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無意識日記
宇多田光 word:i_
 



渋谷陽一氏が亡くなった。享年74。

ラジオで伊藤政則氏が渋谷さん病気療養ということで代役を務め始めた時、その口ぶりから私は「もう復帰は厳しそうだ。表立っては言わないが、恐らく脳の病気だろう。」という憶測を立てていた。伊藤氏はヘヴィリスナーにはそれとなく伝わる言い方をする人だからね。なので、今日の逝去の報に関しては事前に十分覚悟していたので驚きは無い。

いつ頃くらいから彼のラジオ番組を聴くようになってたかなぁ。25年前にはもう聴いていたかな。1997年からNHKFMで「ワールドロックナウ」が始まって、それをかなり初期から聴いていた。毎年の年末に大貫憲章・伊藤政則・渋谷陽一の鼎談2時間スペシャルで一年を振り返るのが楽しかったな。そういや今日の訃報はHALFORDの“Twenty Five Years”を聴きながら読んだのだったか。

彼が日本の商業音楽市場に与えた影響は途轍もなく大きい。例えば、宇多田ヒカルの存在よりも遥かに大きい。仮に万が一宇多田ヒカルがデビューしなかったとしても日本の音楽市場はそこまで大きな変化はなかっただろうが、渋谷陽一が居なかったら根底からまるで違うものになっていただろう。なんなら跡形もなく無くなっていたかもしれない。Twitterで「渋谷陽一」を検索してみよう。驚くほどの数の有名人・音楽家・音楽関係者が追悼のコメントをしている筈だ。こと音楽関係者に限れば、長嶋茂雄逝去の時よりもリアクションが大きい。当たり前か、直接お世話になった人が半世紀分在るんだもんね。

彼の業績についてはこれからも様々なところで目にするだろうから省略する。無意識日記にとっていちばん肝心だと思えるところだけ触れておこう。


音楽評論家渋谷陽一。彼が成し遂げた数々の偉業の中でも特に、

「ロック/ポップスを語る」

という人間の行動自体を規定してくれた点を挙げたい。音楽について語るなんて当たり前じゃないかと思われるかもしれないが、これくらいの長さの文章で、このトーンで、この熱量で、この真剣度や思い入れ度で、大した知識がなくても、感じたことや考えたことを、どんな口調やどんな言い回しで語ればよいか、綴ればよいか、その方向性を示したのがこの人なのだ。その要となった音楽雑誌「ロッキング・オン」を創刊した人だからね。

もちろん彼以前にも、ロック/ポップスといった商業音楽に関してラジオや講演で語ったり音楽雑誌で記事を書いたりしていた人は居た。故・福田一郎氏とかね。しかし、あの「ロキノン風」とでもいうべき文芸路線を確立した功績は余りにも大きい。あれですよ、文系男子が小難しい顔をして大衆音楽を分析評論するあれですよ。

無意識日記も、傍から見たらその流れを汲んでるようにしか見えないよね。対象を限定してるだけで。でも実際は、私って「宇多田ヒカルの載ってないロッキンオンジャパン誌を一冊も買ったことがない」人なのでくよ。ずっとBURRN!とかだったんですよ骨の髄までメタラーなので。そんな人間であっても、ロックやポップスを語るとなると渋谷陽一の影響を間接的にでも受けてしまっていたのだ。結構恐ろしいことですよ。避けてても逃げてても避けようがない逃げようがないくらいに存在感のある人でしたから。語り口は静かなもんだったけどね。伊藤政則と和田誠のラジオを聴いて育った私からしたら何をボソボソノロノロ喋っとんねんという感じでしたねぇ。その喋りももう聴けないのか。


宇多田ヒカルとの縁でいえば、2009年の「トレビアン・ボヘミアン・スペシャル」でピーター・バラカン氏と鼎談を繰り広げたことなんかが有名だろう。それがなくても、音楽雑誌に登場する以上、渋谷陽一やその関係者に関わらない事は無理だった筈だ。やっぱり、日本商業音楽市場最も影響力の強い人だったかもしれない。伊藤政則はいつでも「日本で一番ギャラの高い音楽評論家!」って渋谷陽一のことを言ってたからね。冗談めかしてだけど。でも、そういうことだっただろうな。


渋谷氏の最高の金言は、この日記でも幾度となく引用させて貰ってきたこの一言だ。

「ポップ・ミュージックは、他者の音楽である。」

こんなに簡潔に真髄を表現できるものかね? 日本でのポップ・ミュージックを、洋楽邦楽問わず、最も深く広く理解してたんだなと痛感せずにいられない。そのわりに英語苦手だったらしいのが、なんかいちばん励まされたかな。長い間ありがとうね渋谷さん。


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