トシの読書日記

読書備忘録

小説家の運命

2017-11-07 17:16:09 | た行の作家



辻原登「Yの木」読了



本書は平成27年に文藝春秋より発刊されたものです。「新潮」「すばる」等の文芸誌に掲載されたものをまとめた作品集で、三つの短編と表題作の中編が収められています。


以前、名古屋 栄の丸善へ行った折、丸谷才一「エホバの顔を避けて」等と一緒に購入したものです。


短編に関しては、はっきり言ってどれもこれもあまり印象に残る作品はありませんでした。まぁいかにも辻原登らしい、上手く書けた短編という感じで、悪くはないんですが、はっとするような作品はありませんでした。


表題作の「Yの木」は、44才で作家デビューした小説家が主人公なんですが、その後、いろいろ紆余曲折があり、童話で少し売れたこともあったんですが、その後は、ぱったりと芽が出ず、苦しい生活を強いられるという、およそ辻原登本人らしくない設定となっております。


最後、飼っていた犬を知人に預け、Yの木で自殺を図るわけですが、その瞬間、飼い犬の鳴き声が聞こえた気がして思いとどまり、自宅へ帰るわけです。


そして自分がさんざん推敲して書き直した時代劇の原稿を読み、「おもしろい…――≪一同脱帽!≫」とつぶやいて眠りに落ちます。


これが一番最後の場面なんですが、これは小説家にとって救いのある話なのかどうなのか、ちょっと計りかねるところがあります。不思議な終わり方なんですが、この小説は主人公の葛藤が行間ににじみ出ているところなどは、いかにも辻原らしい巧みな筆さばきで、思わず引き込まれましたね。


なんだかなぁという作品もたまにありますが、辻原登も目が離せない作家の一人です。