ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

長時間労働の議論に感じる違和感

2016-11-09 15:02:08 | 社会

電通の女性社員が自殺したと言って長時間労働が大きな話題となっている。私はこの報道に日本社会の意識の問題を感じている。

実際、電通の社員は長時間労働をしていたらしい。それも、実態の勤務時間は非常に長いにもかかわらず、法定労働時間に収まるように細工をしていたらしい。他の会社でも多少はあることかもしれないがちょっと極端な感じがする。しかし、問題の本質は違うところにあるような気がする。電通の社員が、職場にいないとできないような「作業」を長時間やらされていた、というのなら確かに長時間労働の問題なのだろうが、電通の社員がやっていたのは「作業」なのだろうか、という疑問を感じるからである。

電通は広告を作成する会社なので求められるのはアイデアだろうと思っている。アイデアを出すというなら、それは「作業」ではない、つまり会社に居なくてもできるような仕事なのではないか、そして電通の問題は長時間労働ではなく「パワハラ」なのではないか、と私は考えている。

「工場で製品を作る」、あるいは「レストランで調理をする」というような仕事は長い時間あればそれだけたくさんの仕事ができて成果も増える。このような仕事に対しては経営者は儲けるためにあまりに多くの仕事をさせることが考えられるので、法律による規制が必要である。そして現在問題視されているのはこの観点だと思う。しかし、「アイデアを出す」という仕事は作業ではなく、そもそも時間で測るべきではない仕事だと思う。私の経験で言えば「部下のA君の能力をもっと発揮できるようにするにはどうしたら良いか?」というようなことはよく考えたものだが、会社に居ればアイデアが出るというものではない。どこに居ようが、自分で考えて、その問題が意識の中に定着すると、ふとしたきっかけで解決できるアイデアが出る。このアイデアは殆ど職場以外の場所で出る。それを翌日職場に行って、実行可能性、メリット・デメリットを詰める、というような形で具体的なアイデアになる。

要するにアイデアを出すという仕事は24時間勤務の気持ちがないとなかなか良い結果が出ない仕事ではないかと思う。「無意識に解決策を求める」という仕事がどんな仕事に対してもできるかというと、そうではなく、そのようにできる仕事とできない仕事がある。やはり面白いと思う、というような仕事でないとなかなかそのような状態にならない。「面白い」と思う問題に対しては仕事と関係ないことをしていてもふとしたことでアイデアが出る。それが適性だろうと思っている。しかし適性だけで決まるわけではなく、訓練も不可欠である。

今回の電通の問題はそのアイデア出しを無意識下でもできるようにするトレーニングを行っていて、そのトレーニングが極端に厳しかったので起きた問題なのではないかと私は感じている。そして、それは「長時間労働問題」というよりも「パワハラ問題」と捉えるほうが適切ではないかと思う。

現代社会は「作業」よりも「アイデア」の重要性が高まっている。しかし、日本社会では今でも「どれだけ時間をかけたか」というようなことを「成果の質」よりも重視している傾向が強いと思っている。今の電通問題の取り上げられ方は日本社会がまだ当分この考えから抜けられないことを示している感じがしている。


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
電通が嫌われているのもわかりますが‥ (UCS-301)
2016-11-12 13:00:49
(あまり事情も知らずにコメントするのも無責任かと思いますが、)私は自殺された社員の方が「退社することを考えなかったのか」ということに疑問を持っています。退社を選択することは(特に若い人にとって)難しいことだと思いますが、自殺するよりも相当ハードルが低いと考えるためです。自分ならば自殺するくらいなら確実に退社を選ぶでしょう。自分の頭で、自分の置かれた状況が客観的に考えられないことに問題があるのではないでしょうか。これは個人を責めているのではなく、(家庭も含む)教育問題だと思っています。
返信する
働きすぎによる自殺 (世田谷の一隅)
2016-11-13 01:32:39
これは難しい問題なので、一概には言えないですが、

①退職を選ぶくらいなら自殺はしないでしょう。もともと退職という選択肢は、彼女の場合なかったと思います。

②東京大学→電通という、表面的には非常に優れて、選ばれた人達だけが、通りそうなコースです。そこへ自ら飛び込んだのに、自分の努力だけでは、解決できない課題にかこまれて、それを「残業」という形で克服しようとした。

③残念ながら、それが克服できずうちふさがって挫折につながり、自殺の道へ進んだ...と推定します。(周囲がもっと早く気が付いてやるべきでした)

④超エリートとしてのコースに乗ってしまったが故に、余裕がなかったのでしょう。人生のプログラムに「あそび」の部分が少なかったと感じます。

⑤もう一つは、連続100時間残業を、そしてタイムカードをねつ造してまで、仕事を強いる職場環境を、「当たり前」としてしまうほどの雰囲気が会社の上から下まで浸透していたのだと思います。

⑥電通に限らず、新聞記者やマスコミ業界全体に通じる問題だと思います。それに「電通」が絡んでいるが故に、どの民放も新聞も腰が引けています。NHKも追及の手が弱い。

⑦もう一つ、この種の職場環境や、パワハラ、見て見ぬふりは、この社会ではよくあることだと思います。そんな問題を一つ一つ指摘して改善を図る一方、そんな世界を適当に躱しながら、乗り切る(退職も選択肢と教える)、もしくは克服するスキルや訓練も学校や家庭で教えるべきでしょうね。きれいごとで片付かない世界が、この世にはたくさん存在するので、そんな領域から身を守る術を指導することも大切な「精神教育」だと思います。

⑧偏差値偏重コースを潜り抜けてきただけのエリートを選別することもある時には重要かもしれませんが、それよりも「打たれ強い」性格を育てることの方が、社会では大切だと思います。


返信する

コメントを投稿