今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

放射線リスクの正しい認識へ

2011年07月23日 | 東日本大震災関連
さて、いよいよ放射線リスクについても、無根拠な世間知から、学的根拠のある認識へと改めたい
(ついでに前の記事:発がんリスクからみた放射線も参照してほしい)。
原発事故から4ヶ月もたっているのに、いまだ子供時代に得た世間知のまま、というのはあまりに当事者意識がない不勉強な態度だ。
前回紹介した地震情報とは異なり、こと放射線に関しては、
テレビや新聞レベルでほとんど毎日のように専門家による学的根拠が述べられているのだから、特別な手間はかからないはず。

ところが、学的情報は既存の世間知やそれに由来する自己の不安感情と”不協和”(心理学用語)なため、
それら情報を素直に受入れがたく、
むしろ不安感情と”協和”(心理学用語)する世間知的言説(実は政治的意図があったりする)にしがみつく。

人間というものは、不安解消という感情的快よりも、不安の正当化による”信念との合致”というより精神的な快を優先する傾向にある。
私自身、福島県でのμSv/hレベルの”異常値”を早急になんとかすべきと思っているが(ひたすら除染しかない!)、
nSvレベルの関東地域での不安反応には、まぁ気持ちもわかるし、風評被害の実害もないので、一緒になって計測値の高下に一喜一憂していた。

ところが、正常値域内の南関東で、放射線の危機意識で夫婦関係がおかしくなったり、はては妊娠中絶まで考える人が出たということを耳にして、
放射線の世間知による精神的・社会的被害が発生しはじめたと思い、態度を改めたわけ。

放射線はまずは発がんのリスク(発生確率)に関係する。
100mSv/h=100000μSv/hをあびると、発がんリスクが有意に増加する、すなわち統計学的にリスクは≠0(リスクにマイナスはないから>0)と結論できる。
これを”危険値”としよう
(実は同じ被曝量でも、いっぺんに浴びる急性被曝と長期間での累積的被曝とでは、影響が異なる。もちろん急性被曝の方が症状が重く、100mSvというのは”本来は”急性被曝の数値。ただし”安全”基準としてはあえて同一視される)。

いいかえると、それ未満では、発がんリスクは統計学的には確認できず、ただ「理論上は0でないはず」ということでグレーゾーンとなる。
たとえば1μSv/hすなわち、危険値の十万分の1の値は、発がんリスクはそれだけ0に近くなる(単純計算だとリスクも危険値の十万分の1)。
それはどういう意味となるか。
それはすなわち、通常の生活上の放射線以外のリスク要因との判別が不能となることを意味する。
より正確に言うと、他のいくつかの要因よりも低くなる、といえる。
他の要因とは、食品中の発がん物質(アルコールやカフェインのほか、たとえばキャベツなど日常食品の中にあるもので、発がんリスクを高める可能性よりも他の健康効果がずっと高い)や
空気中のさまざまな物質や通常の紫外線(これも広義には放射線の一種)、あるいは心理的ストレスなどだ。
ちなみに、タバコは放射線よりリスクが高いくらいなので最初から除外。
(発ガンという現象自体が確率的現象ということもあり、タバコ自体もガンのリスク(確率)要因であって、(必然的)”原因”ではない。
だからタバコをずっと吸い続けても、遺伝的にガン体質でないなど、他のリスク要因が低ければ、ガンにならないとことは無論ありうる)

ついでにいうと、低線量(100mSv/h未満)の放射線に対して生体には”適応応答”というメカニズムが発見されている。
また放射線によって(他の原因でも)損傷された遺伝子は修復され、またそうでないものは自死(アトポーシス)し、後々まで悪影響を及ぼさないメカニズムも発見された(そもそも遺伝子の損傷や複製ミスは外的要因がなくても一定確率で発生する)。
私が子供時代に、「われわれは放射線にまったく無力である」と教えられたのは、これらが発見される以前だった。

さらにそのメカニズムに注目して、低線量の放射線は生体の防御力を高め、かえって健康にいいという理論が生れた。
それが「ホルミシス効果」で、”放射線はちょっとでも怖い”という世間知とは真逆の方向であるが、
実は、日本のラドン・ラジウム温泉が一部の人(特にガン患者)に熱狂的に人気があるのも、このメカニズムがすでに経験知として知られていたためではないか(入浴者のほとんどはホルミシス効果の名さえ知らないと思うが)。
もちろん、この理論を支持する研究がたくさんあり、最近の放射線科学の書では無視しえないテーマとなっている。
たとえば、この立場の泰斗アメリカのラッキー博士の著『放射線ホルミシス II』(ソフトサイエンス社)は、ホルミシス効果を支持する実証研究ばかりを精力的に集めたもので、翻訳者も辟易するほど、ホルミシス効果を謳っている。

ただし、低線量の放射線が健康にいい/悪いということが、統計学的に真に確認されるには、そこらの実験室実験や住民健康調査レベルではダメで、それこそ、福島・関東レベルの人口を必要とする(われわれは人類にとって貴重なデータなのだ)。
つまり低線量放射線については、個別研究がどういう結果であろうと、その研究自体は立証する力をもっていない(偶然である可能性を否定できない)。
なのでホルミシス効果とは逆の低線量でも悪影響があったという研究も、被験者数が上の人口に達していないなら立証力がない(いずれも誤差である可能性を統計学的に捨てきれない)。

ただ、自信を持っていえるのは、影響が0でないことを統計学的に立証するのに膨大な人数が必要となるレベルの放射線量は、その影響はたとえあったとしても(その影響が生体にいいというホルミシス効果だとしても)限りなく0に近いということだ(統計学的には誤差の発生確率の問題)。
これらの(避難対象でない)地域の人がこうむる、確実に放射線が原因といえる健康被害は、放射線不安による精神症状によってもたらされる社会的損害(経済的被害を含む)や、最悪、健康に生れてくるはずの胎児の命を断つ人命的損害よりは、確実に少ない。