博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

2019年9月に読んだ本

2019年10月01日 | 読書メーター
ナチスの戦争1918-1949 - 民族と人種の戦い (中公新書)ナチスの戦争1918-1949 - 民族と人種の戦い (中公新書)感想
元首相・国防大臣が惨殺されてもナチへの協力を疑問視しなかった軍部、「戦争をすること」を目的としたナチの経済再生の成果を素直に享受した国民、敵は本物の兵士ではなくゲリラや殺し屋だと信じ込む前線の将兵、敗戦が見えた段階で逆に苛烈となる暴力行為、そして自らの苦難と被害者意識が強調された戦後。日本の状況をヒトラーやナチに例えることが揶揄される昨今だが、やはり例えることによって自省してみる価値はあると思わされる。
読了日:09月03日 著者:リチャード・ベッセル

はじめてのギリシア神話 (ちくまプリマー新書)はじめてのギリシア神話 (ちくまプリマー新書)感想
ギリシア神話の主要な神格・英雄やエピソードを紹介するだけでなく、関連の古典の紹介、そしてオリエントやインドの神話からの影響、ローマ神話への影響、日本の神話との比較などを随所に盛り込み、比較神話学初歩の初歩的な内容にもなっている。要点が手堅くまとまっている。
読了日:09月05日 著者:松村 一男

世界遺産: 理想と現実のはざまで (岩波新書)世界遺産: 理想と現実のはざまで (岩波新書)感想
世界遺産の概論というよりは、近年の申請・登録状況や関連の問題をめぐるルポといった感じ。遺産の保全と現地住民の居住環境とのバランス、実は観光集客に結びついてないという問題、「産業革命遺産」や「世界の記憶」をめぐる政治利用・政治判断の問題など、近年問題になったトピックは一通り触れられている。韓国絡みの話も、疑問点がないではないが、韓国特有の特殊な問題ではなく普遍的な問題として位置づけ出来ていると思う。水中遺産に関する話題に紙幅を割いているのも特徴。
読了日:09月07日 著者:中村 俊介

「豊臣政権の貴公子」宇喜多秀家 (角川新書)「豊臣政権の貴公子」宇喜多秀家 (角川新書)感想
五大老のひとり宇喜多秀家を、自身の功績ではなく、先代直家の功績と秀吉の養女にして利家の娘樹正院との婚姻によりその地位を得た「豊臣政権の貴公子」と位置づける。秀吉が没するまで若年による経験・力量不足を心配され、五大老への抜擢もその将来性を買ったもののようだが、秀頼政権が無事に存続すれば、吉川広家に嫁いだ姉が早逝しなければどうなったか想像したくなる。あるいは、樹正院の健在によって関ヶ原後も命脈をつなぎ、子孫代々加賀藩の支援を得られた現実そのものが奇跡的なのかもしれない。
読了日:09月09日 著者:大西 泰正

教育格差 (ちくま新書)教育格差 (ちくま新書)感想
公立小中学校でも学力は均質ではなく校区によって差が出てくること、高校のレベルや校風は学校・教員の能力を示すというよりは、それを維持できる生徒が集まることによるものであるといったことなど、従来保護者や教員、塾の経営者が経験知として得ていたようなことを、データを駆使して明示し、更にその社会的背景を議論している。またそのことを保護者や生徒(だけ)ではなく、学校教育を担う教員や教職志望の学生が第一に知悉すべきことであると訴えているのが特色。何となく中学・高校時代に通っていた学習塾の先生に読ませたくなった。
読了日:09月14日 著者:松岡 亮二

菅原道真-学者政治家の栄光と没落 (中公新書 (2559))菅原道真-学者政治家の栄光と没落 (中公新書 (2559))感想
道真のほか祖父清公、父是善、また都良香、橘広相らの活動を示すことで、平安時代に官僚として生きた学者たちの姿や思想を活写できている。阿衡の紛議、遣唐使の「停止」、道真の失脚といった関連の事項についても議論をしている。意外にも道真と藤原基経・時平との関係はギリギリの段階まで悪いものではなかったようだ。祖父・父・道真と着実に地位を積み上げ、没落していくさまは後の時期の平家の盛衰を連想させる。
読了日:09月17日 著者:滝川 幸司

キリスト教と死-最後の審判から無名戦士の墓まで (中公新書 2561)キリスト教と死-最後の審判から無名戦士の墓まで (中公新書 2561)感想
天国・地獄・煉獄とキリスト教の「あの世」の基礎知識から、プロテスタントでは煉獄と幽霊の存在が否定されたということ、遺体の処置と埋葬、墓と死者を記念するモニュメント、死をもたらすものとしての疫病や災害等々、話題は雑駁で、キリスト教の死生観にまつわる雑学集という趣がある。上田信『死体は誰のものか』と併せ読むと面白いかもしれない。
読了日:09月18日 著者:指 昭博

歴史学で卒業論文を書くために歴史学で卒業論文を書くために感想
章立ての重要性と考え方、注釈の付け方、研究史の整理、結論のまとめ方(シャーロック・ホームズをたとえに出しているのは面白くてわかりやすい)など、卒論執筆の必要事項が的確にまとめられている。主に日本史学での卒論執筆を念頭に置いているが、文学・哲学なども含めて人文系全般の手引き、更には一般読者のための論文執筆入門としても使えるようになっている。
読了日:09月20日 著者:村上 紀夫

古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。感想
否定派のコメントを読んでいて言いたいことが山ほど浮かんできた(特に数学の行列の話などは逆恨み、八つ当たりの類ではないかと思う)が、それに対する反論は肯定派のコメントではなくアンケートの方で言い尽くされている。ビジネスに資するというなら、高校の古典教育と言わず、漢字表記の使用、あるいは日本語の使用そのものを「必修」から「選択」に格下げすればどうか、言い換えれば否定派の皆さんは漢字の非常用化や英語の公用語化を主張すべきではないかと、肯定派の立場から逆に否定派の皆さんに提案したい。
読了日:09月21日 著者:

『銀河英雄伝説』にまなぶ政治学『銀河英雄伝説』にまなぶ政治学感想
銀英伝ファンの国際政治学者が、銀英伝の描写を取っかかりに民主主義、テロリズム、正戦論等々政治学のトピックを取り上げる。(失礼ながら)思ったよりまともなアプローチになっていて安心したが、先日Twitterで話題になったような、自由惑星同盟は本当に三権分立が保証されているのかといった作品の設定へのツッコミも欲しかった気がする。
読了日:09月23日 著者:杉浦 功一,大庭 弘継

女性のいない民主主義 (岩波新書)女性のいない民主主義 (岩波新書)感想
女性の政治家が極端に少ない日本は果たして民主主義の国と言えるのだろうか?この問いを取っかかりに、日本がそうなってしまった背景を考察し、そして政治学の議論を「女性の政治参加」という観点から振り返る。サミュエル・ハンティントンの「民主化の三つの波」などお馴染みの議論も、視点を変えれば随分異なった評価になるのだなと感じた。本書はまた政治学そのものについても要を得た入門書となっている。
読了日:09月25日 著者:前田 健太郎

織田信忠―天下人の嫡男 (中公新書)織田信忠―天下人の嫡男 (中公新書)感想
信長の嫡男で、数え年26にして信長とともに本能寺の変で散った。言ってみればそれだけの人物でしかないはずが、兄弟やその他血縁との関係、軍事的功績、信長の後継者としての評価、そして本能寺の変と、語るべきこと、論ずるべきことが多々あるのだなと感じた。語るべきことがないとされてきた人物の評伝の模範となるかもしれない。
読了日:09月30日 著者:和田 裕弘


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