『One Last Kiss』の歌詞については特大ヒットのお陰か至る所に分析記事が出ていてもう私があらためて触れるまでもないかなと思っていたのだけど、自分にとっていちばんインパクトがあったフレーズについて書いてる記事をまだ読めてないじゃないか、と。
じゃあ(いつものように)自分で書くか。
それは
『まぁそんなのお互い様か』
だ。
これ本当に初めて聴いた時心底ビックリしてね。ある意味天地がひっくり返ったなと。いや、「そんなのお互い様」って歌詞自体は別段特異な訳じゃないんだ。その前段に
『寂しくないふりしてた』
があるからなんだ。
「ふり」或いは「フリ」は宇多田ヒカルの歌詞での最頻出単語のひとつである。要は体面を繕うとか演技をするという意味で「フリをする」という言い回しを多用するのだが、例えば以下の曲で出てくる。
『受け入れてるフリをしていたんだ ずっと』(初恋)
『か弱いフリしてめっちゃ強い』(Fight The Blues)
『私を待たずに時計は何も知らないフリしてる』(Parody)
『楽しくないのにフリはしたくない』(Making Love)
『完璧なフリは腕時計と一緒にはずして』(誰にも言わない)
まだあるかな? これにほぼ同じ意味の「強がり」や「意地っ張り」や「Pretend」なども頻出だからまぁヒカルってば取り繕ってばっかなのよね。
これって、本当の自分を知られたくない、隠していたいっていう心境で、大体これが孤独に繋がっていくのが宇多田ヒカルの歌詞世界観の王道だった訳ですよ。そうやって他者と距離をとって、嘘の自分と本当の自分の間で思い悩み、自分の心を誰とも分け合えず孤独に苛まれていく、という。
今回はしかも、今までの強化版、いや最強化版ともいえる「寂しくないフリ」ですよ。(歌詞カードではひらがなですが)
私は孤独なんかじゃないやいと強がって意地を張るだなんて究極の孤独野郎だと思うのです。だがそこから
『まぁそんなのお互い様か』
って肩の力抜いて言われるとは……! 自分だけじゃない、みんなそうやって強がってるんだもんね、っていうとんでもなく優しく暖かい眼差し。他の誰よりもそういう人を沢山見てきたんだよ私、とでも言いたげな。なんだろう、ある意味、これは、孤独や寂しさなんかを歌って人々と共鳴共感し合ってきた宇多田ヒカルの歌詞の集大成な一節とも言えるのではないだろうか。母親になったからこんなに大きく構えられるのかな。強い。これは強いぞ。
アルバムの全貌はまだまだ先だろうが、この「お互い様」の精神が生まれた先にある歌詞世界は今までとは随分と違って聞こえる筈だ。筈なんだ。これはかなりワクワクする展開なのよね。例えば、『One Last Kiss』はアルバムのオープニング・ナンバーだったりするのかな? 嗚呼、期待してないフリなんてとてもじゃないが出来やしないぜ。
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