「ああ、そうか…。アレでコレのソレなあ」
城水は、ようやく里子の怒りを理解した。
「ここへ引っ越してきたのは間違いだったな…」
「今さら、遅いわよ!」
里子は憤懣(ふんまん)やるかたない。
「それで、どうだったんだ?」
「どうもこうもないわよ。付き合ってらんないから、途中でトンズラ」
「トンズラ! ははは…トンズラは、よかった」
城水は一瞬、家畜場の豚がカツラを被った姿を脳裡に思い浮かべた。
「だって、三次会に付き合うお金、ないもん」
「そりゃ、そうだ。財布が泣くほどしか入ってないんだからな」
「あらっ? よく分かったわね」
「ははは…俺の安月給じゃ、お前が持って出る額は、大よそ分かるさ!」
城水は自慢げに言い切った。
その日の里子と城水の話し合いは、いい対策の妙案が出ないまま、おざなりになった。夜が深まっていたこともある。
次の日の出がけ、玄関で城水を見送る里子が愚痴っぽく言った。
「ともかく次は、用事とかなんとか言って抜けることにするわ」
「そうだな…。そう度々(たびたび)あれば、家計がアウトだからな」
城水としても奥様会は困りものだ…と思えていた。よくよく聞けば、会費もあるそうで、それが馬鹿にならない額らしい。