「やっぱり、おかしいわ。お医者さまに診(み)てもらった方がいいんじゃない」
里子は城水の顔を訝(いぶか)しげに見て言った。城水が曜日を訊(たず)ねたこともあったが、顔に笑いがなかったからだった。
「いや、大丈夫大丈夫…。少し、疲れたんだろう、少し眠るよ」
暈(ぼか)して応接セットの長椅子から立ち上がったクローン城水は書斎へ向かった。
「あら? 書斎で寝るの?」
[あっ! いや、散らかしてたんだ。片づけてからと思ってな]
「そう…」
それ以上、里子が追及しなかったから、クローン城水は内心、やれやれと思いながら書斎へ急いだ。書斎の場所は庭のガラス越しに見えたから、クローン城水には分かっていた。ただ、あとの間取りはすべて白紙状態だから、調べておく必要があった。それと、迂闊(うかつ)なことは訊(き)けない…とも思えた。これらはすべてクローンの習熟機能として記憶へ蓄えられ、やがて、クローンは本人そのものに成りきってしまうことになる。そうなれば、正偽(せいぎ)の見分けは、家族ですら分からなくなってしまうのだ。
[城水の体内クローンは、どうも覚醒(かくせい)したようです]
城水家の音声は逐一(ちくいち)、クローン[1]の耳へ入っていた。クローン[1]は城水がクローン化した情報をテレパシーで指令船へ送った。