駐車場の出口に置き去りにされた車・・自分が運転して置いた訳ではなかったから、城水は薄気味悪くなった。現実に自分は自分の分身と会話していたのだ。この事実は否定しようもなかった。誰も目撃者がいない時間を計算した上で分身は車を動かそうとしたのか? 謎は尽きなかった。だが、いつまでも車をこのままにしてはおけない。そのうち他の誰かが車で駐車場を出るだろう。出口を塞(ふさ)いでいるのだから邪魔で苦情を言われるのは必然だった。城水は意を決すると、駐車場の入口に止め置かれた車に乗り込み、エンジンキーを回そうとした。そのとき、待てよ…と城水は動きを止めた。徐(おもむろ)にポケットを弄(まさぐ)ると、車のキーは存在した。では車に刺さっているキーは? と、城水は刺さったキーを引き抜き、ポケットのキーと比較した。二つのキーは、まったく同じものだった。合い鍵屋で同じキーを作ることは、確かに可能である。しかし、城水は話さずキーを持っていたのだから、それは不可能なのだ。加えて、車に刺さっていたキーとポケットのキーは見間違えるほど精巧(せいこう)にコピーされていた。こんなことがある訳がない…そう思いながら、城水は車を発進した。
家へ着くと、いつものように着がえ、キッチンの椅子へ城水は座った。里子が夕飯の準備を小忙(こぜわ)しそうにしている。
「何か変わったことはなかったか?」
「別にないわよ…」
里子は攣(つ)れなく返した。