水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

よくある・ユーモア短編集-48- 想定外

2016年11月09日 00時00分00秒 | #小説

 久しぶりの晴れ間に、宝木は自転車で買い物に出ようと家を出た。早朝の初雪に厚着をして風邪(かぜ)を寄せつけないよう万全の態勢で臨(のぞ)んでいた。少しオーパーにも思えたが、まあ、これだけ着込めば大丈夫だろう…という目論見(もくろみ)があった。
 スーパーへ入ると、思いのほか混んでいて、多くの人が蠢(うごめ)いていた。
[ただ今、食品レジが混雑し、お客様には大変ご迷惑をおかけしております…]
 どこからか、スーパーの館内放送が聞こえてきた。
『ははは…これが本当の.com[どっと混む]か…』
 まあ、こんな混む日もあるだろう…という気分的ゆとりもあり、思わずダジャレが浮かんだ宝木は、思わずニンマリした。そのとき偶然、対向から歩いてきた買い物客と目と目が合ってしまった。その買い物客は、知り合い? と勘違いしたのか、二ッコリと笑顔を返し、軽くお辞儀をした。宝木にすれば、見たこともない赤の他人である。想定外のことだったが、ペコリとお辞儀された以上、無視する訳にもいかない。仕方なく、宝木もペコリとお辞儀して返した。これが、いけなかった。
「どちらさんでしたか?」
「えっ? …。あっ! 失礼しました。人違いです…」
 咄嗟(とっさ)の判断で、危うく宝木は想定外の難(なん)を脱した。
 決めていた物品の買い物をひと通り終えると、宝木はレジへ行こうとした。想定した以上に長蛇の列ができていた。宝木の想定では、数人といったところだったのだが、十数人以上の人が並んでいる。宝木は出来るだけ少なそうな列を選択し、一端、左へと流れた。だが、どの列も結構な人が並んでいた。仕方なく宝木は、右へと取って返して流れた。しかし、やはりどの列も結構な人が並んでいた。これでは埒(らち)が明かん! …と、いささか宝木は焦(あせ)り始めた。ともかく並ぼう…と決意し、適当な列へと並んだ。想定しておいた買い物時間は20分程度だったが、餡に相違して小1時間はかかっているではないか。これでは帰って、昼までに、きつねうどんを湯がけない…と腹も立ってきた。結局、買い物を終えて帰宅したのは昼になる5分ばかり前だった。宝木が予想していなかった想定外の買い物は、結局、きつねうどんをカップ麺に化けさせたのである。
 想定外のハプニングで予定が狂うことは、世間でよくある。 

                    完


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