水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -34-

2015年08月30日 00時00分00秒 | #小説

 城水は一瞬、ガラス窓に映る里子達を見た。幸い、城水は見られていなかった。城水は庭を見通せるガラス窓に背を向けた。
[ああ、大丈夫だ。ただ、今日は少し危うかった]
[なにがあった?]
[いや、報告するほどのことじゃない。私はまだ、覚醒(かくせい)したばかりだ。城水のほんの一部を知ったに過ぎない。城水はナマズを飼っている。私はナマズの飼い方を知らない]
 城水はテレパシーを返した。目を閉じた姿で同じ位置に立ち続けるのは尋常ではないからだ。背を向けていれば、家族からは夕焼けを見続けている・・くらいに映る。
[そんなことは、どうでもいい。私にはナマズとウナギは違うことくらいの知識しかない。私は今日で一応、任務を解かれた。君が覚醒した以上、観察の要がないからだ。あとは、よろしく頼む]
 クローン[1]は玄関の外にいた。
[分かった…]
 城水がテレパシーを送ったあと、クローン[1]は跡方(あとかた)もなく消え失せた。城水は水槽に飼われているナマズに不安を感じた。
 夕食前、城水は里子に気づかれぬよう、こっそりと雄静(ゆうせい)を呼び寄せた。
[雄静君、ナマズの餌やりは頼んだ]
「雄静君って、パパ?」
[い、いや。ははは…雄静、頼んだ]
「それは、いいけど。でも、どうしたの? パパ。いつも楽しみにしてるじゃない」
 雄静は訝(いぶか)しげに城水を見た。


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