ウィトラのつぶやき

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ピーターナヴァロの「米中もし戦わば」を読んだ

2017-03-17 18:10:52 | 生活

3月5日の記事にちょっと書いた軍事関係の本、ピーターナヴァロの「米中もし戦わば」を読み終えた。この本は20世紀終盤からの中国の急激な軍備拡張に対してアメリカがどう対応してきたか、中国の戦略はどうだったかを分析して、アメリカは今後どのような軍事戦略を取るべきかを書いたものである。軍事戦略と言っても戦争しようというわけでは無く、抑止力としての軍事力をどう持つかを中心に据えているが、本当に戦争になった時に勝てる体制でないと話にならない、というスタンスで書かれている。

文章はうまく、すらすら読めた。中国の戦略の分析に関しては、結構決めつけが多い感じはしたが「それは違うだろう」と感じた部分は無く、全て「ありそうな話だ」と思えた。中国は、今話題になっている南シナ海の軍事拠点を獲得したプロセスと同じ方法で尖閣列島にもアプローチしてきていることを知り、「将来大変だな。日本政府は耐えられるだろうか」と感じた。

中国は単に軍事行動を起こすだけでなく、メディアを利用して世論を味方にする、国際法は都合の悪いところは無視して都合の良い点をうまく利用する、といったことは書かれており、中国はあらゆる知恵を絞って、問題が起こった時にアメリカから経済封鎖されることを避けようとしている、ということは理解できた。3月5日の記事に書いたように、軍事戦略の目的は殆どの場合、経済力を強めることであり、中国経済がどうしてここまで強くなったかの分析もあるかと期待したのだがこの点に関しては物足りなかった。「この20年ほどのアメリカの対中戦略は大失敗だった」と断定していて、もっとはっきりした対応策を打たないといけない、という提言をしており、トランプ大統領の政策はかなりこの人の影響を受けている、と感じた。

私が納得できなかったのは中国の分析よりもむしろアメリカの政策に対する評価である。軍事戦略に関しては私は知識を持っていないので「そんなものかな」と受け止めたのだが、中国のWTO加盟を認めて、工場をどんどん中国に移転していったのは大失敗だと断定している点には違和感を感じている。1980年代に日本がアメリカにどんどん輸出していったあたりで、アメリカは「製造拠点としては勝負できないので、知的資産で勝負しよう」というプロパテント政策を取り、製造拠点はどんどん国外に流出する代わりに、シリコンバレーを盛り立て、そこから情報通信を中心とする新しい産業を育成してその覇者となったアメリカの政策は成功した、と私は認識している。

仮に、中国に拠点を移さない、アメリカ国内に製造拠点を残す政策をアメリカが取っていたら、中国の台頭は遅れるので、アメリカと中国の力関係という意味では中国の発展が遅れて今より良いかもしれない。その場合、日本の経済は今よりずっと良く、アメリカの経済は今よりずっと悪いだろう、と私は思っている。今、トランプ大統領はピーターナヴァロの意見を入れて製造業をアメリカの戻そうとしているように見えるが、これでアメリカ経済が良くなるとは私は思っていない。財政出動するので一時的には景気が良くなるが、それはバブルであり、本質的には非効率な行動をとるので、バブルがはじけた時には大きな痛手を負うだろうと思っている。

中国はここまで非常にうまくやってきた。それは、政策的にうまい方法を取ったというだけでなく、情報を盗むとか、国際ルールに従わないとかいった、他の国から見ると好ましからぬ行動も含めて、結果として経済力を強めることに成功し、軍備も拡張できてきたと著者は指摘しており、それには賛成である。しかし、今中国は曲がり角に来ていると思う。輸出重視から内政重視に舵を切っているがなかなかうまくいっていない印象である。このあたりの、中国経済の曲がり角をどう見ているのかの分析が、今後の中国の軍事行動を予測するうえでも不可欠だと思うのだが、それは含まれていなかった。

基本線で賛成できない部分もあるが、私にとっては新鮮な情報も多く、著者がトランプ大統領の発言や行動にかなり大きな影響を与えていることはうかがえる本だった。


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1 コメント

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チャイナ関連書籍について… (UCS-301)
2017-03-18 00:28:23
ピーターナヴァロ氏についてはトランプ大統領自身がが重用(国家通商会議)している点から、大統領からの信頼は暑いはずです。

チャイナの戦略関連について書かれた本で約1年前に出版された「中国4.0 暴発する中華帝国(エドワード・ルトワック氏)」も比較的話題になっていたかと思います。

日本では津上俊哉氏が比較的客観的(私から見て)にチャイナ経済についての著作を書かれています。こちらは経済面が主です(新しい方から「巨龍の苦闘」「中国停滞の核心」「中国台頭の終焉」)。

いずれも少し前の新書ですがKindleでしたら手に入るかと思います。基本的にチャイナ自身が公表する数値は信用できないことと、日本のメディアではチャイナに関する不利な発言ができない(クレームが入るため)ことは考慮すべきかと思っております。
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