今日こんなことが

山根一郎の極私的近況・雑感です。職場と実家以外はたいていソロ活です。

「はやぶさ」という009

2010年06月13日 | 時事
小惑星探査機「はやぶさ」は、小惑星「イトカワ」の地上の砂を採取し、
持ち帰るという画期的(アポロ計画の月面以来の快挙)なミッションを、
さまざまなアクシデントを奇跡的に乗り越えながら、
残すは、その貴重な採取物をカプセルで飛ばして地球のわれわれに届けるだけとなった。

だが、それをするには、「はやぶさ」自身が大気圏に再突入しなくてはならない。
それは自らが燃え尽きることを意味する。
7年をかけて小惑星まで往復した「はやぶさ」は、自らの死をもって仕事を全うするしかないのだ。

その間ずっと「はやぶさ」を遠隔操作し続けていたJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、
燃え尽きる前に、最後に予定外の操作をした。
はやぶさを回転させ、その眼(カメラ)に、7年ぶりに戻ってきた地球の姿を映させたのだ。

この記事を書いている今、「はやぶさ」は月の軌道の内側に入り、
丁度日本の上空にさしかかっているという。
あいにく曇り空だが、(それでなくても肉眼では見えないが)、
私はあえて、窓を開けて、曇天のはるか彼方の大気圏上空に目を向けた。

その心に映ったのは、流れ星のような一本の明るい光が、
一定の速度で天空を横断していく「はやぶさ」の姿。

そこで思い出すのは、石ノ森章太郎の神作品『サイボーグ009』だ(私はガンダム世代よりずっと年上)。
この第6巻の最後のシーン(作品自体は7巻以降も続くが、私にとっては6巻で終る)。
世界中に戦争を仕掛ける敵ブラックゴーストを、成層圏で破壊するという壮大なミッションを終えた009は、
その爆風で放り出され、落下する。
遅ればせながら彼を助けに来た同僚002に抱きかかえられながら。

もはや二人は高速度から地球に落下する以外になすすべがない。
大気圏との摩擦で次第に灼熱になりながら、
002は最後に009(人間名”島村ジョー”)にこう言った
「ジョー、君はどこに落ちたい?」

その時、地上の日本では、中学生ほどの姉と小学生ほどの弟が夜空に長い線を引く流れ星を見つけた。
そして姉は世界の人々の平和と幸福を祈った。

小学生だった私は、中学生だった姉からこの本を借りて読んで感動し、
とにかく第6巻だけは自分がずっと持っていたくて、譲ってくれるという遠方の友人のところにバスに乗って買いに行った。
『サイボーグ009 第6巻』は私が最初に買い求めたコミックスであり、今でも捨てないでいる。

「はやぶさ」の話に戻る。
はやぶさは、今夜大気圏に再突入し、オーストラリアの砂漠に落下する(そこに落ちたかったかどうかは別にして)。
JAXAの人たちは、ミッションの成功の喜びを感じる前に、
「やはぶさ」への感謝と別れの涙を流すに違いない。
※追加:現地撮影による「はやぶさ」の最期
これほど美しい最期を見たことがない…

誰か映画にしてほしい、無人の探査機が主役の映画を。