博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

日下翠『金瓶梅』

2007年11月13日 | 中国学書籍
日下翠『金瓶梅 天下第一の奇書』(中公新書、1996年7月)

随分前に人から面白いと薦められながら今までスルーしてた本です(^^;) 古本屋でたまたま本書を発見し、読んでみることに。

明代小説の四代奇書に数えられながら、『三国志』『水滸伝』『西遊記』と比べて馴染みが薄い『金瓶梅』。その『金瓶梅』の魅力を描写手法やキャラクターを中心に探っていこうというのが本書の主旨。かく言う私も『金瓶梅』は未読です……

まず描写の手法については、『水滸伝』などとは違って女性の衣服や遣り取りに供される金銭の額など、日常生活の描写が不必要なまでに詳細であるという特徴を挙げています。どうやらこの辺りを楽しめるかどうかで『金瓶梅』に対する評価が変わってくるようです。

キャラクターについては、主人公の西門慶は『水滸伝』から拝借してきたキャラですが、作者が書き綴っているうちにこの西門慶とシンクロし始めたようで、『水滸伝』から引き継いだ悪漢としての属性と、作者の分身としての文人としての属性の二面性を持つキャラになってしまったという指摘が面白いです。

また、応伯爵のようなキャラクターから、何をするにも仲介者(と仲介者への謝礼)が必要だという、今も昔も変わらない「ブローカー社会中国」の姿を見出したり、『金瓶梅』の時代と現代の女性の社会的地位を比較してみたりと、『金瓶梅』から現代の中国社会へと話題が広がっていくのも興味深いところです。

このように『金瓶梅』の魅力は決してエロだけというわけではありませんが、エロも確かに魅力のうちなんだ!ということで性描写に関するコメントもあります。本書の最後で著者は『金瓶梅』の性描写が他の作品と比べてどう違うのか専門の研究者に比較してもらいたいと述べていますが、これについては最近こういう本が出た模様。

この翻訳者の土屋英明氏は東方書店の目録『東方』にて『中国の性愛文献』というコラムを連載しておられるその道の専門家ですが、本書で『金瓶梅』の面白さが少しわかったところで、この訳本を読んでみようかどうか迷っているところです(^^;)
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『覆雨翻雲』

2007年11月11日 | 武侠ドラマ
既にあちこちの武侠系ブログで紹介されてますが、黄易原作の武侠ドラマ『覆雨翻雲』がTBS BooBo BOXなど複数の動画サイトで配信開始されているとのこと。

舞台は明初、二人の達人の武功が秘められた二振りの神剣のうち「覆雨剣」が再び世に現れ、明の燕王のもとにもたらされるが、元朝の残党は覆雨剣を奪って王朝復興を果たそうとし…… というストーリーで、『倚天屠龍記』の続編というか、時代を少し後にずらしたような感じですね(^^;) ただ、主人公の1人が過去の記憶を失った元朝皇室の子弟ということで、モンゴル寄りのストーリーになるのかもしれませんが。

取り敢えず無料分の第1話を見てみましたが、前半20分の展開の唐突さが尋常ではありません。ダイジェスト版を見てるのかと思ったよ…… ラストでヒロインがとんだ食わせ者であることが発覚し、続きが気になるところですが……

しかし前に紹介した『聊斎』といい、動画サイトオリジナルの日本語版ドラマがちょこちょこと出て来るようになりましたね。
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『薛仁貴伝奇』その2

2007年11月11日 | 中国古典小説ドラマ
『薛仁貴伝奇』第3~8話まで鑑賞。

柳銀環は薛仁貴に思いを寄せるものの、父親の柳員外が二人の仲を認めず、二人は駆け落ちを決行。山里の洞窟を住処にして極貧ながら幸せな結婚生活を開始。折りしも太宗は渤遼国への親征を決意し、遠征軍の兵士募集が行われます。我らが薛仁貴も妻の勧めもあって募集に応じることに。

ところが薛仁貴は新兵募集を担当する先鋒官の張士貴に目の敵にされ、「名前が気に食わん」だの「白衣を着ているのが縁起が悪い」だのと因縁をつけられて追い返されてしまいます。実はこの張士貴、次女の婿の何宗憲を太宗が夢に見た若武者として売り出そうとしており、本物の薛仁貴が軍に入って功績を建てられると都合が悪いというわけです。友人で彼より一足先に入隊していた周青は、「兄貴は俺よりももっと凄い武功の持ち主なんです!」と必死にプッシュしますが「だからアカんのじゃーーッ!!」という張士貴の心の叫びが聞こえてきそうです(^^;)

それでもしつこく食い下がる薛仁貴に対して張士貴は入隊試験を課しますが、それは四方八方から矢や槍が雨あられと降ってくる仕掛けを突破して軍旗を奪うというハードなもの。一兵卒になるのも命がけです(^^;) あともう少しで竹製のギロチンの露と消えるというところで、以前に懇意となっていた李道宗の養子・李剣山(これを演じるのが釈小龍)に助け出され、彼の口利きで入隊を認められることに。

ただし身分は兵士ではなく炊事係。しかも張士貴から「実は皇帝陛下は薛仁貴という名の若者に皇位を簒奪される夢を見て、お前を探し出して処刑しようとしているんだ」とタチの悪い嘘を吹き込まれ、薛礼と改名させられてしまいます。しかし四人分の働きをし、三人前の飯を食う薛仁貴はただでさえ目立つ存在なのに、兵糧の輸送中に襲撃してきた山賊の親玉を打ち殺したり、おいしい汁かけご飯をつくって兵士に喜ばれたりと( あれ?)、順調に功績を挙げていきます。

で、いよいよ存在が邪魔になったと張士貴の手の者に陣の外に誘き出されて殺されそうになり、しかも行軍から置いてけぼりなるという目に遭いますが、周青に救われ、行軍に追いつく途中でトレードマークとなる方天画戟をゲットしたり、李慶紅ら屈強の山賊たちを軍に帰順させたりと、転んでもタダでは起き上がりません。

なお、このパートから呉越演じる羅通が登場しますが、秦叔宝の従兄弟・羅成の子という名門の生まれで、若くして軍の高官をつとめるなど、おおよそ呉越らしからぬ役柄です……
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『中国雑話 中国的思想』

2007年11月09日 | 中国学書籍
酒見賢一『中国雑話 中国的思想』(文春新書、2007年10月)

刊行された当初はスルーしてましたが、宣和堂さんのブログでの紹介を見て読んでみることに。中身は「劉備」「仙人」「関羽」「易的世界」「孫子」「李衛公問対」「中国拳法」「王向斎」の八題噺ですが、後半の拳法・気功絡みの章が、どこまで本当なんだかわからないような武術家たちの武勇伝がてんこ盛りで滅法面白いです(^^;) 

ただ、これだけ武術家を取り上げておきながら黄飛鴻と霍元甲について全く言及していないのが不審でありますが、拳法修業に健康増進の効果があることから、子供の頃に病弱な体質を治すために修業を始める人が多かったという話や、外国人との異種格闘技戦に挑んだ達人の話のように、霍元甲の生涯と重なるようなエピソードが目に付きますね。

あと、太極拳の諸流派分派の過程をわかりやすくまとめているのも参考になります。太極拳は河南省温県の陳氏(すなわち陳式太極拳)が元祖とのことですが、後に陳派から分かれ出た楊派が自分達こそ太極拳の本宗だと主張するため、武当山の仙人張三丰が太極拳の開祖だと言い出し、その伝承が広まったとのこと。

しかし著者がカンフー映画で太極拳使いを見たことが無いというのはこれまた不審です。李連杰主演の『マスター・オブ・リアル・カンフー』とか、張三丰や太極拳を扱った作品はいくつかあると思うのですが。まあ、この辺りチェックが甘いというよりは、酒見氏は拳法そのものに興味があるのであって、この手の創作物に興味があるわけではないということなのかもしれませんが。(ちなみに私はその逆です……)
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『薛仁貴伝奇』その1

2007年11月07日 | 中国古典小説ドラマ
『楊家将』とくれば次は薛仁貴だ!というわけで、『薛仁貴伝奇』のDVD(例によって経済版ですが……)を購入。「男性版チャングム」という触れ込みで、大陸では昨年に放映され、好評を得たようです。『還珠格格』の乾隆帝役でおなじみの張鉄林が悪役で登場するほか、『連城訣』の血刀老祖などでおなじみの計春華、『少年包青天』の小坊主展昭役で有名になった釈小龍、そして『連城訣』の狄雲役や『大漢風』の韓信役でおなじみの呉越ら、アクション系の俳優が多くキャスティングされており、その方面でも期待できそうです。

で、今回は第1~2話を鑑賞。

太宗の治世のもと大唐帝国は繁栄を謳歌していたが、塞外の渤遼国では、唐への反乱をもくろむ元帥の鉄世文(これを演じるのが血刀老祖もとい計春華)が穏健派の国王を圧迫していた。渤遼国とはまた微妙なネーミングですが、薛仁貴が物語の中で遠征したことになっているのが高句麗と遼。このうち遼は太宗の時代にはまだ存在せず、また高句麗を敵国に設定すると政治的に色々とややこしそうだということで、こういう架空の国をでっち上げたんでしょう。渤遼国の人々の衣装からすると遼をイメージしているようですが……

また唐の朝廷内でも、秦叔宝・程咬金ら瓦崗寨の英雄たちによる瓦崗派と、皇族の李道宗(これを演じるのが張鉄林)とその岳父である張士貴らを中心とする派閥とが対立していた。張士貴は物語の中で薛仁貴をいじめる人物ですね。秦叔宝や程咬金、尉遅敬徳といった隋唐物でお馴染みの武将も登場しますが、みんなヨボヨボの爺になってます(^^;)

そんなある日、太宗は鉄世文に追われているところを白馬に乗った白衣の若武者に救われる夢を見る。軍師の徐茂公(すなわち李勣)が夢占いで判じたところ、その夢は山西出身の薛仁貴という武将が太宗のもとに馳せ参じ、大功を建てることを示しているという。早速太宗は薛仁貴なる若者の捜索を命じる。

で、当の薛仁貴はと言えば、とある山中で大唐開国の元勲・李靖のもとで武術の修業に励んでいたのでありました。彼は師命により下山することになり、取り敢えず故郷へと戻りますが、折悪しく彼の実家が火災で焼け落ちてしまい、唯一の家族である父親を失ってしまいます。薛仁貴が登場してからここまで10分ほど。展開が早いにもホドがあるよ!

あちこち流浪したすえ柳家荘で人夫として働くことになり、そこで柳家のお嬢様の銀環と運命的な出会いを果たします。二人が出会うシーンはやっぱり愛のメリーゴーラウンド状態で手に手を取って一回り。この辺りの描写は最早パターン化してますなあ(^^;) 柳銀環は張士貴の息子との縁談を断り、彼に思いを寄せるようになりますが……
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終わった……

2007年11月05日 | 雑記
本日、母校に博士論文を提出しました。博士課程入学以来6年がかりでここまで漕ぎ着けました。しばらくはゆっくりしたいところですが、明日も朝一から仕事です……
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『複数の「古代」』

2007年11月05日 | 日本史書籍
神野志隆光『複数の「古代」』(講談社現代新書、2007年10月)

以前に取り上げた『漢字テキストとしての古事記』の著者の最新作です。

『古事記』や『日本書紀』を古来語り継がれてきた神話を復元するための材料として見ず、あくまでも両書が著述された当時の皇室や貴族による古代観が反映されたものとして見るというのが神野志氏のスタンスですが、それは本書でもいかんなく発揮されています。

まずまとめて取り扱われがちな『古事記』と『日本書紀』に対して、この両書がつくられた時期には、中国との交渉を開始し、また厩戸豊聡耳皇子の改革によって文字の文化国家への歩みを開始した推古天皇の時代が画期と見なされていたとして、その推古天皇の治世までしか扱わない『古事記』と、それ以後の時代をも扱う『日本書紀』は、それぞれ異なる古代観や世界像に基づいて書かれたのではないかと問題提起します。

そして『元興寺縁起』や『上宮聖徳法王帝説』、更には『万葉集』なども独自の古代観を反映したものであるとし、これらの資料がつくられた時代には多様な古代観が存在していたと結論づけています。仏教伝来の年代が西暦で538年か552年かという問題についても、538年とする『元興寺縁起』や『上宮聖徳法王帝説』と、552年とする『日本書紀』とではそもそも歴史観が異なり、それが紀年の違いとなって現れているということで、どちらの説が正しいかと問うことは全くのナンセンスだというわけです。

また、継体天皇の後、安閑・宣化朝と欽明朝が並立していたという説も、これらの資料が異なった歴史観を反映しているという認識に欠けていたことから生み出されたものであるとしています。

しかしそれぞれの資料が独自の古代観を反映しており、そのことを無視して『古事記』と『日本書紀』の記述を照らし合わせたところで歴史的な事実は見えてこないという著者の主張はよくわかったのですが、個人的にはそれでもやはり「本当はどうだったのか」という疑問が頭から離れないのですが……
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鉄血大旗門ズ@スカパー無料開放デー

2007年11月04日 | 武侠ドラマ
ここんところまた風邪気味です。金庸シンポジウムの直前に体調を崩して以来、鼻風邪にかかったりして微妙に体調を崩し、治ったと思ってしばらくしたらまた体調を崩すという悪循環が続いています……

で、昨日今日とスカパーの無料開放デーということで、チャンネルNECOの『大旗英雄伝』を見てました。

昨日は第5~8話のキャッチアップ放送。実のところこのあたりは以前にPPStreamやウサギ幇会の時に大兎さん宅で鑑賞した部分なのですが、雲錚が玉の装飾品の福引きであからさまにハズレくさい金魚の形の装飾品を引き当ててしまい、温黛黛に愛想を尽かされる場面とか、鉄中棠が大旗門の血旗を両手で広げて九子鬼母の陰儀を感服させるシーンとか色々と見所が多く、またもや食い入るように見るハメに(^^;)

特に鉄中棠が血旗を見せる場面は、武侠関係のブログを見てると作品中屈指の名場面のようですね。オープニングでもシメの部分でこの場面使われてますし。

今日は3時から第27~28話を鑑賞。何か雲錚と鉄中棠とが仲直りしていたり、序盤で死んだはずの雲鏗が生存していたりと、当然ながら随分と話が進んでますね。それで日后の口から大旗門と五福連盟とが対立するようになった原因が語られますが、「ええっ、たかだかそんな理由で抗争を続けていたの!?(´Д`) 」というのが正直なところ。いや、まあ大概なことには違いないんですけど、何世代にも渡って引きずることかと…… しかし女に育てられたら強い男になれないって、大旗門ってどんだけ虎の穴だよ……

あと、夜帝と日后が対決するシーンで、微妙に愛のメリーゴーラウンド状態になっていたのが何とも……
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『楊家将』その5(完)

2007年11月03日 | 中国古典小説ドラマ
『楊家将』第25~最終32話まで見ました。

遼軍侵攻の報が届き、うやむやのうちに六郎の三関元帥復帰が決定。息子の楊宗保や兄の五郎、そして杜金娥とその子の楊宗英ら新戦力が終結し、遼軍と対峙するが、遼の軍師・呂鍾の指揮する天門陣の威力は凄まじく、楊家軍に多くの犠牲者が出る。楊宗保は穆柯寨の女主人・穆桂英が天門陣を打ち破るための陣図を所有していると聞き、彼女を訪ねる旅に出ることになり……

というわけで楊門女将の真打ち穆桂英がいよいよ登場です。かわいいうえに強い強い(^^;) あっという間に天門陣を打ち破り、遼軍を壊滅状態に追い込みます。しかしこの後あんまり出番がないのが残念…… 遼の軍師の呂鍾というのは、原典で天門陣を敷いたことになっている呂洞賓と、その師匠で彼と戦うことになる漢鍾離から名前を取っているんでしょうね。ただ、ドラマの方では仙人ではなく、単なる隠士という設定ですが。

しかし蕭銀宗はこの敗戦にもめげず、戦死した重臣の息子達を新たに配下に加えて宋への猛攻撃を開始。病身の父に代わって元帥となった楊宗保は遼軍に包囲されてしまいますが、楊家の竈番の女中・楊排風が援軍として駆けつけ、戦況を逆転させます。この出征の直前に、楊排風が彼女を「たかが女中」と侮る孟良をやっつけるというお馴染みの話が挿入されます。楊排風自身は早い段階で登場していたのですが、ここに来てやっと見せ場が巡ってきましたね。

この敗戦にさすがに蕭銀宗も衝撃を受け、宋との和平を決意。その使者として派遣されたのは娘婿の木易であった。実は蕭銀宗は以前から彼の正体が楊四郎であることに気付いていたのでありました。この四郎も原典では遼軍にあって楊家軍に内応したことになっていますが、ドラマの方では楊家の一員でありながら遼の部将になるという自分の立場に悩みつつも、妻や蕭銀宗のために尽くす道を選ぶという設定になっております。で、真宗の名代となった佘賽花と蕭銀宗との間で和平が確認され、めでたしめでたしで終わるかと思いきや…… ラストシーンは楊家の宿命が凝縮されたような終わり方になってます。

全32話を鑑賞して、『楊家将』の原典は『北宋志伝』と『楊家府演義』という筋立てや設定が異なる二つのバージョンが知られており、また原典に見えないエピソードも多く存在するわけですが、ドラマの方はあれもこれもと欲張ってサイドストーリーを盛り込むことはせずに、物語を随分コンパクトにまとめているなあという印象を受けました。ただ、エピソードの合間で展開をすっ飛ばしている部分が多々あり、ちょっとコンパクトすぎるかなという気もしましたが(^^;)
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