、馬鹿馬鹿しい、どっちだっていいじゃないか…とでも言いたげに、二人をチラ見しながら食堂や外食へと課を出ていった。課内に残されたのは元久保と井川だけだった。
「もう、いい…! 冷えるから、食べよう」
「はい…」
 どちらの言い分が正しいか、を棚上げし、温(あたた)かい弁当が冷えることを危(あや)ぶんだ二人は、結論を曖昧にした。
 曖昧が物事の潤滑油となることは、世間で、よくある。

                            完


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