水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -29-

2015年08月25日 00時00分00秒 | #小説

 城水の体内に埋め込まれたタイム・アラームがいつ起動するかは、異星人達にも±1ヶ月以内としか認識されていない。城水が生まれた数十年前に飛来して以降、UFOは一度も地球へ降り立っていなかった。タイム・アラーム起動の計算が正確に認識されていない理由はそこにあった。彼等が星団へ帰還せねばならないタイム・リミットは約3週の20日しか残されていない。ということは、万一、城水のアラーム起動が20日を過ぎても起きなければ、地球上の人類はすべて初期化されることになるのだ。事態が逼迫(ひっぱく)していることなど知るよしもなく、城水家の家族三人は賑(にぎ)やかに寛(くつろ)ぎながら朝食を進めていた。
[呑気(のんき)なものだ。我々の方が気分的に疲れる…]
 キッチンの会話は逐一(ちくいち)、クローン[1]の耳へ届いている。クローン[1]は深い溜息(ためいき)をついた。
「パパ、ゆうちゃんの絵日記、あとから見てあげてね」
「ああ…」
 することがあり、余り気乗りはしなかったが、城水は了解した。里子の手前、表立っては平穏に見せている城水だったが、クローンを見たトイレの一件があったから、内心では気も漫(そぞ)ろだったのである。雄静の方は? といえば、彼に恐怖心はなく、子供心でUFOの存在に胸を躍(おど)らせていた。
城水に異変が起こったのはそのときだった。急に意識が遠退いたのである。城水は長椅子に座ったまま鼾(いびき)を掻き始めた。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする