博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『知って楽しい地図の話』

2006年06月25日 | 書籍(その他)
田代博『知って楽しい地図の話』(新日本出版社、2005年12月)

私は高校で非常勤講師をしているのですが、その勤務先で先日、図書室担当の先生から「今度こういう本が入荷しましたので、読んでみてください」と薦められたのがこの本です。中身は高校地理の副読本的なものなので、面白かったら生徒にも推薦してほしいというつもりで貸してくださったのでしょうか。あるいはこの本を読んでお前がもっと勉強しろということなのかもしれませんが(^^;)

著者は高校の地理の先生ですが、『しんぶん赤旗』にコラムを連載していたという点に一抹の不安を感じつつ読み進めていきましたが、中身はそれほど政治的に偏りもなく、楽しく読ませていただきました。

特に面白かったのは世界地図の図法の使い分けの話です。世界地図というのは原理的には立体の地図である地球儀を無理に平面にうつしたものなので、陸地の面積比を正確に再現しようとすれば陸地の形がゆがんでしまう、陸地の形を見栄え良くしようとすれば陸地の面積比や、二点間の距離比、方位の関係などがおかしくなってしまうというように、何かしら不都合が生じてしまいます。

例えば我々おなじみのメルカトル図法は、ある地点から目的地までを結んだ直線と経線のなす角度を正しく表した正角図法の一種で、昔は海図として使用されました。これは他の図法と比べて陸地の形が整っているので、世界地図のポスターなんかにもよく使用されます。しかしこの図法は二点間の距離比や方位については不正確ですし、またグリーンランドや北米大陸などが実際よりも拡大されていたりすることからわかるように、陸地の面積比も不正確です。

そこで、分布図・密度図を作る際には陸地の面積比を正確に表した正積図法(モルワイデ図法などがこれに該当します。)を用い、ある地点からの距離や方位を示す場合には正距方位図法を用いるといったように、用途によって世界地図の図法を使い分ける必要がでてくるわけです。

ここまでは地理の授業で必ず習う話ですが、この本では官公庁のHPや新聞などでこういった図法の使い分けがちゃんとなされていないという事例をいくつか紹介しております。距離・方位・面積を正確に再現していない図法を使って中心からの距離・方位を図示したり、分布図を作ったりするというミスが結構あるようなのです。官公庁や新聞社なんかでもこういうミスは普通にスルーされちゃうもんなんですね…… 諸外国でもこういう事例があるのか、こういうベタなミスをするのは日本だけなのか気になるところです。

あとは、電子地図や景観描画ソフトなど、地理に関わるソフトウェア・HPやその利用法をたくさん紹介しているのも良いです。
コメント (4)
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